心のチカラ
2011年4月28日(木曜日)
7●期待は脳を変える


 プラシボ効果は、将来起こると思われることへの期待から生まれる。この考えが導かれた実験を紹介しよう。
 皮膚に電流を流されると痛みを感じる。しかし同じ強さの刺激に対し、誰でも同じくらいの痛みを感じるわけではない。ボクサーは私たちが思っているより痛いと感じていない。だから耐えられるのである。
 そこで皮膚に電流を流すとき、被験者にその痛みがどの程度かを点数付けしてもらう。点数は0~10点で、10点は耐えられない痛みだ。ある強さの電流を流しても、人により5点の痛みとか、3点の痛みなどと報告する。これでは実験にならないので、3点と答えた人には、少し電流を強くし、5点と答える電流の量を決める。このようにして参加者全員に同じような痛みを感じる電流の強さを決める。
 まず被験者に5点になる電流を流す。次に皮膚に「新しい鎮痛剤(痛み止め)」と説明したクリームを塗る。そして5点の電流を流す。実はこのクリームは痛み止めでも何でもない。プラシボなのだ。ところが被験者は痛みの点数が3だったと答える。このようにプラシボのクリームは痛みを減らす効果を持つ。
 次にクリームを塗った後で、もっと弱い、本来なら3点くらいになる電流を流す。すると被験者は「これは効くぞ」と思ったことだろう。本人には同じ強さの電流を流していると説明する。さらに翌日、最初と同じように5点の痛みを与えるはずの電流を流す。するとクリームを塗った方は1点の痛みになるのだ。つまり、一度効くという経験をすると、その効果はもっと著明になる。

 一方、別のグループには別の仕掛けをする。クリームを塗った後、同じ程度の電流を流すと説明しながら、8点に相当する電流を流すのだ。当然、痛みは増す。被験者は「このクリームは効かない」という感じを持つことだろう。そこで翌日にまたクリームを塗って、それから5点の電流を流す。被験者はクリームが効かないと思っているので、鎮痛効果はないはずである。ところが、それでも塗らないときに比べて、痛みが減っている。

 痛みの軽減効果は前のグループより少ないが、「効かないかも」と思いながらも、「効くだろう」という期待がプラシボ効果を生んでいる。
 こうして刺激とクリームの効果を結び付けることを条件付けという。条件付けはプラシボ効果を高めも、低めもする。しかし条件付けがなくても、プラシボには効果がある。痛みへの反応を変える仕組みを図で示そう。
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