粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃U

スーパールート 第参話 『敵を知らず、己も知らず』 後編


第参話 『敵を知らず、己も知らず』 後編


 銃撃戦。前線に出ているのがアルトとミシェルだ。その間にクランを巨人化させてバルキリーの武装を生身で使って貰う。それが今考えられる最善の策だった。ルカが変換装置を懸命に操作している。バジュラを近づけさせないように必死で抵抗していた。しかし、変換装置の部屋が突然爆破する。そこから流れ出てきたのは十数匹にも及ぶ大量の小型バジュラだった。
アルト「!! ランカァー!」
 そのバジュラがいの一番に近寄ってきたのは何故かランカだった。だが、そのランカの前に一人の男が阻み立つ。
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・助けようとしている? 救おうとしているのか? ・・・・・・・・・ランカを。・・・・・・・・・だが、たとえそうであってもさせない」
 一閃。刀が煌く。そして、コクウは腰の鞘に直ぐに刀を戻した。鍔切り音が響く。ランカを含めコクウのそばにいた人間には光しか見えなかった。その煌きが一瞬にしてバジュラ一体を真っ二つに分断してしまっていた。それだけではない。コクウの独特の歩法でバジュラの後ろに回り切り裂いていく。驚くべきことだが、バジュラはコクウのその動きを捉えられずにいた。恐らくフロンティアでも彼だけだろう。銃も使わずEX−ギアもなしで小型とはいえ、バジュラを圧倒できる人間は。先ほど冗談でも口にしたことが事実実行可能でしかも、明らかに効率よくバジュラを切り裂いていくコクウがルカにはとても信じられなかった。
コクウ(多いな。ランカ達を守りながらだと辛い。これ以上増えたら守りきれなくなるな)
 冷や汗を流しながらの戦闘だった。そして、コクウの懸念はなぜか現実になってしまう。もう一箇所、今度はアルト達とクランの近いところで爆破があった。外部から這い出てきたバジュラが今度は巨人化して無防備なクランを狙う。ポジション的にコクウは助けには行けない状況だった。
コクウ「!! くそっ!!」
アルト「不味い!!」
 最悪の状況下でミシェルがEX-ギアを最大にして飛び立つ。
ミシェル「させるかよぉぉおお!!」
アルト「ミシェル!! くそぉ」
 アルトも共に向かおうとするが、小道から侵入しようとするバジュラが応援を許さない。
 空中で弾丸を発砲しながらクランの盾になっていた。この状況を横目で見ながらも一番杞憂をしていたのはやはり年長のコクウだった。コクウは身構えながらルカに近づき、彼のホルスターから勝手に短銃とマガジンを片手で簡単に抜き取った。
ルカ「!?」
コクウ「すまん、借りる!」
ルカ「は、はい」
 独特なスタイルでの戦闘が始まる。右腕に刀。左手に短銃。距離によって獲物を変えながらの戦闘。遮蔽から間合までいい意味での洋の統合における戦闘スタイルだった。これでコクウのバジュラにおける撃破の速度が段違いになる。
 コクウとアルトの心境を知ることもなくミシェルは戦闘を続けていた。クランの変換装置を守るための戦いになる。EX-ギアでの空中戦だ。
 そんな中、ゆっくりと巨大化したクランが目を覚ました。目を覚ましたクランの目の前にいたのは彼女の為に懸命に戦うミシェルの姿だった。
クラン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ミシェル・・・・・・・・・!? ミシェル!!」
 叫び声をあげるクラン。その声にミシェルはすぐさま対応した。彼の背後から迫ってくるバジュラに向けてアサルトガンを連射する。しかし、意識してかしないでかその攻撃をバジュラは避けて銃では対応できない間合にまで入り込まれてしまう。そして、・・・・・・・・・
ミシェル「ぐぅぅうっ!」
 凶刃がミシェルの体を貫いた。
ミシェル「ぐ・・・・・・・・・がはっ!」
ルカ「・・・・・・・・・う、嘘だ」
ランカ「ミシェル君!!」
 鮮血がミシェルの口から吐き出される。コクウは歯を目一杯かみ締める。こんな子供らを死なせて良い訳がないからだ。己の実力の最大限を出してミシェルの方に向かおうとしていた。しかし、間に合わない。ミシェルを貫いたバジュラが再びクランを狙おうと迫っていく。だが、狙うだけだった。
ミシェル「このムシケラめぇぇぇええっ!!」
 EX-ギアの推力を出せるだけ出し、ミシェルは特攻する。間合や戦い方などは感じられなかった。突進し、ぶつかり、バジュラをクランから引き離す。
ミシェル「ぅぉぉおおおおおおっ!」
 そして、ほぼゼロ距離での射撃。それをバジュラに食らわせれるだけ食らわせた。ちょうどこの瞬間にコクウはクランの前にまでようやく到着することが出来た。敵は残り数匹。これならどうにかなる。敵と相対しながらもコクウの意識はミシェルのほうに向いていた。空中に数発弾丸を発砲させながらミシェルが落ちてくる。だが、バジュラの残骸が爆発。恐ろしいことに気密が破れて壁に穴があいた。
 順番としてはまずはこの部屋に残ったバジュラの駆逐だ。それを終えなければミシェルの治療などは当然でいない。コクウは最大限の膂力を振り絞ってバジュラを切り伏せる。
 そんなコクウの焦りを知るわけもないミシェルは空中を彷徨いながらクランと目が合う。そして、ミシェルは血まみれの中聞こえるはずもない言葉を口にした。
クラン「ミシェルっ!」
ミシェル「・・・・・・・・・ごめんな・・・・・・・・・クラン。今まで・・・・・・・・・いえなくて。・・・・・・・・・俺も・・・・・・・・・俺も・・・・・・・・・お前のこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・愛して・・・・・・・・・」
 気密が破れられてミシェルが外に吸い出されていく。まるでミシェルだけを捕らえるかのようにだ。
クラン「ぅぅうあああああ゛あ゛あ゛あ゛あああっ!!」
 死の空間に飛ばされるミシェルを前に何も出来ないクランはただ叫ぶだけ。だが、コクウは最後の敵を切ってから外に吸い出される力に逆らうのではなく、ミシェルを追うべくその力に身を任せた。アルトもEX-ギアを使って飛び立つ。
コクウ・アルト「「ミシェル!!!」」
 コクウは鞘に収めた刀を穴から自分の体が外に出ないようにするためのつっかい棒代わりにしてミシェルに手を伸ばすがその手は気密確保専用ジェルによって阻まれてしまう。
コクウ「クソッたれがぁああああ!!!!」
アルト「ミシェルルルゥゥ!!!」
 2人の声はただ寂しく木霊するだけだった。


 戦闘が始まる。クランが禍々しい目をしてバルキリー専用の兵装を使ってフロンティア内部のバジュラを駆逐するためだ。その間にある程度移動が容易になる。それでどうにか2機のバルキリーを入手することが出来た。旧型のVF-17-1ナイトメア。だが、運用するだけならば充分だった。副座にシェリルとナナセ、その手にコクウとランカを乗せたバルキリーがアイランド3という観光専用の島に向かうことになる。何かしらの作戦があるらしい。
 アイランド3に到着するや否や、その説明をルカがし始めた。
ルカ「ランカさんが歌い始めたら、バジュラがすべての船から集まってくるはずです。移動が確認された時点でアイランド3を切り離し、安全圏まで離れたところでリトル・ガールを爆破させます」
コクウ「リトル・ガール?」
ルカ「はい。半径50キロを切り取って食い尽くすLAIが開発したフォールド爆弾です」
アルト「50キロ!?」
コクウ「そのためのアイランド3か。ランカを囮にしての作戦か。・・・・・・・・・ルカ、君には悪いけども虫唾が走るね」
ルカ「死んだんですよ!? ミシェル先輩が!! 船だってボロボロ。生態系だって無茶苦茶だ! これ以上被害を受けたらフロンティアはおしまいなんです!! これはもう生存をかけた戦いなんですよ! 僕らか、バジュラかの!!」
ナナセ「でも、それでもランカさんをおとりに使うなんて!」
ルカ「ならどうするんですか! 他に方法があるって言うんですか!? ・・・・・・・・・すいません」
 落ち込むルカにコクウは淡々と語る。
コクウ「確かにミシェルは死んだよ。そして俺は救えなかった。無能極まりない大人だ俺は。だけど俺はこう思うんだよ。女一人に無理強いしなきゃ生きていけない人類なら滅んでしまえってな」
ルカ「!! そんな・・・・・・・・・それじゃあ、あなたは僕らに死ねって言うんですか!!」
シェリル「落ち着きなさい。・・・・・・・・・この男はそんなことが言いたいんじゃないわ」
ルカ「・・・・・・・・・え?」
コクウ「その通り。生存如何こうよりも大事なものがあるだろって話さ。・・・・・・・・・半か丁を決めるのはランカだって話」
 それだけ話してから全員がランカを見た。
ランカ「! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・私、歌うよ」
コクウ「本当にそれで良いのか?」
ランカ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
コクウ「・・・・・・・・・そうか。ならやるか。ルカ、タイミングは決められるのか?」
ルカ「はい。それほどゆとりがあるわけではないですけど」
コクウ「なら、シェリル達を安全な場所まで運ぼう。それと俺の機体も持ってくる。その上でここで戦えばいい。そのほうが効率的だ」
ルカ「そうですね。ナナセさん達を安全な場所にコクウさんの機体はニルヴァーナですか?」
コクウ「ああ。もう駐留はしていないだろうからこの辺にはいるはずだ。今から10分後にはじめる。それまでに準備を終える。それでいいか?」
アルト「わかった」
ルカ「はい」
コクウ「なら急ぐぞ」
 きっかり10分後、3機がそこにいた。両の手に槍と剣を携えたマリシ・デーヴァ。VF-25が2機。シェリルとナナセは安全圏にまで退避を終えている。あとは戦うだけだった。歌おうとするランカにコクウがスピーカー越しに声をかける。
アルト『絶対守ってやる。舵手津も絶対成功させる。・・・・・・・・・だから・・・・・・・・・安心して歌え』
ランカ「うん。今度はちゃんとできると思う」
アルト『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・頼む』
 アルトの言葉に下を向くランカにコクウが話しかける。
コクウ『変なもんだなぁ。ランカ、俺はお前の歌が好きだった。笑顔で歌うお前の歌が好きだったよ』
ランカ「? コクウさん?」
コクウ『だが、違ったのかもな。俺が好きだったのはお前の歌じゃなくて、お前の笑顔が好きだったのかもしれないな。不幸をまとったような顔で歌おうとするお前は・・・・・・・・・あまり好きじゃない』
ランカ「・・・・・・・・・ごめんなさい」
コクウ『謝るな。生きるために戦う。それは正しいんだ。・・・・・・・・・生きていればまた歌えるだろ? 楽しい歌が。優しい歌が。お前の心を写す歌が。だから、足掻け。生きろ。死ぬな。そのためなら、命くらい賭けてやるから』
ランカ「・・・・・・・・・コクウさん」
 どこかでコクウが笑ったような気がした。昔からそうだった。コクウはよく気がづく。オズマも気づかないような細かなランカの機微に気づいたりするのだ。それがどれだけ有難かったことか。
 3機が散開していく。マリシ・デーヴァを中心にバジュラと相対する気なのだろう。3機が離れてから1人の男がランカに近づいてくる。
ブレラ「歌いたくないなら歌わなくて良いんだぞ。ランカ」
ランカ「酷いよブレラさん。どうして、そんなこと言うの!?」
 コクウと言うことが同じだった。歌わなくていい。やらなくていい。そんなことを言ってくれる人。理解してくれる人が目の前にいた。その言葉はどこか優しく、ランカの目頭には必然的に涙がまたる。
ブレラ「歌はお前の心だ。それはお前だけのものだから」
ランカ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぅ、ぅあああああああっっ」
 しばらくの間、泣きじゃくってしまっていた。だが、それも数分だった。落ち着きを取り戻したランカは前を見る。
ランカ「ありがとう、ブレラさん。・・・・・・・・・でもいいの」
 この言葉で満足したのだろう。ブレラもランカの前から消えていった。その様子を一瞥しながら、ランカは考えていた。
ランカ(伝えたかった。たった一人の人。その人には届かなかった歌だけど、これがそのたった一人の望みだから)
 ランカは大きく息を吸って歌い始めた。『アイモ』

 バジュラが押し寄せてきた。小型が多い。マリシ・デーヴァは絶大パワーを秘めた機体ではある。それは間違いない。だが、こういう力は弱い敵が押し寄せてくるような人海戦術は非常に苦手としていた。手数は決して多くはないのだ。そのため、コクウはランカを守ることのみに重点を置いてなるべく節約しながらの戦闘になってしまう。
コクウ『ここではバルキリーのほうが有利だからな。アルトとルカが要だからな』
 事実を口に出したコクウにアルトが反論する。
アルト『何でだよ!』
コクウ『マリシが本気で戦っちまえばランカが歌いきる前に隔壁に大穴開けちまうからだよ!』
ルカ『わかりました。僕とアルト先輩が前に出ます。コクウさんは援護を』
コクウ『それでいい。頼むぞ』
 大攻勢が始まる。バジュラとの戦いでコクウはいつも感じていた。何かを求めていると。そういう感情が垣間見えると。それが頭から離れない。大軍のバジュラだからこそその意思が大きく見えてしまう。まるでこれは
コクウ『仲間を・・・・・・・・・助けに来てるのか?』
 ランカの歌に誘われているのは正しいのだろう。恐らくバジュラはランカの歌を感じることが出来ている。それはこの反応を見れば当然なのだが・・・・・・・・・。そんなことを考えながら、コクウは一端その思考を封印する。この場は守らなくてはいけない。恩人の妹を。そのためには目の前の若造をもう殺されてはいけなかった。
 持久戦は続き、アイランド3と多くの犠牲を持ってリトル・ガールと共に戦闘が終結した。


 コクウがニルヴァーナのブリッジに戻ってこれたのはそれから5時間後だった。既に立ち退き期限は過ぎているがニルヴァーナも外部のバジュラ戦に加わったこともあって見過ごされている。
コクウ「お頭、戻りました」
マグノ「大変だったようだね。だが、ギャラクシーのように壊滅しなかっただけマシだということだろうねぇ。・・・・・・・・・残っても良いんだよ?」
コクウ「・・・・・・・・・お気持ちだけで充分です。フロンティアの人間は骨があるんですよ。異様なほどに。問題ありません」
マグノ「いい返事だね。・・・・・・・・・朗報と訃報があるんだが聞くかい?」
コクウ「訃報から聞きます?」
マグノ「お前さんの言う通りにあそこの人間は屈強なようだね。・・・・・・・・・大統領だっけか? それがバジュラの戦闘中に死亡したそうだよ」
コクウ「大統領が!? バジュラに殺されたってことですか?」
 マグノの横でプザムがうなずいた。
プザム「そう報道されている。だが、それはあまりにも」
コクウ「ええ。タイミングが良すぎます」
プザム「この事態を踏まえ、この戦時下S.M.S.が統合軍に統合されることになったそうなんだが・・・・・・・・・」
コクウ「!? それは」
プザム「これ以上はワイルダー艦長は言及されなかった。だが、ヒビキにはわからないだろうが、お前にはこのことを伝えたワイルダー艦長の意図がわかるはずだ」
コクウ「俺達にそれを伝えたということは・・・・・・・・・了承されたんですか?」
マグノ「あたしらが如何こう言う問題じゃないだろう? あたしらは予定通りに行動するだけさ。・・・・・・・・・どんな妨害があってもね。・・・・・・・・・これ以上はここでは口にするんじゃないよ。もう直ぐ延長の停泊時間が差し迫っているんだからね」
コクウ「・・・・・・・・・わかりました。それなら噂話はこれくらいにしましょう。出向まで時間がないんでしょう?」
マグノ「ふふふ、そうさね」
 蛇足だが、説明をする。突然の大統領の死亡。バジュラによるフロンティア市内の蹂躙。これはタイミングとしては合致するようにも思えるが、通常ではありえない事態だった。いや、これだけで終わるならば誰も何も考えなかっただろう。その後に突如言い渡された軍とS.M.S.の統合。これは絶対だがきな臭すぎる。誰それの傀儡になっている可能性が多分にあるのだ。統合と言う選択肢は絶対的によろしくはない。ならば、現行のS.M.S.としてその力を維持する為の選択肢としてとるべき手段は1つしかない。
 戦闘態勢を維持したままでニルヴァーナの出向の時間となる。
エズラ「こちらニルヴァーナ。予定時間となりました。出向します」
フロンティア管制官『了解。ニルヴァーナ航海の安全を祈る』
エズラ「接岸固定の解除確認。発進準備完了です!」
マグノ「よし! 兄ちゃん発進だ。微速前進」
バート「了解っす!」


 ニルヴァーナが出向する。ゆっくりとニルヴァーナが進み始めたこのタイミングだった。マクロス・クォーターのブリッジではまったく別の演説が開始された。
ジェフリー『諸君! 正義を気取るつもりはない。だが、我々はただ上の命令にのみ従うことを良しとせず、自ら選択の余地のあるこのS.M.S.に入ったはずだ。我々は現時刻を持って兵隊から海賊へ鞍替えする! 最初の獲物はこの船だ! 行くぞ野郎共!! 碇を上げろ!!』
ボビー「アイ、キャプテン」
ジェフリー「スタビライザー解除。微速前進!!」
 マクロス・クォーターがフロンティアから出撃。現時刻を持って海賊へと転身を果たした。ニルヴァーナと共にマクロス・クォーターが進み始める。


マグノ「さてコクウ、リーリ、如何出ると思う?」
リーリ「そりゃ、追撃隊が出ますよ。ここでマクロス・クォーターに逃げられたら沽券にかかわりますしね」
マグノ「だろうねぇ。クォーターには世話になっているから協力しておくべきだろうよ」
コクウ「いえ、必要ありません」
プザム「? どういう意味だ?」
コクウ「マクロス・クォーターとフロンティア政府の戦闘は踏ん切りをつけさせるためには必須ですから。要請がない限り、俺達が余計な横槍を入れるべきじゃないし、向こうも望まないでしょう」
マグノ「いまいちよく分からないねぇ。マクロスの流儀みたいなものかい?」
コクウ「いえ。マクロスの流儀ではなく、男の流儀とケジメです」
リーリ「はい? 私にはさっぱりわっからないなぁーー」
アマローネ「前方から刈り取り船が迫っています! このままではフロンティア政府軍と挟撃にあいます!」
コクウ「暇をする必要はなさそうですね。俺らが前方を担当しましょう。後方の政府軍はクォーターに任せておけばいい。それでよろしいですか、お頭?」
マグノ「あ、ああ」
 コクウは小さくうなずいてからブリッジを後にする。戦闘員に情報を伝えに言ったのだろう。コクウがブリッジを後にするや否や、クォーターから通信が入る。
ラム『こちらマクロス・クォーター。ニルヴァーナ応答願います』
エズラ「はい。こちらニルヴァーナです」
ラム『申し訳ありませんが、マグノ・ビバン頭目と艦長がお話をされたいそうです。代わって頂けましたら幸いです』
 クォーター側の申し出にエズラがマグノのほうを見てからその答えを伺う。マグノはうなずくのを見てから直ぐに答えお返す。
エズラ「わかりました。今お頭に代わります」
ラム『感謝します』
 そして、言葉を借りるならば兵隊から海賊に鞍替えしたジェフリー・ワイルダーが歴戦の海賊であるマグノ・ビバンとが話が行われた。
ジェフリー『突然の通信に答えて頂いて感謝します。マグノ頭目』
マグノ「構わんさ。海賊に鞍替えしたそうだね。わからないことがあったら言っておくれ。先達として相談くらいにいは乗るさね」
ジェフリー『ええ。機会があれば頼むことにしましょう。・・・・・・・・・前置きはこのくらいにしてもらいましょうか。・・・・・・・・・これからマクロス・クォーターは予定座標H722SAにてフォールドをします。協力していただいた手前、共にフォールドをしていただきたい。フォールド干渉領域を出てしまうまでが勝負となります。追撃部隊はこちらで引き受けます。勝手なことを言って申し訳ないが、前方の刈り取り部隊の方をお願いしたい。自分らのケジメは自分達でつけなくてはいけない物でして』
マグノ「・・・・・・・・・こっちははなっからそのつもりだったさ。コクウの奴が刈り取り部隊を相手にするって張り切ってるんでね」
ジェフリー『・・・・・・・・・そうですか。彼には世話になりっ放しだ。確かに、我々は昔彼を助けはしたが、その分の恩義は既に受けきっているように思えるのだがな』
マグノ「・・・・・・・・・男ってのは面倒な生き物だねぇ。コクウもあんたも」
ジェフリー『・・・・・・・・・コクウ・ブラックはいざ知らず、俺はもはやこういう生き方しかできはしないのですよ』
マグノ「そうかい。なら、仕方ないね。・・・・・・・・・前は任しておきな。追撃部隊にあっさりやられるんじゃないよ?」
ジェフリー『ウチの連中はそれほどやわではありません。まぁ、見ていていただきましょうか』
マグノ「わかった。ではお互い」
ジェフリー『健闘を』
 通信が切れる。指揮官同士の会話というものは以外に周囲のテンションを上げるものだった。ブリッジクルーの全員の目が光り輝いていた。
 追撃戦は双方大した被害を受けることなく終了する。ただ、コクウも後から聞いた話なのだがランカがマクロス・フロンティア政府を裏切ったという形で出奔。アルト、ルカ、クランの3人はクォーター側ではなくフロンティア側に付くことを決めたようだった。フォールド終了後、ようやくコクウはオズマと共に話をする時間ができていた。
オズマ『そうか。・・・・・・・・・ミシェルが』
コクウ「・・・・・・・・・お前に合わせる顔がない。俺が傍にいたってのにむざむざ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
オズマ『・・・・・・・・・お前に責任はない。あいつだって一端の兵隊だ。お前に守られたいなんてあいつ等は思っちゃいないし、責任を擦り付けるような軟弱には育ててない』
コクウ「・・・・・・・・・例え、お前がそう言ったとしても立つ瀬はない」
オズマ『・・・・・・・・・・・・・・・・・・自惚れるなと言いたい所だが、お前はその辺の話は理解しているんだろうな。・・・・・・・・・クランはミシェルの敵討ちのためにフロンティアに残った。私怨はあいつだけでたくさんだ』
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・クランが・・・・・・・・・」
オズマ『お前はああいう真似は止せ。如何見たって柄じゃない』
コクウ「・・・・・・・・・そうだと思う」
オズマ『・・・・・・・・・ったく! そんなしょ気たお前は初めて見たぜ。ランカにはとても見せられん顔しやがって。・・・・・・・・・それもお前らしさか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと話を変えるか。・・・・・・・・・俺達はこれからバジュラが始めて観測された第117次大規模調査船団の残骸を調査しに行く。バジュラについて知らべなきゃならんからな。・・・・・・・・・お前達はどうするつもりだ?』
コクウ「俺はこの船じゃ客分だ。決定権はないが、恐らく地球に向かうことになると思う」
オズマ『地球か。・・・・・・・・・調査船団の探索後は俺達も向かおうと思っていたところだ。フロンティア政府と決別した以上、ほかに頼るところがないからな』
コクウ「なら、また会えるって事だな」
オズマ『ああ。お前とは本当に腐れ縁だな! どうしようもないほどに。・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前は死ぬなよ。地球で再び会うときまでに最高の酒でも用意しておけ』
コクウ「わかった。用意しておこう」
オズマ『・・・・・・・・・地球で』
コクウ「ああ。地球で」
 通信が切れる。コクウは通信が切れても小さい笑みを残していた。彼はコクウの記憶に残る最古の友人だった。何かしら思うところもあるのだろう。
 コクウがオズマと話すことができたのはマグノが気を利かせてくれたからだった。既にニルヴァーナの行動とクォーターが別々に行動を移すことを知っていたのだろう。
マグノ「済んだかい?」
コクウ「お気遣い、痛み入ります」
マグノ「このくらいは構わんさ。お前さんは今回随分と苦労したからね。見たくないものも見たんだろ?」
コクウ「・・・・・・・・・いえ。不甲斐無さが身にしみただけですから」
マグノ「あんたが甲斐性なしだったら、この全宇宙で甲斐性のある人間なんていなくなるだろうさ」
コクウ「俺はそんなんじゃありませんよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・想い人が宇宙に流されていく様を目の当たりにした女がいるんです。その涙を止めれなかった。宇宙という名の無慈悲な空間に流れていく男はどれだけ無念だったころか。俺は2人の心を守れなかったんです。それがどうしても、歯痒くて」
マグノ「・・・・・・・・・あんたは良くやっているよ。クォーターの隊長も言っていたろ? 自惚れるなってね。全部自分でどうにかできるほど世界は甘くない。・・・・・・・・・そうだろ?」
コクウ「はい。知っています。・・・・・・・・・」
マグノ「納得するには時間が掛かる。あんたは心配要らないことは知っているがね」
コクウ「・・・・・・・・・恐縮です」
 それでもコクウは非常に珍しいが気を落としていた。それは周囲が見れば一目瞭然なことだったのだが。
 気が回らなくなっていたのは確かだった。周囲の人間の数が少ない。ふと疑問に思い、コクウは傍にいたプザムにたずねる。
コクウ「副長、ブリッジ要員が少ないように思えるんだが?」
プザム「ああ、そう言えばお前の報告はまだだったな。お前が船に戻ってくる前にニルヴァーナはマクロス・フロンティアの救助活動をしていてな。救助者の多くを収容したんだ。動ける者のほとんどはフロンティア政府に返したが、重態患者はニルヴァーナの施設で面倒を見ている。その数が多くてな、リーリウムも含めた数名のブリッジ要員が医務室に回っている」
コクウ「! 俺も手伝ってきます」
プザム「コクウ、お前は少し休め。戦い詰めだろう?」
コクウ「いえ、元が頑丈なんで問題ないです。それに医療かじっているんで役には立つはずですから」
プザム「お、おい!」
 プザムの言うことも聞かずに、コクウは小走りでブリッジから医務室に向かう。


 確かに、医務室は大盛況だった。重態患者だけという言葉には少し語弊がある。重態患者でも動かせるものはフロンティア政府に返したというのが的確な表現なのだろう。重態患者で動くこともできない人間というのはもう意識もなくほとんど瀕死状態ということだった。ドゥエロとパイウェイがほとんど休む間もなく働いていたのは2人の表情を見れば想像が付く。リーリも包帯の交換や事務作業に勤しんでいる。
 コクウが医務室に入ってきたのをドゥエロが見つけると歩きよってくる。
ドゥエロ「戦い詰めだったんだろう? ヒビキ達はもう休んでいる。お前も休め」
コクウ「副長にも言われたが、俺は頑丈だ。まだまだ働ける。それに、俺の医療で多少良くなる患者もいるはずだ」
ドゥエロ「東洋医学だったか? 何ができる?」
コクウ「確実じゃないが覚めない奴を起したり、体の内外の歪みの矯正、血行の促進。勿論、看護師の知識も持ち合わせている。資格はないがな」
ドゥエロ「充分だ。・・・・・・・・・覚めない患者が1人いる。起こせるというならば起してみてくれ」
 ドゥエロが案内したのは体を包帯でぐるぐる巻きに去れた青年だった。頭にも包帯、呼吸器も使っている。恐らく、自発呼吸もできていない。コクウから見ても死亡一歩手前だった。
ドゥエロ「この患者が今尤も深手だ。片肺を摘出、宇宙空間にしばしの間さらされていた為に呼吸不全。脳に血が通わない状態が続いた。・・・・・・・・・ここまで持ったのは奇跡といえる。・・・・・・・・・治せるか?」
 コクウはその青年の顔を見続けていた。見知った顔だったからだ。整った顔。ゼントラーディ特有の耳。
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ミシェル君!」
ドゥエロ「ああ。ミハエル・ブラン。先日フロンティア内を案内してくれた青年だ。宇宙空間に吐き出されてから直ぐにヒビキとジュラがヴァンドレッド・ジュラの防護域で囲ってくれたために死なずに済んだ。瀕死なことには変わりないがな。死なせたくはない」
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの2人が?」
 先日まで機体がカッコイイ如何のこうので揉めていた2人だ。その2人が率先して彼を救ってくれた。コクウの目に悲しみではなく、喜びと希望によって満たされていく。
コクウ「! ミシェル君! よく生きていた!! 絶対に助けてやる!」
 コクウはそう言うと、ミシェルの頭に掌を乗せてゆっくりと目を瞑る。
 偶然か、必然か、奇跡か、はたまた全てなのか。そのどれかはドゥエロはわからなかった。だが、コクウは自身の言葉通りに絶命寸前だったミハエル・ブランの命を救う。掌を額に当てて数時間がミハエルが目を覚ますまでの時間となる。



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