医師が薬剤の効果を信じるかどうかは、その薬の効果にも影響を与える。
これは痛みの研究で調べられた。親知らずを抜歯した60人がこの研究に参加した。参加者はプラシボ(効果があるかないか分からないと言って与える)か、痛みを強めるナロキサンという薬か、痛みを止める新薬フェンタニルという薬を与えられるようにした。実は前部プラシボで、本当の薬ではない。しかもこの研究は患者への影響でなく、医師への影響を調べるためだった。
最初、歯科医師や看護師に「フェンタニルはまだ許可が下りないので、今は使えない」と告げ、プラシボとナロキサンを与え、比較した。すると使用後すぐに痛みが強まり、60分後には痛みを点数化した場合6点にまで上がった。一週間g、フェンタニルが手に入ったと告げ、フェンタニルを与えた。
ここで注意しなければならないのは、患者はこの薬が投与されているということを知らなかったことである。医師、看護師のみが知っていた。ところが、注射直後から痛みは弱くなった。医師らが薬のことを知っていたと言うことが態度に微妙に影響し、それが効果にも影響を及ぼしたのだ。
医師の態度は患者の心に影響を与え、治療の効果を変えるということもある。膝(しつ)関節症の患者に膝の手術をするべきかどうかということは、依然として医学上の問題である。これについては、面白い話が米国のスポーツ雑誌に載った。
第二次大戦で膝をけがした退役軍人に膝の手術をした場合と、膝の手術をしたように見せかけ、膝に切開の傷だけをつけておく場合で比較したのだ。執刀医のモースレー博士は非常に有名な医師で、ヒューストン・ロケッツというバスケットボールのチームドクターだ。
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患者は、実際には手術を受けなかったが、膝が完全に治ったと言った。「自分の膝が治ったのはモースレー博士のおかげだ」と言い、ヒューストン・ロケッツの試合がテレビで中継されると、妻を呼び「あれが私の膝を治した先生だ。なんとすばらしい先生だろう」といつも言ったという。
この話を聞いたモースレー博士は、米国の医師会の会合で「医師自身が治療薬だ。医師は自分を磨き、自分が治療薬だと思わせるような人間になるべきだ」と講演した。まことに真実をうがっていると思う。
医師の心の変化が態度に影響を与え、それが患者に微妙に伝わって、治療の効果に影響を及ぼすことは、神秘的とも思える心の作用である。 |