前にうつ病の連載をした際にも述べたが、うつ病の薬と称するものの数は非常に多い。多くの薬が使われるようになると、それらの薬の効果の差を検討しようとする試みも出てくる。
コネティカット大学のアービン・カーシュ博士は、1998年に38の臨床研究をまとめて比較するメタアナリシスという方法で、薬の効果を調べた。
すると図に示すように、薬は非常に効果があるということが分かった。だいたい50%の人に効果があったといえる。しかし再発率は80%あったのだ。
さらに重要なことはプラシボの効果サイズも1.2と非常に効果があったのである。薬とプラシボを比較すると、プラシボは薬の75%くらいの効果がある、つまり薬が効いたという人の75%くらいの人がプラシボでよくなったのだ。治療しない場合には効果がないのだが、薬もプラシボも効果があったことは事実である。
このような報告を受けて米国の食品医薬品局(FDA)は1999年に80以上の抗うつ剤を調べた。すると効果なしが50%、プラシボ効果が30%強、効果ありは20%前後だった。
もちろん両者の比較の方法が異なり、カーシュ博士の方法は、メタアナリシスで、FDAは薬の効果を調べ直したのだから、効果なしというデータが出ても不思議ではない。
カーシュ博士の論文が出されると、精神科の専門家が激しく攻撃した。統計の取り方が悪いというのが主な批判だ。そこでFDAなどのデータを加え、再度検討した結果、やはり結果は似たようなものだった。
抗うつ剤は、プラシボより効果があるのではないかという意見に対して、カーシュ博士は次のように述べた。
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薬をプラシボと比較する際に投与される患者も、投与する医師も、どちらが薬でどちらがプラシボか知らないことになっている。ところがこのような治験の説明で医師は「この薬を服用していると口渇、発汗、便秘などの副作用があります」とあらかじめ注意を促す。患者が副作用を経験すると、「これは本当の薬だぞ」と分かってしまうというのだ。実際80%の患者は自分の服用している薬が薬かプラシボかどうか分かっている。医師の90%は薬として投与されるものがプラシボかどうかを知っているのだ。
実際にプラシボとして口渇などの作用を持つ物質を与えると、薬とプラシボの差はなくなり、すべてがプラシボ効果になってしまうというのである。
最近うつ病に薬が効かないということが問題になっている。欧米ではこれは大問題になっているのだ。 |