うつ病を防げ
2010年11月11日(木曜日)
17●言霊療法  認知療法よりも効果ある


 日本では言葉に霊的な力があると考えられていた。良い言葉をかけられれば元気になるし、嫌なことを聞けば自信を失う。曹洞宗の開祖道元禅師は「愛語、よく回天の力あり」と言った。
 私はメールでうつ病患者の相談を受けているうちに、認知療法などよりも、言葉を使う治療法の方がはるかに効果があると信じるようになった。
 動物の脳には相手のまねをする細胞、ミラー細胞(鏡細胞)がある=図。人が手を動かすと自分も動かそうとして活動する細胞である。言葉を聞くとその内容を理解しようとする細胞でもある。よい言葉を聞くと、意味するところを喜びをもたらす部位、側坐核などに伝え、元気にさせる。
 私は自分の経験から「困ったことは起こらない」「すべてはよくなる」という言葉を自分に言い聞かせている。嫌なことをふっと思い出しそうになったとき、この言葉を言い聞かせる。
 これは不眠に悩む人にも教えている。眠る前にまっすぐ座り、疲れるまで「困ったことは起こらない」と繰り返す。すると睡眠薬でも眠れなかった人が急に眠れるようになり、感謝されている。

 困ったことは起こらないなどということはあるのだろうか。私は次の例をあげて説明する。DNAの二重らせん構造を決定してノーベル賞を受賞したフランシス・クリックは定年後、米国のソーク研究所に渡り、そこで脳についてかくかくたる業績を上げた。彼の死後、秘書が机を整理すると、手書きの紙が出てきた。そこには「自分は今まで、これが起こったら困るというようなことが何度あったかしれなかった。しかし、そのどれも起こらなかった」と書いてあったのだ。
 これを読んで私は感動した。あの天才クリックも困ったことが思い出されたとき、自分の部屋でこれを読み、気持ちを落ち着かせたのだろう。
 私は、ある種の言葉には霊的な力があると思う。時に聖書の言葉だったり、仏の言葉だったりする。自分の心を変える経験をもたらす言葉を自分で見つけることができたら、その言葉を大切にすべきである。
 良いことを思えば、良いことが来るというのは積極思想と呼ばれる。マーフィーなどにより広く伝えられた思想だ。この根本は言葉そのものが私たちを変え、私たちの運命を変える力があるということを利用したものにすぎないと思う。

Next