15●薬の効果への期待 うつ治療 脳にも"耐性"か |
カリフォルニア大学ロサンゼルス校のクレル教授らは、患者の薬への期待度とその効果との関係を調べた。
患者を(1)薬は非常に効果がある (2)ある程度効果がある (3)効果がない ―と考えている人に分けた。すると「非常に効果がある」と思っている人の90%に薬が効いていた。一方、薬が「ある程度効果がある」と思っている人の場合には33%の人しか効果を示さなかった。「効く」と答えた人の、脳内の快感を感じる側坐核の活動は活発になっていた=図。
実際に、薬が効果を示さないという人が多くなると、医師は新しい薬を処方する。うつ病の患者は7種類も8種類も抗うつ剤、鎮静剤、睡眠薬を使っているのである。
2009年の夏に開かれた精神科の国際学会で、抗うつ剤を2剤以上使用した場合の効果が1剤の効果よりも低いこと、さらに多剤の場合には副作用が大きいことが示された。
実際には薬が新しくなっているので、昔の薬を使う研究は難しい。しかし三環系の「トフラニル」と現在のSSRIである「パキシル」を比較することはできる。医師はトフラニルの方がよいとは思わないと言っている。 ロサンゼルスの著名な精神科医で、多くの著書もあるウィリアム・グラッサー博士は「うつ病は『不幸』の症状である。不幸であるかぎり、うつ病はどうしても症状を出そうとする」と言う。
心が病んで不幸を感じているときに、薬で変えようとしても、脳は感情の表現の回路を変えて、結局今までと同じような症状を呈するようになるというのだ。
|
この考え方は非常に興味深い。抗生物質と感染症の関係に似ているからだ。抗生物質が開発されると病原菌は増殖しなくなり、死滅する。しかし最近は変異をくり返し、抗生物質によって阻害された経路をバイパスする代謝経路を生み出し、結局病原菌は生存するようになってしまう。これが耐性菌である。
こう考えると、脳も薬や心理療法で一時的に不安の表現を変えても、しばらくすると別の回路を構築し、うつの症状を示し続けるのではないかとさえ思われる。
最近、うつ病が変わった、新型うつが現れたと言われている。これは、脳がうつ病の治療に抵抗しているようになっているとも考えられるのである。 |