うつ病を防げ
2010年5月13日(木曜日)
4●遺伝子の影響  どれが重要か特定は無理


 生物学が遺伝子の時代に入ったと言われて久しい。特に病気の原因となる遺伝子が見つかれば、その治療法も解明されやすくなるということで、各国が巨額の研究費を病気の遺伝子解明につぎ込んだ。
 中には原因と遺伝子の関係が非常にはっきりし、治療法もその遺伝子の発現を正常化するものもあるが、多くの病気の場合、主たる遺伝子が見つかっていない。
 糖尿病を考えてみよう。成人に多くみられる糖尿病に遺伝的素因があることは古くから知られていた。一卵性双生児の一方が2型の糖尿病になると、もう一方は80%近くの割合で糖尿病になる。
 それなら糖尿病の人を集めて、その人たちに共通する遺伝子の異常を調べれば、糖尿病を引き起こす主たる遺伝子が分かると考えるのは当然だ。DNAで個人を識別するように、病気も識別できるのだ。
 日本でも50億円以上のお金をつぎ込んで、糖尿病の場合、どの遺伝子が正常と異なるか(専門的に言えば多型性があるか)を調べたが、結局分からなかった。現在IGF2BPとかCDKAL1など15以上の遺伝子が見つかっているが、このすべてでも糖尿病の発症の30%ぐらいしか説明できない。

 同じことは知能や長寿にも言える。知能指数(IQ)の高い人と低い人を分けて、高い人に共通 する遺伝子の多型性があるかが調べられた。その結果、多くの遺伝子が見つかったが、もっとも重要とされる遺伝子を持っていても、IQは2ぐらいしか上昇しない。
 もちろんうつ病の遺伝子も調べられた。米国ペンシルバニアの郊外で古くからの伝統を守り、仲間以外との結婚をしないアーミッシュという人たちの経歴を調べ、うつ病になった家系に特異な遺伝子を調べたことでノーベル賞を受賞したボルチモア博士が科学誌「ネイチャー」に発表した遺伝子は結局、間違いだったということが分かっている。
 糖尿病、うつ病、統合失調症などの病気、知能、長寿などの優位性は、遺伝子(それがいくら多く見つかっても)の影響下にあるだけでなく、母体内における環境、生後の教育、文化的環境などが微妙に組み合わされて引き起こされる。遺伝が深く関係していることは事実=図=だが、どの遺伝子がもっとも重要かということを見つけることはできないような状態になっているのである。

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