プラシボ効果は、効果のある薬に対して効果がない物質を与え、その効果を比較することにより示される。しかし、実際にはその薬そのものの効果が医師の言葉に左右され、増えたり減ったりする。これを「プラシボなきプラシボ効果」と呼んでいる。
米国のダラスにあるテキサス・サウスウエスタン医科大学の麻酔科のエグバート博士らは世界で最も権威ある臨床医学専門誌の一つ「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に次のような論文を出した。
さまざまな病気で腹部の手術を受けることになっている97人の患者を2群にわけ、一方には医師が手術前に訪れ、病気のこと、治療のことを簡単に説明した。もう一方には「医師は強い痛み止めの薬を用意している。どうしても絶えられないときには遠慮なく言ってください」などと、病気のことを詳しく説明し、患者の不安をなくすようにした。手術の際には医師も看護士も、患者がどちらの説明を受けていたかを知らせなかった。
その後、医師たちは患者の退院後に使われた痛み止めの薬の量を比較した。するとよく説明された患者に用いた痛み止めの量は、そうでない人の半分くらいであり、入院期間は二日も早く退院できた。
別の研究ではニューヨーク州立大学のレパレロ博士らが気管支喘息の患者について調べた。ぜんそくでは気管が収縮する。医師は気管支拡張剤と言って気管支拡張剤を与えた場合と、気管支収縮剤と言って気管支拡張剤を与えた場合、さらに気管支収縮剤と言って収縮剤を与えた場合を比較した。
すると気管支拡張剤と言って与えられた気管支収縮剤は、あまり気管支を収縮させなかった。医師の言うような効果を示したのである。
過敏性腸症候群という病気がある。腹部に痛みをともない、下痢などを起こす原因不明の病気である。診断には肛門からバルーンを入れて膨らませ、痛みの程度を調べる。この病気の人は普通の人が痛いと思わない程度のバルーンの膨らみでも痛く感じる。
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このような患者には合成のモルヒネ、つまり痛み止めの麻薬を注入する。このとき本人に気づかれないように麻薬を点滴するよりも、本人に「これから痛み止めを注射しますよ」と言って点滴するほうが痛みの軽減効果は大きくなるのである。
図に示すように本人が痛み止めを注入されていると知っている場合には、同じ鎮痛効果を出すのに六割くらいの薬の量でいいのだ。時間を追って調べると、痛みの程度は本人が注入を知っている方が弱くなるのである。これも「プラシボなきプラシボ効果」と言えるだろう。 |