みちのく国際ミステリー映画祭1998in盛岡
ニューウェーブセッション
京極夏彦&斎藤純+明石知幸(映画監督)
6月20日(土)14:00〜15:30
大通りLILIOイベントホール

◇Part2
◇Movie Index
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*ほぼ聞き取れたのですが、どうしても聞き取れなかった部分は「・・・」にしてあります。ご了承下さい。

◆登場作家・監督紹介(みちのくミステリー映画祭'98in盛岡パンフレットより抜粋)
登場作家・監督コメント/経歴等
京極夏彦
Kyogoku Natsuhiko
観客に能動性を強いるという意味で、映画は小説に似ていなくもない。いずれ新世紀に通用するメディアたる資格を得ているか否かという判断は、ここ数年間の収穫にかかっているといえるだろう。昨今の映画を取り巻く環境は必ずしも恵まれたものではない。しかし可能性は未知数である。それでも取り分け邦画を応援している私あたりとしては、こうしたイヴェントを契機として逼塞した状況を何とか打破して欲しいと願うのである。
斎藤 純
Saito Jun
ただ一度の打ち上げ花火に終わらず、第二回の開催が実現できたことを心から喜びたい。これはスタッフの努力と献身のたまものである。昨年は本当に楽しかった。
しかし、二度目というのは一度目の経験でこなせるものだ。問題は三度目である。今年は来年以降のことも視野に入れ、スタッフの皆さんと一緒に学びつつ、大いにまた楽しもうと思っている。
明石知幸
Akaishi Tomoyuki
1958年徳島県出身。82年早稲田大学卒業後、にっかつに助監督として入社。森田芳光監督に師事し、91年『バカヤロー4 YOU!お前のことだよサギるなジャパン』で監督デビュー。オリジナルビデオ作品でも積極的に監督し、94年に森田芳光脚本の映画『免許がない!』が大ヒットした。96年にはサブ監督作『弾丸ランナー』のプロデューサーとしても手腕を発揮した。

◆ミステリー談義 Part1
斎藤 こんにちは。今日は京極さんのためにこんなに集まっていただきましてありがとうございました(笑)
あの、このあともう少ししたらですね、もうひと方ゲストの方をお呼びしますけど1時間半、お喋りします。ですから45分ハーフ(笑)えー(言葉詰まる)用意してきたんだけども、ダメです。(拍手)ああ、ありがとうございます。
で、えぇと京極さんとはこういうステージでは、あの文士劇以来なんですね。ご覧になっていただけましたでしょうか?NHKの衛星放送でも。我々が出た推理作家協会の文士劇というのがあったんですが去年。誰もご覧になっていない?(観客「見た見たー」)
京極 見た人は忘れて下さい(観客爆笑)
斎藤 あなたは嫌がってるんですよね。その、ほとんどもう1人で何か舞台を独占しちゃってたのに。どうして?
京極 いや。
斎藤 落ち込んだって聞いたんだけど。
京極 それは、聞かないで下さいよ。
斎藤 話すのも嫌だと?
京極 なかったことにしたいですね(渋い顔)
斎藤 あーー。でも似合って、いたんですよね(京極さんさらに渋い顔)
京極 似合ってました?
斎藤 はい。しかもあの辻先生がお書きになった脚本をほとんど言わずに、ご自分で作った本で。
京極 ちゃんと言いましたよ僕。「なんかようかい?」って(笑)
斎藤 ありがとうございます。何かその、文士劇の談話に触れるなということなんですけど。あのあと僕ね、井上夢人さん、あの元・岡嶋二人さんから電話がありましてね、NHKで見たよって。斎藤純がなんかぼよよんと立っていて、あれは京極さんが発明した妖怪だと思って見てたって。
映画の話を少ししたいと思います。あの京極さんは(発音悪い)邦画のファンと聞いたんですけど?
京極 邦画ね?
斎藤 (言い直す)邦画。
京極 邦画ファンです。はい。
斎藤 子供の頃から?
京極 そうですね。子供の頃ってあまり洋画そんなに見ないじゃないですか。すごく幼い頃ですよ。字幕で読めないじゃないですか。だから、子供の頃はあまり洋画見なかったですね。
斎藤 じゃあなんとなく邦画って、ずっとそのまま。
京極 っていうか洋画と邦画って別物としてね、捉えてた時期があったんで。だから比較してなかったですね。洋画は洋画、邦画は邦画。洋画に比べると邦画は、というような見方はしてなかったんで洋画嫌いなわけじゃないんですけど、邦画好きなんです。
斎藤 邦画って意識的に見ないとあまり見ませんよね。
京極 そうですか?
斎藤 あれ?そんなことない?普通、映画館だって洋画の映画館のほうが多いんだし。
京極 でもやっぱり日本人(にっぽんじん)ですからね。
斎藤 だからそれは意識的に見てますよね?セレクトして。
京極 いや、だいたい好きなんですよ僕は邦画。だから邦画というか映画作ってる人のことが好きだからだからあの、映画に限らず僕、得点法で見るんですよ。減点法じゃなくて。
斎藤 加算していく?始め0点からはじまって
京極 そうです。
斎藤 じゃあパーっと始まったら、まず始まったから1点だーっていう(笑)
京極 そうそうそう。だいたい面白いですね。
斎藤 加算していくと?100点超えちゃうってことあるんですか?
京極 あのー評価と好き嫌いは別じゃないですか?ひっじょ〜に評価低い映画でも好きな映画ってあるんですね。
斎藤 それはありますよね。
京極 だから邦画の場合はその(笑)邦画作ってる方いっぱいね、今日来ていらっしゃるから。
斎藤 いやいやいないと思ってお話しても大丈夫なんで(笑)
京極 確かに評価できないような作品もあるんですけど。
斎藤 キツイですな、いきなり。
京極 好きなんですね。だから。
斎藤 愛があるんですね。
京極 愛があるんです。映画に愛があるんで。評価が低ければ低いほど、自分の中の評価が低ければ低いほど愛が。そういうのってありませんか?
斎藤 (小声で)ない。
京極 ないですかねぇ?(笑)
斎藤 冷たいのかなぁ。
京極 あの〜、ジャンル愛みたいなものってないですか?
斎藤 ああ、それはありますね。自分の好きなジャンルのものは、あまりヒットしなくてもとりあえずですね名作だったんだよー隠れた名作だったんだよーという応援の仕方というようなものはありますね。
京極 洋画って基本的に僕、その外国語は分からないから(笑)
斎藤 僕も分かんないですよ〜。
京極 ええ。例えば字幕スーパーっていうのは字幕スーパー作ってらっしゃる方の言葉なわけですよ。
斎藤 そうですそうですそうです。
京極 だからその監督の、そのもののメッセージとちょっと違うんじゃないかと。
斎藤 そうですそうですそうです。
京極 それにやっぱり、その映画が作られた国の文化なり感性なりというのがあるわけで我々はそれを知らないで見てるわけですから、分からないところがたくさん、あるだろうと。それがマイナスなんです。つまりこの表現者である監督さんの言いたかったことが100%こちらとしては受取る準備がないのに見ているんだっていう気持ちがあるから0から始められないんですね。
斎藤 マイナスから始まっちゃうんだ。
京極 逆に日本映画だと分かるわけですから、あの人は何がやりたかったんだろう?何かやりたかったんだろうが失敗しているな(笑)というのが分かるわけですよ。あーこれはここでツボを掴まえたかったのに滑ったから入んなかったんだな、と。よく分かるじゃないですか?そうすると無性にいとおしくなるんですね。今度は成功してね!みたいな(笑)お客さんもっと見てあげて!みたいな(笑)気持ちが。
斎藤 京極さん御自身のキャリアの中で、ああいう映像の仕事っていうのはタッチしていたわけですか?
京極 僕はあのプロモーションビデオみたいなものを作ったりしてたんですね。グラフィックのほうとかそういうの。
斎藤 ほぉ。現場の空気が分かると?
京極 そういうのはその現場の方の、呼吸みたいなものはわりと分かるんですけど。ビデオと本編というかその映画の方とというのは全然違いますけどね、でも少なくとも作家のわりには知っていると。
斎藤 そういう見てきた邦画っていうのはね、今その、今度は小説を書くっていうことに影響は受けてるなぁって自分では意識してますか。
京極 意識はしないですね。方法論が違いますからやっぱり。僕は映画自体は作りませんけれども。ビデオを作ったりっていうのも結局、音楽とか映画っていうのは時間の芸術だから例えば1時間半の中に3日だとか10日だとか1年だとかいうのを凝縮して見せるわけですよね。逆に小説っていうのはたとえ1日の出来事を書いたものであっても、それを10日掛けて読んでももいいわけですよ。そこらへんの方法論の差があるから、そういう作り方自体に学ぶことはないんですけど。あのー何かそうですね、雰囲気ですよね。
斎藤 雰囲気?
京極 体験させてもらえる、ということがあるわけですね。映画というのは1時間半の中で要するに旅行に行ったのと同じ体験をさせてくれるわけですから。例えばひと月の出来事を描いた映画を見ますよね?例えばひと月間旅行に行ったのと同じ丈のインパクトが得られるわけじゃないですか。そういう意味では、人生経験の1つとしていろんな糧にはなっているのだろうな、と思いますけども。取りたててどこがどうっていうことはないんですけどね。
斎藤 あなたのジャンルでいうとさ、僕、水木先生の『妖怪百物語』っていう映画を見たことが。あれ?『百物語』じゃないかな?
京極 映画ですか?『妖怪百物語』っていう映画があるんですけど、あれは水木しげるじゃないんですよ。
斎藤 あ、そうなんですか?すいませんねぇ。
京極 あれはあの、妖怪映画には詳しいんですけどね(笑)
斎藤 それはそうでしょう。ちょっと教えて下さい。
京極 何でか分からないんですけどね(笑)『妖怪百物語』っていう映画はもともと水木しげるとは関係なく企画されてですね、大映の映画なんですけど。日本の妖怪をたくさん出してやろうみたいな。
斎藤 実写ですよね?
京極 実写です。無謀な映画なんですが(笑)その際にですね、これは僕、あとから聞いたことなんですけど。
斎藤 水木先生から?
京極 いや。妖怪の絵っていろいろあるじゃないですか?そこからデザインおこして、着ぐるみなり何なり作った人ですね。
斎藤 ええあの映画の時にね。
京極 実はあれに主役格のお化けでですね「油すまし」というのがいるんですよ。
斎藤 「油すまし」どういう顔してるんですか?
京極 かち栗みたいな頭してるんですよ(笑)蓑着て。あれがですね伝統的日本の妖怪だろうと思って勝手にそれで作っちゃったら、あれは水木しげるが作ったものだったんですよ(笑)知らなかったんですよ。こいつはマズイということで急遽その話し合いが持たれてですね、映画のパンフレットに水木しげるが書き下ろしでですね、同じ原作のストーリーを漫画化したものを載せた、そういうことです。だから関係ないわけじゃないんですけど水木しげるが直接関係しているわけではないと。あれはでも、日本の妖怪映画というのは、怪談映画とは別なので、もう廃れてしまいましたね。可哀相に(笑)
斎藤 でもこのごろの京極ブームで、これに便乗して映画というのは、便乗してなんて言っちゃいけないけど(笑)映画化とか進んでるのはあるんですか?
京極 ええ、あるんですけどね。(ザワつく)2年越しか3年越しでやってるんですけどね。なかなかできないんですね。
斎藤 そうみたいですね映画ってなかなか。お金も掛かるし。
京極 いちおう全部、話が来たんですけど。全作品。(観客「えーっ?!」)
斎藤 どう?やって下さいってタイプ?
京極 ええもう。だって映画ってだから、監督さんの作品だから原作者なんてどうでもいいわけですよ。映画としていいものができれば。ただ原作付きの映画の場合、やっぱり原作に引きずられると良くないですね。あの原作っていうのは、もう小説なら小説っていうのは読んだ人が作るもんじゃじゃないですか。自分の感性で読み解くわけです。それを元に映画化した場合は、監督が読み解いた1つの読み方を、まぁ視聴者に見せるわけです。私はこの原作をこう読んだ!と。つまり監督の作品なわけですよ。その監督の感性自体に文句つけることは原作者としてできないわけですよ。ところがやっぱり監督さんっていうかプロデューサーの方は「原作の味を活かして」とかですね「良さを活かそう」とかそういうところに、かなり神経を使われますよね。それは逆にやめてほしいなと。
斎藤 すごく違ったものになってもいいと。
京極 構造が同じであれば、同じ感動が得られるわけですから。別に登場人物が全部タヌキであろうがですね(笑)吉本新喜劇であろうがですね(笑)宝塚にかかろうがですね(笑)骨格や構造さえ踏襲していれば同じものができるわけですよ。ところがどうしてもその、そこらへんは引っ掛かりがあるらしくて。
斎藤 やっぱり引きずられちゃう?
京極 引きずられて。脚本見ると結局原作のダイジェストみたいな。僕の話はどういうわけか長いんですよ(爆笑)だからそのまんまやると8時間とかになっちゃうでしょ。で、昨今の邦画の状況っていうのはなかなかお寒いですから、1日にかけかえる回数っていうのは多くかけかえられたほうがいいので、2時間を超えるっていうのはちょっとやっぱり回収率が悪いわけですね。そうすると1時間半くらいで収めたい。そうすると1時間半で8時間を刈り込んで1時間半にするのはですね、ほとんどそのナレーションで繋いでみたいな(笑)「ところが」ってやっちゃうしかないわけですよ。「以下略」とか(笑)そうなるとですね、映画としての出来っていうのがね、やっぱり辛いじゃないですか。映画は映画として、独立して映画作品として通用するものにしてほしいので、どういじってもらっても構らない(←噛んだ)構わないから映画としていいものにして下さいとお願いしてるんですけど、なかなか出来ないみたいですね。
斎藤 まぁね。今クランクインっていうのは?
京極 まだまだですね。あの1番進んでるのが『鉄鼠の檻』が(観客「え〜?!」)
斎藤 『鉄鼠の檻』が。それはいつごろ?
京極 いや、だからまだ分かんないですけどねっ。
斎藤 それは京極さんも出てほしいっていう話も当然きてると思いますが。
京極 (渋い顔で)いや〜きてないきてないきてないっ。
斎藤 きてませんか?
京極 鼠の役とか(爆笑)
斎藤 もっといい役で何かありそうじゃないですか。でもあのチョイ役のカッコイイのでちょっと出てっていうのも手だよね。
京極 手ですかね?(渋い顔)出てどうするっ?っていうのがありますけどね(笑)
斎藤 だってヒッチコックだって別に出てどうするってこともないじゃないですか。
京極 (半分声裏返り)ヒッチコックは映画製作のほうの人じゃないですか〜。
斎藤 ああまぁそうだけれども。あんまり原作者が出るってことは。
京極 横溝さんとか出てましたけどね。
斎藤 あー出てました出てました。北方さんは無理矢理出させるそうです(笑)
京極 大沢在昌(ざいしょう)もけっこう出てんですよねー。
斎藤 ああ〜(溜息)そうですね。
京極 そういう轍を踏むことはよそうと(笑)思いまして。
斎藤 このあと、話は飛びますけれども北方さんと大沢さんが出ますのでよろしくお願いします。僕らは真面目に話してますけれども、お笑いはそのお2人に任せてますので(肯く京極さん)
そうか、じゃあ映画化進んでるんですか。出演するというというか、8時間の映画になったってさー、あなたのファンが来たらペイするよ。
京極 いや、しないでしょう。しないですよ。うん、やっぱり製作費のことを考えると。製作費に見合った興行収益が上がらないとイカンわけでしょ。
斎藤 今まで何冊?
京極 私は単行本で7冊。
斎藤 じゃあ全部で1000万部?
京極 そんなに行かんでしょう。
斎藤 いやいや。1000万人見たらペイするんだよ!(断言)
京極 (渋い顔、そして赤い顔)そうですか?
斎藤 そうだよ。あとでその辺はプロデューサーか監督に聞いてみましょう。

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