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■ジャン・シベリウス (Jean Siberius 1865〜1957)

 『火の起源』 (1902年)


 『フィンランディア』や『トゥオネラの白鳥』などで有名なフィンランドの作曲家シベリウスは、日本でも愛好者の多い作曲家です。私もクラシック音楽を聴き始めた高校時代に『交響曲第6番』を聴いて感動して以来、彼の作品を愛聴してきました。シベリウスの音楽は他では聴けないような不思議な響きに満ちており、透明感のある叙情的な曲想にも魅力があります。

 しかし、シベリウスの作品で今日、頻繁に演奏され聴かれているのは主に管弦楽作品であり、その他のジャンルの曲はあまり知られていません。小粒な曲の多いピアノ曲や歌曲(スウェーデン語のものが多い)にも捨てがたい味がありますが、フィンランド語の詩をテキストに用いた合唱曲の中にはなかなか聴き応えのある作品がいくつかあります。その中で私が特に気に入っている曲が『火の起源』です。

 『火の起源』は、有名な『交響曲第2番』の完成と初演の年である1902年に、フィンランド新劇場の落成式のために作曲された作品です。管弦楽とバリトン独唱、男声合唱のための一種のカンタータです。テキストは、フィンランドの古い伝承詩を編纂した叙事詩『カレワラ』の中の、下記のエピソードの部分を使っています。

【『カレワラ』 第47章「太陽と月の幽閉」より】
 闇の国ポホヨラの女主人ロウヒは、ワイナミョイネンなどの英雄たちの暮らすカレリアの繁栄を妬み、太陽と月を捕まえて鉄の山の中に隠し、さらにカレリア中の火を消してしまった。カレリアは暗闇の世界になり、人々は不便な暮らしに苦しんだ。それを見かねた雷神ウッコは、新たに太陽と月をつくるために剣を打ちつけて火花を出し、金銀の箱に入れ、大気の乙女にそれを揺らすように命じた。ところが乙女は火をこぼしてしまう。火は満天に降り注いだ。


 曲はバリトンが歌う前半と男声合唱が歌う後半から成っています。演奏時間は約8分ほどですが、シベリウスの特色がよく出た音楽であり、幻想的な神話の世界をイメージ豊かに描いています。

 暗くわびしい雰囲気の序奏のあと、バリトンが暗闇の世界となったカレリアの状況と、雷神ウッコがそれを不審に思うさまを歌います。「なぜ太陽と月が照らなくなったのか?」というウッコの言葉が何度も繰り返され、訴えかけるように歌われるさまが印象的です。

 その後、低弦のうねりに導かれて男声合唱が登場し、ウッコが火を創造するさまを歌います。ここは本当に暗闇の中にパーッと光が差したような感じで感動的です。乙女が火花を入れた箱を揺らすさまを歌う部分ではテンポが遅くなり、暗闇の中で炎がゆらめく神秘的な光景が描かれます。そして乙女が落とした火が満天に降り注ぐ光景を歌う壮大な合唱によって曲は輝かしく閉じられます。

 シベリウスの作品としてのみならず、合唱音楽として見ても特筆すべき傑作だと思うのですが、いかんせんフィンランド語は世界的にマイナーな言語であるために、フィンランド国外ではなかなか演奏されないらしいのが残念です。

 実は、この曲で描かれているエピソードには続きがあります。続きを知りたい方は原作を読みましょう。

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パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団 EMI TOCE-3327-28(国内盤)
ソヴィエト・ロシア国立アカデミー・エストニア男声合唱団
ヘルシンキ大学男声合唱団 ヘルシンキ大学合唱団
バリトン:ヨルマ・ヒンニネン

※『クレルヴォ交響曲』、『故国』との併録。2枚組。
 ただし、『クレルヴォ』のみの輸入盤もあるので、購入の際には注意が必要。


2004.06.07
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