うつ病を防げ
2010年3月25日(木曜日)
1●変わっていく うつ病   従来にない「新型」も登場


 15人に1人と、年間3万人以上。皆さんは何の数と思うだろうか。一つは一生のうちにうつ病になる頻度であり、もう一つはうつ病と関連が深いとされる自殺者の数だ。身近な病気で患者数=図=が増えているにもかかわらず、うつ病は正しく理解されていないし、診療を受ける人も少ない。
 うつ病はストレスや競争社会など現代人の病気と思うかも知れないが、古くから記述されている。ヒトが進化の過程で脳を発達させ、高度な思考能力、複雑な心をもつ代わりに背負い込んだ病のようにも思える。私は『うつを遠ざける9つの方法』という本も書いているが、もう一度最前線の情報を解説してみたい。
 最近、今までのうつ病の観念では説明できない新しいタイプのうつ病が現れた。人によっては否定型のうつ病とか、新型のうつ病と呼ぶ人もいる。
 これは30代を中心に、会社で働く、比較的学歴の高い人に多い。性格はまじめで繊細だが、負けず嫌いで、自分の考え方に固執する。きっかけは上司からの叱責(しっせき)、不本意な異動などはっきりした理由がある。
 古典的なうつ病と異なるのは「自分が悪い」とか「迷惑をかけて申し訳ない」と自分を責めることはなく、上司や組織への攻撃が激しい。もう一つは、職場で症状が激しくなるが、職場以外では今までと同じように生活できる。趣味やボランティアも続ける。自分でもうつという自覚があり、医師の診察をすすんで受ける。通院も規則的にするが、治らないと医師を激しく攻撃することもある。学業や仕事では症状が悪化し、趣味やスポーツでは元気になるのだから、周囲には仮病のようにもみえる。

 ところが本人にとっては深刻だ。仕事をしたいと思うのだが、職場に行くとうつの症状が出てしまう。このような人は「やりがいのある仕事ならどんな苦労もいとわない」と言う。そこで会社は「まず今の職場でやれるところを見せてくれ。そうすれば、もっとあなたに向いた部署が探せる」となるが、「まずやってみせる」ことができないのだ。
 新型うつ病が時代の影響を受けていることは、リーマンショック後の不況で、かなりの新型うつ病の人が回復していることでも分かる。今までは「自分に向いた職なら一生懸命働ける」と言っていた人が、「今は仕事があるだけで幸せ」と考えを変えることができたからだ。こう考えると、うつ病は性格、時代背景、文化などさまざまな要因が作り出す、感情と行動の異常としか思えないのである。

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