18●薬のプラシボ効果 1 治療効果を左右する「言葉」 |
すべての治療にあてはまることだが、特に精神の病に関しては、治療する人への信頼、その人の言葉、あるいは治療法に対する社会、メディアの反応によって薬、治療の効果は大きな影響を受ける。
統合失調症の治療薬クロールプロマジンが開発された時、副作用があることはほとんど報道されなかった。実際にはチックなど顔の筋肉が不随意に動く運動障害が副作用の代表だが、副作用を訴える人も多くなかった。
ところが副作用を訴える人が多くなると、薬それ自身の効果も薄れたのである。精神医学会も政府もこの副作用を認め、注意を促すようになった。
薬は効くといううわさが立つと、効果は急速に増加する。逆に効かない場合もあるといううわさが出始めると、薬の効果は急速に失われてゆく。薬の効果を高めるようなさまざまな仕組みをプラシボと言い、効果を下げるような働きをノセボという。
プラシボという言葉はもともと「喜ばせる」とか「喜びを与える」の意味から「喜ぶ」「受け入れる」という意味まで含むラテン語だ。医学に使われるようになると、実際には効果のない治療法が、ある場合には効果を発揮する現象を説明する言葉になった。
(トレドミル=ウォーキングマシーン)
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例を挙げよう。英国で1987年に報告された研究結果だが、研究者はまず具体的な症状がないにも関わらず、さまざまな自覚症状を持つ人たちを選んだ。その人たちを二群に分け、一方の人たちに医師は「具合が悪いようですね。でも2~3日で完全によくなりますよ」と告げ、プラシボを与えた。もう一方の患者には「いろいろ調べたのですが、原因が分かりません。この薬が効くかどうか分かりませんが」と言って、プラシボを渡した。
医師に肯定的に2~3日で治ると言われた人たちの64%は症状がよくなったが、否定的に言われた人たちは39%が快癒したにすぎなかった。
精神の領域でなくてもプラシボは効果をもつ。狭心症の患者は心臓の血管が収縮するので、歩くと胸に痛みを感じ、長く歩行できない。血管内皮増殖因子(VEGF)が開発されたが、この効果より「狭心症の新しい薬ですよ」という言葉の方がより効果があったのである=図。 |