お ま け


<1>

 ※じつは、レッキとしたお仕事で「漫才脚本」を書いたことが、過去イッペンだけありました。
  ……と言っても、演芸ではなく声優ドラマCDで。
  ひと昔前、今は亡き某社から発売されたCDの中で、
  新郎新婦が結婚披露宴で漫才をする、という設定でした。


  何パターンかオチを書きましたが、ここではCD採用分ではなく、
  いちばん漫才っぽいと思うオチに直しておきます。これでも大してオチてないですけど。

  (なお「著作権上、脚本掲載は問題がある」とおっしゃる関係者の方は、お手数ですがご連絡願います)


     × × × × × × × × × × × ×


――(「結婚行進曲」をBGMに、司会者登場)

司会者 「皆さま、たいへん長らくお待たせいたしました。
  間もなく、新郎・宮川太平、新婦・横山ウツミ御両人、
  お色直しも相整いまして、こちら披露宴会場へ、お揃いでご入場になられます。

  御両人の準備ができた模様です。
  では皆さま、どうか大きな拍手でお迎え下さい!
  新郎新婦のご入場です!」


――(場内拍手)
  (BGMが寄席囃子に変わり、軽やかに新郎新婦登場)

新婦 「ようこそいらっしゃいましたー」

新郎 「宮川家でーす」

新婦 「横山家でーす」

2人 「2人そろって、新郎新婦でーす」

新郎 「いやー、今日はイッパイのお客さまで」

新婦 「よっぽど他に行く所が無かったんでしょうか」

新郎 「こっちが呼んだんだよ」

新婦 「ご覧ください、私の今日のドレス。きれいでしょ?」

新郎 「高かったんですよ」

新婦 「旦那の実家の土地を担保にしました」

新郎 「そんなに高くない」

新婦 「しめて5万円」

新郎 「どういう土地なんだい、ウチは」

新婦 「旦那の衣装も、かかってますよー」

新郎 「かかってますよー」

新婦 「清めの塩がかかってますよー」

新郎 「薄気味悪いな、着てらんないよ」

新婦 「今、皆さんお食事をお召し上がりですが、
  このあと、まだまだ運ばれてまいります」

新郎 「いっぱいありますから」

新婦 「メインディッシュは、パンです」

新郎 「ウソです、お肉です」

新婦 「お肉の種類は、いただいた御祝儀によって3段階に分かれてまして」

新郎 「3段階?」

新婦 「上から、ポチ、コロ、ジョン」

新郎 「こらっ! よしなさいよ」

新婦 「すいません、間違えました。上から、レア、ミディアム、ウェルダン」

新郎 「なんだ、そうかい」

新婦 「そういう名前の、犬の肉です」

新郎 「わーっ!」

新婦 「気分を変えて、歌でも唄いましょう」

新郎 「そうしなさい」

新婦 「♪きーんらーんーどーんすーの」

新郎 「いいノドだねー」

新婦 (シレッと)「いいノドです」

新郎 「自分で言っちゃいけない」

新婦 「♪きーんらーんーどーんすーのー」

新郎 「ホント、いいノドだねー」

新婦 「本日の皆さんへの引出物は、私の歌声のCDセットになっております」

新郎 「いい記念だ」

新婦 「1枚2000円になってますので、どうぞよろしく」

新郎 「売るのかい」

新婦 「♪きーんらーんーどーんすーのー おーび解ーきーなーがらー
     ♪花嫁ー御ー寮ーはー なーぜ笑うーのーだろー」

新郎 「ちょっと違やしないか」

新婦 「でも、この歌に出てくるキンランドンスって、何なのかしら?」

新郎 「キンランドンス?」

新婦 「そう、キンランドンス」

新郎 「キングギドラなら判るんだけどな…」

新婦 「不思議に思ったんで、先ほど楽屋で調べておりました」

新郎 「楽屋って言いなさんな、控え室ね」

新婦 「こんな分厚い辞典をひもときまして」

新郎 「ひもときまして」

新婦 「それじゃ足らずに、国会図書館から資料を取り寄せまして」

新郎 「ほぉほぉ」

新婦 「町の長老の意見も参考にしまして」

新郎 「よくそれだけの時間が、このお色直しの間にあったね」

新婦 「その結果! キンランドンスの正体が判りました!」

新郎 「皆さん注目!」

新婦 「キンランドンスとは!」

新郎 「キンランドンスとは?」

新婦 「キンランドンスとは!」

新郎 「キンランドンスとは?」

新婦 「キンランドンスとは!」

新郎 「キンランドンスとは?」

新婦 「また来週ーっ !!」

新郎 「来週もやるのかい!」


――(場内拍手)
  (寄席囃子とともに2人去る)




   <完>




<2>

 ※<1>の脚本のお仕事は、15年来のお仕事仲間であるライター集団、
  「スタジオHEGE」サイトはこちら)のメンバーから紹介されたものです。
  10年ほど前、出版社プレゼン用の小冊子をメンバー内で作っていた頃、
  よくわからない落語速記形式のギャグ文をイッペンだけ書きました。
  よく言えば「イリュージョン」なんですけど、要はデタラメです(汗)。

  で、なんと、その10年前に書いた文を公開という、暴挙に出てしまいます。初出1994年(平成6年)。
  タイトルは『妄想八五郎』。とりあえず、ベースは『弥次郎』と『堀の内』……かな。
  基本的には原型のままですが、あまりにもアンマリな箇所は修正してあります。

     × × × × × × × × × × × ×


――(マクラ)
ェェ、昔から落語の方はと申しますと、
八つぁんに熊さん、パラノイアには妄想、と相場が決まっておりまして……。

八五郎 「ご隠居、こんちは」

ご隠居 「おお八つぁんか。相変わらず目がうつろだな。
  まぁ、こっちへお上がり」

八五郎 「へへ、よっこらしょっと」

ご隠居 「こらこら、いきなり私の膝の上に腰かけるな。
  匂いを嗅ぐな、匂いを。
  下りなさい、早く」

八五郎 「この家はなんだね、お客に茶の一杯も出さねーね」

ご隠居 「そう言いながら柱時計をフトコロにしまうんじゃない。
  猫の頭をかじるなというのに。
  ほら、その猫を尻尾をつかんでブン回しちゃ危ない。
  危ないから放るなよ、放るな放るな……ああ放った」

婆さん 「只今の記録、25m30」

ご隠居 「婆さんや、測定はいいからお茶を入れとくれ。
  お茶菓子は羊かんでいいかな」

八五郎 「羊かんねぇ……あっしゃーダラシが無くてね、
  羊かんは2トンも食うとゲンナリしちまう」

ご隠居 「食えないだろ、普通。まぁいい。
  それよりフラフラしてるぞ、どうした」

八五郎 「ご隠居の家の座布団は、なんだか落ち着かないですな。
  座り心地が悪いよ」

ご隠居 「猫の上に座ってるんだよ。
  また猫も気丈だね、八つぁんを乗っけたまま歩いてやがる。
  ……乗っけたまま表へ出ちまった。
  おーい!」

八五郎 「うへへ……ただいまー」

ご隠居 「猫はどうした」

八五郎 「ええ、表で力尽きたと見えましてね、
  今、路地口の所で、豪邸の虎の敷き物みてぇになってます。
  あと10日も陰干しにすると、いい感じに乾きますよ」

ご隠居 「誰が猫の干物なんぞ食うか。
  それよりお前さん、この3日ほど顔を見なかったな」

八五郎 「ええ、ちょいとばかし、その、旅に出ておりまして」

ご隠居 「ほぉ、旅というと何処へ?」

八五郎 「お天道さま」

ご隠居 「なんだ?」

八五郎 「ですから、お天道さま。太陽。お日さま。サンシャイン。
  朝がた東から出てきて、晩がた西に沈む、例の物体」

ご隠居 「……またいつもの妄想が始まりやがったな。
  そんなだから、長屋の連中はみんなお前のことを、『妄想八五郎』と呼ぶんだ。
  3日の間、ずっと引き篭もって妄想してやがったろ。

  まぁ、昼日長の暇つぶしにはちょうどいい、付き合ってやろうじゃないか。
  どうだった、むこうは?」

八五郎 「それがご隠居さん……ここだけの話……もうタイヘン」

ご隠居 「もうタイヘンはいいが、
  なぜそうスリ寄って来て、私の耳に息を吹きかける?」

八五郎 「このへんで、多少はお色気シーンを」

ご隠居 「脈絡の無いことはよせ」

八五郎 「まずね、
  何がタイヘンったって、遠いのなんの!
  あんまり遠くて、ワラジ10足履きつぶした」

ご隠居 「ワラジ履きでお天道さままで行ったのか、おまえは」

八五郎 「ただのワラジじゃない。
  お天道さまは暑いてぇ話を聞いてたから、
  横丁の鉄屑屋から長ーい針金をもらいやしてね、
  それでワラジを編んだんで」

ご隠居 「針金のワラジを10足……おかしいだろ、
  お天道さまがあるのは空だ。
  空にあるお天道さまにどうやって……」

八五郎 「そこが素人のアカサタナ」

ご隠居 「アサハカサだろ」

八五郎 「さっきも言いましたでしょ、
  お天道様さまって代物は、朝がた東から昇って来るン。
  昇って来るぐらいだから、地べたからジワジワ出てくるわけですよ。
  ここが狙い目だ!」

ご隠居 「ほぉ」

八五郎 「宵のうち、東の空が白々としてきたな……と思った頃、
  かねてから目星をつけておいたお天道さまの出所めがけて、
  こう、助走体勢をとるン。

  で、目指す彼方の物体が、チラッとてっぺんを見せたな……と思ったら、
  ダダダダッ!と一目散に向かってって、
  ピョン!と飛び乗る」

ご隠居 「……黙って聞いてりゃ、
  お天道さまを路面電車といっしょにしてやがる。
  で、飛び乗ってどうした?」

八五郎 「でね、
  何はともあれ飛び乗ったんだが、何しろ、暑い!
  暑くて暑くて、むこうは夏本番!」

ご隠居 「そりゃそうだろ」

八五郎 「あんまり暑いんでね、
  昼飯にと思って腰に下げてたニギリメシが、あっという間に焼きニギリ!
  水筒に入れてたカルピスは、ホットカルピス!
  穿いてたパンツは、ホットパンツ!」

ご隠居 「そのへんにしておけ」

八五郎 「まぁ、このへんにしますけどね。

  で、しまいにゃ、足元からチリチリ、香ばしい匂いがしてくるン。
  こんな所で丸焼けになっても、誰も骨上げしちゃくんないし、
  『えーい、ままよ!』ってんで、
  足元をね、お茶をさます要領でね、フーッと吹いた」

ご隠居 「ほぉ、どうなった?」

八五郎 「やってみるもんですねー、
  お天道さまが、ちょっとの間、さめました」

ご隠居 「そんなバカな」

八五郎 「『こりゃいいや』ってんで、フーフー吹き続けながら
  なんとか戻ってきたんですがね……
  ご隠居……あっしゃぁ、トンでもない事をしでかしちまったんじゃねぇですか?」

ご隠居 「どんな事だい」

八五郎 「いやぁ……
  あんまり調子に乗りすぎて、お天道さまをフーフーしすぎたんで、
  今年の夏はきっと、冷夏でしょう。
  今年仮に異常気象があったら、みんなあっしの責任で……」

ご隠居 「冗談言っちゃいけない、なんでお前さん一人のフーフーで……
  ああ、お前さんの妄想を私ゃマジメに考えちまったよ」

八五郎 「でまぁ、せっかくここまで来たんだし、
  何かご隠居にお土産でも、と思ったんですがね。
  あたり一面、火ばっかり。
  月の石ひとつ落ちてない」

ご隠居 「お天道さまに月の石は無いだろうな」

八五郎 「それであっしも考えた。
  ここはひとつ、あっしが見てきた、お天道さまと同じ景色を
  ご隠居にもお目にかけてさしあげよう、と!」

ご隠居 「なに?
  ……おいおい、八つぁん、たもとから出したのは、ダイナマイトじゃないか?
  ダイナマイトなんかどうするんだ……おいおい!
  ああ、導火線に火をつけて……やめろやめろ、こらっ!
  消しなさい、こらっ……」

 ドカーン !!

 ヒュルルル〜ッ……ドサッ!

――そこへ婆さんが出てきて、

婆さん 「只今の記録、25m50」



   <完>



 ※余談――こういう「文字感覚のギャグ」は、
   ナマでしゃべると必ずしも笑いにならない……というのを、
   落語脚本の勉強を始めてから覚えました。
   行き過ぎなほど「ジャンキー」チックなまでのギャグの飛躍も、
   初代桂春団治師のCDなんかには、このレベルの飛躍が割とあったりします。
   そーだ、いっそ上方落語仕立てにして、登場人物も喜六と清八の2人にすれば、
   サゲを「只今の喜六〜」にできたかな。



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