オスカーは、先に生物の進化についての調査研究を行わせているが、途中報告を受けた中、また別の疑問を抱いた。それは人間の住む惑星の運行についてである。
何故疑問を抱いたのかといえば、主星の運行── 自転── は、1日24時間、1年── 恒星を回る軌道を一周する日数── 365日である。そしてそれ以外の惑星も、主星と同様なのである。また、主星とは大きさも異なるのに、惑星の引力も主星と同じだ。それぞれの恒星系の他の惑星は、全く異なるのに、人間の住む惑星だけが、全て一致しているのだ。これはあまりにも不自然すぎる。
そこで、先の研究のために組織したシンクタンクに、別の部署を創り、そこで新たに研究をさせることとした。
とりあえず、幾つかの惑星の成り立ちからパターン別にそれぞれ複数の惑星を選び出し、研究にとりかからせることにした。とはいえ、どこからどう調べたらいいのか、疑問点は浮かんではいるものの、門外漢であるオスカーには分からず、集めた研究者に、調査内容の外部への秘匿を必須条件として一切を任せることとしたのだ。
そうして分かったのは、オスカーが抱いた疑問が決して間違ったものではなかったということだった。
それぞれの惑星の恒星からの距離、そしてその軌道距離は異なる。にもかかわらず、いずれも24時間365日なのだ。そして聖地による統治が進む中、すでに人間が存在していた惑星では、人間の体感時間がずれているのだ。つまり、一つの例を挙げるなら、ある調査では、時に35時間、時に24時間、時にその間の時間であったりなど、サンプリングから計算によって算出された人間の一日の長さがバラバラで、全く一定しないのである。それはその惑星固有の動物にも言えることであった。聖地が成立して以降に人間が誕生したと思われる惑星においては、人間の一日の長さは24時間と一定しているが、それ以前に誕生している固有動物については、長さが一定しないでいる。そして聖地成立以降において動物も含めて人間が誕生している惑星においては、皆一日の長さが24時間で一定している。
そこから見えてくるのは、明らかに思惟的なものでしかない。つまり、意識的に行われたことであると言える。調査報告はまだ途中であり、完全なものではない。だが、そのようなことが出来る存在は聖地、サクリアしか考えられない。そう、“サクリア”という力を有する、外界とは異なった次元にある女王と守護聖以外には。とはいえ、聖地が現在の状態に至る以前は、また違った形であったかもしれないが。
ゆえに、少なくとも、聖地が、サクリアという力が、動物も含めていいのだろうか、人間という生物の存在だけではなく、惑星の運行、在り方そのものにまで、つまりこの宇宙の本来の在り方そのものにまで、行使していたことは紛れもない事実といっていいのだろうと、オスカーは思う。そしてそれは、果たして人間として許されることなのだろうかと。
許される範囲を超えている、決して許されざることだと、オスカーには思えてならない。世界の理を壊すことでしかないと。そうしてオスカーの中の、聖地の存在を否定する気持ちは更に強くなる。
やがて正式な最終報告書がオスカーの手元に届けられたのは、かねてからの工作の結果、王立研究院をも抱き込み、王立研究院が、聖地が現在の形になって以降、ずっと女王や守護聖にすらも秘匿していた情報を取得したことによる。入手した情報により、オスカーの疑問について、完全に裏づけが取れたためだ。
ただし、王立派遣軍によるクーデターによる聖地崩壊後も、それらの情報、オスカーが研究させた事実の全てが、一部の存在以外に対しては、完全な形で公開されることはなかった。ありのままに全てを公開するには、人々の感情面、ショックをを考えると、デメリットが大きすぎるだろうと判断されたためだ。ゆえに、それらは幾分緩やかな形での公開に留め置かれることとなった。それは、元々、オスカーが自分が調査した事柄全ての公開を、必ずしも望んでいたわけではないことを、その者たちが知っていたことも影響していたかもしれない。
── das Ende
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