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ヨハン・デ・メイ: 交響曲第1番『指輪物語』 管弦楽版

編曲:ヘンク・デ・フリーガー Henk de Vlieger
デイヴィッド・ワーブル指揮 ロンドン交響楽団 MADACY M2S2 3193(輸入盤)



 デ・メイの吹奏楽のための交響曲第1番『指輪物語』は、2001年に編曲版がつくられ、カナダのMADACYレーベルからCDが出ました。以下、このCDについての感想です。

 このCDは、私が持っているアメリカ海兵隊バンドのCDと比べて、録音がかなり良いです。また、演奏もオケならではのスケール感をアピールしたものになっているように感じられます。だから、どこまでが吹奏楽とオケの違いで、どこからが録音や演奏の違いなのか、判断をつけにくい箇所も多いです。

 それでも、第1楽章「ガンダルフ」や第5楽章「ホビット」に関しては、弦を加えることで響きに厚みが増し、よりスケールの大きな音楽になっていると思います。例えば「ガンダルフ」では、原曲ではクラリネットが演奏している装飾的な旋律をヴァイオリン・パートが演奏していますが、そうすることでその旋律が装飾にとどまらない存在感を得て、音楽に奥行きを与えています。飛影のテーマの部分でも低弦が底力を発揮しています。また、「ホビット」でホビットのテーマをテンポを落として演奏するところでもヴァイオリン・パートがテーマを威風堂々と演奏していて、交響曲のフィナーレにふさわしい感動的なクライマックスを聴かせてくれます。

 でも、いいことばかりというわけでもなさそうです。第2楽章「ロスロリアン」では、弦が無用な重さを音楽に持ち込んでいて、原曲の持つエルフらしい気品や神秘的な雰囲気からはかなり遠い表現になっています(演奏もいささか大袈裟)。第4楽章「暗闇の旅」でも東洋的な雰囲気の旋律を弦が演奏しますが、弦らしい味が出ていてそれなりにいいとは思わせるものの、原曲の静けさの中の無気味さや不安とは違った表現になっていると思います。また、「ホビット」の冒頭部分は、原曲のクラリネットのパートを弦に置き換えていますが、私は遠くから角笛が聴こえてくるような雰囲気の原曲のほうが好きです。

 そんなわけで、吹奏楽版と管弦楽版は一長一短だと思いますが、そういうこととはまた別に、このCDでのロンドン交響楽団の演奏の巧さに大きな魅力を感じます。特に金管パートが充実しているのは英国のオケならではと言えます。第3楽章「ゴラム」でのソプラノ・サキソフォンの演奏(Michiel van Dijk)などは、表情の変化のつけ方が実に巧みで、本当に聴いていて惚れ惚れします。ゴラムがブツブツ文句を言ったり、すねたりする様子が目に浮かんでくるような演奏です。

 今回のCDの演奏を聴いて初めて気付いたこともいくつかあります。「ガンダルフ」でガンダルフの叡智のテーマが演奏される部分や、「暗闇の旅」でガンダルフのテーマが現れる部分でチャイムが鳴っていたなんて、このCDを聴いていなかったらずっと気付かなかったと思います。「暗闇の旅」でゴラムのモチーフが現れるところも、今回の演奏のほうが分かりやすいです。原作では旅の仲間がモリアの坑道を旅するくだりで、フロドがゴラムの足音を聞いたり、青白く光る二つの目を見たりする場面があります。この時からゴラムはフロドの後をしつこくつけていくことになるのですが、それをゴラムのモチーフで表しているのです。

 こんな風に、管弦楽版のCDを聴いたことで色々と発見があったのは大きな収穫です。録音も良く演奏も充実していて私は大満足なのですが、その一方で、この演奏を聴いて「やっぱり吹奏楽よりもオケの方が素晴らしいよね〜」と思う人が多いのではないかと思うと、ちょっとズルいなとも思いました。今度は吹奏楽版のほうをもっと良い録音で聴いてみたいです。

 ちなみに、このCDにはポール・デュカの「魔法使いの弟子」が併録されています。魔法使い(ガンダルフ)つながりによる選曲なのでしょうが、こちらもなかなか良い演奏です。

2003.07.14
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