*ほぼ聞き取れたのですが、どうしても聞き取れなかった部分は「・・・」にしてあります。ご了承下さい。 |
◆ミステリー談義 Part2 | |
斎藤 | あのね、あの〜京極さんの声を聞いていたいでしょうけども、僕ちょっと戻りますけれども、ごめん(笑) 盛岡の今はなくなった映画館がウチだったんです。で、映画館の中に住まいがあったんです(観客「ほぉ〜」) なもんだから、学校から帰ったらまずランドセル置いて、塾なんか行かずにまず映画を見るんですね。だからね、字幕読めてたんだよね。読めるはずないのに見てたんだね。 |
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京極 | 理解してたんですね。 |
斎藤 | 理解してたかどうか分かんないけど、見てたんだね。あとでその、これは何年も・・・『男と女』ってすごく好きで。今この映画祭にもジャン=ルイ・トランティニャンさんがゲストでお見えになってるけど、あんまり『男と女』の話をすると怒るんですよ。そんな古い映画の話をするなって。言わないように気をつけててですね。それでね『男と女』ってのがすっごい好きな映画だったの。で、寝る時も、何しろ映画館の中に家があるから、あのダバダバダ、ダバダバダ♪(歌う)あれ聞きながら僕寝てたわけですよ。だってホント聞こえてくるんだもん(笑)それでね、あれ何年の公開かなぁと思ってみたら映画は42年か44年で、昭和の。僕が10歳ぐらいの(京極「はい」)10歳であれ見てシビれてるわけですよ。 |
京極 | 10歳でフランス映画見ないですねぇ。 |
斎藤 | ねぇ。で、フォードのムスタングなんかシブいと思ってたの。で、アヌーク・エーメっていういかにもフランス人ぽい女優さんなんだけれども、あの人を美人だと思っていたと。我ながら恐ろしい(笑)。あんまり派手じゃない。そのあとだんだんやっぱり金髪がいいな、とか傾向が変わっていったんだけれども。 |
京極 | でも、特殊な環境ではありますよね。 |
斎藤 | ホント特殊な環境。だから勉強できなかったんだね。 |
京極 | そうですか? |
斎藤 | いやぁ。部屋に聞こえてくるんだもん。『007』のダンダラダンダンダダダ♪(また歌う)勉強なんかやってられませんよね。そんなのところで。 |
京極 | そうですかねぇ。 |
斎藤 | ええと、あれ、えー何ていう映画だったかな。映写室に子供がいたっていうイタリア映画。 |
京極 | あ、『ニューシネマパラダイス』 |
斎藤 | の、あれ見た時に、俺取材された覚えないのに(笑)どうして俺の映画がこの世に(笑) |
京極 | 『ニューシネマパラダイス』のモデルであると、自負している。 |
斎藤 | もぉそう思っちゃったんだよね。すごく思い当たるフシがいっぱいあってね。 |
京極 | そういう、その特殊な環境というのが、その逆に言うと役に立ってる、創作活動に。 |
斎藤 | 役に立ってるかどうか分かんないけれども。 |
京極 | ま、人間形成には役立ってますよね(笑) |
斎藤 | そんなに立派な人間じゃないと思う。こういう風に形成されちゃったんでね。 |
京極 | でもやっぱり女性の好みじゃないけど(笑)ねぇ? |
斎藤 | 奥さんいるかもしれないのでー(あたりを見回す) |
京極 | そうですか(笑)あの〜近所の女の子を見て育ったのと、映画の女優を毎日見て育ったのとでは、少し美的感覚が違うんじゃないですか?(笑) |
斎藤 | あの、ホント物心つく前からか。外国人の女の人、やっぱり綺麗だなと思って見てたでしょ。 |
京極 | はぁはぁはぁ(肯く) |
斎藤 | で、盛岡の街歩くでしょ。ギャップがねぇ(笑) |
京極 | や、マズイでしょう。それは(笑) |
斎藤 | 非常に僕は不幸な、生い立ちを(笑) |
京極 | 恋が出来ないとかいうやつですね。 |
斎藤 | いやなんかそんな気持ちで。 |
京極 | それは問題発言ですねぇ(笑) 映画の中でね、外人女性の顔ばかり見てたので、こう街に出ると、ああ何て日本の女性はたおやかで美しいのだろう、と思ったとか。そういうことはないですか? |
斎藤 | あー、そういう風に言えばいいんですね(笑) |
京極 | そうです(笑)盛岡ですから |
斎藤 | あなたの小説はだから売れるんだ(笑)俺はさ「ガッカリした」で終わっちゃうんだ(爆笑)その差が。 |
京極 | まぁ何事もフォローが大事なんで(笑) |
斎藤 | その差が、この会場の差になってるわけだなぁ。分かりました。いろいろありがとうございました(笑) またあなたの映画の話に戻るんですけれども、人の作品というか原作が日本映画になったもので、それに限らなくてもいいんだけれども、好きな映画を何本かありませんか? |
京極 | 好きな映画、難しいですよね。日本映画はみんな好きなんですけど。一時は、というかずっとというか、不振だって言われてるじゃないですか。収益もなかなか上がらないと。観客が動員できないと。そん時僕は何に怒ったかというと、映画館の施設に対して怒ったわけですよ。作品の質よりも。もっとお客様にね、映画を楽しんでいただける環境作りの努力が足りないから、映画館に客が来ないんだと。僕一般人ですよ、その時。そういうこと考えないですよね普通ね。映画自体がつまんないから客来ないんだよ、っていう人が大勢いたんですけど、僕はそれでも映画館のせいにしたほうなんですよ。 |
斎藤 | この頃だいぶ良くなったでしょ?この頃の映画館って。 |
京極 | 良くなりましたねぇ。ま、そういう努力が必要ですよね。そういう意味ではですね、かかる映画、かかる映画、見られないのもありますけれど、観たものに関しては、だいたい先ほど言ったように、評価の上下はありますけどね、好き嫌いで言うと、みんな好きなんですよ。例えば評価の上下をじゃあここで明らかにしろと言われても、例えば評価の低いものを挙げろ、っていうのはこれは険がありますから(笑)。評価高いものっていうのは、一様にみな高くなっちゃうんで、その中から突出しているのは難しいですけど。でも先ほど言ったようにやっぱりその妖怪映画なんていうのはですね、好きですから(笑) |
斎藤 | 妖怪映画っていうのは、どういうやつですか? |
京極 | さっき言ったやつですよ(爆笑) |
斎藤 | 1本しかないかと。 |
京極 | いやあれは三部作で(えらい早口で)『妖怪百物語』『妖怪大戦争』『東海道お化け道中』っていう三部作なんですよ。 |
斎藤 | そうです、そうです。 |
京極 | だんだん受けなくなってきちゃって。『妖怪大戦争』が1番受けたのかな。そのあとの類似の作品も作ったんだけど、結局ダメで怪獣に押されましたね。怪獣、がねぇ。 |
斎藤 | 怪獣のほうは? |
京極 | 怪獣も好きですけどね。怪獣、好きですけど、あとでもね怪獣いなければねぇ(妖怪映画がもっと流行ったかもしれないということが言いたかったらしい) でもそうですね。特撮が非常に盛り上がった時期だったですよねそういう意味では。だから春、秋にゴジラとかガメラとかもちろん見ましたけれども。どうですか?特撮映画は。 |
斎藤 | えーと多分見てると思うんですけど、チンケだなぁと思ってあんまり(笑) |
京極 | 洋画見慣れちゃうとねぇ。それはありますよね。その差があるかもしれませんよね。 |
斎藤 | その差というのは僕と・・・ |
京極 | いやいやいやいや(笑)そういう話じゃない(笑)僕、なんか例えばゴジラなんかね、最初のゴジラなんて僕見られないくらい小さかったんですけど、だから僕が見始めた頃っていうのは、もう最早、あの今や、そのお笑いかな、と思われる作品をやっていたわけです。でもね、たとえばその背中にチャックがあろうがですね(笑)何であろうがですね、作るほうは「これ怪獣だっ!」つって見せてるわけでしょ?どう、どう、何かその〜ミニチュアがセコくってもですよ、ピアノ線が見えようとですよ(笑)ねぇ。どう見たってこれマッチ棒くらいの大きさじゃねぇかって分かっても、作るほうはそれを、巨大なものだと!見てくれー!!って出してるわけですよ。で、でかいスクリーンでね、金かけてやってるわけじゃないですか。それを思うと、ピアノ線、消えるんです(爆笑) |
斎藤 | えらいな〜。 |
京極 | それが、愛なんです。 |
斎藤 | 愛ですよね。それが愛ですよね。 |
京極 | だからあの〜暖かい目で見るっていうの?で、観客が暖かすぎると、その作るほうの努力がだんだんなくて、ダメになるって言うじゃないですか。それも、一理あるんですけど、やっぱりみんなで面白い、面白いと、盛り立てていかないと、ダメなところもあると思うんですね。 |
斎藤 | えらいな。 |
京極 | いやほら、日本の、 |
斎藤 | 僕ピアノ線探してたらね、見つかんなかったの。で、えらいなと思ってたら、それはそのピアノ線探すだろうと先読みして、逆転して撮ってて、下にピアノ線が出てるっていう(笑) |
京極 | 考えてるですよやっぱりね。努力があるわけです。 |
斎藤 | だから映画とか見る時にね、あのカメラマンがね、こうガラス張りの窓があって、けっこう映るじゃないですか。スタッフがね。それを探してさ、ハハハって笑うの(笑) |
京極 | あの〜例えばね、あの浄瑠璃は、人形浄瑠璃なんかだと、人間がいるわけです。歌舞伎だって黒子がいますね。あれはあの「黒子がいない」っていう契約を、観客との間にこう結んで初めて成り立つわけですね。あの外人が見ると「あの黒い人は誰?」(笑)って聞くじゃないですか。我々はそれをあの、昔からね、あれはなかったことにしよう(笑)という、そういうその観客と、演じる側の間の契約が成り立っているわけですね、それすごく、日本の文化のいいところだと思うんです。 |
斎藤 | それを邦画でも。 |
京極 | うん。で、我々はいつのまにかですね、その海外の、影響を受けて、日本らしさを少し見失ってはいないか!と。 |
斎藤 | なるほど〜。 |
京極 | その辺をだから怪獣映画ってのは、その絶対ありえないようなスペクタクルを描いているわけですよ。それを見に行くんだから、騙してくれよっ!っていう気持ちになる反面、騙されたいっ!っていう気持ちもあるのかな?(笑)。それを捨ててしまってですね、冷徹な目でばかり見ると、作るほうもやんなっちゃいますねぇ。 |
斎藤 | やっぱりきれいに騙され、ましょうと。行く人はね。 |
京極 | そう。もし、これがあの自分たちの見ているものが、そういうチャチな仕掛けがバレたりするね、ところがなかったどうだろう?って考えるわけですね。そうするとですね、例えば今もビジュアルとしては見慣れちゃいましたけど、えー人間よりもはるかに巨大な生物が、街をのし歩く、ということがですね「もし本当だったら!」という風にですね、忘れてないかな、と思うんですよ。実際いたら大変なことですよ。いただけでね。壊さなくてもね(笑)。で、最初のやっぱりデカイ怪獣が出てきたっていう時は、みんなそれがあったから「ぎょ〜」と思ったわけですよ。中に人が入ってる!薩摩剣八郎だ!と思わないじゃないですか(笑)。ぜんぜん。「デカイッ!」と思って、ホントにそこで恐怖を感じたわけでしょ。だから最初のゴジラのインパクトっていうのは、いつも忘れられないわけだけれども。あの〜映画ってのはシリーズものであっても、やっぱり単発で、ロードショウかかるわけだから、1本の作品として完結性がないといけないでしょ。見るほうも前のことを1回忘れてですね、見るたびに驚くとかですね。 |
斎藤 | そっかそかそか。もう驚かんぞ!っていう姿勢で行っちゃダメだと。 |
京極 | 「まぁ〜たあれと同じじゃねぇか〜」とか。「いつもこれかいっ」っていう(笑) |
斎藤 | 初めて見たような顔して「わーっ!」って。 |
京極 | って言わなきゃいけないんですよ。 |
斎藤 | 分かりましたー。 |
京極 | それが、客の礼儀(きっぱり) |
斎藤 | 分かりましたー。 |
京極 | だから作るほうの礼儀ってもちろんあるんですよ。それはそういう冷たいお客さんももちろんいるだろうから、努力はしなきゃいけないし、やっぱ自分のその作品を、いいものにしたいっていう気持ちが誰もあるわけだから、それをそのないがしろにしてですね、興行成績ばかりを追い掛けるようなのも問題だと思いますが、やっぱ見るほうにも礼節というのが、必要じゃないかと。 |
斎藤 | だから斎藤純が何か似たような小説をまた書いたぞと、思わずに、前のことはきれいさっぱり忘れて(笑)読むっていうことだよね。 |
京極 | 最終的にはそこにいきますよね(笑) |
斎藤 | そうだよ。ちゃんと今のことは、みなさん、記憶にとどめといて欲しい(笑) |