最近では脳の活動を外部から観察することができるようになった。一つは磁気共鳴画像法(MRI)であり、もう一つは陽電子放射断層撮影法(PET)だ。
スウェーデンのカロリンスカ研究所のペトロビッチ博士らは、痛みに対して効果のある合成麻薬とサプリメントの効果を比較した。サプリメントは痛みに効果のない生理食塩水を用いるが、被験者には「これは痛みに効果がありますよ」と伝えることに注意してほしい。サプリメントといっても実際には言葉の効果なのだ。
被験者の手の甲に48度の熱を与える。高い熱には痛みがある。それからPETの画像を撮影する。次に被験者に二種類の強い痛み止めを使いますと言う。その一つがレミフェンタニル(合成麻薬)で、これはエンドルフィンと同じような鎮痛作用がある。もう一方の人にはプラシボの生理食塩水を与える。もちろん本人はどちらが使われたか分からない。結果として生理食塩水でも痛みは軽減することが分かった。
その後、再び被験者の脳の活動をPETで調べた。その結果、図左に示すように、合成麻薬でも生理食塩水でも同じように脳内の帯状回の前部、橋が活性化された。しかし合成麻薬の場合は、エンドルフィンをとくに分泌する場所である中脳水道周囲核という部分が活性化されていた。合成麻薬の場合は、エンドルフィンがもっと出ることが分かったのである。
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ミシガン大学のズビエタ博士らは同じような実験をし、エンドルフィンとエンドルフィン受容体の結合をPETで測定した。博士らは受容体と結合する合成の物質を測定できるようにし、投与した。 |
もしエンドルフィンが分泌されていると、合成の物質はエンドルフィンと競合し、受容体に結合できない。しかしエンドルフィンがなければ結合できるので、あらかじめエンドルフィンがない状態で測定しておいたPET画像と、実験した際のPET画像を比較することでエンドルフィンの分泌を測定した。
すると図右のように脳の前頭前野の外側背側部、吻(ふん)側帯状回前部、島、側坐核などでエンドルフィンが出ていたのである。吻側帯状回前部は快感を感じるところとされる。側坐核も快感を感じるところである。島は好悪を判断するところだ。不快でも快感でも反応する。前頭前野の外側背側部は、これらの変化をまとめる場所である。
つまり「痛みに効果があります」という言葉がエンドルフィンを分泌させ、脳の状態を変える力を示したのである。