粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃 第壱拾話 『南風、シベリアに吹く』 前編


第壱拾話 『南風、シベリアに吹く』 前編


 セツヤが帰艦してから約1日。休憩を挟んで既に出港準備は完全に整っていた。眠り眼を露骨にこすりながらセツヤがブリッジに戻ってくる。
ユメコ「おはようございます」
 今はもう午後の3時頃。おはようの時間ではない。
セツヤ「皮肉ありがと。ん! ブリッジは久しぶりな気がするな。・・・・・・・・・ただいま。エーデ君、ユージーン君、ジュリア君」
エーデ「お帰りなさいセツヤさん」
ジュリア「心配してましたよ。特に副長が」
ユージーン「もう、いなくならないでくださいよ。宥めるの本当に大変なんですから」
セツヤ「え゛ーー、そんなこと言われてもなぁ。・・・・・・・・・まぁ、どうせその負担はジャス君に行くわけだしね」
ジャス「そういう風に考えていたんですね?」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・概ねはね」
ジャス「開き直りますか。・・・・・・・・・はぁ」
セツヤ「ジャス君のため息見るのもすっごい久しぶりな気がするなぁ。これを見ると俺が艦長だってこと、実感するよ」
ジャス「あなたはホントにアホですか!? 人の気苦労見て役職実感するなんて」
セツヤ「最近はね、アホでもいいかなって思えるようになってきたよ」
ジャス「うぐっ!? なんというポジティブシンキング。これは自分の手に負えませんね」
セツヤ「あははははは。・・・・・・・・・さてと」
ユメコ「うん。お遊びはここまでだね。機関に異常なし。いつでもいけますよ。各システムの点検も既に終わってます。電磁フィールドのキャパが増えているんでそのこと忘れないでくださいね。後はまぁ問題ありません。迷彩システムについてはこっちで補正しますから。操艦に関しては以上です」
ジャス「社長からお聞きになっていると思いますが新装備が備わっています。非収束ヴァストキャリバーキャノンです。通称VCC。通常の主砲よりは威力が若干低いのですが、その分攻撃範囲が異様に広い上に発射中に砲塔を動かすことが出来ます。重戦艦の装甲は厳しいですが巡洋艦クラスの装甲ならば打ち抜くでしょう。また、機動兵器郡に対しても非常に有効な武装と言えます。左右各一門装備されています。更にイズナ専用のシリンダーも補給しています。節約して14発の発射が可能です」
セツヤ「浦木さんに感謝! エーデ君、浦木さんに通信入れてもらえる」
エーデ「了解」
 ブリッジが生き生きとしているように思える。一人ひとりの声に艶がある。直ぐに風伯のメインモニターに浦木が出る。
セツヤ「色々とお世話おかけしました。・・・・・・・・・風伯出航します」
浦木『いえ、当然のことをしたまでです。どうか風伯クルーの皆様に御武運があらんことを。そして、サイード司令にもよろしくお伝えください』
セツヤ「わかりました。じゃあ、浦木さんよろしくお願いします」
浦木『ご安心を』
 通信が切れる。セツヤと浦木の関係はセツヤがミスリルの所属に入る前から続いていたのだ。当然の関係といえる。セツヤは力を込めて艦長席から立ち上がる。艦長服がその動きになびいて揺れる。やはりセツヤにはパイロットスーツも似合うが艦長服こそ最高の衣装だとユメコは思ってしまった。
セツヤ「よーーし! 出航だ! 機関始動! 各箇所にエネルギー伝達!」
エーデ「艦内放送。艦内放送。これより風伯は発進します。各クルー、所定の位置についてください」
ユメコ「了解。機関始動。エネルギー伝達」
マリア「ドッグ内に海水注水します」
ユージーン「周囲に障害物無し!」
マリア「海水注水70%を越えました」
ジュリア「了解。エンジン点火します」
エーデ「エネルギー伝達行き渡りました。稼働率95%で維持」
ユージーン「大気圏内迷彩システム異常なし。エネルギー伝達確認。いつでも展開できます」
マリア「海水注水100%」
ジュリア「エンジン点火確認。出航できます」
エーデ「ヘムルート第九番ドッグオープンします」
セツヤ「・・・・・・・・・風伯発進!!」
ジュリア「了解。発進します!!」
 風伯が海水中をゆっくりと前進し始めた。


 出航後、空の雲の動きに合わせて離水して大気圏迷彩システムを始動。無事に大気内に姿を晦ますことができた。ここからは後は安定。ゆっくりとではないが、ロシアに向かって航行を開始する。前の戦闘を考えると随分とすんなりと上手く言っているような気がする。勿論気がするだけなのだが。
セツヤ「思い通りになるっていうのは楽で良いねぇ」
ユメコ「セツヤさんもそう思いますか? 私も締まるところは締まっているはずなのにまったりしているなぁと思っていたんですよね」
ジャス「DEAVAからの逃亡戦は窮地に窮地を重ねていましたからね。本当に迷彩システムが我々の生面線ということを実感させるものでした。落ち度がないのにあれほどのことになるとは」
セツヤ「まぁ、皆が無事だったんだから良かったんじゃいの」
ジャス「それでも問題は結構山積してます。先立って状況が掴めない西太平洋戦隊とエトランゼの代機ですね」
ユメコ「むっずかしいですよ。あれは世界に3機しか残っていないヒュッケバインマークUのカスタマイズ機ですからねぇ。きっとコバヤシ博士とラドム博士が怒り狂いますね」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁぁぁあああ!!!」
 セツヤが艦長席にとっぷす。この風景も何かしら懐かしい感覚すらある。
ジュリア「副長、ダメですよ。セツヤさんは義理堅いんですから」
ユメコ「あーー、冗談なんですよ? 分かってますよね?」
 ユメコもさすがに悪気が発生したようだ。肩を丸めたままで立ち上がり、ブリッジを出て行こうとする。
ユメコ「え゛えぇー!? セツヤさん!?」
セツヤ「傷ついた。ちょっと出てくる」
ジャス「はい」
 セツヤは何の躊躇いもなくブリッジを出て行く。これに慌てたのはやはりユメコだ。
ユメコ「ぅあああーー!! 気にしてたよ!! まさかあんなに気にしてるとは!!」
マリア「副長。大丈夫ですよ」
 マリアは優しく語り掛ける。まぁ、適当に見えてセツヤはそれほど適当ではない。マリアもセツヤがユメコの言葉に傷ついたわけではないと思っている。セツヤはそれほど青くはない。ブリッジを後にするために言い訳なのだろう。だからジャスに言葉を残している。戦術眼、戦略眼において確かにユメコは卓越した存在だ。だが、こういう人間との機微という点においては随分疎いところがある。セツヤもその部分を見透かしていなかったのかもしれない。
ユメコ「そうかなぁー、嫌われてないかな」
マリア「ええ。あれはセツヤさんなりの冗談ですよ」
ジャス「自分もそう思います」
ユメコ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぅががぁぁぁーーーー!! 騙されたぁぁーー!!!」
ジャス「いえ、別に騙してはいませんけど。まぁ、色々すべきことがありますからね。艦長には」
 ジャスの検分どおり。艦内で自分のすべきことをするべく歩き回ることになる。


 セツヤのまずしたこと。それは新たなクルーである羅螺軍からの連れ去り組みのみつき達とゲッコーステイトの引き抜き組みのレントンを食堂に呼び出すことから始まる。唐突だが、セツヤは割と忙しい。今しか時間が作れないというところがあるのだろう。突然の呼び出しにも嫌な顔一つせずに一同が食堂にやってくる。各々自分等の役職にあった格好をしている。みつきは風伯の食堂でコックの手伝いをすることになったのでコック姿だ。3人娘はパイロットの格好をしている。レントンと早瀬は整備班と同じツナギの上にジャケットを着た格好になっている。
セツヤ「悪いね。忙しい所だろうに呼び出してごめんね」
 全員が艦長姿のセツヤが随分と珍しいのかもしれない。3人娘が驚き喜ぶ。
アリア「カッコいい!! セツヤってホントに艦長さんなんだ!!」
みつき「アリア! 艦長になんてことを!」
セツヤ「良いんですって。役職が付いた位で威張り散らすようなことしませんって。セツヤで良いです。文句言う奴は俺が許しません。・・・・・・・・・そんなことよりも、呼んだ理由だよ」
ミーナ「へ!? 私達が心配だったとか?」
セツヤ「俺はこの艦のクルーにはそれなりに自信を持ってるよ。みんなに危険が及ぶような事態はちょっと想像できないね」
ライラ「うん。皆良い人だよ」
早瀬「はい。ヴェルトフ整備長にも良くしてもらっています」
セツヤ「それは良かった。・・・・・・・・・で、悪いけどももう直ぐ俺達はまた戦闘になると思う。だから、君等を降ろすなら今しかない。本当ならもう試用期間をもう少し取りたかったんだけどもそうもいかないということ。・・・・・・・・・それで今俺は君等の質問に出来る限る答えるから、それで決めて欲しい。残るか、降りるかをね。勿論、アフターケアはするよ。ここにいるのが嫌というならヘムルートに紹介状を書くよ。ってことで質問ある? 何でも良いよ?」
 セツヤの意図を全員は理解できたようだった。まず早瀬が手を上げる。
早瀬「なら、遠慮なくお聞きします。クヌギ艦長」
セツヤ「俺を艦長とか大佐とか呼ばないで欲しいな。つうか呼ぶな。これは俺が定めるたった一つのルール。守らないと返事しないよ?」
早瀬「・・・・・・・・・本当に良いんですか? 団体行動をする上でそれは」
セツヤ「知らないよ。軍規って奴でしょ? 必要じゃないし俺は」
早瀬「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました。セツヤさん」
セツヤ「うん。それがいい」
早瀬「・・・・・・・・・・・・・・・・・・セツヤさんは前に言いましたね。この船はヘムルートの所属ではないと。これほどの規模の戦艦を保有している組織です。出来ればその組織について説明をお願いしたいのですが」
セツヤ「ミスリルって知ってる?」
早瀬「・・・・・・・・・ミスリル? えーー、確かどこの国家にも属さない対テロ組織で、十年先を行く武装を保有し、世界中の紛争に介入している秘密組織だと思っていますが」
セツヤ「そんな感じかな。大体網羅しているよ。俺等ミスリル」
 なんともまぁ、雑だった。というか説明じゃない。ヒントをあげて肯定しただけだ。さすがに酷い説明だと思ったのかしっかりと補足する。
セツヤ「ちょっと説明が荒いかな? でも、その説明で大体合ってるんだよね。この風伯は世界中に5つある戦隊の中でも宇宙戦隊『ティル・ナ・ノーグ』に所属してる。支援を貰って世界のテロ行為、紛争行為に介入している。ヘムルートって言うのはその支援先の一つなんだよ。個人的に俺の付き合いはある。・・・・・・・・・早瀬さん、これで良いかな?」
早瀬「え、はい」
みつき「・・・・・・・・・わたしからも。・・・・・・・・・現状において、風伯の敵とは何ですか?」
 鋭い質問だとセツヤは思う。何を敵に回しているのか、それは船で生活するうえで前もって知り得たい情報の1つであることは間違いない。
セツヤ「・・・・・・・・・敵かぁ。明らかに俺等が特に注視しているのはアマルガムとガルズオルム、堕天翅族。俺等を敵視しているのはアンチクロス、州軍に連邦軍に連邦軍。俺の所属が知られれば羅螺軍も敵に回すことになるだろうね。もう敵だらけ」
みつき「何故連邦軍と州軍がミスリルの敵になるんですか? 彼等はセツヤさんに近い存在だと思うのですが」
セツヤ「それは・・・・・・・・・、ちょっと前に彼等と一件やらかしてね。・・・・・・・・・ことの詳細は許可を出しておくから後でジャス君に詳しく聞けばいい。けど、自分に恥じるようなことはしていない。こんなんでいいかな?」
みつき「・・・・・・・・・十分です。ありがとうございます」
セツヤ「あ、皆には偽名を使って暫定的にヘムルートの社員っていう肩書きも持ってもらう。福祉厚生は問題ない。お給料もしっかり出すからねー」
アリア・ライラ・ミーナ「「「やったあーーーーー!!」」」
 3人娘が飛んで喜ぶ。お給料などは全く期待してはいなかったのだろう。
みつき「そんな匿ってもらえただけでもありがたいのにそんな厚遇では」
セツヤ「・・・・・・・・・これは正直なところみんなの逃走資金に当ててほしいかな。正直、俺等がいつまで皆を匿っていられるかは分からないからね。いざとなったらこのお金を持って逃げて欲しい。ヘムルートの支社は世界中にあるからそこまで行ければどうにかはなるでしょ? 仮の話とは言え、無責任な話だけれどもね」
みつき「・・・・・・・・・そんな。そこまでしてもらっては」
セツヤ「借りは返すって言ったでしょ? 働いてもらっている分、これでもまだ足りないと思ってるんだけど?」
みつき「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなこと・・・・・・・・・」
セツヤ「レントン君はどうだい? 黙っているけども風伯に慣れたかい?」
 少し前から黙っているレントンのセツヤは声をかける。
レントン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
 なぜかレントンは震えている。その様子にセツヤはちょっと顔を引きつらせる。
セツヤ「え゛!? 何々? 何か問題あった? 震えるくらいにきつい事してたの? 確かにユゼフさんは厳しいこと言うけどもさ、そんなにきつかった?」
レントン「・・・・・・・・・違うんです。俺、こんなに優しくされたことなくって。ユゼフさんには爺ちゃんみたいに怒鳴られるけどそれでも楽しくって。・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺、セツヤさんにたくさん迷惑かけたのに・・・・・・・・・。追い出されたっておかしくないのに」
 なんて甲斐甲斐しいことを言うレントンの背中をセツヤはポンとたたく。
セツヤ「・・・・・・・・・ははっ。良いんだよ。そんなことを子供が言うもんじゃないのになぁ。やっぱりレントン君は見所があるね。もっとたくさんものを見て知って、逞しくなりなよ。その間での迷惑なら掛ければいい」
レントン「・・・・・・・・・はいっ!」
セツヤ「うん、いい返事だ。・・・・・・・・・あ、言い忘れたんだけどねレントン君には給料を出せないんだよ。理由は分かるよね?」
レントン「俺が子供だからですか?」
セツヤ「その通り。労働法に抵触する。けども、君もみつきさん達と同じで、金はこの先絶対に必要になる。だから、口座を偽装しておくから。あとでジャス君から説明を聞いておいてくれ」
レントン「え・・・・・・・・・良いんですか?」
セツヤ「必要になるって絶対。そんなに大きい額じゃないけどもね」
レントン「え、あ、ありがとうございます」
セツヤ「良いんだって。船って言うのは万年人手不足だからね。・・・・・・・・・働いてもらえるなら大歓迎だ。君達は身元もしっかりしているからね。問題ないことも知ってる。・・・・・・・・・だから、俺は君等にこの船に乗っていて欲しいと思っている。どうかな?」
みつき「そんなこと聞かないでください。残ります。それが一番安全なんでしょうから。それに、もしも何かあってもあなたの船でなら納得できます。勿論、早瀬達がどう考えるかはわかりませんが」
早瀬「みつき様が残るなら私に拒む理由はありません。よろしくお願いします。セツヤさん」
アリア「だよねー♪ 早瀬さん」
ミーナ「残るに決まってるよ。セツヤ!」
ライラ「よろしくね」
セツヤ「ありがと。よろしくお願いするよ」
レントン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は」
セツヤ「決められないかい?」
レントン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
セツヤ「・・・・・・・・・はははは。そうだろうね。分かるよ。君にとってゲッコーステイトは所属場所って意味以外の意味もあるだろうからね。・・・・・・・・・なら、アルバイトでどうだい?」
レントン「え!? アルバイト?」
セツヤ「そう、アルバイト♪ この船にいれば衣食住は困らないからね。病気になっても医者もいる。だから、時間給で働くだけ。いつでも辞められるよ?」
レントン「そんなことって、良いんですか?」
セツヤ「構わないさ。正社員になりたかったらいつでも言ってね。・・・・・・・・・けど、どういう経緯でもこの船に残ってくれるのは嬉しいな。感謝するよ。残ってくれてありがと」
 セツヤが頭を下げる。なんともまぁ謙虚な人間だ。その格好を見てみつきとレントンが慌てふためいて立ち上がる。
みつき「や、止めてください! あなたにこんなことしてもらう必要はないんですから!」
レントン「そ、そうですよっ! 助けてもらったのに、俺なんか働いて当然でなのに、給料までくれるのに! 頭なんて下げないでください」
セツヤ「・・・・・・・・・これは礼儀だよ。細かな書類は今晩用意しておくから。もう聞きたいことはないかい?」
 もう席からたったセツヤが何か思いついたように振り返って聞く。
ライラ「あ、今どこに向かってるの?」
セツヤ「シベリアだよ」
 ニッカと笑ったセツヤはとことこと食堂を後にする。


 セツヤが医務室に入る。部屋の中にいたエフレムとネージュが反応する。
セツヤ「どうも。先生、ネージュ」
ネージュ「セツヤ!」
エフレム「ご苦労様です。艦長」
 エフレムがセツヤに寄り、ネージュはセツヤに抱きついてくる。セツヤはネージュの頭を撫でながらエフレムを見る。エフレムの骨折により固定されている腕は痛々しかった。
セツヤ「エフレム先生、怪我してるのに続投させて悪かったね。どうしても、先生にはネージュと一緒に向こうの2人を見て貰わないといけなくって。本当なら治療に専念して貰いたかったんだけども」
エフレム「何を仰るんですか艦長。艦長がお許しにならなかったら直談判してでも乗艦するつもりでした。こんな自分を必要としてもらえて艦長には感謝しています」
セツヤ「・・・・・・・・・ありがと、エフレム先生。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ネージュも頑張っていたらしいな。ジャス君から聞いたよ」
 セツヤのこの言葉を受けてなぜかネージュはシュンとなる。表情が沈んでからネージュは口を開く。
ネージュ「でも、セツヤみたいには出来なかった。・・・・・・・・・エフレム先生にも手伝ってもらって頑張ったけど、まだフイユとトネールは危険だと思う」
セツヤ「・・・・・・・・・いや、そうは思わないね。ネージュは少し前まで向こう側にいたんだぞ? 今や更正を促す側だぜ? しかも死なせていない。充分過ぎるさ。エフレム先生、カルテ見せてもらえる?」
エフレム「用意しています」
 エフレムから渡されたカルテをセツヤは患者専用の椅子に座って時間を掛けてじっくりと読み込む。フイユ、トネールに仕込まれていた自殺専用のツールの隠し箇所。投与した薬に種類、量と経過時間。ネージュとの会話の内容に様子まで細かに記されている。
セツヤ「2人とも流石だね。2人から情報の欠片も聞き出そうとしていない。これが一番重要だったんだ」
エフレム「それは、ネージュのときに艦長のしていた行動を真似ただけです」
ネージュ「けど、まだダメみたい」
セツヤ「良いんだよ。・・・・・・・・・本当はじっくり時間を掛けてネージュがやるべきなんだけどな。俺が代わりにやっても良いか?」
ネージュ「違うよ! 代わりだったのは私だもん。セツヤがやんなきゃ2人はダメなんだ!」
 ネージュの込めた言葉になぜか無性にセツヤは嬉しくなりネージュの頭をくしゃくしゃに撫でた。
セツヤ「なら・・・・・・・・・任しとけ!」
ネージュ「うん!」
セツヤ「じゃあ、やるか♪」
ネージュ「うん!」
エフレム「了解です」
 3人が留置されている部屋に入っていく。
 部屋は思ったよりも明るい。暗いことに意味はないから明るくしろといっていたことを逐一エフレムは書き記していたのだろう。この勤勉さが明らかにネージュがフイユ、トネールを構成させるための行動の力になっている。勿論、ネージュは2人が行動を起こさないための抑止力にもなっていたのだろう。セツヤ達が部屋にはいるや否や、別々の牢屋に入っている2人がセツヤの存在に驚き、そして睨んだ。
セツヤ「そんなに睨むなってば。取って食いやしないって」
フイユ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
トネール「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 セツヤは牢屋の前に胡坐で座り込む。そして、自分の足の上に肘を付いて笑いながら2人を眺めた。
セツヤ「ネージュとエフレム先生の尽力もあったんだろうけどね。俺はまず2人に礼を言いたいんだよ。・・・・・・・・・ありがとう。死なないでいてくれて。生きていてくれて」
 セツヤは両拳を床につけて深々と頭を下げる。これは先ほどの礼儀とは訳が違う。本当に感謝の気持ちだ。その様子はこの牢に入っている2人には驚くべきものだ。
 セツヤは暫くしてからゆっくりと頭を上げる。
セツヤ「・・・・・・・・・フイユ、トネール、君達は運がいいよ。助けられた。助けることが出来た。俺は君達を助けたいと思っている。・・・・・・・・・今の君達は俺の言っていることが理解できないかもしれない。でも大丈夫だ。理解できるようになる。ここにネージュが来た時もそうだった。俺の言葉の全てを疑っていたよ。自分が一番苦しいはずなのに苦しいことが分からないんだ。・・・・・・・・・苦しくなかったかい? 痛くなかったかい? 殺すことが、血を見ることが。俺は嫌いだし嫌だよ」
 セツヤは淡々と語る。相手が語っている内容を理解できるかどうかは問題ではない。一部分でも理解できればいい。更に言えば理解などしなくてもいい。語っているときのセツヤの表情は非常に優しいものだった。その表情から伝染する感情さえ伝わればいい。セツヤはそう思って語る。その一部分が伝わるか伝わらないか、フイユが口を開く。
フイユ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・けど、ネージュを戦わせている」
 発した。セツヤは初めてフイユの言葉を聞いた。その様子をトネールも驚いている。だが、トネールは再び自分の感情を隠した。
ネージュ「違うよ! 私は自分で選んで・・・・・・・・・」
 セツヤが手でネージュの言葉を止めた。セツヤはそれでも優しい。
セツヤ「その通りだ。俺は無能な人間だよ。結果的にではあっても子供を戦わせている。ネージュが何と言ってもおれは戦わせないことは出来た。けど、俺は大事にしたかったんだ。ネージュが産まれてはじめて選んだこと。俺等を守りたいといってくれた。とっても嬉しかったよ。・・・・・・・・・君等の持つ情報なんていらない。事実、俺はまだネージュからそちらの情報について尋ねたことはない。・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は君等に望むことは2つだけ。死なないで欲しい。選んで欲しい。これだけだ。たったこれだけ。これだけ守ってくれるなら俺はいつでも君等をそこから出そうと思っている」
 異常であり異端。だが、救いの使者はここにいた。その事実をこの2人が受け入れられるかというのは別問題なのだが。
フイユ「・・・・・・・・・信じられない」
トネール「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 フイユの言葉にトネールが頷く。だが、答えてくれたこと。反応を示してくれたこと。これだって十分な進歩だ。
セツヤ「当然だよ。君等の人生を考えればね。・・・・・・・・・ゆっくり考えればいい。ゆっくり見ればいい。俺の言葉。ネージュの言葉。エフレム先生の言葉も。世界はとっても優しいんだよ。フイユ、トネール、君等はそれを見せてもらえなかっただけなんだ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・約束をしようか。・・・・・・・・・俺は君等が望まない限り、戦わせない。俺が生きている限り、2人を守る」
ネージュ「! わ、私も守る!! フイユとトネールは・・・・・・・・・兄弟だから!」
エフレム「凡庸な人間ではありますが、私も医者の端くれです。患者は守らなければいけない。約束します」
フイユ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
トネール「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 優しい世界で起こる戦争に加担している者達の言葉がこの2人を真の意味での沈黙に導いていた。それほどまでに驚愕の言葉だったからだ。暗く、厳しい世界しか知らない人間にとって現時点では到底理解できない言葉を発していた。
セツヤ「・・・・・・・・・今日はこのくらいにしようかな。時間を作ったらまた来るよ。色々話をしたいしね。・・・・・・・・・ああ、話なんかしなくてもいい。俺の独り言を聞いてくれればそれでいいから。外にネージュもいる。エフレム先生も。何かあったら言えばいい」
 セツヤはよっこらせといった具合に立ち上がると留置場を後にする。
 フイユとトネールの目には入ってきたときとは違う人物のように映っていたのかもしれない。その背中を見えなくなるまでなぜかずっと目で追っていた。


 今度、セツヤがやってきた場所は格納庫だった。セツヤが格納庫にやってくると何かを言うことなくても、各々人が集まってくる。
ソースケ「セツヤさん!」
セツヤ「おう、ソースケ君。ジャス君辺りから話は聞いてる?」
ソースケ「肯定です。ダナンの音信が途絶えているという話と救援要請の話は」
セツヤ「悪かったね。テッサ含め、君等の戦隊にはお世話になっているって言うのに急行できなくって」
ソースケ「お心遣いだけで十分です。それにこの船の状況は自分も理解していますので。・・・・・・・・・それに」
セツヤ「それに? ・・・・・・・・・ダナンは簡単にはやられない・・・・・・・・・かな?」
ソースケ「肯定です!」
セツヤ「そうだね。俺もそう思うよ。テレサ・テスタロッサ大佐を筆頭に彼等はタフだ。ヤーパンの天井の護衛が例えどんなに厳しくても簡単に負けるとは思えない。・・・・・・・・・俺は過信してるかな?」
ソースケ「いいえ!」
セツヤ「いい気概だよ。・・・・・・・・・なら、悠々と行こうか」
ソースケ「イエッサー!!」
セツヤ「ふはははは。ソースケ君はいいなぁ。けど、俺はサーと呼ばれるの嫌いだから止めてね」
ソースケ「了解しました」
 セツヤはソースケの肩をポンと叩く。その話を終えるタイミングを別に狙っていたというわけではないだろうがSRT部隊の人間もやってくる。
マオ「セツヤさん、任務ご苦労様でした」
セツヤ「もう大変だったね。収穫もあったけど」
クルツ「部隊の頭があんなことすんだもんよ。あー、でも少佐ならやるかもしれねーけど」
セツヤ「少佐? カリーニン少佐だよね?」
クルツ「セツヤさん、あの親父知ってんの?」
セツヤ「そりゃ知ってるよ。昔、ちょっとだけだけど戦ったことあるし」
クルツ「・・・・・・・・・ぅお、強烈な洒落だな。冗談じゃすまないぜ、それ?」
ソースケ「本当なのですか?」
セツヤ「ちょっとだけだよホント。けど、あのクレバーな戦術とそこから戦略も見越す目は脅威だったね。あれほどの軍人は世界探してもそうはいないと思ってたよ。思ってもいる。君等を見ていればそれを再認識しちゃうな。けど、傭兵としてはそんなに珍しいことじゃないよね?」
マオ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 確かに珍しいことではない。傭兵家業をしていればそんなことはざらだ。この部隊に派遣される前ならば単純にそう思えただろう。しかし、今は違う。このセツヤ・クヌギは天才だ。上層部が大佐の地位まで与えて艦長に仕立てている理由が良くわかる。テッサと同等なほどに特殊な能力を秘めた人間だ。その人間と直属の上司であるカリーニンが戦ったことがあるということはどれほどの状況なのか少なくともマオには想像がつかなかった。
セツヤ「マオさん」
マオ「・・・・・・・・・は、はい」
セツヤ「そんな心配そうな顔しない。カリーニン少佐が如何かは知らないけども少なくとも俺には遺恨はないよ?」
マオ「そのような心配はしていません」
セツヤ「知ってる。・・・・・・・・・ふふ、ところでマオさん、俺が連れてきた羅螺軍パイロットの3人娘、役に立ってる?」
マオ「はい。今は個人の能力の数値化とそこから羅螺の機体のスペックを割り出させています。私見ですが筋は悪くないと思います。ですが、どうにもコアロボットの操作性はPTやアームスレイブといった既存のものとは著しく異なるようで一般的な操縦技術の教育から入らないと考えています。それでも、シミュレーションはそつなくこなしますから仮想標的としては絶好だと思っています。ギリアム大尉、マルス中尉も同意見です」
セツヤ「役に立ってるってことだね。良かった良かった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ところでギリアムさんやマルスさんは?」
マオ「STTとギリアム大尉はユゼフ整備長のところにいるはずです。ローブ・ロンのカスタマイズ案に全員の意見を取り入れるとかで。私達は昨日のうちに意見は提出しておいたので」
セツヤ「・・・・・・・・・あれか」
クルツ「あれ? あれって何すか?」
セツヤ「ネージュ専用のカスタム機。わざわざ真田博士に案を原案を作ってもらったんだ」
クルツ「すっげーなぁ。なぁ、ネクラ軍曹。専用機だぜ? 男の夢だよなぁ?」
ソースケ「・・・・・・・・・? 専用機というのはそれほどまでこだわる理由は分からん」
セツヤ「ある種の象徴になるだろ? 功績を自分の機体で示せるわけだ。有名になるのも簡単だしね。しかも、一般機に比べて大体個人向けのカスタムがされてる。昔から男はそれに憧れるんだよ」
ソースケ「・・・・・・・・・納得しました」
クルツ「分かってんなぁ!! セツヤさん! やっぱ、俺セツヤさんの下がいいわぁー。なぁ、俺にもカスタム機作ってくれよ。こう、スナイピング専用みたいな奴」
セツヤ「・・・・・・・・・専用機って訳じゃないけどさ、実はちょっと考えてるんだよね」
クルツ「マジで!!」
マオ「!? 本当ですか?」
セツヤ「いや、正確に言えばアームスレイブに装備できる特殊装備みたいなものをね。前々からユゼフさんには言ってるんだよね。君等の強みを最大限生かせるような奴」
クルツ「マジかよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・感動だよ」
セツヤ「まだまだ時間は掛かるよ。実用段階どころか試作段階にもないからさ。あんまり期待しないで待っててよ。色々技術的な問題もあるからね。実はネージュの機体はその構想も引き連れての試作機ってことになってるっていうのは裏話」
マオ「ですが、私達は出向している身です。そのような厚遇されては」
セツヤ「君等のお給金出してるの西太平洋戦隊だからね。本当はお給金代わりに送るつもりなんだよ。俺は君等にそれだけお世話になってると思ってるんだよ」
マオ「そんな。恐縮です」
セツヤ「そんな事言わない。それに、実用するかどうか微妙なところなんだよ。あんまり期待もしないで欲しいかな?」
マオ「ありがとうございます」
セツヤ「どういたしまして」


 格納庫の隅にある小会議室。そこに集まっていたのはパイロット陣でSRTを除く面々だった。
ユゼフ「ってーのが真田博士の原案だ。SRTの奴等からの意見はもう貰ってる。パイロット陣の率直な意見を貰いたい」
ギリアム「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
マルス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アール「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ホルテ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 全員がモニターに映し出された機体を見ながら睨みこむ。ただ1人、デモンベインのパイロットである九朗を除いていた。
九朗「・・・・・・・・・俺は門前外ッスよ? 機械関係はやっぱり」
ユゼフ「何言ってんだ。一番のデカブツを振り回し点のはお前さんだろうよ。これだって相当にピーキーだ。字が読めりゃ感想くらいは出るだろうが」
九朗「わかったよ、おやっさん。・・・・・・・・・感想ねぇ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・とりあえず武器がでかいんじゃないの? これを使うのってネージュなんだろ? こんなバズーカみたいな武器よりももっと小型の武装な奴の方が・・・・・・・・・」
ユゼフ「出るじゃねーか。・・・・・・・・・やっぱそうだよな。この機体は機動力で振り回す類の機体だ。火力は必要にならねー」
ギリアム「バルキリー乗りから言わせて貰うと、別な観点からも巨大な火器は必要ないと思う。空力的に安定しない。余分な武装は一切外すべきだ」
ユゼフ「軽量化という観点からもそれは俺も考えたがどうしてもそれじゃ心許無いんだよな。せめて1つは威力のある武装を持たせたいんだが」
ギリアム「難しいな」
アール「整備長、質問しても構いませんか?」
ユゼフ「おう、何だ?」
アール「この機体の盾って必要なんですか? 軽量化に念頭を置くならこれだって必要ないでしょうに。風伯のコンセプトと同じ『撃たせる前に撃つ』ならこれだってオミットすべきだと」
ユゼフ「あーー、これはちょっと訳ありでな。外せねーんだよ。この盾が真田博士案の最大の売りになっていてな。補助バーニアも兼ねてんだ。この機体の異様なまでの推力はリミットの解除と肉抜きだけじゃなくこの盾のおかげなんだよな」
マルス「それにしても、ピーキーですね。遊びがほとんどない。自分ならば慣れるまでに時間が掛かってしまう」
 モニターに映された映像の他にも渡された冊子を捲りながらマルスが喋る。
ユゼフ「そう思うよな。しかし、それは艦長も了承済みだ。問題ないそうだ。ネージュならば直ぐに慣れることができるとさ。SRTの連中もそれに関しては太鼓判を押していた」
マルス「・・・・・・・・・それでも、エトランゼほどではないですがね」
ユゼフ「あれは人間の乗る機体じゃねーからな」
ギリアム「?? どういう意味だ?」
ユゼフ「そうか。ギリアム大尉は知らなかったな。なら、ちょっと息抜きに聞いてみるか? 大尉、エトランゼの最大の売りは何だと思う?」
ギリアム「エトランゼの売り?」
ユゼフ「そうだよ。あの機体の最大の売りだ。あれは艦長専用にカスタムされた特別機。正直に言えば費用や手間の面で言えばこのネージュの機体よりも掛かってんだよ。・・・・・・・・・どうだ?」
ギリアム「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ギリアムは押し黙ってエトランゼお思い出すようにして考える。エトランゼの特徴。・・・・・・・・・一番に思いついたのはやはり死角がないということだろう。
ギリアム「あの機体には弱点がない。武装に関してもどの距離でも対応できるようになっている。それが最大の特徴だと思うが?」
 その回答にユゼフとSTTのメンバーが笑みをこぼす。誰しも思いつくであろう回答をギリアムが答えたからだ。
ユゼフ「違うぜ。・・・・・・・・・大尉、教えてやる。エトランゼの最大の売りはな、そのレスポンスの高さと動きの細やかさよ」
ギリアム「!? 整備長、どういう意味だ?」
ユゼフ「エトランゼは特脳研のケンゾウ・コバヤシ博士が操作伝達系を。マリオン・ラドム博士が武装系統をって分担して創作した機体なんだよ。ネージュのときと同じように艦長のデータを採取して作ったオリジナルな機体だが、エトランゼは艦長にしか乗れない。STTの連中にも乗らせたことはあるがまともに立たせる事も出来なかった。あれはもうピーキーという言葉すら生ぬるい」
ギリアム「マルス中尉たちでも立てなかった!? バカな! OSを積んでさえいればそのくらいは」
ユゼフ「OSなんざ意味をなさねーのさ。艦長はそのアホみたいに繊細な操作系を完璧に使いこなせるからな。エトランゼは完全マニュアル。FCSすら装備してねー。細かな動きで全部動かすんだ。不思議に思ったことねーかい大尉? 艦長は機械系全般にダメなんだ。今時情報端末すら習わねーと使えねーんだぜ?」
ギリアム「・・・・・・・・・! つまり、エトランゼは」
ユゼフ「今のローブ・ロンやエルシュナイデと比べてもスペック的に対して秀でているわけじゃねーよ。艦長はエトランゼを正に思いのままに動かしてんだ。あの動きの柔らかさを追従できる機体なんて存在しえない。開発したって意味がないからな。だが、それでも勝ち残ってんだ。頭が下がるぜ」
ギリアム「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ユゼフ「そろそろ話を戻そうぜ。他にももっと聞かせてくれ」
 ユゼフとギリアムの話が終わったところを狙っていたのだろう。セツヤが小会議室に入っていく。
セツヤ「・・・・・・・・・ローブ・ロンの話?」
ホルテ「セツヤさん!!」
ユゼフ「げ、艦長。今の話聞いてたのかよ?」
セツヤ「入り難かった。まったく。止めてよ。俺はただエルシュナイデの操縦が下手だったからした苦肉の策なんだよ?」
ユゼフ「あー、もうその話は散々しただろうによ。俺の見解に文句つけんな艦長」
セツヤ「ったく。・・・・・・・・・ユゼフさん、俺の話も聞いてもらって良いかい?」
ユゼフ「お、おお。ローブ・ロンの話だな?」
セツヤ「重武装はいらないと思う。ネージュはやっぱり高機動で相手を振り回すべきだね。けど、それでも武器は必要だ。なら、一緒にすればいい」
ユゼフ「? と言うと?」
セツヤ「この盾の中に収納すればいい」
ユゼフ「!! そうか。ここまで完全に独立した装備なら武装を収納してしまっても問題ないってことか」
セツヤ「それでも重いものは持てないけども肉抜きをした本体にまた贅肉を付ける事もないしね」
ユゼフ「それいただきだ」
 ユゼフが自分の冊子に急いで字を書き始める。こうなるとユゼフは止まらない。それをセツヤは知っているから声は掛けなかった。セツヤはユゼフ以外の全員を見る。
セツヤ「遅くなったけどもただいま」
マルス「もうあんな行動は慎んでください。寿命が縮みます」
セツヤ「その約束は守れないな。・・・・・・・・・けど、奢る方の約束は忘れてないよ」
アール「それは俺やホルテもご相伴に預かって良いんですか?」
セツヤ「アール君はいける口だからね。構わないさ」
ホルテ「やった♪ 楽しみにしてます」
セツヤ「後でゆっくり話そう。ギリアムさん、お世話になったようですね」
ギリアム「構わんさ。この部隊は居心地がいい」
セツヤ「なら、いっその事正規に部隊の人間になりますか? ギリアムさんなら大歓迎ですけど? いや、マリアフォキナさんに怒られますね」
ギリアム「あれはおっかないからな。怒るだけでは済まんぞ?」
セツヤ「でしょうねぇ」
ギリアム「ところで、俺も酒には目がないんだが?」
 暗に自分にも酒をおごれと言うことなのだろう。セツヤは含み笑いの表情を浮かべる。
セツヤ「どうぞどうぞ。ただ、俺は日本酒派ですがね」
ギリアム「それはいい。実は飲んでみたいと思っていたんだ」
セツヤ「いい傾向ですね。九朗君はどうする? アルちゃんに飲ませるのは気が引けるけども君は飲めるだろう?」
九朗「良いんですか?」
セツヤ「君さえよければね」
 この日の晩は遅くまで食堂に電気がついたままだった。




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