粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃 第玖話 『心、昂ぶらせる男の帰路』 後編


第玖話 『心、昂ぶらせる男の帰路』 後編


 炭鉱深く。この暗闇の中でセツヤの存在はありがたかった。場慣れしているということもあるだろう。笑っていてくれるということもあるだろう。何よりもこの圧倒的な存在感が隣にある。それだけでレントンには十分だった。
レントン「セツヤさん、あそこ!」
 レントンが指を刺す。
セツヤ「ん? まだ最深部じゃないぞ? 壁が・・・・・・・・・光ってるのか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!?」
 運搬車から降りてその光る部分をセツヤは見る。その中にいた。
レントン「エウレカ!?」
セツヤ「何だこりゃ!? エウレカちゃんが・・・・・・・・・埋まってる? それに・・・・・・・・・溶けてるのか? ・・・・・・・・・ちいぃ!!」
 セツヤはポケットからナイフを取り出すとエウレカを壁から切り離すべく周囲を切り取り始める。その間も手に様々な粘液のようなものが付着するがそれには一切お構いなしだ。
レントン「セツヤさん・・・・・・・・・」
セツヤ「・・・・・・・・・情けない声を出すなよ。レントンはエウレカちゃんを助けに来たんだろう!? なら今は、今だけは気張れよ。・・・・・・・・・これで・・・・・・・・・」
 セツヤはエウレカの癒着を切り離すと自分のジャケットでエウレカを包む。顔やシャツ、手にはエウレカの体にこびり付いているものと同様の粘液で塗れている。だが、セツヤはそれにも動じない。まだすべきことがある。救急の技術も有しているセツヤはエウレカのバイタルを確認する。
セツヤ「・・・・・・・・・とりあえず脈はある。心音も正常。出血・・・・・・・・・はないけども」
 そう。セツヤは知っていた。そして再認識した。エウレカは人間じゃない。これは確実だ。レントンは驚愕の表情を見せている。恐らくホランドはレントンに何の情報も与えていなかったのだろう。
セツヤ(だから言ったんだ! 己というものを自覚させないといけないって。あの野郎・・・・・・・・・人の忠告を完全に無視しやがったな)
 セツヤの重苦しい表情。それはレントンにも見て取れた。それだけに心配になる。
レントン「セツヤさん・・・・・・・・・あの」
セツヤ「ん? ああ、ごめん。顔に出てたか。・・・・・・・・・大丈夫だよ。俺は君等に危害は加えない。これは約束」
 レントンの表情1つで言いたいことを理解できるというセツヤのスキルはものすごいものだろう。レントンが今度は重苦しい表情になる。
レントン「エウレカは・・・・・・・・・あの、いい子なんです」
セツヤ「知ってるよ。それは知ってる」
レントン「・・・・・・・・・どうして、どうしてこんなことに・・・・・・・・・何でこんなことが起こったのか」
 涙を目頭ににじませている。現状がレントンの想像の遥か上で展開しているのだろう。だが、それはセツヤに言わせれば現状を認識させない人間の責任だ。エウレカの表情からも幾ばくかの不安の感情が読み取れる。ゆっくり理解させるべき問題のはずなのに。理解させていればこんなことにはならなかったはずなのに。不器用如何こうのレベルの話ではないようにセツヤには思える。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・エウレカちゃんにはこれからもっと辛い事が起こるよ」
レントン「・・・・・・・・・! 何で・・・・・・・・・何でそんなこと言うんですか!! 俺だって何が起こっているのかわからないのに!!」
セツヤ「エウレカちゃんが当事者だからだ。周囲の人間の出来ることは多くない。その中で君達ゲッコーステイトは彼女を支えないといけないからだ」
レントン「・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・俺そんな大それたこと」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなに大そ・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
 セツヤが運搬車にブレーキを掛ける。そして、更に奥底にいる人影をじっと睨んだ。
ホランド「止まれ!!!」
セツヤ「止まっているだろう?」
ホランド「お前にコメントは求めてねーんだよ!! エウレカを返せ!!」
 ホランドはセツヤに拳銃を向ける。それをセツヤは詰まらない物を見るかのような視線を伴って答える。
セツヤ「返すのは構わないが、随分と荒々しいな。・・・・・・・・・まず拳銃を下ろしてもらおうか。・・・・・・・・・ホランド・ノヴァク」
ホランド「!? そういえばお前オーストラリアの。お前州軍か!?」
セツヤ「いや」
ホランド「どこの誰とも知れない輩を信用するほど人間出来ていないんでな」
セツヤ「お前の尻拭いしてやったんだぞ? 礼儀を尽くせとは言わないが、拳銃を向けるのはあんまりじゃないのか? しかも、この射線軸。レントン君にも当たるぞ?」
ホランド「! うっせーよ!! まずはエウレカだ!! 返してからなら話くらい聞いてやる」
セツヤ「・・・・・・・・・お前等が何をしたいかは知らんよ。興味はない。俺に銃を向けることも構わない。だがな!! 部下に、同胞に銃を向けることがリーダーのすることか!! ・・・・・・・・・お前はリーダー失格だ!!」
ホランド「見知らぬうっとおしい男に何言われても悔しくねーな!」
セツヤ「はっ! そんなだからエウレカちゃんがああなった! レントン君も痛む結果になったんだ! 全部お前が何も見えていないからだ! ・・・・・・・・・いや、天性のガキ根性だからか?」
ホランド「んだとテメェ!!」
 セツヤとホランドが対峙しているとその間にレントンが割って入った。
レントン「止めてください! セツヤさんもホランドも」
ホランド「どけッ! レントンッ!!」
セツヤ「ああ。どいていた方がいい。・・・・・・・・・いや、こういうのはどうだ?」
 セツヤは拳銃を抜くと滑らかに自分の隣にある運搬車の中にいるエウレカに拳銃を向けた。
ホランド「! テメェ!!」
レントン「セツヤさん!?」
セツヤ「答えてもらおうか。ゲッコーステイトのリーダー、ホランド。さもなくば・・・・・・・・・だ」
 セツヤらしからぬ行動ではあった。それは間違いない。この行動を意外と思わなかったのはセツヤとホランドだけだろう。
ホランド「お前・・・・・・・・・お前、もしもエウレカを傷つけてみやがれ・・・・・・・・・。ただじゃおかねぇ」
セツヤ「お前にそんなことを言う権利はない。もちろん資格もだ。ただ答えろ。・・・・・・・・・お前達ゲッコーステイトの結成理由は何だ?」
 距離が離れすぎている。セツヤの動きに隙もない。苦渋の表情でホランドは語り始めた。
ホランド「・・・・・・・・・・・・・・・・・・くそっ! ・・・・・・・・・ゲッコーステイトは反政府組織。アゲハ構想に徹底交戦するために結成した組織だ」
セツヤ「アゲハ構想?」
ホランド「細かな説明はこの場じゃ無理だ。アゲハ構想はコーラリアンの殲滅を目的にした構想だ。俺たちは意思がないと認識されたコーラリアンと接触し共存することを目的にしている」
セツヤ「・・・・・・・・・じゃあ、エウレカちゃんは」
ホランド「・・・・・・・・・人型のコーラリアンだ」
レントン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・」
 ホランドの言葉に愕然としたレントンがその場に崩れ落ちる。
ホランド「もういいだろ!!」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう1つ、なぜレントン君にそれを言わなかった?」
ホランド「あんなガキに言って何になる!!!」
 セツヤの表情が強張る。ここまで酷いとは正直思っていなかったからだ。
セツヤ「そうかい。レントン君はエウレカちゃんの為の玩具ってわけか。だから要らぬ事は教えない。エウレカちゃん自身に負担になることもしない。・・・・・・・・・・・・・・・・・・彼女の意思も無視って訳か」
ホランド「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ」
セツヤ「そうかい。・・・・・・・・・聞きたいことは聞けた。約束だ。エウレカちゃんは返す。お前等の方が彼女の事知ってるだろうしな。・・・・・・・・・・・・・・・・・・!! っと」
 セツヤは腰を落として戦闘態勢に入る。そして、岩陰の向こう側を睨んだ。肉眼では把握できない距離。だが、セツヤの感はそれをしっかりと感じ取っていた。
ホランド「ちぃ!!」
セツヤ「狙撃か」
 セツヤが移動するや否や、元いた場所に銃弾が着弾する。そのタイミングとあわせるかのようにホランドがセツヤに突っ込んできた。素人ではないにしても近距離ならば負けない自信があったのだろう。セツヤの実力ならば何の問題もなく対峙できたはずだ。しかし、なぜかセツヤは抵抗しなかった。ホランドの拳とけりを顔面と腹に1発ずつもらう。
セツヤ「くぁ!」
 そのまま地面に叩きつけられた。
ホランド「偉そうな事ばっかり言いやがって!! 後でみっちり締め上げてやる」
 そのホランドの言葉にセツヤが笑みをこぼしたからだろう。逆上したホランドがセツヤの顔面を思いっきり蹴り上げた。流石にこの行動にはレントンも見かねたのだろう。ホランドに詰め寄る。
レントン「待ってよホランド! セツヤさんはエウレカを」
ホランド「うせぇぇええっ!」
レントン「ぅあっ!」
 八つ当たりとも取れるような一撃。拳がレントンの顔面に直撃する。セツヤの見る限りなんの手加減もない。吹き飛んだレントンは倒れたままで動かない。その一撃に流石にセツヤも黙って入られなかった。ゲッコーステイトのメンバーがこちらに寄ってくる。この状況下でセツヤはゆっくりと立ち上がった。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前、子供を殴ったか」
ホランド「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ!?」
 セツヤを横目で追っていたホランドだったが突然セツヤの体が視界から消えた。
ホランド「!?」
 セツヤはほぼ真後ろからホランドの顔面を捉える。ホランドがレントンにしたように何の加減もなくその顔面を捉えた。
ホランド「ぁぁ」
 ホランドの口端から血が流れるがセツヤはそんなことは構わないで畳み掛ける。今度はセツヤがやられたように顔面を蹴り上げてから再び顔面を地面に叩きつける要領で殴った。
タルホ「ホランド!!」
 銃を持った仲間が直ぐそこまで来ている。セツヤはホランドの関節を決めるとホランドを地面に伏せさせてその頭に拳銃を突きつけた。
ハップ「なんて奴だ。ホランドをあんなに簡単に」
タルホ「・・・・・・・・・あんた、ホランドを離しなさい」
セツヤ「・・・・・・・・・あんたはレントン君をこき使っていた姉さんだな。・・・・・・・・・何故だ?」
タルホ「ふざけてるの?」
セツヤ「いいや。しかし、狙撃したのはそっちが先だ。俺が手心を加えてやる理由はねーし、俺はこの男が嫌いだ」
 そういうとセツヤは目を細める。ある意味虚勢を張った言葉よりはよほど牽制になるだろう。
タルホ「待って!」
セツヤ「ん?」
タルホ「何が望みなの?」
セツヤ「望み? さぁ? 元々、俺はレントン君に会いに来ただけ。わざわざ州軍の包囲網を突破してな。こんなことになったのはこのバカが吹っかけてきたからだ。俺は元より平和主義だ」
 そう言うとセツヤが拳銃を持つ手に力を入れる。
タルホ「なら、私達がちゃんとした話し合いに応じればいいって事?」
セツヤ「別にもう必要ない。レントン君とエウレカちゃんがどうしているかと思ってきただけだ。欲を言えばこの男の本心を知りたいと思っていた。そして、どれも良くわかった。エウレカちゃんの何に固執しているかは知らないが周りが何も見えてない。自分のすべきことも。簡単に言えばこいつはガキだ」
ホランド「うっせー!!」
セツヤ「だ・ま・れ!」
 ガツンとセツヤはホランドの顔を地面に押し付けた。
タルホ「・・・・・・・・・言ってよ。どうすればいいのよ? 情報?」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・エウレカちゃんって言ったらどうする?」
タルホ「!? それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 タルホの顔がありえないくらいに曇った。この表情だけでセツヤには十分だ。必要以上の情報だ。
セツヤ「冗談だ。エウレカちゃんはそっちの設備でないと治療が出来ないだろ? ・・・・・・・・・しかし、少し安心した。一応心配してくれる人間はいるみたいだな。・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいだろう。エウレカちゃんもホランドも返してやる」
タルホ「それで? 条件は?」
セツヤ「条件は2つ。俺の安全とレントン君だ」
タルホ「!!?」
 意味が分からなかった。セツヤの考えていることに付いていけない。前者は理解できる。しかし、レントンをセツヤが欲しがる理由をタルホは見出せなかった。勿論、ハップも捕まっているホランドもだ。
セツヤ「どうだ?」
タルホ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・仲間を売れって言うの?」
セツヤ「仲間を撃つ男がリーダーをしている組織の人間の言葉なのかそれは?」
 その言葉にタルホの目が憤慨を極めたような表情になる。
タルホ「ホランド!! あんたは仲間を撃ったの!?」
ホランド「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
セツヤ「そうだよ」
 と代わりにセツヤが答える。そして続ける。
セツヤ「殺してもいいような仲間ならいらないだろ? 俺はレントン君が欲しいと思った」
 タルホは考え込む。悩み抜いた。そして、レントンを見る。
タルホ「レントン、あんたは如何したいの?」
セツヤ「それは卑怯な質問だな。レントン君とそっち側の判断は別だ」
タルホ「くっ! ・・・・・・・・・ハップ」
ハップ「・・・・・・・・・どうしようもない」
タルホ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかったわ。レントンの考えを別にして私たちはその条件を飲む」
セツヤ「だそうだ。・・・・・・・・・レントン君、君は如何する? 俺は君を歓迎するけども?」
レントン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
セツヤ「わかった。契約成立だ。流石に約束破ってまで行動を起こすほど恥知らずじゃないな?」
タルホ「・・・・・・・・・ええ」
セツヤ「信じよう。一応、この男は面倒なんで気絶させるぞ」
 そう言うとセツヤはホランドの後頭部に手をかざすと少しだけ力を流す。その力が脳を揺らして直ぐにホランドは気絶した。それを確認してからセツヤは立ち上がる。
セツヤ「よし、行こうかレントン君」
 セツヤはタルホとハップに背中を向ける。その途中でエウレカの顔を一見する。そのときの彼女の顔がまるで泣き顔のようでセツヤの心の刺さったが、それを表情に出したりはしない。セツヤはレントンと共に山を降りる。


 セツヤは安全なルートを探しながらレントンと共に徒歩で山を降りる。セツヤ自身、隠密作戦は非常に得意なのだが。レントンという足枷というハンデはどうしようもない。最後はレントンを背負った状態で時間ギリギリではあるが、無事にみつきたちとの合流地点であるコンビニの前に到着した。セツヤはコンコンと車の扉をノックする。扉が開いてみつきたちが出てくる。
みつき「お疲れ様でした」
ミーナ「セツヤ、おっかえりー♪」
セツヤ「ただいま。とっても疲れた」
早瀬「? セツヤさん、その後ろの少年は?」
セツヤ「彼はレントン君。この子も一緒に連れて行くんで」
ライラ「あっ♪ かっわいー」
セツヤ「こんな年場も行かない少年を誘惑しないでよ?」
アリア「でも、完全に寝ちゃってるよ?」
セツヤ「仕方ない。山道を俺の歩調に合わせた上に州軍の包囲網を抜けるに苦労したんだ。軍役もこなしてない。体も出来てない。ないない尽くしで頑張ったんだよ。根性ある」
みつき「そうですか」
 そういうとみつきは優しくレントンの前髪を撫ぜた。


 遠回りをする羽目にはなってしまった。通行止めの箇所を大きく遠回りして三陸に到着した時にはもう日が落ちていた。セツヤも細かな場所だけ走りえていなかったらしく、途中で地元の人に人間に道を聴く羽目にはなってしまったが。かなり大き目の建物がぽつんと立っている。
セツヤ「あ゛ーーー。やっと着いた」
レントン「ここなんですか?」
セツヤ「多分ね。俺も来たことないし」
レントン「えぇーー! そんなぁ」
セツヤ「仕方ないじゃない。多分ここだって。行こう」
アリア「待ってー! セツヤー!」
 ある種の自分のテンションを保っている3人娘に対して他の3人は至って冷静だったりするのだが。何の躊躇もなくセツヤは建物の中に入っていく。受付にセツヤが向かう。
セツヤ「こんにちわ」
 もうこんにちわと言う様な時間帯ではない。そして、受付の女性はセツヤの格好に眉をひそめるがとりあえずに応対する。
受付の女性「どんなご用件でしょうか?」
セツヤ「この施設の一番偉い人に会いたいんです。会わせて下さい」
受付の女性「いえ、工場長はもう帰宅しましたが?」
セツヤ「・・・・・・・・・この施設にいる人間の中で一番偉いのは工場長さんじゃないでしょ? ああ、これ社員証。俺は一応ヘムルートの人間です。その上で言ってるんです。もう一回言いますよ? 今! この施設にいる人間で一番偉い人間にセツヤ・クヌギが来たということをまず伝えてください。その人に判断を仰げば良いでしょう?」
 受付の女性はセツヤの言葉自体とセツヤの言葉の内容になにかしら思い当たることがあるのか少々顔が青くなる。突然彼女の言葉使いが改まる。
受付の女性「申し訳ございません。暫くお待ちください!」
セツヤ「はいはい。向こうで座って待ってますよー」
 受付の女性の返答に満足したのかセツヤはエントランスの脇にあるソファに6人で座って待つことにした。
セツヤ「ちょっと待ってだってーー」
レントン「早瀬さん、ヘムルートってあの軍事企業のヘムルートですよね?」
早瀬「ええ。元々は日本の浦木財閥が母体になっている巨大企業よ。戦後に海外から今の名前の元になったジョアンヌ・ヘムルートから名前を取って今はヘムルートと名を変えているわ。それにしても、セツヤさんのバックにあるのがあのヘムルートだったとは驚きだわ」
みつき「確かにそうとも取れますが、あまり驚くことでもないです。ヘムルートの形態は確かに軍事企業ですが、その行い自体は非常に理に適った行動をしています。独自での機動兵器の開発はほとんどなく、専ら商業用、軍事用問わずに宇宙航行船の開発に力を入れています。これは海外からの安全性と価格面においても評価が高いといわれています」
セツヤ「高評価どうもありがとう。でも、それは俺よりもこれから来る人に言ってあげてよ」
みつき「!? セツヤさんはヘムルートの社員なのでしょう?」
セツヤ「・・・・・・・・・あー、説明が難しいな。確かに社員証はあるよ? リストに名前も載っているとは思う。けど、今の俺の直接的な飼い主はヘムルートじゃない。これはあくまでパスポートみたいなものかな?」
早瀬「面妖ですね」
セツヤ「まぁね。ヘムルートとは昔からの付き合いがあって、良くして貰っているんだよ。ん? 来たみたいだ」
 セツヤがエレベータから出てくる人間に視線を送る。それは五十歳前後の初老の男性だった。格好はツイードのスーツを着込んでいるなかなかの伊達男に見える。その男が急ぎ足でセツヤのほうにやってくる。驚くべきは先ほどの受付の女性のほかにも社員と思われる人間の全てが頭を下げているとい点だ。
初老の男性「ミスター!!」
セツヤ「ご無沙汰ですね。・・・・・・・・・浦木さん」
 セツヤとその男性以外の全員が目を見張る。
浦木「良くぞ無事で!」
 浦木とセツヤに呼ばれた男性がその手をがっちりと握る。
セツヤ「ご厄介になってますね。すいません。力不足で」
浦木「何を仰るか。あなたに出来ないことは誰にでも出来ない。少なくとも小生はそう信じている。・・・・・・・・・? あの方達は?」
セツヤ「道中色々ありましてね。体裁的には俺がスカウトしました。勿論決まってはいませんが。もしかしたら面倒見てもらうかもしれません」
浦木「それは構いませんが。・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?」
 浦木が少し首を傾げてからみつきの前にやってくる。
浦木「小生の間違いならば失礼。あなたは・・・・・・・・・・・・・・・・・・羅螺の姫君ではありませんか?」
みつき「はい。覚えておいででしたか。突然の拝顔失礼いたします。浦木行隆社長」
ライラ・アリス・ミーナ・レントン「「「「ええぇぇぇえええーーーー!!!」」」」
セツヤ「みつきさんは浦木さんを知っていたんですか? なら話が早くて助かる」
浦木「それにしても羅螺の姫君とは言えども、ミスターの御眼鏡に適うというのは大したものです」
みつき「いえ、私はただセツヤさんに助けていただいただけで」
浦木「それでも、彼を信じてこんな僻地にまでいらっしゃったのでしょう? やはり大したものだ」
セツヤ「ああ、一応紹介するよ。この人、ヘムルートの社長で浦木行隆さん」
 まるで友人を紹介するように簡単にぽんと言うところがやはりセツヤらしさなのだろうが、この場と紹介する人は常軌を逸しているように思える。
浦木「以後よろしく」
 全員が直立不動で固まる中、セツヤと浦木は話を進める。
浦木「ミスター、込み入った話もあります。ご同行の方々も一緒に応接室にいらしてください」
セツヤ「わかりました」
 というとセツヤは移動を開始する。セツヤの後についてきたのはなぜかみつきだけだったりする。
セツヤ「あれ? どうしたの?? 行くよ」
 思い出したかのように残りの5人がセツヤを追って歩き出した。


 セツヤ達は浦木が直々に煎れてくれた紅茶を胃袋に入れながら話を進める。
セツヤ「はぁ、そんなことがありましてみつきさん達とレントン君が道中で一緒になりましてね。ついでにこっちで保護しようと」
浦木「確かにそうですね。身元が割れている人間ならば小生が匿うよりはミスターと共にいたほうが安全でしょう。皆さんの見る目を否定するわけでは決してありませんが、運が宜しいですね」
みつき「と、いいますと?」
 この場所で浦木とまともに喋ることができるのはセツヤとみつきだけだったりする。3人娘とレントンは紅茶の味を味わうゆとりもないだろう。
浦木「姫君も彼の実力の片鱗をご覧になったでしょう?」
みつき「はい」
浦木「人間としても武人としても私はミスターを凌ぐ人間を他に知りません。そのミスターが皆さんを守るといっているんです。これは小生には幸運としか思えないという意味です」
セツヤ「止めてください。俺はそんなできた人間じゃない」
みつき「セツヤさん、それは違います。あなたの志は非常にすばらしいものです。それに私達は助けられたんです。ご自身を否定なさらないでください」
浦木「その通りですミスター。・・・・・・・・・確かに惜しむらくはその謙虚さでしょうな。日本人特有といえばそうなってしまいますが」
レントン「俺は! セツヤさんに感謝してます。俺なんか連れてきてくれたし。優しくしてくれて」
浦木「賢いな少年。そうだ。ミスターの行動のすべては有益だ。それを一語一句漏らすことなくすべて吸収しなさい。そうすれば少年、君は大きくなる。いいか、ミスターと共にいるこの時間を忘れるな」
レントン「はい!!」
浦木「良い子だ」
 べたほめに段々とセツヤの表情が赤くなってくる。
セツヤ「ぅえ・・・・・・・・・。・・・・・・・・・べた褒めはそんなところでいいでしょうよ。浦木さん、そろそろ実務的な話をしましょう。・・・・・・・・・風伯は?」
 聴きなれない言葉に思わず早瀬が首をかしげる。
早瀬「風伯?」」
浦木「そうでしたな。・・・・・・・・・風伯はヘムルート社西太平洋の秘密ドッグにて修理改修を行っています。新装備の手配も行い、全日程のほぼ9割以上を終えています。先ほどタカハシ女史とカーペンター参謀に連絡をいれました。後ほど共に向かいましょう」
セツヤ「よかった無事なんですね。人的被害については聞いていますか?」
浦木「はい。怪我人が多数出てはいますが幸か不幸か殉職者はいません。重態患者も同様です。ただ、ステッセリ医師をはじめてとして重傷患者が9名。後遺症のあるような者はいません。この重症患者達全員が再び風伯乗艦を希望とのことですのでミスターがお決めになってください」
セツヤ「わかりました。・・・・・・・・・良かった。全員無事か」
浦木「カーペンター参謀からの話は聞きましたが、あそこでのミスターの判断は理に適っているとは思いますが、また無茶をなさる。もうあなただけのお命ではないことをご理解していただきたい」
セツヤ「それはいくら浦木さんの言葉でも聞けませんね」
浦木「悲しいかな分かってはいますが。・・・・・・・・・どうかご自愛を」
早瀬(この人は一体何者?)
 そう早瀬が思うのも無理はない。話が大きくなりすぎている。そして、セツヤが全てを語っていないことも理解できる。思い至るわけはないが。
セツヤ「それと、言い難いんですがエトランゼを持ち帰れませんでいた。折角俺専用にカスタムしてくれた機体だってのに」
浦木「御気にしなさるな。費用も時間も掛かった機体ではあるがミスターの存在には及ばない。それよりも、私はミスターとエトランゼを落とした手合いが存在することに驚きを隠せませんな」
セツヤ「直接的に落とされたのは州軍のモンスーノ小隊でしたが、問題はその前の黒いLFOでしたね。恐らく試作機か何かだと思うんですが」
レントン「黒いLFO!? ジ・エンドだ」
セツヤ「おや? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱりレントン君は知っているか」
レントン「はい! 俺達あれに落とされて山に」
セツヤ「成程ね。確かに強かったね。しかし、あれが量産できるとは思えない。やりようはあるよ」
レントン「って言うか・・・・・・・・・セツヤさんジ・エンドに勝ったんですか?」
セツヤ「ギリギリね。相手の弱みに付け込んでどうにかって感じ」
レントン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・すごい」
セツヤ「どうも」
 そういうとセツヤはもう一口紅茶を飲む。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・SMF計画の方はどうなってるんですか?」
 唐突にセツヤは話し始める。心なしか、どこかセツヤの言葉端が重い。
浦木「・・・・・・・・・順調・・・・・・・・・と言いたいところですが、遅れていると言わざるを得ません。急がせますがロールアウトは今しばらく」
セツヤ「仕方ないんですけどね。・・・・・・・・・これから先、どう見通しが楽観的でも必要になってはきます。よろしくお願いします」
浦木「尽力致す所存です。・・・・・・・・・・・・・・・・・・それと、彼等は元気にしておられます。どうか心配なさいませんように」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お世話おかけします」
 セツヤが暗い表情になる。みつきもレントンもセツヤとそれほど長い付き合いではないが理解できる。あの明るいセツヤが今にも泣きそうな子供のような表情なのだ。
浦木「いえ。・・・・・・・・・ミスターには本当に心苦しい思いを」
セツヤ「それも、仕方ありませんよ」
浦木「・・・・・・・・・そう言って頂けると」
 浦木がセツヤに深々と頭を下げる。
セツヤ「止めてください。浦木さんに責任など微塵もありません。寧ろ、世話をお願いして心苦しい限りなんですから」
浦木「それは当然です」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいんですって。・・・・・・・・・・・・・・・・・・それと、あいつは元気にしてるんですか?」
浦木「あいつ? あいつとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・!! ああっ! 失念していました。いえ、小生共には状態が理解できませんので。異変が起きたらば報告せよと言ってはいますので、何もないということは」
セツヤ「ええ。異常無しってことですね。結構です」
浦木「申し訳ない」
セツヤ「いやいや」
浦木「・・・・・・・・・いや、申し訳ない皆さん。客人そっちのけで話し込んでしまいましたな」
みつき「御気になさらないでください。浦木社長」
浦木「こんな場所での話など退屈の極みでしょう。ミスター、まだ少し話したいこともありますがドッグのほうへお連れ致しましょうか。クルーの皆さんお待ちでしょう」
セツヤ「ですね。みつきさんたちにも早く見てもらわないと」
浦木「ええ。では早速お連れしましょうか」
 浦木は立ち上がると内線電話をかける。そして、セツヤ達は秘密ドッグへと向かう。


 ヘムルート。世界にその名を轟かせる世界最先端の軍事企業だ。その最大の強みはやはり宇宙用の造船業。幾つもの国の軍が正式採用している。その軍事企業が持つ造船場所の1つ。三陸海岸。その1番から8番までから成る造船ドッグなのだが、実は秘密裏に0番と9番が存在する。その9番ドッグへとセツヤ達は向かった。
レントン「トンネルの中から入るなんてかんがえられないッス!!」
アリア「スッゴイ!! こんな場所があるなんて!!」
ミーナ「スパイ映画のヒロインになった気分よね」
 レントンが普通ならば絶対に見えることが出来ない基地のような場所に入ることが出来て狂喜する。
セツヤ「俺だって存在は知っていたけどね。まさかこんな手の込んだ方法でしか入れないなんて」
浦木「その辺はご愛嬌ですな。ここ最近は連邦、州軍の目が厳しいのでここ以外の地上ルートはこれだけです」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヘムルートは俺等の生命線だから。できる限りにリスクは減らさないとね」
浦木「ご理解いただけて感謝します」
セツヤ「大層ですよ」
 8人を乗せた2台の車が整備された抜け穴の奥底にたどり着く。その先は行き止まりになっていた。そこへ浦木が進み、医師をどかした場所から顔を見せた読み取り機に自分のカードを通してから暗証番号を入力した。するとなにやら地面が動き出した。ゆっくりと地面が下がっていく。これは大規模なエレベータになっていた。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・大型のエレベータですか」
浦木「はい。ここに入るには責任者クラスのIDが必要になります。当事者を除けば幹部クラスしかこの存在を知りえません」
セツヤ「正に秘密裏ってやつですか」
浦木「はい」
 直ぐにエレベータは止まる。真正面には巨大なハッチが顔を見せていた。そして、ゆっくりとそのハッチが開く。だが、ハッチの先は照明が輝いていない。真っ暗だった。
セツヤ「ん?」
浦木「お進みください、ミスター。皆さんも」
 浦木に言われるままにセツヤはゆっくりと前に歩き出す。セツヤが前に10歩程度歩いただろうか。突然一気に照明がハッチ内部のドッグを照らした。そこに現れたのはセツヤにとっては白い見慣れた船、風伯とその甲板に一列に並ぶ100名を越す同胞達のキリリと締まった表情だった。面を食らったセツヤに追い討ちをかけるように拡声器越しに声が響く。
ジャス『生還されたクヌギ艦長に一同敬礼!!!』
 一糸乱れぬ敬礼。歓迎、喜びと色々意味はあるだろう。セツヤが笑いをこぼす。
セツヤ「敬礼はいらねーっつってんだろうが!!!」
 この行動を目の当たりにしたみつき、早瀬、ライラ、アリア、ミーナそしてレントンは言葉も出ないのだろう。明らかにほうけている。
みつき「・・・・・・・・・か、艦長?」
浦木「おや? 皆さんご存知ありませんでしたか? てっきりご存知なものかと。ミスターはこの船の艦長も兼任なさっています。本人は柄じゃないとは言っておられたが中々どうして。小生には板についているように見えるのですがね」
アリア「は・・・・・・・・・はわわわわ」
ライラ「みつき様、どうしよう!! 私そんな偉い人って知らずに呼び捨てにしちゃったよ。」
 3人娘の驚き具合を見てなぜかみつきと早瀬は笑ってしまう。セツヤの奇行から考えればライラたちの行動は当然といえる。だが、なぜかセツヤは艦長と聞いて驚きはしても奇怪には思えない。セツヤ・クヌギ=艦長という公式はなぜかしっくり来るのだ。そんなことを考えながらみつきは答えた。
みつき「大丈夫ですよ。セツヤさんはそんなことでは怒ったりしません。ただ、あとでちゃんと謝っておきましょうね」
ライラ・アリア・ミーナ「「「はい」」」
 レントンはセツヤが部下のほうに歩いていく姿をしっかりと目に焼き付けていた。その様子を見た浦木がレントンに声をかける。
浦木「おや、少年は驚かないのですね。ミスターが艦長だと知らなかったんではないですか?」
レントン「はい。知りませんでした。驚きもしました。だけども、セツヤさんはそのくらいの仕事をしていても不思議じゃないと思います」
浦木「少年、いや、レントン君でしたね。君とはやはり気が合うようだ。どこぞの馬の骨よりもよほど見る目がある」
レントン「そんなんじゃないですよ」
浦木「ふははは。いやいや、小生は君が気に入ってしまったようだ」
 各々が話を続ける中、セツヤはまだ船にも乗れず、迫ってくる同胞達の話に逐一耳を傾けていた。
ユメコ「セツヤさん!!」
 まず第一に突進してきたのはユメコだった。セツヤの首に方を回して抱きついてくる。
セツヤ「止めい! 恥ずかしい。暑苦しい」
ユメコ「五月蝿い!! 我慢しろ! アホ艦長!」
セツヤ「ったく。」
 暫くは離してくれないようだった。だが、それだけじゃない。セツヤのシャツの袖を握り締めて離さない人物もいた。ネージュだ。
セツヤ「おわっ。ネージュ、いつの間に」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お帰りなさい。セツヤ」
セツヤ「おう。ただいまだ、ネージュ」
ネージュ「フイユとトネール・・・・・・・・・ずっと見てたよ。あとでセツヤも見に来て」
セツヤ「ああ。気がかりだったんだ。けど、心配はしてなかったぞ。お前がいれば大丈夫だと信用していた」
 そのセツヤの言葉にネージュはブンブンと首を振る。
ネージュ「私は・・・・・・・・・セツヤみたいに上手くできなかった。まだ、2人は私を信用してくれない」
セツヤ「時間なんか関係ない。その気持ちは伝わるさ。・・・・・・・・・ユメコ君、そろそろ離せ」
 セツヤはユメコの首根っこをまるで猫を持ち上げるみたいに持ち上げると自分から引き離す。
ユメコ「あうぅー」
ジャス「ご苦労様です艦長」
セツヤ「時間掛かって悪かったね。色々あってね」
ジャス「詳細は後ほどお聞きします。・・・・・・・・・あそこにいる方々は?」
セツヤ「同行者。お客様。被保護者にクルー候補ってところかな?」
ジャス「とりあえずお客人として対応しますね。・・・・・・・・・本人達からも伺いますがどのような方達なんですか?」
セツヤ「羅螺の姫君とその部下の方々。それと浦木さんの隣にいる少年はゲッコーステイトから引き抜いてきた」
 セツヤの言葉に周囲のクルー達の表情が一瞬こわばる。
ジャス「・・・・・・・・・艦長、あなたの辞書に平穏という言葉はないんですね」
セツヤ「良い言葉だねぇ。平穏って。・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、土産話はこのくらいにしてちょっと真面目な話。船の状況は浦木さんから大体聞いた。上から何か指令来てる?」
ジャス「いえ。上からではありませんが、デ・ダナンからの救援要請を受信しています。衛星経由でこちらの状況を伝えましたが向こうも緊迫した状況にいると」
セツヤ「テスタロッサ艦長がねぇ。・・・・・・・・・ダナンは今ロシアだったね」
ジャス「はい。ヤーパンの天井の護衛任務とのことですが。どうやらガルズオルムも出現しているようで手が足りないとのことです」
セツヤ「向こうの戦力借りっぱなしだしね。・・・・・・・・・船の改修完了の予定時間は?」
ジャス「あと4時間程度です。それで完全に終わります」
セツヤ「オーケー。なら、回収作業完了後、8時間の休憩の後出航する。目的地はロシア」
ジャス「了解しました。その予定で進めます」
セツヤ「頼むよ参謀。・・・・・・・・・・・・・・・・・・あとは・・・・・・・・・マリアさん! ユゼフさん!」
 ほとんどのクルーが出てきている。名前を呼べばその人物がセツヤの前にやってくるような状況だった。
マリア「はい。・・・・・・・・・お帰りなさい艦長」
ユゼフ「美人引き連れて帰ってくるなんてな。艦長らしいぜ」
セツヤ「マリアさんただいま。ユゼフさん、人聞き悪い。・・・・・・・・・言うべきことは、マリアさん。あそこにいるメンバーは風伯で働いてもらうから部屋の用意と仕事見繕ってあげて」
マリア「わかりました」
セツヤ「ユゼフさんには謝らないと。ごめん。エトランゼ、連れ帰れなかった」
ユゼフ「バカ言うな! アホ艦長が。あんたは無事なんだろう。あんたがどれだけあれを大切にしてたか俺は知ってんだ。そして、エトランゼはあんたを帰らせてくれたんだぜ? 本望だろうさ。だから、謝んな!」
セツヤ「わかった。・・・・・・・・・それとユゼフさんにはこれ。お土産」
 セツヤはユゼフにポケットに後生大事にしていたメモリーカードを渡す。
ユゼフ「あ? なんだこりゃ?」
セツヤ「極東の真田博士に貰ったネージュ専用機のカスタム案だって」
ユゼフ「おおっ! ・・・・・・・・・成程、真田博士か」
早瀬「それ、専用機の設計図だったんですね」
セツヤ「ん? 早瀬さん」
ユゼフ「あん? なんだねーちゃん詳しいのか?」
早瀬「はい。羅螺軍で科学顧問を勤めていました。早瀬薫といいます。もしもお邪魔でなければ私も整備に協力させてください」
セツヤ「おや? そりゃいい。ユゼフさん、早瀬さんの面倒見てもらって良い?」
ユゼフ「構わんぜ? こちとら万年人手不足だ。願ってもない」
レントン「・・・・・・・・・なら! 俺も手伝わせてください!!」
 レントンがこっちに走ってきて頭を下げる。
ユゼフ「このチビも船のクルーにするのか?」
セツヤ「ユゼフさん、レントン君を舐めない方がいいよ」
ユゼフ「ふむ。坊主、整備の仕事は生半可じゃねーぞ?」
レントン「俺、ずっと爺ちゃんの仕事手伝ってきたんです。全然足りないかもしれないけど頑張りますから!」
ユゼフ「爺ちゃん?」
レントン「はい!」
ユゼフ「わかったよ。面倒見てやるよ」
レントン「ありがとうございます。俺、レントン・サーストンです。よろしくお願いします!!」
ユゼフ「!? ・・・・・・・・・サーストンだと? お前、もしかして親親類にアクセルって男はいるか?」
レントン「え、アクセル・サーストンは俺の爺ちゃんです」
ユゼフ「! ・・・・・・・・・ふははは! 確かにだ。舐めたらいけねーな。坊主、あのアクセル・サーストンの孫か!」
ジャス「待ってください! アクセル・サーストンのお孫さんってことは。では君の父親は・・・・・・・・・まさか、アドロック・サーストンですか?」
 ジャスがいきなりユゼフの横に乗り出してレントンに言葉を浴びせる。
レントン「・・・・・・・・・え、はい」
セツヤ「アクセル? アドロック? 有名なの?」
 常識がないわけではないがあまり詳しくないセツヤなら当然の質問なのだろう。横からユメコが顔を出して説明する。
ユメコ「アクセル・サーストンっていったらトレゾア技研に勤めていた伝説の技術屋さんです。こっちはセツヤさんは知らなくても無理ないんですけど、アドロック・サーストンを知らないのは恥ずかしいですよ?」
セツヤ「五月蝿いの。説明してよ」
ユメコ「はーーい。アドロック・サーストンはサマー・オブ・ラブから世界を救った英雄の名前です。本職は科学者」
セツヤ「何の科学者?」
ユメコ「スカブ・コーラルです。アゲハ構想なんていうレポートを残した話なんか結構有名ですよ?」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・アゲハ構想?」
ユメコ「何ですか、その反応?」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、後で言う。」
 外で話すには長すぎたように思える。セツヤは客人の背中を押して彼等と共に風伯へ帰艦した。




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