記憶の痕跡(5) |
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ノブが回る音。 どれくらいこうしていたのかと、其の瞬間に思った。 「あれ?岩田君は」 速水が立っている。 「もう復活してかえっちゃった? 謝ろうと思ってたんだけど」 遠坂は布団の脇に座り込んだまま、顔を上げた。 そして、義務のように応じる。 「…岩田君は目が覚めて、出て行ったみたいです。」 それだけ言って、また俯く。 「そうなんだ。…遠坂君も具合が悪いの?顔色が悪いけど」 「…いえ。少し、疲れたみたいで、休んでいました。 もう…大丈夫です。」 そう?と速水は首を傾げる。 何事か考えをめぐらせて、ふっと、遠坂を見た。 「あ、遠坂君」 「…はい?」 「口紅ついてる」 「!!!」 ぎょっとして遠坂は口を押さえる。 それを見て、速水はいたずらっぽく笑った。 「あはは、嘘。驚いた?」 「う…そ」 呆然とする遠坂をよそに、速水は調子悪いなら早く家に帰りなよ、とだけ声を掛けてその場を後にした。 そのまま固まっていた遠坂は、唇に当てていた手を広げてみる。なにもない…、なにもない。 慌てて手鏡を出す、なにもない…、ない。ない。 …まさか、見られてませんよね、まさか気づかれてませんよね。 口紅ったって女性のとかそういう方向で、からかわれたんですよね… 遠坂は改めて、人生について考えなければならないような気がした。 2002/03/19/BXB |
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