そして今から。(20000HITおめでとうございます)
8000HITを獲得したゆっかさんからの頂き物です。8000HITリクの続きになってます。
 8月のとある日。 神波はいつもの様に休日を雪華と過ごす為に駅で待ち合わせをしていた。 二人の関係はあれから特に変わる事もなく「よく一緒にいる友人」だったが、本当は次のステップに進みたいと神波は思っていた。 お互いの気持ちは、もうなんとなくわかっているはずなのに勇気が出なくて確認出来ないでいる、という状態だった。
「そろそろ、何とかしないとだよなぁ・・・」
ビルの谷間の青空を見つめてタバコをふかしながら、ポツリと神波は呟いた。
「・・・ちゃん・・・カンちゃん?」
 ふと視線を下げると、ブルーのノースリーブのワンピースを着ている雪華が目の前に立っていた。 靴はこの前一緒に買った色違いのスニーカだ。 神波も同じスニーカを履いてきていたので"お揃い"が気恥ずかしかったが嬉しかった。
「よ、よぉ」
「何か考え事?」
 ニコニコしながら自分を見つめる雪華に、気持ちを見透かされたような気がして神波はあわてて首を横に振る。
「や、別に、何も」
「そう?」
 "ホントに?何か怪しいなぁ?"という表情を浮かべる雪華に神波は更にあわててタバコの火を消した。
「そろそろ行かないと。 時間、大丈夫?」
「あ、そうだね」
 今日は映画でも観ようという事になっていた。 雑誌でチェックした開演時間まではまだあったが上手く話をそらせたようだ。 しかし今度はさっき呟いた言葉が雪華に聞かれてはいないか?と神波はドキドキしていた。
「ご飯、どうしようか?」
「ん〜、ちょっと遅くなるけど映画の後、かな? 今、腹具合どう?」
「うん、後で大丈夫」
どうやら聞かれていないらしい。 神波はやっと安心したが果たしてそれでいいものかとも思い始め"よし今日こそは"と今度は心の中で呟いた。

「何か雲行きが怪しいね?」
「ホントだ。 ひと雨くるかな?」
 映画を観終えて、遅い昼食後、店を出るとあんなに青く澄んでいた空に黒い雲が広がり始めていた。 風も今までとは比べ物にならないくらい強くふき始め、街路樹の葉が上下左右に大きく揺れている。 天候に不安を覚えつつ少し歩くとパラパラと雨が落ちてきて、急にザーッと本降りになってしまった。
「うっわ」
 神波は雪華を雨からかばいながら雨宿り出来るところを探した。 周りにいる人達もあわてて屋根のあるところに避難している為なかなか場所が見つからない。 喫茶店の軒下に雨宿り出来た頃には二人ともかなりずぶ濡れになっていた。
「もうちょっと店に居ればよかったな」
「ホント、何も店を出た直後に降らなくてもいいのにね」
 バッグからハンカチを取り出しながら雪華が恨めしそうに空を見上げる。 雪華のあごの先から、アップにした髪の先から、ワンピースの裾から、ぽたぽたと滴が落ちる。 濡れた服が雪華の身体の線を浮き上がらせ、その姿に神波はクラクラし始めてあわてて視線をそらす。
「カンちゃん、大丈夫? かばってくれたから私よりヒドイね」
 そんな神波の横顔を雪華がハンカチで拭く。
「あ、ありがと。 俺は大丈夫だから、自分拭きなよ」
「全然大丈夫じゃないよ」
「いいんだよ」
「何で?」
「水も滴るイイオトコ、ってね」
「・・・バカね、もう」
 雪華がクスクスと笑う。 濡れたせいでクルッとクセの出た前髪をかきあげながら、神波はふと喫茶店の中から雪華に向けられている男の視線に気付く。 神波は"何、見てんだよ"と視線を送りながら視界を遮るようにそっと、ガラスの向こうの男と雪華の間に立つ。 よく見ると男はカップルで左手の薬指にお揃いの指輪までしている。 神波がもうひと睨みするのと同時に彼女が男の視線に気付いたらしく、男はあわてて彼女の方を向いた。 彼女はかなり怒っていて男は一所懸命言い訳をしているようだ。 自業自得だと神波は思いつつこの後の予定を考えた。 雪華を見ると雨に当たったせいか少し寒さに震えているようだ。 警戒されるかもしれないと思いながらも神波は思い切って尋ねた。
「ウチに来ない?」
「え?」
神波の意外な一言に、雪華は一瞬キョトンとした後、緊張した面持ちになった。 今まで家の前には行った事はあるが部屋に入ったことはないからだ。
「ほら、こんなになっちゃったし。 これじゃ買い物もいけないでしょ?」
 神波は濡れたTシャツの端を持って広げ、雪華の緊張を解くようにおどけてみせた。
「そうだけど」
「このままじゃ風邪引いちゃうから、ウチで風呂でも入らない? ここから近いし」
「でも・・・」
「遠慮しないでさ、乾燥機もあるから服も乾かせるし!」
 神波が無邪気に「ね?」と微笑むと、雪華もやっと微笑んで「うん」と頷いた。

「散らかっててゴメン!」
「全然そんな事ないよ。 私の部屋より綺麗なくらい」
 キョロキョロする雪華に神波はタオルを持ってきて渡す。
「ちょっとこれで拭いて待ってて。 お湯入れて来るから」
「ありがと」
 蛇口をひねりながら神波は見られてはまずいものが部屋になかったか?と考え始めた。 そういえばベッドの横の壁にこの前会った時貰ったカメラで撮った雪華の写真が貼ってある事に気が付いた。 何枚か撮って気に入ったものを雪華に渡さずこっそり持ち帰ったのだった。 あわてて部屋に戻ると雪華はすでに写真に気付いていて真剣な眼差しで見つめていた。 神波に気付き振り向いた雪華の顔が赤くなっている。
「えー、あの・・・」
神波は耳まで真っ赤になり、どう言い訳しようか必死で考えたがいい言葉が浮かんでこない。 こうなったら勢いで告白してしまおうか?
「えー、と、雪華、俺!」
 と、突然タイミングを計ったかのように雪華の携帯が鳴った。 その着信音に何故か雪華の表情が険しくなっていく。携帯は鳴り続いているが雪華は出ようとしない。
「出ない、の?」
「・・・あの人なの」
「え?」
「この着信音、前に話した・・・あの人なの」
 雪華がそう呟いた途端、音が途切れた。 神波は雪華と知り合った頃「結婚を考えた人もいたけど今はフリーだから」と、もう終わった事だと笑って話してくれたのを思い出した。 雪華は携帯を握りしめてヘタリと床に座りこんだ。
「・・・そっか」
「今更、なんだろ・・・」
 それは俺が聞きたいよと神波が思っていると、また雪華の携帯が鳴り始めた。 同じ着信音だ。 雪華は神波を見上げ"どうすればいい?"という表情をしている。 意を決して神波は言った。
「・・・出なよ」
「え? でも、話す事なんてもう何も・・・」
「今出ないとまたかかってくるかもしれないし。 いざとなったら俺が代わるから」
「・・・わかった。 ね、傍にいてくれる?」
「もちろん」
 大丈夫だよ、とうなずきながら神波は隣に座り、かすかに震えている雪華の手にそっと触れた。 雪華はゆっくり神波の手を握り返しながら携帯に出た。
「・・・もしもし?・・・うん、元気だけど・・・」
 会話の端々から、雨宿りした喫茶店で雪華を見ていた男が元彼氏らしい、という事がわかってきた。
「会いたいって?・・・何で、今更・・・自分から別れといて、そんな」
 男は雪華が神波と一緒にいた事に対してヤキモチをやいているらしい。 雪華はお前のモノじゃないだろ?なんて自分勝手なんだ、と神波はだんだん苛立ってきた。
「今?・・・さっき一緒にいた人のところ・・・え!?どんな関係かって、それは・・・」
 雪華が言いよどんで神波を見る。 神波は無言で左手を差し出す。 雪華はちょっと考えて携帯を神波に渡した。
「もしもし? 俺、神波っていいます」
 男はギョッとした様子だった。
「もう、こんな電話、してきて欲しくないんだけど」
『え?』
「だって自分の"彼女"が他の男と、それも元彼氏と話しているの、嬉しい訳ないだろ?」
『・・・』
「これからは俺が雪華を守っていくから、そういう事なんで、じゃ」
 男の返事を聞くまでもなく、神波は携帯を切って雪華に渡した。 携帯を受け取りながら雪華は不思議そうな、何とも言えない顔をして神波を見ている。 神波は"ふぅ"と大きく深呼吸して雪華の方を見た。
「ちゃんと言ったから、も、かかってこないでしょ?」
「え、あ、うん、そだね・・・っていうか、えと・・・」
 雪華はうつむきながらモジモジしている。 つないだ手がだんだん汗ばんでくる。
「何?」
「・・・さっき言った事、ホント?」
「さっきって・・・あ!」
 神波は怒りにまかせて思っていたとおりをそのまま口にしてしまった事にやっと気が付いた。 一気に身体が熱くなる。
「えーと、その・・・うん、ホント」
「・・・いつから"彼女"?」
 雪華はクスクス笑いながらも嬉しさで涙目になっていた。 神波は雪華を引き寄せ強く抱き締めた。
「今から、かな」
「うん」
 まだ濡れている雪華の髪を撫でながら、神波は急にある事を思い出した。
「あ、あぁ!!」
「え!? な、何?」
「風呂! お湯出しっぱなしだぁ!!」



END
 ・・・ど、どんなもんでしょう(大爆笑)? やっとこ二人はくっつきましたが、最後にオチをつけるあたり、シリアスになり切れないというか何というか、単なる照れ隠しです(汗)。
 一応、同じキーワード(お揃いの指輪・カメラ・タオル・雑誌)入れてみて書いてみたんです。 難しいですねぇ・・・全て(爆)。
 一部作者の体験らしきもの(着メロとか)が入っていて笑えます。 しかし名前を"雪華"にしておいて良かった。 本名そのままだったら恥ずかしくて表に出せませ〜ん!!
 大体、考えていた通りになりましたが、最初はもっとダァク(爆)な内容で、それも"雪華ちゃん"の説明ばっかりになってしまいそうだったので(これでも)かなり削りました。 でもこんなに長い(爆)。しかしナナさんの元ネタ(ネタって・汗)がなければここまで書けませんでしたよ!! お陰様でいろんな妄想(笑)を考える事が出来て、大変楽しかったです。 ありがとうございました。
 あぁ、やっと終わった・・・これの続きになると本当に「ラヴラヴバカップル」になっちゃうんで、これ以上のカスタマイズはなしです!
 長々とお目汚し、大変失礼致しました。 これに懲りずに、これからもどうぞ宜しくでございますm(_ _)m では!    ゆっか
というわけでゆっかさんから、8000HITリクの続き頂いちゃいました! 有り難うございます。
神波ファンの妄想大爆発、真髄見たり!という気分でございました(笑)。まだまだ修行が足りないです、ナナ。あたしここまでのカンナミかけないよ・・・(笑)
やっぱり神波さんはイノセントな方が良いのですね、きっとナナみたいなのは少数派なんだわ・・・(例:どうせなら下心満点で連れ込め!とか)。30にもなって少年くさいと言うか、そのくせ男くさい部分も見せつつあるあたり、あたし完全に負けです(笑)こんなすごい神波書けん・・・。
果たして神波さんは、「水も滴るイイオトコ」等という気の利いた科白を言えるような余裕のある男なんでしょうかね?(笑)どうやらナナ、相当に切羽詰まった男だと思ってるらしい・・・。
ナナが書いたこの前段階妄想にあわせて、「つきあってるんだかいないんだかの微妙なドキドキ感覚(笑)」「阿呆な中学生男子みたいな神波さん」というのを大変忠実に守っていただいたみたいで、もう涙出そうに面白かったです。有り難うございました!
当サイトの管理人ナナへのメールは   →cs7_factory@hotmail.com 
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