みちのく国際ミステリー映画祭1998in盛岡
ニューウェーブセッション
京極夏彦&斎藤純+明石知幸(映画監督)
6月20日(土)14:00〜15:30
大通りLILIOイベントホール

◇Part5
◇Movie Index
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*ほぼ聞き取れたのですが、どうしても聞き取れなかった部分は「・・・」にしてあります。ご了承下さい。

◆ミステリー談義 Part4
斎藤 えーと、僕、映画見る時にね、あのやっぱ暖かい目で見る話ありましたけど、小物とかね、車とかね、ディテールってすごい見ちゃうんでね。監督さんの立場から見てね、何ていうか、あれは映像に映るもの全部に目を向けるわけですよね。小説家って分かんないことは書かなければいいから(笑)いや、そうなんですよ。山の風景書いていて、いちいち何の木がどれくらい生えていた、なんて書かないけれども。「山」で済んじゃうんですけれども。レストランならレストランで、ってテーブルクロスなんていちいち何色か書かなくて済んじゃうけど。映画だと全部用意しなきゃいけないですよね。レストランならレストランにしなくちゃ、誰もレストランだって思ってくれませんよね。
明石 僕は〜画面のすみずみまで全部やっぱ気を配って、出てるもの1つ1つにやっぱり気を配らなきゃいけないんですけれども、なかなかやっぱりその辺は、ちょっと時間的なものと、やっぱり予算的なものもありますので、限界ありますよね。それがやはり客観的なフィルムになって「あいたっ!」(笑)って思うこと、もうしょっちゅうですね、それは。そうですね、たとえば斎藤さんの小説って、ものすごくやっぱりモノに対するこだわりって感じられるじゃないですか。
京極 フェチシズム(笑)
斎藤 フェチなんですね(笑)
明石 フェチ斎藤さんと(笑)だからそういう方がやっぱり見ると、すごく気になるっていうと思って、特に邦画なんかでもやっぱり愛を持ってなんとか(笑)見ていただけないんじゃないかなって。
それとあと、1番日本の映画で難しいのはやっぱり外の、ロケーションの方面でしょうね。
京極 (明石の言葉に被せるように)でしょうね。作れないですからね。建物までは。自分の思い通りの風景が、なかなかないわけでしょ。だからロケハン、て大変だろうなぁって思うんですけれど。今回はね、函館というモチーフがあったんで、その辺、すごく、なんか綺麗にというか、まぁたぶん思い通りに行ったんじゃないかと。あれがね、もし、何の指定もなくいきなりなんかこう幻想的な建物と言われちゃうと、こりゃ困るんだろうなぁと思いますね。
あの、僕、時代劇好きなんですけど(笑)
斎藤 でしょうねぇ(笑)
京極 時代劇のロケーションなんかも出来ないですよね。
明石 そうですね〜。まさか日光江戸村でやるわけにもいかないですから(笑)
京極 電柱のない場所ないですから(笑)そういう意味ではどんどん作りにくくなってる。でも時代劇に限らないですよね。時代劇ってもともと今のこの世の中で機能してないものを風景の中で撮るものだから、1から作らなきゃいけないわけですけど、たとえ現代の映画であっても、監督の気持ちとしては、自分の思い通りの映像みたいなものっていう、ヴィジュアルを1から作りたいっていう衝動がやっぱあるものですよね?
明石 はい。
京極 でもそれは作れないから、合った場所を探さなきゃいけない。これは逆に言うと小説家はですね、勝手に書けばいいわけですから、その分逆に楽なんですけど。いろいろ苦労はあるんじゃないかなと常々思うんですけど。
明石 はい。今やっぱりあの日本映画でこう「何がやれるか」っていう部分があります確かに。今おっしゃったようにその、自分が本当に作ったものの中でやりたいっていう衝動にかられても、それはもうできないことですから、そのやっぱり限られた中で、枠の中でどうやって戦っていくか。
京極 縛りが。
明石 縛りです。SMじゃなくて(笑)
それがなんかこう、けっこうエネルギーになってる部分てあると思うんですよ。逆に。野放図にじゃあ何でもやっていいよ、お金いくらでも使っていいよ、っていう。
京極 なるほど、限定条件があるからこそ、その中でいかにして工夫するかみたいな。原動力にはなる。
明石 なる。日本人てまぁ基本的にそういうこと得意なんじゃないかなぁと。
京極 そうですね。
斎藤 あの〜『キリコの風景』の時ね、まぁ函館ですよね。あの映画を見て「あ〜函館ステキ!」って思ったりね、ぽろっと函館行ってもね、あの映画、嘘なんじゃないかって(明石大笑い)多分みんな思うと思うんですよ。けっこうだから、絵がこう、監督のイメージした街を作るためにいろいろ工夫してるわけなんですよ、実際はね、あるところをそのまま撮ったりじゃなくてね。
明石 はい。その辺はちょっとありますけど。
斎藤 粉雪なんかもすごいですよね。
明石 はい。寒かったですからね。あの時期。寒かったですから、だいたい零下5度くらいになってましたので。その辺の。そうするとだいたいバッテリー関係が、寒いところ行くとやられちゃうんですよfont>
斎藤 ああ。監督あの、えーと、明石水軍の末裔だから南のほうの明石「そうです」)徳島?(明石「そうです」)でしたっけ?マイナス5度くらいは盛岡では寒いって言わないんですよ。(明石さん大笑い)「今日はあったかいね」っていうのがマイナス5度くらい(笑)以後お気をつけて(笑)
明石 はい、分かりました。な、何の話してるんだか(笑)
斎藤 いや、バッテリーが大変だったっていう。
京極 いや(笑いながら)バッテリーの話だったわけじゃないでしょう。別に。
斎藤 違うか(笑)雪の話だったか。
明石 あの、それでちっとも函館って言われても、名所旧跡っていうか観光スポットを全く撮ってないのものですから、最初にそれを宣言しちゃったものですから、ずいぶん函館市役所の観光課の人に怒られました。「もっと函館をアピールしてくれ」ってね。「もっと分かりやすいところを撮って下さい」って要求がありまして。五稜郭とか、函館山の山頂でとか。
京極 歩くなら、五稜郭の前を歩けとか(笑)函館山から俯瞰しろ!とか(笑)
明石 「男と女の話は、函館山の山頂から」(笑)
斎藤 あの〜火曜サスペンス系はだいたいそうですよね(笑)
京極 そうするとタイアップでね、お金が浮くとかいうのが。
斎藤 そうそうそうそう。必ず飛行機飛んでるところを入れるとか。あの1シーンだけで飛行機代ってタダになるんですよ(観客「へぇ〜!」)(得意気に)知らなかったでしょう〜?今日来た人は勉強になりましたね(笑)映画はそうはいかないか。
明石 あ、でもそういうのもありますよね。だからあの、飛行機撮らないから、後ろであの電車走らして、そこにJALって書いたのを(笑)タダにしようと。
斎藤 奥の手というか(笑)それでもOK?
明石 はい、大丈夫でした(笑)
斎藤 うわーやりましたねえ監督〜!(笑)
京極 工夫しましたね。
斎藤 そういう工夫が、やっぱり日本の名画を生んでいる(笑)
明石 さっき、なんか斎藤さん質問したいっておっしゃたこともっとなんかレベルの、こうスケールの大きな話じゃなかったでしたっけ?(笑)
斎藤 いや、こういう、裏話というか、外では聞けないような話というのが大事なんです。そのために、今日のお客さんがいらしたんです。でもまぁ京極さんが笑ったっていうだけで(笑)今日の客はいいんだから(京極さん渋い顔)自由にやりましょうよ。
京極 どうして僕だけ分けるんです?(テーブルを)1つにすればいいのにねえ。
斎藤 あの、あまりじゃあ映画っミステリー映画っていうこだわりとか、そういう分け隔てなくっていうか、ご覧になってきたんでしょうけど、あの何ていうんでしょうね、さっき京極さんの『伊右衛門』やりたいっておっしゃったけれども、そういうプランっていっぱい、持っているものなので、しょう?
明石 ああそうですね。貯まっていきますよね。1つ1つこう思って、動いてってもなかなか具体化しないんで、そのうちなんかボッともう、書類が山になるように貯まっていっちゃいますよね。
斎藤 優先順位をつけるんですか?そうすると。
明石 そうですね。優先順位というか、自然にこう1番進んでいるヤツというか。ええ。まぁ例えば斎藤さんでも京極さんでも、今書きたいって思うことって、その都度、もちろん基本的なテーマはあるにしろ、その都度違っていく部分って、おありになりませんか?
京極 それはそうですね。
明石 だからその時期によって今撮りたいっていう風に、違いますよ。それはもう臨機応変にやっていくっていうことですけど。まずはお金が集まらないと、っていうのがありますですけど。
斎藤 製作費ってどれくらいかかるんですか?
明石 いや、もう、それは。
斎藤 ハリウッドの話じゃないですけど(笑)
明石 いや、もうそれこそホント1千万から、やっぱ大作になってくると5億ぐらいっていう。幅広いですよね。
京極 もう今、大作っていうとだいたい5億ぐらいですか?
明石 やはり5億ぐらいなると、やっぱり大作っていう。
斎藤 大作家でね、御自身の原作を映画化して、映画会社1つ潰しちゃった方がいらっしゃるんですよ。深くは申しませんけど(笑)ダイアン・レインが出てたんでしたよね。
明石 実はまたそれも裏話してよろしいでしょうか?(笑)
斎藤 ええ、うかがいたい!!
明石 実はその映画ですね、ぜひ監督補をやれと言われましてですねぇ。
斎藤 あ、そうだったんですか?おたくの本社でしたよね。
明石 (苦笑して)ああ、そうです。あの〜沈んじゃいましてね。その名も『落陽』*1 という。
斎藤 (誤魔化すように)えーーーーーーー。
明石 なんていうような気がするんですけれども。えへへ(笑)
斎藤 僕はタイトルは言ってません。
京極 今、何かおっしゃいましたか?(笑)
斎藤 いえいえ。あ、そうだったんですか。で、お断りしたんですね?
明石 (力を込めて)丁重に、お断り致しました。あはははは。
斎藤 そういうことがあったんですか。お金が掛かって大変なんですよ。小説はいいですよ、その点。あの万年筆と、まぁ最近ではワープロだけれど、原稿用紙さえあれば。もうどんな好きなことだって書けるんですよ(笑)いかがですか?
明石 いえいえ(笑)
斎藤 貯まったアイデアで小説も書いてしまうと。
明石 いやでもあの、京極さんの本なんか拝見すると、後ろの参考文献見るだけで、こんなに読まなきゃいけないのか、と思うととてもじゃないけど(ぼそぼそ)
斎藤 参考文献必要ないものをお書きになればいいんですよ。
京極 あれはねぇ、でも載せなきゃしょうがないから載せてるだけでねぇ、あのためにあんなに読んでらんないですよ。
斎藤 今までの蓄積であると。
京極 (斎藤の言葉に被せるように)だって書いてですよ、4ヶ月とか、半年とかで次出さなきゃいけないじゃないですか。あんな読んでたら半年かかっちゃう(笑)
斎藤 要するに京極夏彦は1日にして成ったわけではないと訴えたかったわけ。
京極 いや、適当に書いているということを!(笑)
斎藤 参考文献なしでも。あんまり儲けすぎるとね、紙代ぐらいしか必要経費って出ない?
京極 そうですね。僕はあの、他の、誰とは言いませんけどね、先生と違ってお酒とか飲まないじゃないですか。豪遊とかしないじゃないですか。ヨットとかクルーザーとか(笑)
斎藤 イタ車2台とかね。
京極 ええ。で、ほら別にテニスをするわけでもなし、ね。なん〜にもお金掛かんないんですよ。
斎藤 貯まるいっぽうじゃない。
京極 いやぁ(溜息混じり)
明石 映画お作りになられたらどうですか?
斎藤 製作者に、プロデューサーに。でスカーッと全部使っちゃう(笑)
京極 それは返って来ないってことでしょ?
斎藤 (笑)失礼しました。返って来ないっていう前提で話しちゃダメですよ。倍に!なって戻ってくれていいじゃないですか。
明石 やっぱり妖怪シリーズを復活させて欲しいですね。
京極 妖怪映画作りませんか?(笑)ねえ。
斎藤 ああいう被り物はないんでしょ?だって(笑)
京極 被り物(笑)被り物(爆笑)被り物映画っていうのが妖怪映画ですから(笑)
斎藤 いや『ゴジラ』も被り物というか。
明石 いや僕も、にっかつに入った時に、ステージの2階の薄暗いこう埃かぶった倉庫に「ガッパ」のぬいぐるみが(笑)
斎藤 ガッ〜パ〜!!
京極 ガッパ!
斎藤 ガッパ!
明石 が、あった時はちょっとシビれましたよね〜。
斎藤 復活させようかなと思った?(笑)
明石 ガッパは、ちょっと〜、はい。
京極 ガッパ復活の噂ありましたよね?
明石 ありました、はい。
京極 どうなっちゃったんでしょうねぇ?
明石 いや、それちょっとガッパじゃ、1匹じゃ弱いんで、ガッパ対ギドラを。
京極 ギラ?ギラ?
明石 ギラ!ギララ!*2
京極 会社違いますよねぇ?
明石 ええ、松竹対日活っていう(笑)一時期構想あったんですけれども。
京極 もうないんですか?
明石 はい、うち、あのいろんな事情がありまして(笑)
京極 残念だなぁ。ちょっと見たかったですねぇ。
斎藤 見たかったですよね。
京極 ガッパのぬいぐるみ、まだあるんですかねぇ?
明石 いや、それが盗まれたんですよ(観客「えー!」)
斎藤 京極さんちにないですか?(爆笑)
京極 僕のはカッパ!!
斎藤 (締めるように)ありがとうございました。
*1:『落陽』(1992年)原作・監督:伴野朗 出演:加藤雅也、ダイアン・レイン、ユン・ピョウといった国際色豊かな顔ぶれの、旧日活創立80周年記念作品のこと、だと思います(笑)
*2:『宇宙大怪獣ギララ』(1967年松竹)
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