前回説明したように、条件付けはプラシボ効果を高めもするが、低めもする。しかし条件付けがなくても、プラシボには効果がある。条件付けが可能である途いうことは、脳が将来起こることを期待しているからだ。ここから痛みが減ることを期待しているからだ、という考えが出されている。
しかし条件付けはあくまでもプラシボの作用を学習して獲得するものである。そこに期待が生まれるのだが、今まで学習していないのに効果があるということは、期待そのものが効果を示すということになる。
普通、薬剤の効果を判定する二重盲檢法では、薬とプラシボを比較する。ある薬がプラシボよりも効果があれば、その薬は単独で作用を持つといえる。では、プラシボが何も与えないときよりも効果があり、さらにある物質がプラシボより効果があるとした場合、その物質は効果を示したと言えるだろうか。
イタリアのチューリン医科大学のコロッカ博士らは、次のような研究を発表した。彼らはCCK(コレシストキニン)という神経伝達物質が、脳内で痛みを引き起こすという研究をしていた。もともとCCKは腸で作られ、胆汁の分泌を高めるものとして知られていたが、それが脳内にもあり、神経の末端から出されて次の神経を刺激する伝達物質の一つだということが分かってきた。
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そうなるとCCKの働きを止める拮抗(きっこう)剤が痛みを止めるのではないか、と思うのは当然だ。そこで被験者に痛みを与え、プラシボを与えた場合と、CCK拮抗剤を与えた場合の痛みへの効果を比較した。
するとプラシボは無処置より痛みを止め、さらにCCK拮抗剤を加えると、痛みはもっと弱まった。ところがCCK拮抗剤を単独でこっそり与えても、痛みに変化はなかった。つまりCCK拮抗剤はプラシボの効果を高めたのだ=図。 |
本当に鎮痛作用のある薬は末梢(まっしょう)からの痛みの神経伝達を阻害する。痛みが脳に届かないようにするのだ。ところがプラシボは、痛みが弱まるとの期待から生まれる効果なのだ。脳の中枢からの影響である。CCK拮抗剤はこの作用を高める。つまり脳内のプラシボ作用をする部位の働きを高めるということになる。
このことはプラシボが期待により生まれ、期待を高める物質はプラシボ効果を高めることを示している。