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雉無名の書架より


お気に入りの本の紹介コーナーです。



<音楽関連書>
ハンス・クリストフ・ヴォルプス 尾山真弓 訳
<大作曲家>シリーズ 『メンデルスゾーン』 音楽之友社


 日本では意外と少ないメンデルスゾーンの評伝です。気品と繊細な美を備えた音楽作品そのままの人間像を詳細に描いています。メンデルスゾーンの同時代の作曲家への評価はなかなかに辛辣。自分にも他人にも厳しい人だったようです。


クルト・ホノルカ 岡本和子 訳
<大作曲家>シリーズ 『ドヴォルザーク』 音楽之友社


 ドヴォルザークの生涯と創作とともに、当時のチェコの音楽界の事情についても詳細に書いています。ドヴォルザークがたくさんのオペラを書いていること、そのほとんどが失敗に終わっていることなども知ることができます。


ワルター・デピッシュ 村井翔 訳
<大作曲家>シリーズ 『R・シュトラウス』 音楽之友社


 ドイツ・ロマン派最後の巨星リヒャルト・シュトラウスの評伝もまた貴重なものです。日本ではあまり知られていない戦間期のオペラ創作や、ナチスに協力したとされる晩年における言動についても詳細に書かれており、興味深い内容です。


伊東信宏
バルトーク 〜民謡を「発見」した辺境の作曲家 中公新書


 20世紀を代表する大作曲家のひとりであるバルトークの生涯と業績を、民謡研究者としての側面に光を当てて論じています。ハンガリー、スロヴァキア、ルーマニアで膨大な量の民謡を採取し、分類した仕事がバルトークにとっていかなる意味を持っていたのか? また、バルトークが置かれていた当時のハンガリーの政治的状況にも触れ、バルトークが困難な状況にいかに対応したかについても述べています。民族文化とは何か?ということについて、深く考えさせられる本です。


渡辺和
クァルテットの名曲名演奏 音楽之友社 ON BOOKS


 弦楽四重奏曲の古典的名曲から現代曲までを紹介した、クァルテット鑑賞の手引書。渡辺氏の文章は親しみやすくかつ的確で、非常に面白く読めます。オンスロウやベルワルドなど、ややマニアックな作曲家の作品も取り上げられており、有名曲だけでは飽き足らずレパートリーを広げたいという向きにもお薦めしたい本です。


山尾淳史
近代・現代 英国音楽入門 音楽之友社 ON BOOKS


 エルガー、ディーリアス、ヴォーン・ウィリアムズ、ブリテン、ティペットなど、20世紀に活躍した英国の作曲家を紹介し、英国音楽の魅力を思い入れを込めて語っています。熱心なファンも少なからずいるとはいうものの、日本ではまだまだマイナーな英国音楽について、情報の得られる貴重な一冊です。


小島美子
音楽からみた日本人 NHKライブラリー


 日本の伝統音楽の研究者であり、故・小泉文夫氏とも知遇のあった小島氏が、日本の音楽文化の特色を、音階、楽器、言葉との関わりなど、様々な角度から浮き彫りにしています。日本列島における民謡の音階の分布についての考察や、「日本の歌では、旋律と言葉のイントネーションは必ずしも一致しない」という説など、興味深い内容です。



<音楽以外の論説書>
河合信和
『ネアンデルタールと現代人』 文春新書


 ネアンデルタール人の化石発掘と研究の歴史を語りつつ、人類考古学の最新の成果を分かりやすくまとめています。


宮本正興・松田素二
『新書アフリカ史』 講談社現代新書


 かつて欧米人によって”未開の暗黒大陸”のイメージを喧伝され、日本人が未だにその実像をつかみ損なっている観のあるアフリカ。実際には幾つもの王国が栄え、アラブ商人との交易を行った歴史があるにも関わらず・・・。そんなアフリカの歴史をいくつかの新しい視点から論じた本著は、新書としては他に類のないものです。私はこれから自分がアフリカ音楽をより深く聴いていく上でも、本著が良き手引きになることを期待しています。



<文学書>
エリアス・リョンロット編 森本覚丹 訳
フィンランド国民的叙事詩 『カレワラ』(全2巻) 講談社学術文庫


 シベリウスなどのフィンランドの芸術家たちの創作の源泉となった民族叙事詩『カレワラ』の、日本最初の訳著です。英語訳本にもとづく文語訳です。シベリウスの『カレワラ』にもとづく音楽作品の、訳者による解説付き。


エリアス・リョンロット編 小泉保 訳
フィンランド叙事詩 『カレワラ』(全2巻) 岩波文庫


 こちらはフィンランド語の原書にもとづく口語訳です。神話学的考察などを詳しく記した解説付き。『カレワラ』は農民たちが語り継いできた伝承にもとづいていますが、リョンロットによって改変され、創作された部分がかなりあるとのことです。それでも詩人や英雄たちが呪術を駆使して活躍するファンタジックな物語の世界は素晴らしいものです。全体を通して読むのはなかなか大変ですが。


J・R・R・トールキン 瀬田貞二・田中明子 訳
新版 『指輪物語』(全9巻) 評論社文庫


 最近(2002年の末頃)、デ・メイの交響曲『指輪物語』を聴いて原作にも興味を持ち、読んでみました。
 北欧神話などの指輪絡みのモチーフを土台にした物語ですが、ストーリーには十分にオリジナリティがあります。これほどの広大でかつリアリティのある虚構の世界を築き上げた力量には感嘆するのみです。
 私は特に”森の牧人”エントのエピソードが気に入っています。結末には独特の物悲しさがあり、読み終わった後のしばらくの間、他の本は何も読む気になれませんでした。


J・R・R・トールキン 瀬田貞二 訳
『ホビットの冒険』(愛蔵版) 岩波書店


 『指輪物語』の前編にあたる物語です。フロドが生まれる前、叔父のビルボがガンダルフや13人のドワーフと共に繰り広げた冒険物語です。人間やドワーフの町を荒らしまわり、黄金財宝を独り占めにしている竜を退治する物語が中心となっていて、これもまた北欧神話やワーグナーの『ニーベルングの指輪』とモチーフを共有していると言えましょう。児童向けに書かれた物語ですが、大人も楽しめます。


J・R・R・トールキン 吉田新一・猪熊葉子・早乙女忠 訳
『農夫ジャイルズの物語 トールキン小品集』 評論社


 ユーモラスな民話調の『農夫ジャイルズの物語』、純真無垢なメルヘン調の『星をのんだ かじや』、創作とは何かを象徴的に描いた『ニグルの木の葉』、「指輪物語」の外伝ともいうべきエピソードを綴った詩集『トム・ボンバディルの冒険』の4編を収録しています。『指輪物語』とはまた一味違ったトールキン文学の魅力に触れることのできる一冊です。


柳田国男
『遠野物語』 新潮文庫
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 日本の民俗学の基礎を築いた柳田国男の名高い代表作。岩手県の山間部の遠野郷に伝わる妖怪や心霊体験にまつわる伝承を集め、格調高い文語体で書いています。覚書のような短小なエピソードの羅列ですが、ひとつひとつのエピソードが鮮烈です。怪談っぽい話が多いのですが、ファンタジーとして読んでもなかなか面白いと思います。


フェルドウスィー 岡田恵美子 訳
『王書 −古代ペルシャの神話・伝説−』 岩波文庫
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 中世イランの詩人フェルドウスィーによる、ペルシャ神話に基づく壮大な叙事詩です。抄訳であり、3部構成の最後の部分に当たる「歴史の時代」が入っていないのが残念ですが、「神話の時代」と「英雄の時代」の主要なエピソードが網羅されています。散文体に直して書かれた訳文は読みやすく、ファンタジー小説を読むような感覚で読むことができます。
 私は特に、千年にわたる悪政を行った暴君を正統なる王統を継ぐフェリドゥーンが打倒する「ザッハーク王」と、英雄ロスタムとその息子が互いの素性を知らぬまま敵同士として戦う悲しい宿命を描いた「悲劇のソフラーブ」に心を揺さぶられました。


忍足欣四郎 訳
中世イギリス英雄叙事詩 『ベーオウルフ』 岩波文庫
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 英国最古の叙事詩であり、トールキンの『指輪物語』にも影響を与えた『ベーオウルフ』の完訳です。スウェーデン北部とデンマークを舞台に、若き英雄ベーオウルフが人々を恐怖に陥れた人狼を倒す物語と、晩年のベーオウルフ王が竜と戦う物語が描かれています。擬古的な表現を交えた訳文ですが、慣れればその格調の高い文体を味うことができると思います。
 カインの末裔であるが故に神と人間を激しく憎み、残虐行為を繰り返す人狼グレンデルの姿には戦慄を覚えます。現代にも通じる心の闇と、それに打ち克つ気高い精神とを描いた優れた文学作品です。



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