うつ病を防げ
2010年5月27日(木曜日)
5●うつ病とはどんな病気か  愛と絶望が生む「心の病」


 うつ病を簡単に定義すれば、自分に愛されたくて、しかも愛されない苦しみによる病ともいえる。これは定型、非定型のどちらにも当てはまるだろう。
 私たちは愛を知っている。だから愛を失う、愛されないことの苦しみも知っている。愛されなければ、絶望する。うつ病は愛と絶望に関する心の仕組みが生んだものである。ある哲学者は「うつ病は私たちが自由に考える能力をもったために生まれた病だ」と述べている。
 私たちは愛することも愛されることも自由にできると考えている。ただ機会が与えられない、求めて得られない場合があると考えている。しかしうつ病の不思議さは、愛を失うことにより、うつが起こるのに、うつになると、愛を与えることも受け取ることもできなくなる。そのような能力を失ってしまうことである。
 その結果、強い孤独感がうまれる。人間は独りぼっちだという、見方によれば当たり前の事実を身にしみて感じるのがうつ病である。

 人は苦しみに満ちている人生でも、自分で生きる目的を見いだし、自分で自分を愛する方法を覚え、他人を愛するこことを持つように生きる努力をする。うつ的になると、この努力が困難になるのだ。苦しみに押しつぶされるようになる。そこから逃れるためにさまざまな薬が開発され、使用が勧められる。しかし、私たちが心を持つ以上、いつまでも薬で苦しみから逃れているわけにもいかない。
 いずれは私たちの心の力で生きる意味を見いだし、愛する方法を取り戻し、無意味な気持ちを一掃する必要がある。これがうつにならない方法だし、うつ病治療の目指すところだ。
 うつ病の診断は自覚症状と他覚、つまり他人が気付く症状が主で、脳波、磁気共鳴画像装置(MRI)、脳の化学などでは確定的に診断できないのが常識である。そうなると、この人がうつ病であるという診断は医師が「うつ病だ」と判断したのにすぎない。
 うつ病は血液検査で分かるような病気とは違う。MRIや陽電子放射断層撮影装置(PET)で、うつ病かどうかを知ろうという動きもある。しかしこれもただ脳の活動が低下しているということが分かるだけである=図。
 うつ病については、自分の内側の声に耳を傾け、自分の感情を総合的に判断して決める以外に診断の方法はない。つまりうつ病は主観的な病であり、その意味では心の病だと言ってもよいのである。

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