Movie Review 1998
◇Movie Index

アンナ('66フランス)-Sep 5.1998
[STORY]
パリへやってきたアンナ(アンナ・カリーナ)はメガネを外した姿を、駅で撮影していたセルジュ(ジャン・クロード・ブリアリ)に偶然撮られてしまう。現像して、その写真のアンナに恋をしたセルジュは、その写真をポスターにし彼女を探す。アンナはセルジュの会社に就職していたが、普段の彼女は丸い黒ぶちのメガネをしているのでセルジュは彼女に気付くかない。
監督ピエール・コラルニック(『ガラスの墓標』)
−◇−◇−◇−
あらすじとほんのちょっとのシーンを見て、これは少女マンガチックな楽しいミュージカル映画だと思っていた。それでたまにはこういうのもいいなぁと思って見に行ったんだけど、実際はかなり違っていた。透明のコートとか、アンナのメガネとかファッションは可愛くて好きになったけど、歌う歌がけっこう暗かったりする。場面展開が唐突なのはフランス映画の持ち味だからそれは気にならないけど、ラストは予想を大きく裏切ったものだった(私にとってはね)おまけにエンドロールがない映画だったので、ストーリーが終わった途端に劇場の明かりがついてびっくりした。まわりのお客さんも「え?終わり?」って感じで戸惑っていたなぁ。

でもアンナの魅力はたっぷりだった。私はアンナ・カリーナ主演の映画は初めて見たけど、すごくキュート。彼女が出るたびに画面に釘付け。ブリアリとかS・ゲンズブールが歌ってるのを見て、早くアンナを出してくれ〜!と思ったくらい。どっちかっていうとメガネをかけたアンナのほうが可愛いと私は思った(なぜならメガネ好きだから)
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サムライ・フィクション('98日本)-Aug 27.1998
[STORY]
長島藩士・犬飼家の刀番・風祭(布袋寅泰)が殿様の側近を殺して宝刀を盗み逃げてしまった。嫡男である平四郎(吹越満)は風祭を追い掛けて成敗しようとするが、逆に傷を負ってしまう。そして溝口半兵衛(風間杜夫)という謎の男に助けられる。
監督・中野裕之(初監督)
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緑がかったモノトーン(撮影時はカラー)に、時々赤やオレンジ、ブルーが入る映像がすごく新鮮だった。これがしょっちゅう入るとただウザいだけなんだけど、効果的でうまい。昔のモノクロじゃないから細かいところまできちんとよく見えるしね。

そして演じてる役者がみんな楽しそう。谷啓さんのよろめきから吹越さんの無鉄砲でマジメな中に遊び心を入れたセリフとか細かい笑いがいっぱいだし。和気あいあいな雰囲気で撮影したんだろうなぁ。でもその中でフミヤがちょっと異質な感じがしたのは回想シーンだったから?布袋さんもあの風貌はなかなかだったけど長いセリフはイカンですよ。もっと言葉数を減らしても良かったと思う。でも「なぜこうなる」というセリフはすごくハマってた。

時代劇といえばサムライが悪人をばったばったと斬り倒す勧善懲悪な話になってしまうけど、悪いタイミングが重なり仕方なく斬ってしまい、あとでふと後悔する風祭は完全な悪人ではない。顔はもちろん恐いんだけど(笑)憎めない人物に仕上がっている。ただしその表現がちょっとモタついてるなぁと思うところもあったけどね(これは役者素人の布袋さんに言ってるんじゃなくて、演出する人にだ)セリフも時代劇っぽいところと現代的なところがあんまり違和感なくていいし、音楽もギターがこんなに合うとは意外だった。ギターが鳴って風景が映されるシーンは、ジャームッシュの『デッドマン』ぽいと思った。
ロケーションは抜群。いい浜辺、いい崖、いい1本道、歩きたくなるような場所がたくさんで、剣客健脚心を擽られた。
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キスト('96カナダ)-Aug 21.1998
[STORY]
小さい頃から生き物の死体に興味があったサンドラ(モリー・パーカー)は、大学で解剖学を学びながら葬儀屋の防腐処理係になる。そんな彼女に医学生のマット(ピーター・アウターブリッジ)は恋をするが・・・。
監督&脚本リン・ストップケウィッチ(?)
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何度も予告を見てるんだけど、そのたびに主役のコの顔のアップでつい「メラニン〜!」と念じてしまっていた(↓の「TAXI」もそうだったけど)。彼女、アップになるとシミ・ソバカスがいっぱいなんですね。そして彼女に恋したマットを見て「誰かに似ている〜!」とずっと考えていて、本編見てやっと分かった。ダニエル・カール@山形県人でした(笑)顔というより髪とか目の色がね。

さて、どうでもいいことはこれくらいにして(笑)と。ネクロフィリア(屍体愛好)という、どぎついテーマを扱いながらも、とても幻想的に仕上げている。彼女が動物の屍体を撫で回したり臭いを嗅いだりするシーンや、人間の屍体と交わるシーンはある種の儀式のように見える。実際、彼女にとってはそういう意味があるようだ。儀式の絶頂で白っぽい画面になるところは、まるで彼女自身が「死」というものを理解し、また臨死体験をしているようにも見える。白くなって光る瞬間は、死者の魂を彼女が受け止めたようでもあり、幻想的で美しいシーンだ。そして彼女と同じ気持ちにはなれないけれど、彼女のことを理解してあげようという気持ちにはなる。そういう優しさを持った映像だ。

彼女と死者についての関係はこれでいいと思う。だけど彼女と生身の人間マットとの関係はちょっとね。詳しいことは書けないけれど、これは茶番じゃないか?と私は思った。
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TAXI('98フランス)-Aug 15.1998
[STORY]
抜群のドライビングテクニックを持つタクシー運転手ダニエル(サミー・ナセリ)と、免許を取れない新米刑事エミリアン(フレデリック・ディーファンタル)が知り合い、ドイツ人強盗団を掴まえようと追い掛けることに・・・。
監督ジェラール・ピレス。製作&脚本リュック・ベッソン(『レオン』)
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見終わってからカー・アクションに一切CGなし!と聞いて驚いた。横転する車や、高いところを飛び越える車など、今の世の中じゃCGは当たり前なのに。まるで生き物のように道路をうねりながら走る車は本当に綺麗で芸術と言っていいくらい。パリではなくてマルセイユの町を走るってところもいいんだろうな。監督はカーアクションを撮らせたら右に出る者はない!っていうくらいの人らしいし(他の作品は知らないけど)特に車大好きな人には堪らない映画だろう。私は有名な車種しか分からないから「プジョーのタクシーか!」などと感激したりはないけど、でもその車が改造車でタイヤが自動で交換されるシーンはワクワクした。

車のシーンはたしかに凄い!でもその分、それ以外のシーンがいまいち。ストーリーも急に冗長になる。映画自体1時間半くらいなのにちょっと飽きた。ダニエル、エミリアンのキャラクターも魅力がない。でも車に詳しいダニエルがエミリアンにいろいろ教えるシーンはかなり面白い。どうでもいいけどダニエル役のナセリって乾燥肌だ。顔がシワっぽくてカサカサしている。思わず彼が出るたびに「水分〜!水分〜!」と念じてしまった。エミリアンは肌が綺麗だったけど、どっちもカッコイイとは言えない。そこらへん歩いてるフランス人のほうがよっぽどカッコイイと思うんだけど、どうして俳優になるとそんなにカッコイイ人が出てこないんだろ(ぶつぶつ)でも女性が出てくるたびに、爪先から顔まで舐めるように撮るのはけっこう好き。つまり男性的な映画ってことなのか?(笑)

ちなみに続編『TAXI2』も公開されたが私は未見。
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スウィート・ヒアアフター('97カナダ)-Aug 12.1998
[STORY]
ある田舎町。1台のスクールバスが凍った道路から湖に転落し22人の犠牲者を出した。生き残った少女ニコール(サラ・ポーリー)の両親は、弁護士のスティーブンス(イアン・ホルム)に集団訴訟を依頼する。スティーブンスは他の遺族らに訴訟を促すが・・・。
監督&脚本アトム・エゴヤン(『エキゾチカ』)
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事故の謎を解く映画、もしくは裁判映画かと思ったらそうではなかった。事故前の町の様子、事故直前から事故発生の様子、事故発生後の町の人々、町を離れたスティーブンスが語る自分と娘のこと、これらのエピソードが起こった順番にではなく、まるでバラバラになったパズルを嵌めるように複雑に行き来しながら語られる。だから、これはいつ起こった出来事だろう?と常に考えながら見なくてはいけない。これが何とももどかしい。

そして、町の人々の複雑な人間関係、特にニコールには誰にも言えない秘密がある(観客はそれを知ることができる)その秘密に対して抵抗するかのように、1つの嘘をつく。この瞬間、私は張り詰めていた緊張感が一気に解けてしまった。それにしても彼女の存在感はすごい。顔はユマ・サーマンに似ていてすごい美人で、そんな彼女が凍り付いた町と同じくらい冷たい表情をすると、こちらまで喪失感が高まってしまう。将来楽しみな女優さんだ。

だけど、人々の内面を抉る、とまでは行っていない気がする。監督自身、傷つくことを恐れているかのよう。傷つかずに、穏やかに、時が経って悲しみが思い出になるのを待ち続けるのを願っているようだ。実は私もそう考えるタイプ。言いたくないこと、思い出したくないことを人に暴かれるのは嫌だ。暴くほうは正義のつもりかもしれないけど、彼ら自身は傷つかないのだから気楽なものだ。この手のタイプの映画は多いけど、この映画ではスティーブンスをそういう人間にしたくなかったのかもしれない、スティーブンス自身も暴かれたくないものを持った人なのだし、と思ったりもして。そういう意図があるとしても、もう少し深いところまで観客には見せて欲しいと思う。深読みし過ぎてこう思っただけで、実際のところどうだか分からないし、これだと単に描写不足な感じもしちゃうから。
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