うつ病の薬も新しい薬はプラシボ効果が大きいということは述べた。しかし薬そのものが、新薬が出ると古い薬は急に効かなくなるのである。
現在、胃潰瘍の薬として発売されているのは、胃酸の分泌を阻害するH2ブロッカー(阻害剤)と言われるものだ。アレルギーの原因になるヒスタミンは胃酸の分泌も引き起こす。ヒスタミンと結合する受容体には、H1とH2があるが、現在の薬はH2受容体と結合して、この働きを阻害する。
胃腸薬の薬としてシメチジン(薬品名タガメット)が発売されると、効果は抜群で72%の人の胃潰瘍が治ったと報告されている。薬は10年間使われ、その効果は内視鏡を使って確かめられている。
1981年にランチジン(薬品名ザンタック)が発売された。その働きはシメチジンと同じで、H2ブロックカーであり、胃酸の分泌を阻害する。ランチジンが発売されると、シメチジンの効果は64%に低下した。ランチジンは75%の患者の胃潰瘍に効果がある。
図は2000年に発表された、それまでの117の研究のまとめである。黒丸はシメチジンの効果で、四角はランチジンである。
ランチジンが発売されると、シメチジンの効果は次第に低下しているのが分かる。これも感覚的に効果があったとか、なかったと言っているのではなく、内視鏡で検査した結果、胃潰瘍が治ったかどうかを判定しているのだ。
新薬が出ると古い薬が効かなくなるという話には二つの理由があると思う。一つは医師が新しい薬を信じるようになったことと、患者も新しい薬の話を医師から聞いて、それを信じるようになったということだ。新しい薬が効くというプラシボの効果もすばらしいのだが、 古い薬が効かなくなるノセボの効果も恐ろしいと思う。
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薬が効かなくなると、製薬会社は同じような薬を新薬として開発する、そしてその薬は作用の仕方は同じなのに、前の薬よりも効果を示す。人によっては、会社はこのことを知っていて次から次へと似たような薬を出すのではないかと言っている。
この傾向は心の病に使う薬の場合、著明に現れる。心の病の薬は効かないといううわさが広がると急速に効かなくなるというのも、このようなこと背景にあるのだろう。 |