心のチカラ
2011年3月31日(木曜日)
5●カズンズの体験  生きる意志こそ最も重要


 心の潜在的な力について、社会に大きな影響を与えるエッセーが超一流の臨床医学専門誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」の1976年12月号に掲載された。著者はサタデーレビュー編集長のノーマン・カズンズ氏である。
 彼は当時のソ連に視察に行き、帰ると発熱や体中の強い痛みを感じた。親友の医師に相談すると、強直性脊椎炎という膠原(こうげん)病の一種で、治る可能性はほとんどないと言われた。
 そこで彼はどうせ治らないのなら、自分の思う通りの治療をしたいと考えた。ビタミンCの服用が病気に良いと雑誌で読み、ビタミンCを大量 に摂取した。同時に明るく考えることが病気を防ぐと考え、多くのユーモアあふれる映画のビデオを見たり、漫画で心から笑ったりした。すると笑いの後では血沈が5ミリくらい低下した。血沈は血液を入れた管を立てておいた際、赤血球が沈んでいく速度を示す。炎症などでは沈降が速い。
 彼が自分の考えた治療を8日間続けると、血沈は正常範囲内に戻った。彼の妻は二週間後、彼をプエルトリコの海岸に連れて行き、次の日には海岸を一人で歩くまでに回復したのである。
 彼が不治と言われた病気から回復したことを知り、友人は何が最も有効だったかを知りたがった。彼はまず「生きる意志」が最も重要だと答えた。次に良い医師を友人として持ったこと、第三に自分の病気が不治であるとは信じなかったことだと答えたのだ。
 彼は、生命力は地球上で最も理解されていない力かもしれないと述べた。さらに「人体そのものこそ最良の薬屋であり、最も効果 のある処方箋は人体の書く処方箋である」とも述べている。

 これは人以外でも当てはまる。スタンフォード大学のサポルスキー博士は、動物に電気ショックを与える際、いつ電気ショックが来るかを知る手がかりを与えた。赤い電球がつくとショックが来ることを犬に覚えさせると、なかなか疲れないと報告した。
 ハーバード大学のベンソン博士らは、ネズミを水槽に入れ、疲れ果てて死ぬ までの時間を調べた。実験途中でネズミを水槽から救い出し、休ませてからまた水槽に入れると、ネズミはさらに長い時間泳ぐことができた。ネズミにとって自分なりの希望が開けたことが、耐久力を高めたと言えるのである。
 最後に今、米国の家庭医がどの程度プラシボを治療に使っているかを調べた研究を示そう=図。5割以上の医師がかなりの回数でプラシボを治療に加えていることが分かる。

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