うつ病を防げ
2010年6月24日(木曜日)
7●治療の歴史  手術、ショック療法で犠牲も


 サルなどに難しい問題を解かせるように訓練する。たとえば○(まる)とほんのちょっとした違いのある楕円(だえん)を区別し、それができたら褒美の餌をやるという訓練をする際、次第に問題を難しくすると、サルは突然怒りだし、あばれて実験を拒否する。
 1935年ころ、米国エール大学のフルトン教授がサルの前頭葉を切除すると、強いストレスをかけられても平然としているし、ストレス後の精神的抑圧が取り除かれると報告した。それをロンドンの学会で聞いたポルトガルの脳外科医エガス・モニツは重度のうつ病や統合失調症の患者の前頭葉を切断する=図=と、精神的な異常から回復すると報告した。これがいわゆるロボトミーの始まりである。モニツはこの業績でノーベル賞を受けた。
 残忍とも思える手術であるから、時に人格は変化し、自立できなくなったり、植物状態になったりした人もいた。しかし数万人の米国の精神障害の患者がこの手術を受けたのである。その後、この手術は事実上禁止された。
 モニツはこの手術を受けた患者に銃撃され、下半身不髄になった。
 この手術は批判が多く、ナチの人体実験などと比較される。しかし最近発見された資料によると、多くの重度のうつ病の患者に効果を示し、ある者は芸術家として、ある者は数学者として、世界的に活躍したような事実もあったことが明らかになった。医学の進歩に際して、ときに誤った治療法、薬などで多くの人が犠牲になることがある。このような犠牲は避けられないのだろうか。

 1921年にインスリンが発見された。糖尿病で苦しむ患者にインスリンを投与すると、ときに血糖値が下がりすぎて意識を失うことがある。ところが意識が回復すると、うつ病のような強度の神経疾患が治っている場合があることが分かった。そこで当時の精神障害の治療はインスリンショック療法(インスリンを投与して血糖を下げて意識を失わせ、死の直前までもっていく治療法)が行われた。電気ショック(強い電流を脳に流す。筋肉が収縮して骨盤や背骨がしばしば折れた)などという治療法も悲惨なものだった。
 当時、米国の精神科病院は45万人以上の患者で満ちあふれ、治療の見込みがないために州立の精神科病院は監獄のように悲惨な状態だった。患者は一生を病院で過ごすような状態だった。
 この問題は病気の治療、費用対効果、人道的意義についてあらためて考えさせられる。

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