1930年代になって、ハンガリーの医師メドゥナは、てんかんのようにけいれんの激しい病気の人に統合失調症が少ないことに気づき、何かでけいれんを起こすようにすれば、精神の異常が治るのではないかと考えた。彼は樟脳(しょうのう)にけいれんを起こす作用があることを知り、樟脳に刺激を与えてけいれんを起こすと統合失調症が治ったと報告した。
1938年にローマ大学のグループは犬で何度も実験した後、知的障害とされた青年に電気ショックを与え、けいれんを起こしても、その後別に異常がないということを確かめた。そこで、この治療法を多くの精神疾患の人たちに行った。その結果、うつ病の人はときに著功を示すことが分かった。
このときはコメカミに電極をあて、強い電流を流した。患者の中には気管の筋肉が収縮して呼吸困難で死亡する者も現れ、強い四肢のけいれんで手脚が骨折したり、背骨や骨盤が折れるような人も出た。この悲惨な体験談などが出版され、多くの人の知るところとなった。にもかかわらずうつ病で自殺の危険のある人の症状が非常に良くなることもあり、電気ショックは続けられた。現在では筋弛緩剤(きんしかんざい)などで、筋肉の収縮を抑えることができるようになり、骨折することはなくなった。
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こうした副作用や一見残酷にも思える電気ショック療法が存在する理由は、その効果である。抗うつ剤の効果は50%以下、人によってはプラシボ(偽薬)と効果があまり違わないというデータもある。これに対し電気ショック療法の効果は75~90%にもなる。さらに抗うつ剤が効果を示すには時間がかかり、1~2カ月要するのに、電気ショックは治療後数日で症状が著しく改善されるという長所がある。
しかしけいれんは防げても、それ以外に重大な副作用があることが分かった。心臓に疾患をもつ人が治療後、心疾患でなくなる場合も少なくなく、記憶障害もある。
最近、経頭蓋磁気刺激方と呼ばれる方法が開発された=図。頭蓋の上にループ状のコイルを置き、瞬間的に電流を流す。すると脳内に電流が流れる。これを繰り返すのである。特に右の前頭前野に磁場をかけると、右脳が電気刺激される。磁場の作り方を変えると、流れる電流の量により脳の活動が抑制されることもある。
電気ショックはなぜ効くのか、まだ分かっていない。重度のうつ病に対し、劇的に治るという点では電気ショック療法に匹敵するものはない。これも人道上の議論がある治療法だ。 |