医術は、古代人の間では呪術を中心として発達した。これはシャーマニズムとも言う。シャーマンは精神的な衝撃を受けたような経験から、一種のトランス状態、つまり悟りにも似た状態になり、多くの場合に「自分の体はばらばらになり、再度作り直された」とか、「一度あの世、あるいは別世界に行ってきた」などと表現することが多いとされる。
シャーマンはこれにより超能力を獲得し、一度死に極限まで近づいたなどと考える。そして言動が人を動かし、プラシボで治療ができるようになるのである。日本では憑依(ひょうい)、つきものにつかれたような状態になって、他人の苦しみ、病を治すようになった教祖的な存在も多く知られている。
プラシボはもともと、「喜ばせる」とか「喜びを与える」という意味から、「喜ぶ」または「受け入れられる」「前を歩む」という意味までを含むラテン語だ。プラシボという言葉はカトリック教会で二組の聖歌隊が交互に歌う聖歌の最初の言葉、「私は生ける者の地で、主の御前を歩き進もう」という詩編の言葉からとられたものだ。
医学的にプラシボという言葉が説明されたのは、1787年に英国で出版されたクインシー辞典とよばれる用語辞典が最も古いとされる。この中でプラシボは「医学のごくありきたりの方法」と説明されている。患者を喜ばせるために砂糖の水を与えるような治療法が、世間でごく普通に行われていたと考えられる。
1950年代になってプラシボの研究が盛んに行われた。例えば、つわりにより強い吐き気をもよおす患者に「これは嘔吐(おうと)を阻止する薬です」と言って、じつは催吐剤を与えると、、吐き気が収まるという研究である。
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中でも痛みに関する研究が最も多い。手術後の痛みに関して、医師が一人には鎮痛剤と称して食塩水を与える。このとき「これはダブルブラインド(盲検)で、これが効くか、別の薬が効くか分かりません」と言って与える。一方には食塩水を与え、「これは痛みに効く薬ですよ」と述べる。効くと言われて与えられた食塩水を飲んだ患者の痛みは軽減したのである。使用する鎮痛剤の量を減らすことができたのだ。医師の言葉が患者の痛みを減らしたと言える。
「効くかどうか分かりません」と言って与えた薬が本当は鎮痛剤だったという場合もある。それでも「効かないかもしれない」と思って飲んだ鎮痛剤は、効くと思って飲んだ食塩水よりも効果はなかったのだ。 |