草双紙        
     

      ―六條院惟光の鳳海大学シリーズ第1弾!―

※ この作品はフィクションです。登場する人物名・団体名等は実在の人物・団体とは関係ありません。

概要 皿屋敷伝説を知っていますか? 旗本青山播磨守の家に仕えるお菊さんが、家宝の皿10枚セットを一枚割ったがために惨殺され、井戸に投げ込まれる。夜になると皿を数えるお菊さんの幽霊の声が聞こえてくる……。
散逸したお菊さんの残した皿を九枚集めると、青山家の隠された財宝の在り処がわかる…?
お菊さんのふるさと、相州ヒラツカ・シティに伝わる伝説を調べていた鳳海大学文学部日本語文芸学科尾藤一郎ゼミの五人衆は、伝説の皿を捜し求めているうちに、皿を狙う謎の集団と戦うはめに。美人研究家に大学院生探偵も加わって、ついに始まる大活劇!
主要登場人物 尾藤ゼミ五人衆
シンベヱ 本名梅津亮、十三代目梅津新兵衛を襲名:笑うと目がやさしく、色白の甘いマスクで長髪を束ね、長身をいつも白にドクロのTシャツと黒の皮の上下できめているギタリスト。女にやさしく穏やかだが、意外と女子学生にはもてない。古武術梅津流本家家元の十三代目で棒を使う。ワイン通でソムリエ級。
ハトバ 本名鳩羽伸之:丸顔で坊主刈り、最近ヒゲを生やし出した。体格は均整がとれていて、スーツが似合う。男くささで女子学生の人気は高いが、女よりグルメを追求する。けっこう大食漢。シンベエとは入学以来のつきあいで、休日や夜はシンベエのギターを伴奏に路上で竹笛を吹いている。だが先祖は伊賀流の忍者で、ジャンプ力抜群。吹矢を得意とし、竹笛がそのまま武器になる。
アスカ 本名節田明日香:甘首のあたりで黒髪を切りそろえ、大きな目と大きめの口。3サイズもよろしく、フェロモン系のルックス・スタイル。加えて語学に長け、愛想がよく誰とでもオトモダチになれる。さらにコンピューターの天才だが、やや天然。男子学生の人気は高いが、おじさまが好きなので相手にしていない。
ミ カ 本名小池谷美歌:ボーイッシュなキリッとした顔立ちで人目をひくタイプ。切れ長の目に、色気ある唇。アスカとは付属高校以来のつきあいで、アスカと組んでいろいろ発明品を作ってきた。手先が器用。またゼミで一番の文学少女で、バンドでヴォーカルをつとめ自作の歌を発表したりもする。
レ ン 本名華洞蓮:中国系日本人。背はミカやアスカほどはないが、肉付きがほどよく男の気をひく程度に色っぽい。長い黒髪はゆったりと後に垂れ、大陸系の顔には大きな瞳にふっくらした唇。にこやかな笑顔で穏やかそうに見えるが、実は一番過激な性格。中国武道を伝える家の一人娘なので、腕はたつが武道よりも料理が好き。中華街にある親の店でコックのバイトをしている。アスカと男子学生の人気を二分するが、その性格でつきあう男はみんな引く。
尾藤一郎 鳳海大学城南校舎文学部日本言語文芸学科助教授。別名「学生殺しのイチロー」。
松下玄明 同学科非常勤講師。そのアニメキャラ的風貌で一部の学生に大人気。
加納あゆみ 郷土史家。30歳前後の美女。五人衆とお菊さんの皿の行方を捜すが…
青山カイ ?????
阿曇安彦 大学院生。明智小五郎の外孫。
小林警部補 戦前の少年探偵団の小林少年の息子。阿曇安彦と組んでいろいろ事件を解決してきた。
一龍斎貞風 皿屋敷の話を伝承する最後の講釈師。
黒川洋一 相州ヒラツカ・シティ教育委員会事務局次長。お菊伝説調査の依頼主。
大泉淳一郎 鳳海大学城南校舎文学部日本語文芸学科主任教授。
志木佳郎 同学科講師。

(六條院註)――阿曇安彦と小林警部補について

お分かりのように、この作品は、実在する人物・団体から名前を借りて(あくまで借りただけで、実在の人物・団体とは関係ありませんよ〜)キャラクター設定していますが、院生役をつとめる阿曇安彦は、作者が大学生時代に書こうとした『海底軍艦組曲』(SF作品。結局挫折)の主人公として設定されたオリジナルキャラです。彼は作者(惟光)が昭和60年に書いた小説「ゴジラに捧げる鎮魂歌(レクイエム)〈第二版〉」(数少ない完成作品)で神話を学ぶ喫茶店のアルバイト学生として再登場。その後、書き溜めようとして挫折したミステリーシリーズの探偵役にも起用されました。この段階で湘南大学の学部生で小林警部補とコンビを組むという設定になりました。今回、湘南大学(本作品では鳳海大学にかわっています)を舞台にするにあたって、院生にして再々起用となりました。作者にとって古い付合いのあるキャラクターです。よろしく。

Story

松下玄明、学生にお菊の話をすること 第一

 まだ、江戸に戦国の余波が残り旗本奴が町を練り歩いていたころ。ま、元気いっぱいのおにいちゃんたちが、エネルギーもてあまして街中で発散しちゃってる、というありさまで、なかでも白柄組と呼ばれるチームは、そんな連中の中でもひときわ目立つ存在でありました。

……(番町皿屋敷の話)……

 ここは東京近郊、鳳海大学城南校舎文学部日本語文芸学科、尾藤一郎研究室。江戸文学を講じている非常勤の松下玄明先生がさっきから皿屋敷の話を語っていた。この先生、実にマンガになる格好をしている。洗いざらしの白シャツに絞めたネクタイは裏返し。ベルトの上、ベージュのズボンの上端がちょびっと外にはりだしている。樽に手足をつけたようなボディの上に、これまた台形の頭をのせて太い眉は一文字。その下に絵にするなら「・・」と描きたくなるような目。ヘの字口を囲んでヒゲの剃り跡が青い。その愛くるしいキャラクターで学生の人気もまんざらではない。とりわけ学問的守備範囲の広いこと。現在編集中の学科機関誌『城南文学 日本語文芸』の担当者、志木先生は語る。
「いや〜、まさか山本晋也監督の映画作品と近松門左衛門の浄瑠璃作品とを比較する論文をお書きになるとは思ってもみませんでした。」
…どんな論文かはともかく、よくいえば才人、でも変人にも見えるのが松下玄明先生でした。

第一巻 尾藤一郎、学生にお菊塚調査の話をすること 第二

 「というのが、お菊さんの話なんだけど」
と松下先生の話をうけたのはこの部屋の主、尾藤一郎。東京のセンスを着こなしにさり気なく漂わせながら、まったく自覚がない、そんなところが愛嬌で学生の人気はこれまた高いが、じつはゼミ生はそう多くはない。先端の文学理論であらゆる現象を分析してゆく才能がもちまえの几帳面さで厳しい論文指導をするために、平凡な学生は皆、つぶれてゆく。別名「学生殺しのイチロー」と呼ばれる彼を指導教授と仰ぐゼミ生は、これまた個性ゆたかな連中である。
 「尾藤ゼミ五人衆」と呼ばれる彼ら、まずは通称シンベエ、本名梅津亮。十三代目梅津新兵衛を襲名。笑うと目がやさしく、色白の甘いマスクで長髪を束ね、長身をいつも白にドクロのTシャツと黒の皮の上下できめているギタリスト。女にやさしく穏やかだが、意外と女子学生にはもてない。古武術梅津流本家家元の十三代目で棒を使う。ワイン通でソムリエ級。
 鳩羽伸之、通称ハトバ。丸顔で坊主刈り、最近ヒゲを生やし出した。体格は均整がとれていて、スーツが似合う。男くささで女子学生の人気は高いが、女よりグルメを追求する。けっこう大食漢。シンベエとは入学以来のつきあいで、休日や夜はシンベエのギターを伴奏に路上で竹笛を吹いている。だが先祖は伊賀流の忍者で、ジャンプ力抜群。吹矢を得意とし、竹笛がそのまま武器になる。
 節田明日香、通称アスカ。首のあたりで黒髪を切りそろえ、大きな目と大きめの口。3サイズもよろしく、フェロモン系のルックス・スタイル。加えて語学に長け、愛想がよく誰とでもオトモダチになれる。さらにコンピューターの天才だが、やや天然。男子学生の人気は高いが、おじさまが好きなので相手にしていない。
 通称ミカこと小池谷美歌。ボーイッシュなキリッとした顔立ちで人目をひくタイプ。切れ長の目に、色気ある唇。アスカとは付属高校以来のつきあいで、アスカと組んでいろいろ発明品を作ってきた。手先が器用。またゼミで一番の文学少女で、バンドでヴォーカルをつとめ自作の歌を発表したりもする。
 そしてレン。本名華洞蓮。中国系日本人。背はミカやアスカほどはないが、肉付きがほどよく男の気をひく程度に色っぽい。長い黒髪はゆったりと後に垂れ、大陸系の顔には大きな瞳にふっくらした唇。にこやかな笑顔で穏やかそうに見えるが、実は一番過激な性格。中国武道を伝える家の一人娘なので、腕はたつが武道よりも料理が好き。中華街にある親の店でコックのバイトをしている。アスカと男子学生の人気を二分するが、その性格でつきあう男はみんな引いてしまう。
 こんな連中である。
 さて、尾藤は話をお客さんの、地元自治体の教育委員会事務局の黒川洋一にまわす。
 黒川は、お菊さんの墓と伝える塚が地元にあって、十数年前に道路拡張にあたって取り崩された際にミイラと謎の石盤が発掘された。それはそのまま現在の「お菊塚」に移された。今回2002年の教育カリキュラム改訂で増えた総合的学習の一環としての「郷土の時間」を設けるが、ついては郷土史家の加納あゆみさんと鳳海大学の学生さんに小学生相手にお菊塚についてお話をしてほしい、という。

加納あゆみ、学生を誘うこと 第三

 紹介された加納あゆみは30歳前後の美女。まずは、古くからお菊塚を守ってきた旧家の老人をたずね、つぎには伝説の検証をしたい。ついては文学部の学生の協力が欲しいということである。
 尾藤が五人のゼミ生、十三代目梅津新兵衛・鳩羽伸之・節田明日香・小池谷美歌・華洞蓮にプロジェクトの立ち上げを問う。五人は乗り気。彼ら彼女らに松下先生と院生の阿曇安彦(あずみやすひこ)が加わって鳳海大学お菊プロジェクト起動。

第二巻 冒険のはじまりのこと 第四

 尾藤と学生たちは加納につれられてお菊塚をたずねる。塚の前に黒づくめの男がいて、彼らに気付くとあわてて姿を消す。一行は、そのままお菊塚を守ってきた旧家を訪問する。当主である老人はお菊塚のいわれを語り、お菊の皿を九枚集めると、仕えていた青山播磨の家に伝わった財宝を隠した場所がわかるのだという。学生たちは宝捜しだと喜ぶが、尾藤は怪しげだからやめさせようとする。
 帰りに一行は加納の案内でお菊塚の近くの飲み屋にいく。午前中に見かけた黒づくめのナゾの男がいる。一行をみると姿を消す。飲みながら今後の相談をする。はじめのうちは、プロジェクトをやめようとしていた尾藤だが、酔いがまわり、学科主任の悪口を言っているうちに気分がでかくなって宝捜しに突入。気炎をあげる。帰りぎわ、尾藤は終電を逃して駅のホームからおっこちる。
 翌日、尾藤研究室でお菊プロジェクトの相談をしているところに、県警の小林警部補(少年探偵団、小林少年の孫)がやってくる。昨夜、市内の旧家の老人が死んだが、最後に会ったのがお菊塚プロジェクトの面々で、事情を聞きにきたのだった。疑われているようなそうでないような、おなじみの展開があって、そこに院生の阿曇安彦が来る。「あれ、小林さん?」実は、明智小五郎の血を引く阿曇と小林とは顔なじみであった。殺害状況を聞いて阿曇は彼らの不在証明を立証する。
 尾藤はまた「やめよう」といいだすが、学生たちにはやる気が横溢する。華洞が尾藤を一喝して、いよいよ冒険のはじまり。

皿屋敷址、いちま〜い、のこと 第五

 加納と学生たちは、皿屋敷の跡地を廻る。さまざまな言い伝えがあるのを、ひとつひとつ尋ねて写真をとって回る。多くはビルになっていたり、道路になっていたりする。そんな中、ビルの谷間にぽっかり取り残されたような杜(もり)。青山播磨の屋敷跡と伝え、お菊神社が祀られている。その前にまた、黒づくめの男。鳩羽が、気付く。「あれ?あの男の人…」「え?」と皆がふりむくと、もう消えている。
 神社には、お菊塚で出土したのと同じ九曜の模様の刻まれた石柱があった。調べていると、くたびれたおじさんが神社を清掃にやってくる。お菊を調べている学生だというと、おじさんの顔に輝きが戻る。青山播磨に仕えた武士の子孫というおじさんは、ずっとこの神社を守ってきたが、ここもやがてビルが建つことになったのだという。「神社はどうなるんですか?」「わたしの家におつれするが…。」後継ぎはいない。なによりもうつかれた。こうやって調べてくれる学生さんたちがいることが幸せである。大切にしてくれるのなら、残された宝物を持って行ってくれ、と桐の箱をわたされる。開けると皿が1枚。お皿1枚、ゲット。

事件、にま〜い、みつからず、のこと 第六

 お菊神社のおじさんによると、宝物の皿は本来二枚あって「男皿・女皿」と呼ばれたが、一枚は戦後、売られて行方がわからなくなっているという。学生は売られた先を追跡しようとする。
 一方、お菊塚を守ってきた旧家の当主の殺人事件に首をつっこんでいる阿曇安彦。どうやら老人はお菊の皿を集めようとしていたらしい。殺された日、都内の古物商と会っていた。阿曇が小林、それに加納と問題の古物商を尋ねると、お菊プロジェクトの学生たちがいて、あわてている。学生たちは売られたお菊神社の皿を追跡してこの古物商のところに来たのだが、店にはいると主人は殺されていたのだった。問題のお皿はみつからない。学生たち以外に皿を集めようとしている者がいる…。鳩羽が黒づくめの男のことを思い出す。ひょっとして…? 緊張が高まる学生たち。でも心配するから尾藤先生には黙ってようね。

第三巻 お寺、さんま〜い、のこと 第七

 お菊ゆかりの地を尋ねて、尾藤につれられて都内の寺々を廻る学生たち。麹町、高井戸、そして番町の成仏寺。この寺は青山播磨の弟が開いた寺だと伝えている。住職に話をきこうと寺務所を訪問すると、なんと出てきた住職は松下玄明先生! 皿集めの話をすると、ウチの寺にも皿がある、と持ち出してきてくれた。あわせて伝えられた古文書を開くと、まぎれもなくお菊の皿であった。古文書によると、お菊の皿は青山家に室町の昔から伝えられた九曜の皿のことで、陰・陽・日・月・火・水・木・金・土の九枚があり、お菊の事件後、陰陽二皿はお菊神社に、日月二皿は成仏寺に奉納され、残る五皿は青山の子孫に受け継がれたのだという。いまここにあるのは日月どちらかの皿。もう1枚は?「これしかありませんよ」と玄明先生。売られたか、盗られたか。あれこれ記録を出して調べると、昔、この寺に寄席がかかっていたころ、お菊の講談を語ってくれた講釈師に先々代の住職が親しみを込めて渡したらしい。次は、その皿を調べよう。玄明先生も手伝ってくれることになった。

中休みのこと 第八

 尾藤研究室でお菊プロジェクト会議。お菊の伝説データー整理と文献調査。加納がやってくる。阿曇もやってくる。玄明先生も顔を出す。さらに尾藤研の反対の部屋にいる志木先生までが、今度の日曜に上野の東都文化財研究所で行なわれる講談の記録撮影会に行かないかと言ってくる。ちょうど「皿屋敷」の話であった。尾藤は奥さんと温泉旅行の予定をいれていたので、かわりに玄明先生が学生を連れて行くことになった。
 しかし、作業しながらどうしても話題は皿と黒づくめの男、そして殺人事件のことに集中してしまう。郷土史家という性格上、旧家の老人と親しかった加納は阿曇の話が興味深げだ。阿曇は阿曇で美人の郷土史家が気になるよう。やがて二人で帰っていった。噂する学生たち。「阿曇くん、大丈夫かな〜」とへんな心配をする尾藤。「い〜な〜」とうらやましそうな志木先生。
 加納と阿曇は市内に出て、軽く飲んでゆくことにした。ショット・バーで語りあう二人。そんな二人を隅で見つめる黒づくめの男。
 二人が店を出てお菊塚の前を通ると、塚の蔭から数名の男があらわれ「お菊の皿から手を引け」と加納を襲おうとする。阿曇が弁舌で切りぬける。去って行く男たち。
「あ〜怖かった」「ありがと、阿曇くん」で、いいムードになって、うふ。

第四巻 講釈師、よんま〜い、前編のこと 第九

 玄明先生につれられて学生たちと加納は上野へ。加納と阿曇とのその後が学生たちは気になる様子。でもシャイで訊けない。
 志木先生に講談調査委員会のスタッフに紹介してもらったりしながら、一龍斎貞風の「皿屋敷」の噺を聴く。会場に黒づくめの男がいる。鳩羽が志木を通じてスタッフにどういう人かきいてもらうが、誰だかわからない。緊張する学生たち。
 撮影会後に講釈師を囲んで慰労会が上野広小路の居酒屋で行なわれるのに玄明と梅津が参加する。酒席で講釈師の話を聞いていると、成仏寺の寄席で「皿屋敷」を語った話題が出てきた。玄明が成仏寺の住職だと名乗るとびっくり。成仏寺で語った講釈師は貞風の師にあたる人であるらしい。すでにこの世にないが、その時いただいた皿は、弟子の自分が持っている。今度うちにいらっしゃい見せてあげよう、という約束になった。大きな収穫を得て、志木と梅津とスタッフたちはカラオケに雪崩込み三波春夫で盛り上がる。

講釈師、よんま〜い、後編のこと 第十

 玄明と学生たちは不忍池近くの講釈師の自宅を尋ねる。講釈師は講談の現状を語り、「皿屋敷」の話も後継者がないことから、お菊の皿を成仏寺に返し、噺も納めることになった。境内に「皿屋敷」の噺を篭めた「お菊塚」を建立し、貞風さんに納めの噺をしてもらうという話にきまり、一行は皿を受け取り退出する。秋の夕暮れの不忍池のほとり。人影も少なく、講談の現状の話も思い起され、ちょっと感傷的に歩く学生たちの前に、数名の男が立ちふさがる。「皿を置いていってもらおうか」と男たち。こわがる学生。しかし、玄明は平然として「断る」。男たちは「じゃあ、腕ずくでもらうぜ」。梅津は女子学生に「皿を守れ」といって身構える。男たちが殴りかかるのを玄明の左手が防ぎ身をかわして拳を入れる。玄明先生は功夫遣いであった。次々と男たちが襲ってくるのを巧みにかわしてゆく。
 一方、男たちは皿を狙って学生たちにも襲いかかってくる。ところが古武術梅津流十三代目梅津新兵衛、玄明に負けないくらい、強い。先祖に伊賀流の忍者を持つ吹矢の名人鳩羽も、合気道部の華洞蓮も、皿を抱えた節田と小池谷を守って大活躍。不忍池の向こうに夕陽がしずむのを背景にはじまった香港風大活劇。バトルフィールドはそのまま御徒町へ展開。大騒動の末、玄明と学生は地下鉄大江戸線で脱出。ほっと一息したところに鳩羽が視線を感じて振り向くと黒づくめの男。身構えるが、男は次の駅でおりてゆく。
 成仏寺に戻ると宝物蔵があらされ、皿が盗まれていた。

第五巻 漱石、あらたな展開のこと 第十一

 阿曇が小林警部補をつれて成仏寺にかけつける。上野での一件もふくめて小林警部補の旧友、法月警視に世話になる。
 大学に戻ると、尾藤の機嫌が悪い。上野の騒動が知られてしまったのである。加納がやってくる。阿曇と仲がよさげなのも尾藤の機嫌をさらに悪くする。一同困っているところに主任の大泉順三郎教授がやってきて、熊本に新しく開館する漱石文化館の案内をもってくる。案内の写真の中に、「お菊の皿」というキャプションのつけられたものがあった。尾藤そっちのけで盛り上がる学生たち。ついに尾藤がキレるのを大泉がなだめる。それをうかがっていた隣の梶先生が、学生を呼んで諭す。
 学生はなぜ、漱石とお菊がつながるかを調べて報告する。その姿勢に尾藤の機嫌も直る。調子づいて、節田が熊本に皿を見にいこうと提案する。尾藤は許可しない。
 でも、学生たちは熊本に旅だってしまう。加納と阿曇も、小林警部補も熊本にむかう。

熊本、ごま〜い、のこと 第十二

 熊本の坪井町の漱石邸に隣接して新しく開館した漱石文化館。近所には小泉八雲も住んでいたという場所。漱石文化館では、緊張が走っていた。盗難の予告状が届いたのだ。差出人は「お菊」。悪質ないたずらとして処理されたが、予告日を翌日にひかえて館員の志木は不安な日を過ごしている。そこにお菊の皿を尋ねてきた学生五人。ぎょっとするが、鳳海大学の学生ということで信用する。彼は志木先生の遠い親戚であった。
 そこに阿曇と加納、小林警部補と熊州警察の松本警部がやってくる。関東でのお菊の皿をめぐる事件で、予告状の一件がいたずらではない可能性がでてきたからだ。
 一行はお菊の皿を見せてもらう。尾上の松の絵の描かれた皿は「金風皿」と呼ばれる五曜の皿の一つであった。

(未完)

第六巻 播州、姫路城のこと 第十三
構成中
播州、古井戸、ろくま〜い、のこと 第十四
構成中
第七巻 播州、抜け穴、ななま〜い、のこと 第十五
構成中
安彦、加納に恋すること 第十六
構成中
第八巻 相州、はちま〜い、のこと 第十七
構成中
安彦、謎を解くこと 第十八
構成中
第九巻 大学、くま〜い、みつからず 第十九
構成中
大団円、愛は永遠に 第二十
構成中 求めていた皿は大学の資料室にあった。9枚そろったところに悪役の登場。
今、明かされる青山の正体。かけつける小林警部補。活劇とともに悪役逮捕。
お菊塚の九つのへこみ、壇上の木乃伊。皿が9枚揃ったとき、お菊さんが蘇る。
青山のお菊への謝罪、そして二人での昇天。読経で幕。
2002年4月2日

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