教育はマニュアルでするんじゃない! 現場で作り上げるんだ!

―六條院惟光の鳳海大学シリーズ 第3弾―

某氏より委嘱された戯作三昧。
この作品はフィクションであり、実在の大学、組織、人物とは関係ありません。

作品設定

概要 教務線―それは教育の現場で、教育に携わる者の戦場である。

鳳海大学城南校舎文学部日本語文芸学科尾藤一郎先生は学部の教務を司る役目。今日も今日とて書類書き。
文部科学省の現場を知らない命令と大学本部の命令に、現場の正義を守るため、腰痛をこらえていま立ち上がる!
主要登場人物 尾藤一郎 文学部常任教務委員
妹鳥智世 日本語文芸学科教務委員
粥塚芳一 教務部次長
本藤秀生 文学研究科常任教務委員
石原川彰浩 文学部常任教務委員補佐
村上春樹 文学部長
大泉淳一郎 文学研究科長
大川泰子 大泉教授の弟子
埴柄英明 鳳海大学理事長
土師伊津男 日本語文芸学科主任
鴨山明日雄 教務部長
厚本良三 城南校舎事務総長
渡良瀬伸幸 城南校舎企画部長兼副学長
志木佳郎 日本語文芸学科講師
水原あかね 文科省IT教育推進研究所指導員 文学部担当としてIT教育の指導に来る。東大出で教育現場の経験ナシ。
井戸 巴 日本語文芸学科事務員
ゲスト 乙女ちゃんず
尾藤ゼミ五人衆

story

opening 鳳海大学城南校舎上空からの映像。河岸段丘を利用した広大なキャンパスに林立する一昔前のSF的デザインの校舎群。高地に並ぶ校舎の中でひときわ高い文学棟をズームアップ。建物の外側に螺旋状のスロープがあるのが特異である。
文学棟のパソコン室。暗い中にパソコンのディスプレイが青く光る。その前には人影。
周囲には〈学校法人 鳳海大学〉の植柄英明(はにえよしあき)理事長以下、法人幹部が並んで座り、その両脇に城南校舎の鴨山教務部長とその配下の事務幹部が立ってひかえている。
教壇の人影がパソコンの立ち上げを命令する。今、e-lラーニングの実験が始まろうとしている。
次々立ち上がるパソコン。人影が次第に明らかになってくる。
eーラーニングの実験が始まる。教壇に志木佳郎、両脇に尾藤一郎、妹鳥智代。ネット・HP等をつかった種々の授業形態のプレゼンテーション。
実験の成功。周囲の幹部たちの満足げな顔と拍手。
title ―レインボープランを封鎖せよ―
act 1 学部長会議。企画部長からの伝達。大学本部は近い将来全学Jabee導入をめざして成績データーの数値化を徹底化する。ついてはeーラーニング教育を推進することを決定。文科省のIT教育推進研究所と提携して鳳海大学が推進実験校に指定された。秋セメスターに複数の学科で教育の実験をするので、各学部で実験実施学科を選定すること。IT教育推進研究所からはeーラーニング教育の専門家が指導員として担当学科に配属される。以上の計画を「レインボープラン」と命名する。
文学部主任教授会。学部長より学部長会議の報告。ついてはレインボープランの協力学科を決めて欲しい。デモを行った日本語文芸学科ではどうか。それを聞いてあわてる土師伊津男主任教授。「いや、わたしはパソコンは全くダメで…」「でも、学科のHPなんかしっかりしてるし、志木先生もHP使った授業をしてるじゃないですか」「平気ですよ、尾藤先生も妹鳥先生もいるじゃないですか」というわけで、決定。主任教授会のプロデユーサー役で司会もしている尾藤先生は学科の存在意義や他学科へのインパクトも考慮して受け入れには理解を示す。
act 2 城南校舎、事務総括棟3階。事務総長と鴨山明日雄教務部長、企画部長がIT教育推進研究所の指導員到着の準備をしている。接待のための飲み物の手配や昼ごはんのメニューの選定、お土産の買出しを命じたりしている。
文学棟でも指導員受け入れのための準備でいそがしい。文学部会議室が臨時にIT教育推進指導室に模様替え。はこびこまれるパソコン、通信ケーブルの配線、お茶セットなどの準備。
鳳海大学の旗をなびかせて数台の黒塗りの車が城南校舎のメインストリートをやってくる。車列は事務総括棟の前に。停まるや赤い絨毯が転がってくる。踏みおろす脚。水原あかねはじめ指導員数名が絨毯の上を事務総括棟の中に歩んでゆく。両脇に城南校舎幹部・事務員が並んでアタマを下げる。
act 3 文学部教授会。文学部の教授・助教授・講師が集まって上層部の伝達をうけている。石原川常任教務補佐の司会で議事が進む。やがてe-ラーニングの話となる。村上学部長からの説明。日本語文芸学科に実験学科を依頼することを説明。「以上の件でご質問はありませんか」と石原川。
すると「ちょっとちょっと」と大泉淳一郎大学院研究科長が挙手して教育のあり方の演説を始め、やがてコンピューター批判をブチはじめる。
「あら、そうでもありませんよ」と、ほどよいところで水原あかねの登場。大泉に皮肉な一言を放つ。美人なので、大泉、汗をかきかき引き下がる。
教授会のフロア。志木と妹鳥と並んですわってる。
志木「美人〜♪ センセイ、引き下がったね」
妹鳥「だめよ、あなたも同じ性格なんだからね」
教授会後。日本語文芸学科研究室前廊下。大泉は帰ろうとして鞄を肩にかけてる土師に文句をいっている。
「土師くん、なんで、あんなのひきうけるのさ。だめだよ。学科つぶす気かい? 云々」
土師がいろいろいいわけしているところに水原指導員がやってくる。
「大泉先生。先ほどは失礼しました。先生のご高名はうけたまわております云々」
と適当にヨイショする。大泉喜ぶ。
尾藤・妹鳥やってくる。
志木が研究室から現れる。卒業生(乙女ちゃんず)が帰るところ。見送りに出たらしい。軽い雰囲気で。
尾藤、志木を呼び、水原に紹介する。
志木「あ、ど〜もぉ、志木ですぅ。よろしくおねがいしゃーす」
と軽い。
水原、眉間に皺がよる。
妹鳥、気を揉む。
act 4 城南校舎の朝の光景。
文学部会議室改めIT教育推進指導室の扉。
IT教育推進指導室では、水原と尾藤が打ち合わせをしている。日本語文芸学科の教員の誰が担当するかを決めようとしているのだ。尾藤が志木を推薦する。
水原「この人、どこの大学出てるの?」
尾藤「うちの卒業生です。」
水原「ダメね。この程度の大学出た人なんてタカがしれてるわ。つかえない。」
尾藤「え…(絶句)」
水原「せめて国立大出た人、いないの?」
尾藤「いや、いますが。」
水原「どこ?」
尾藤「呼んできましょうか。」
水原「いや、どこの出身? 地方国立じゃないわよね?」
尾藤「いや九州大学ですが…」
水原「旧帝大よね。じゃあ、いいわ。その人にして。尾藤先生も国立大の出だから、わたしの言っている意味わかるでしょ。」
尾藤「(内心、わからねーよ、という顔で)しかし、やはり志木先生の方が…」
水原「いいから、わたしの言うとおりにして。わたしが指導官なのよ?」
尾藤「(指導官じゃなくて指導員だろうが、という顔で)はあ」
とタメイキのような返事。
日本語文芸学科の志木研究室。妹鳥先生がやってきている。学生の人生相談の相手をして疲れたのだ。志木先生をいじめてストレスを発散している。
そこに尾藤がやってくる。
尾藤「あ、いたいた。いま、いい? あのさ、妹鳥先生、e-ラーニングの実験授業、してくれる?」
妹鳥「え〜、なんでぇ〜? 志木さんの方がいいと思うよ」
尾藤「それが、いろいろとあるんだよおお。」
尾藤は志木の手前、水原の発言などを言い出せないでストレスがたまる。
そこに尾田真理が妹鳥先生を訪ねてやってくる。話があるらしいが、妹鳥も志木も尾藤も充分に応対してられない。そのうち焦れて帰る。その背中がさびしい。
尾藤「とにかく、妹鳥先生にたのむよぉ。志木先生も手伝ってくれるからさぁ。」
志木にっこりうなづく。
妹鳥「はいはい。べつにイヤというわけじゃなくて。もっとふさわしい方がいるからって。」
尾藤「そう思わない人だっているんだからさ。よろしく。」
act 5 いよいよ秋セメスターの開始。まずは打ち合わせ、というわけで指導室。こころなし緊張した面持ちで、かつ、強引に緊張を否定しているような顔つきの水原。妹鳥に書類を渡して指示を出している。書類には授業の分単位で書かれたタイムテーブル。説明を聞きながら妹鳥唖然としている。
水原「というように、お願いしたいの。(にこっ)」
妹鳥「は、はあ…しかし…」
水原「だいじょうぶ、あなたならできるわ。」
妹鳥「いえ、その内容的にはできますが」
水原「この通りにしてね」
水原のオシになんとなく黙ってしまう妹鳥。
憮然として研究室に戻る妹鳥、部屋の前に学生を発見。
学生「あ、せんせ〜い」
ちょっとフラフラ。
妹鳥「またクスリぃ?」
学生「あ…はいぃ〜…」
妹鳥にくっついてそのまま研究室に入ってしまう。後ろ背に眉を寄せる妹鳥。ふりむくと笑顔。
学生「センセイィ〜…また、おかしくなっちゃいましたぁ〜。」
妹鳥「そうねー。クスリのせいもあるんじゃないの?」
と、授業の準備にいそがしい様子で学生の話を聞き流そうとする。学生、うわごと風にいろいろ話し出す。そろそろ始業時刻になるので、
妹鳥「授業が始まる時間よ。」
学生「いえぇ〜、次授業ないんですぅ〜」
妹鳥「あのね、あなたがなくてもわたしにはあるの。」
学生「はいぃ〜。センセイぃ、忙しいですもんねぇ〜」
と、また話を繰り出す。妹鳥焦れて帰そうとしつつ、学生のテンポにはまってる。
    

未 完