うつ病を防げ
2010年10月14日(木曜日)
15●遺伝子は見つかったか   次々と研究成果 注意必要


 2003年にロンドンのキングスカレッジの研究者が世界を驚かせる研究を発表した。セロトニンは神経の末端から放出され、使用後は輸送体を通って、元の細胞に再取り込みされ、分解される。うつ病の患者はセロトニンが少ないので、この通路にふたをし、セロトニンが長く、シナプスという部分に残るようにする薬がパキシルなどSSRIと呼ばれるものである。
 輸送体の遺伝子にスイッチが入るとき、スイッチは遺伝子の前の方のプロモーターと呼ばれるところにある。スイッチの部分の長さが短い人(Short=Sと呼ばれる)と長い人(long=Lと呼ばれる)がいて、うつ病の人はsのスイッチを持っているというのだ。
 このような人はストレスに弱く、内気で、外交的でないという研究も出た。驚かせたのは、日本で出された図のような研究だ。日本人のスイッチを調べるとSSといって、両親からSをもらった人が多く、内気で、人前で発言するようなことが苦手である。一方、欧米人はLを持った人が多く、自分の意見を堂々と述べるというのだ。
 この研究は人々を驚かせた。立花隆さんや筑紫哲也さんのような、自分の意見をどんどん述べるような人にテレビに出てもらい、彼らの遺伝子を調べたところ、彼らもSSであることが分かり、「このような人もやはり日本人か、日本人は本来、控えめなのだ」といったコメントもあった。

 性格のような色々な因子が関与している形質が、一つの遺伝子で決まるなどということはおかしいという意見もあったが、最初の論文がサイエンスという世界で最も評価の高い科学誌に出たために、この研究を批判する人は少なかった。
 最近そのサイエンスで「スイッチ部分の長さ(5-HTTLPR)とうつ病の関係を調べた多くの研究はこれを確認できなかった」と報道され、さらに世界を驚かせた。
 こうした例はうつ病の遺伝子のみではない。統合失調症や心的外傷後ストレス障害などになりやすいかどうかという遺伝子も、結局最も重要なものは見つかっていない。
 心が関与する現象は単純ではない。精神現象は物質では説明できないのではないかという意見も出始めている。一流雑誌に出たからといって、すぐに真に受けると、とんでもない説の信奉者になってしまう。十分な注意が必要である。

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