心のチカラ
2011年6月30日(木曜日)
11●ノセボ効果 「病気予備軍」と呼ぶと…


 私たちは嫌な言葉を聞くと不愉快になる。他人に批判されると自分ではそんなものは気にしてはいけないと思いながら、どうしても気になるのが普通である。
 よく言われることだが、「顔色が悪いですね」などと言われると、本当にどこか具合でも悪いのかと思ってしまう。
 ある大学の学長は毎年健康診断を受けて、いろいろ検査をしてもらっていた。ところがあるとき、検査値の異常が見つかり、非常に不安になった時期があったという。ところが別に体の具合は悪くない。彼は退職する職員に「これからは健康のことなど気にせず、毎日を送ってください」という送別の言葉を述べた。彼もその後一度も健康診断などを受けていないが、非常に快調に日々を送っているという。
 このような状況の中で、特に最近問題になっているのは「病気の予備軍」という言葉である。普通、空腹時血糖値が100未満(1デシリットル当たり100ミリグラム)が正常値、あるいは優として100から110未満を正常値の高値、境界型糖尿病を110から128未満としている。もしあなたの空腹時血糖値が112ということになると、医師は「どうも糖尿病に注意した方がいいようです。予備軍と言えるでしょう」などと言う。
 糖尿病のスクリーニングでは、血液中のヘモグロビンAIC(HbA1C)という物質の量を測る。これはヘモグロビンに糖が結合したことを示す指標なので、血糖値がいつも高いとHbA1Cが高くなる。正常値は5.8%未満で、5.8~6.5%未満が良、6.0~7.5%未満が可または不十分としている。
 そこで5.8~6%の値をもつ人は、糖尿病予備軍などと呼ばれるのである。

 もしあなたが糖尿病予備軍と言われたり、奥さんもそれを知っているとすると、どうなるか。あなたの人生、少なくとも食事は一変するだろう。甘い物は食べられなくなり、食事も卵、肉などを減らされ、野菜を主とした食事に変えられるだろう。酒も飲めなくなるかもしれない。
 同じことは薬の効果でも示される。例えば手術後に鎮痛剤としてモルヒネを与えることがあるが、本人に投与を知らせないと、あまり効果がない=図。本人が知っていると、それが心と体に大きな影響を与える。もしそれが悪い情報の場合には、かえって病気をつくるということもあるのだ。

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