まとめ1(考察対象の設定)
授業で扱った『古事記』の物語
(T)高天原神話
うけひの話=アマテラスとスサノヲによる神生み
天の岩戸の話=スサノヲの乱暴とアマテラスの死と再生
(U)出雲神話
やまたのをろち退治の話=スサノヲの追放と結婚
いなばの素兎と根の国訪問譚=オホクニヌシの死と再生
まとめ2(分析)
これらの話を登場人物別に、「行為」でまとめてみる(→各自、その行為が教科書の本文でどう表現されているか確認すること)。
(S)、スサノヲの場合
@誕生→A母を慕って泣く→B高天原に登る→Cアマテラスと子を作る→D高天原で破壊活動→E追放される→F出雲に下る、怪獣を退治して、童女と結婚する→G根の国の王としてオホアナムヂに試練を与え、大国主神を任命する。
(A)、アマテラスの場合
@誕生→A男装してスサノヲを迎える→Cスサノヲと子を作る→D天の石屋に籠る→F神々によって招きだされる(→G子神を地上に下らす)
(O)、オホクニヌシ(オホアナムヂ)の場合
@誕生→A兄神の従者となる→B兄神に殺される→C母の力で蘇生→D根の国へ行く→Fスセリビメと結ばれる、スサノヲから試練を受け、解決して宝物を奪取して葦原中国に帰る→G大国主神となる。
上記(S)(A)(O)には、次のような共通項がある。
(1)荒 れ ……(S)−A=葦原中国で泣く→山は枯れ、海は干上がる。悪い神があばれだす。
(S)−D=高天原の施設を破壊する→アマテラスを他界させる→地上を闇がつつむ
(A)ーA=弓をつがえ、足ふみとどろかし、雄たけびをあげる。
(2)他 界 ……(S)−B=高天原に登る
(A)ーD=天の石屋に籠る→地上を闇がつつむ
(O)−B=殺される
(O)−D=根の国に行く。
(3)復 活 ……(S)−F=葦原中国に戻る→怪獣を退治し平和をもたらす。
(A)−F=高天原に戻る→地上に光が戻る
(O)−C=蘇生する
(O)−F=葦原中国に戻る
(4)王権獲得…(S)−G=根の国の王となる
(A)−G=天孫降臨の指令神となる
(O)−G=大国主神となる。
※(O)ーAの場合、(1)の「荒れ」には該当しない。
(1)→(2)→(3)→(4)という展開する〈話型(わけい)〉を抽出することができる。この〈話型〉は「貴種流離譚」である。
まとめ4(知識=〈術語(テクニカル・ターム)〉)
貴種流離譚 きしゅりゅうりたん
提唱者:折口信夫/大正13年『日光』誌、「国文学の発生(第二稿)」/
概 念:神あるいは神に準じる存在(貴種)が、なんらかの理由で漂泊し、辛苦の生活をしながら流離するという物語の型。貴種は辛苦が嵩じて死に、神仏などの加護をもって復活し、最後は神仏として祀られるパターンが多い。その典型が、説経「さんせう大夫」「小栗判官」などである。
Read here→『折口信夫事典』=索引で「貴種流離譚」を引いて、関連事項を読んでみよう。
通過儀礼 rites de passage
提唱者:Arnold van Gennepe(1872〜1957)/『通過儀礼』綾部恒雄訳、弘文堂、昭和52年)
概 念:人生の節目に訪れる危機を、安全に通過するために設けられている諸儀礼の総体。無事通過すると、新しい身分や社会的役割が与えられ、保証される。親族や共同体の仲間が参加し、長老が主宰する。構成要素として、過去に所属していた社会状態を断ち切る儀礼(分離)、来るべき社会に帰属する準備として試練をうける儀礼(境界)、新しい社会に迎え入れられる儀礼(加入)とい三段階を経る。境界期の試練には抜歯、文身(いれずみ)などの身体加工や、胎児の姿や男装・女装という変身が行われる。
Read here→『上代文学研究事典』=「通過儀礼」の項目を引いてみよう。
※術語の意味を知ろうというときは、まず事典を用いる。ついで項目に記された参考文献を読んでみよう。
まとめ5(総括)
「死と復活」をモチーフとした神話を儀礼主義的に解釈すると、成年式(イニシエーション)の通過儀礼と結び付けられる。コドモからオトナになり、社会の一員となるにあたって、コドモとしての自己の死と、オトナとしての再生を意味する儀礼が行われるのが成年式だ。上記(1)から(4)に至る物語展開は、「荒れ」であるとか、「従者」であるとか、社会秩序の反対者もしくは弱者にある主人公が、他界(=分離)し、他界先で試練を受け(境界)、もとの世界に復活し王権を得るという型となる。つまり、ここで活躍する主人公たち(スサノヲ・アマテラス・オホナムヂ)は、これらの物語によって、それぞれが王者として成り立つのである。すなわち高天原の王者アマテラスと葦原中国の王、スサノヲおよび大国主神の誕生を語るために用意されたのがこれらの物語なのである。