心のチカラ
2011年8月11日(木曜日)
14●プログルマイド 不安から生じる痛み抑制


 私たちが嫌な思いをしたり、嫌な言葉を告げられたりすると、心と体に変調を来すことは既に述べた。この仕組みはどこまで分かってきたのだろうか。
 私たちが嫌な思いをすると、それは当然前頭前野という意識の場に送られる。それはさらに不安を感じる場所であるへんとうとか帯状回前部に送られる。神経とホルモンの中枢である視床下部にも情報は送られ、体はストレスの反応を起こす。
 情報は神経の電気活動で伝わるが、神経の末端にくると物質を放出しそれが次の神経の受容体に結合して情報が伝わる。こうした物質を神経伝達物質という。
 神経伝達物質の中にCCK(コレシストキニン)という物質がある。この物質は本来、膵臓(すいぞう)から出る消化ホルモンで、胆のうを収縮させ、胆汁を出させる作用があるところから見つかった。ところが脳内にもこの物質を伝達物質とする神経がある。その一つが痛みの神経だ。 神経末端から出されたCCKは受容体と結合するが、これを阻害するプログルマイドという薬が開発された。不思議なことにこの薬は、痛みを軽減することはしない。例えば皮膚に痛みを与え、プログルマイドを与えても痛みの程度は変わらない。ところが「これは痛いですよ」という言葉で痛みが増すことは抑えるのである。つまり不安から痛みへの神経に関与するのだ。不安を抑えるという作用もない。

 痛みを軽減する物質にβエンドルフィンがある。いわゆる脳内麻薬だ。これは皮膚などからの痛覚の神経が脳に伝わる際、さまざまな部分で神経の活動を阻害する。CCKは延髄の腹内側の部分でエンドルフィンの作用に拮抗(きっこう)するとされる。痛みは阻害されずに大脳に到達するのだ。
 しかしプログルマイドは、それ自体には何の作用もなく、「痛いですよ」という言葉で放出されるCCKの作用を抑えるのである。だから与えたことを知らせずにプログルマイドを与えても、痛みは変化しない。
 このように脳内には言葉に反応して、仕組みをよくするもの、言葉に反応して仕組みを阻害するものなどが存在するのである。

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