まだまだこれから。(8000HIT)
 土曜日の午後、渋谷の町に人は溢れていた。
 神波は明るい喫茶店に入ってコーヒーを注文すると、買ったばかりのファッション雑誌をめくった。小さなタオルのおしぼりで手を拭いて、すぐに煙草に火をつける。今日は1日休みなので、自分の買い物ついでに仕事に使える服も少し見ておきたかった。その前に発売したての雑誌をチェックし、店のガラス越しに街を歩く人の着こなしも眺める。
 新緑眩しい5月。梅雨には早くてカラッとした陽気で気持ちよかった。今年も早めにTシャツが欲しいな、と思う。
「カンちゃん」
 顔を上げるとテーブルの向かいに雪華が来ていた。
「よぉ」
「今日は暑いね」と言って座ると、雪華はやってきた店員にオレンジジュースを注文する。
 雪華とはこの頃よく一緒にいる。とりあえず今は時々、映画に行ったり買い物に行ったりするという関係だ。昨日たまたま電話で、明日は仕事が休みだ、と雪華に言ったら遊ぼうよと言われ、神波は買い物に行くつもりだったのでじゃあ一緒に行こうか、ということになって今に至る。
「何読んでたの?」
「雑誌。友達が仕事してるから。ここ、そいつが企画したページなんだ」
「へえ! すごいね」
 神波は開いたままだったページを雪華の方に向ける。見開き4ページに渡っていろいろな靴が所狭しと並んでいた。
「ね、これ可愛くない?」
 雪華が指した先を神波は見る。
「うん、これはオレも可愛いと思った。雪華、スニーカ欲しいの?」
「カンちゃんがスニーカ多いでしょ、見てたら何か好きになってきて。いつも可愛いの履いてるから」
「あ、そう?」
 素っ気なく答えてしまって神波は焦った。見てたら好きになってきて、という雪華の科白に動揺して、あわてて次の言葉を探して言った。
「じゃあこのあと靴、見に行く?」
「そうね、私はそうしよう。カンちゃんは何買うの?」
 ちょうど店員がオレンジジュースを持ってきて雪華の前に置いた。何気なく周りを見回して、店内は殆どが男女の二人連れだと神波は気付く。
「えーと、何?」
「カンちゃんは何を買う予定なの?って言ったの」
「Tシャツとか、あとちょっと変わったシャツとかあったら撮影に使いたいから押さえに行くかな」
「OK」
 雪華がジュースを飲んでいる間に、神波は隣のテーブルのカップルを盗み見る。女の方はもうサンダルを履いていて夏らしい装いだった。男はジーンズにTシャツで、ゴツめのブレスレットがアクセントになっている。女のパフェのグラスに添える手と、男の煙草を持つ手には、お揃いの指輪らしきものが光っていた。女の方には指輪の華奢な雰囲気も合っているが、男の方には似合わない。だが左手に煙草を持っているのは、通路側に煙を逃がして彼女の方に行かせないためだ、と神波は気付いて自分も煙草を持った手を雪華から遠ざけた。
「何?」
「や、ケムたいかなと思ってさ」
「大丈夫だよ、カンちゃんいつも吸ってるから慣れたし」
 雪華は微笑って首を振る。
「この前会ったのはいつだっけ?」
「カンちゃんが誕生日の時じゃないかな? 次の日に晩ご飯食べたでしょ」
「そっか、そうだねぇ」
「カメラ、使ってる?」
「今日も持ってるよ」
 前回会ったときに神波は雪華から、誕生日にポラロイドカメラを貰っていた。以前神波が欲しがっていたのを雪華が覚えていた。
「貰ってから毎日何か撮ってる。結構フィルム代かかるんだけど面白くてさ」
 神波はリュックの中からカメラを取り出して見せた。雪華の写真は、まだ撮っていない。
「今日もあとで何か撮るよ」
「私にあとで貸してよ、カンちゃん撮りたいなあ」
 え、と神波は口の中で呟いた。こんなにあっさり言われてしまっては。
「じゃあそろそろ行く?」
「うん」
 神波は立ち上がった。伝票をつかんで通路をすり抜けるとき、さっきの二人の指輪を思わず見つめてしまって、それに気付いた雪華が不思議そうな顔をしていた。あわてて神波はレジに向かった。

End 
キィワード:お揃いの指輪・カメラ・タオル・本(or雑誌) でした。
ごめん神波。ごめんなさいゆっかさん(泣)。
あたし、神波のことをアホ扱いするつもりはなかったんだけど、どうしてこうなっちゃったんだろう・・・。多分、最初に設定したテーマが良くなかったんだな。ちょっとR指定はいるようなのを今回は書く気がなかったので、だけどつきあってるのにRなシーンないのも味気ないので(笑)、「じゃつきあう前段階にするか!」っていうナナの結論が間違っていた・・・。つきあってるんだかいないんだかの微妙なドキドキ感覚(笑)を書こう!と思ったらただの阿呆な中学生男子みたいになってしまった・・・。
ポイントとしては「やっぱりウブな神波さんなんだからぁ」です(笑)。ハニィ曰く「ドキがムネムネv」だそうです(笑)。
ナナは個人的に神波さんて男らしいと思ってたんですけど、本人に29年になります、とか言われたら必然的に可愛くなっちゃいまして。もっと大人の恋愛してて欲しかったんですけどね、神波さんには。というわけで中学生みたいな二人です・・・ゆっかさんすみません。
ネタを考えていて、このシーンを書こう!というネタがあがったときに、それを書くためにはどうしても神波視点じゃないと駄目なことが発覚して、少しビビリました(笑)。だって・・・余裕のない神波が書きたかったんだもん・・・。
ところで。今回のリクエスト、どのキィワードが一番てこずったと思いますか? 実はタオルです。「タオルが入らねー!」とわめいていました(笑)。
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