うつ病を防げ
2010年9月30日(木曜日)
14●遺伝子の探索  病因すべては説明できぬ


 ヒトだけでなく、動物の遺伝子を構成するDNAの配列が解明されると、さまざまな病気の原因が解明できるという大きな期待が膨らんだ。
 遺伝子が解明されるよりも前にポーリングというノーベル科学賞を受賞した学者は黒人に多く見られる鎌形赤血球症の原因が、酸素を運ぶヘモグロビンの構成アミノ酸のただ一つのみが変異しているということを見つけた。ヘモグロビンは140くらいのアミノ酸がつながってできている。このうち六番目のアミノ酸がグルタミン酸からバリンに変わると、ヘモグロビンをもつヒトの赤血球が丸くなく、鎌形になるというのである。
 アミノ酸はDNAの公正性分(塩基)三つの暗号で決められる。グルタミン酸の暗号はGAGだが、バリンの暗号はGTGだ。つまり一つの塩基が変化するだけでこんな重傷の病気をもたらす。このことは遺伝子を研究している人に多くの希望を与えた。
 その後さまざまな遺伝病で遺伝子の異常が見つかった。特に重要なのは膿胞性線維症という病気で、肺の機能が低下し、長生きできない病気である。1989年にカナダの学者が、この病気の人はある遺伝子からできる物質(塩素イオンの輸送隊)のアミノ酸のうちの一つだけが欠けているということを発見した。これは遺伝子治療にも道を開く発見として、世界を驚かせた。

 病気の遺伝子の探究が始まったのだが、非常に多くの人の病気である糖尿病、高血圧、肥満、うつ病、統合失調症などの遺伝子で見つかったものは、その病気のごく一部しか説明できなかった。
 うつ病で説明しよう。遺伝的な側面はすでに解説した。最も説得力のある研究は一卵性双生児の一方がうつ病になった場合、もう一方がどの程度うつ病になるかという研究だ。
 一卵性双生児の一方がうつ病になると、もう一方は6~7割の率でうつ尿になる=図。だから共通の遺伝子があるはずである。ところが、いまだに主要な遺伝子は見つかっていない。発見の報告は後に取り下げられているのである。
 この結果は環境が大きな影響を与えているとは解釈できない。もしかしたら心が関与する異常、性質については、遺伝的な変化を統合する何かの力が働き、それは遺伝子の解明のみでは解釈できないのかもしれない。

Next