うつ病を防げ
2010年7月22日(木曜日)
9●薬 1   ヒンズー教の治療法 起源


 もしあなたや知り合いがうつ病らしいという診察をうけ、うつ病と診断されれば、必ずといっていいほど、最初は脳内のセロトニンを増やす薬を処方される。うつ病の薬はどのように見つかったのか。
 私たちは何かいやなことが頭から離れず、いつもそのことを考えていらいらすることがある。こんなことを考えてもどうにもならないと思っても、考えを抑えることができないこともある。こうした脳の異常な興奮に対しヒンズー教ではインド蛇木という植物の根をしゃぶらせて治した。しゃぶると気分が落ち着いたのだ。
 1930年代にインドの内科医がインド蛇木の根には精神を鎮静させる成分があると報告した。するとスイスのチバ社の研究者がその成分を抽出し、レセルピンと名付けた。レセルピンには確かに鎮静作用がある。いらいらは治り、気分が平静になる。ところがレセルピンは血圧を下げる作用があることが分かったので、会社は降圧剤として1950年代に売り出した。日本でも大変多く使われた。
 ところが薬を使った人にうつの症状が現れた。何もやる気がしない、過去の失敗が思い出され、「なぜあんなことをしたのだろう。なんと自分はだめな人間か」などといつも思ってしまう。この中から自殺者も出た。

 会社は驚き、原因の解明を急いだ。レセルピンをラットなどに与え、脳がどのようになっているかを調べた。神経の末端には神経伝達物質が袋に入って蓄えられているので、いろいろな神経の末端を顕微鏡で調べたり、そこにある神経伝達物質を調べたりした=図。
 普通は感情を支配するような場所、辺縁系の神経の末端には多くのモノアミンが存在する。モノアミンはアミンが一つついた物質をいう。ところがレセルピンの投与後に脳内神経末端にモノアミンといわれる物質、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンがほとんどなくなっていることが分かった。つまりモノアミンが減ると感情は暗くなり、うつになることが分かったのである。
 これは脳内の物質が減ると暗い感情に支配されることを意味する。そこでうつ病の場合は、モノアミンの量が減っているのではないかと推察され、多くの論文が出た。
 しかし現在では、うつ病患者の脳では、ある場合にはモノアミンが減り、ある場合には変化はなく、ある場合には増えることも分かっている。

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