粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃 第玖話 『心、昂ぶらせる男の帰路』 前編


第玖話 『心、昂ぶらせる男の帰路』 前編


 脱出ポットが連邦極東支部の管轄区内の飛行場へハルツィーネン2号機と3号機に援護された状態で着陸する。まず一樹がかなりの数の人がこちらに向かってくる中、ひょっこりと顔を出した。
真田「一樹君!」
 いの一番に真田が急ぎ足で彼の顔を確認しにきた。
一樹「長官!!」
真田「よく帰ってこれたね、一樹君!」
一樹「いやぁー、協力者がいまして。それで、一緒に逃げてきたんです」
真田「ふむふむ、それはお礼しないとね」
一樹「それが、1人は長官も良く知る人で、もう1人はちょっと扱いが難しい人なんですけど」
真田「構わないよ。君を助けてくれたんだからさ、恩人恩人」
 その言葉を聴いたからだろう。2人が一樹よりは随分と手際よく外に出てくる。その降りてきた人間を見て真田は驚きと同時に喜びを表す。
真田「あれあれぇーー! セツヤ君じゃない?」
セツヤ「セツヤ君ですよー。どうもです」
真田「じゃあ、セツヤ君が一樹君を?」
セツヤ「色々と偶然も重なりましてね。・・・・・・・・・俺としては恩を返しただけですからあまり気にしないでください」
真田「いや、ありがとう」
 真田が深々と頭を下げた。彼なりの礼なのかもしれない。しっかりとしている印象だ。陶酔することなく自分を見つめられる天才がいったい幾人いるだろうか。
セツヤ「止めてください。言ったでしょうに借りを返しただけだって。・・・・・・・・・それに、礼を言うにはまだ早いかもしれませんよ。もう1人の恩人は俺とは比べ物にならないほど厄介ですから」
真田「?? それはどういう意味だい?」
セツヤ「大丈夫ですよー」
一樹「出てきてください。みつきさん」
 セツヤと一樹に促されてゆっくりと出てきたのは羅螺みつきだ。恐らく連邦にとって明らかに頭痛の種となる人物のはずだった。
真田「・・・・・・・・・君は・・・・・・・・・」
一樹「この人が僕とセツヤさんを逃がしてくれたんです。・・・・・・・・・・・・・・・・・・それであの・・・・・・・・・」
セツヤ「一樹君。こういうことは単刀直入が好ましいんだよ。この人、ミス・ラーです」
真田「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へぇ」
 真田の頭が回っているのだろう。どうするべきが、どうなるか。その判断が渦を巻いている。それを平静を装った顔で行っているのだから大したものだ。
真田「・・・・・・・・・確かに面倒な問題だね。けど、恩人を蔑ろにも出来ない」
セツヤ「でしょう? まぁ色々と話すことはありますけどもね。それからでいいでしょう。流石に俺も疲れましたし」
真田「そうだろうね。うん。直ぐに部屋を用意してもらうよ」
 主だった話を真田としていると、別の方向からやってくる人物が3人いた。いづれも女性だ。銀髪のベリーショートの長身の女性。軍服を着ている。次に一樹と同年齢程度に見える栗毛の女性。もう1人は・・・・・・・・・なんと言おうかセミロングの女の子。中学生程度の背格好だが表情が硬い。一見ではその少女の表情から感情を読み取ることは難しいかもしれない。
 一樹の前に一番にやってきたのは栗毛の女性だった。
三月「一樹君。・・・・・・・・・お、お、お、おお」
弥生「お帰りなさい。一樹君」
一樹「あ、どうも」
弥生「一樹君、私・・・・・・・・・」
 銀髪の女性が何かを言おうとした最中に表情の硬い女の子がその間に割り込む。
一樹「ただいま、D(ディ)」
 一樹がそういった最中にDと呼ばれた女の子が一樹の胸の中に倒れこんだ。
一樹「ぅああっ! ちょっと、どうしたのD? あの、ねぇ」
セツヤ「おやおや、一樹君はもてるんだねぇ」
真田「そうなんだよ。なんたってウチのエースだからね。けど、セツヤ君だって相当なものだろ?」
セツヤ「いやいや、俺なんかは全然」
真田「おーい、早くおいでよ」
一樹「はーい! ・・・・・・・・・って、D!」
 やれやれといった表情でセツヤは一樹の横にまで歩いてくると、よっこらせと言わんばかりにDを担ぎ上げた。
セツヤ「一樹君、元々民間人っていうのは分かってるけどさ、もうちょっと体鍛えたほうがいいかもよ? 女の子に押し倒されるのはちょっとねぇ」
一樹「あははは、面目ないです」
 そんなセツヤと一樹のやり取りを見ていた三月と弥生がセツヤに攻め寄って来る。
三月「誰なんですかあなたは! ここは連邦の基地なんですよ!」
セツヤ「知ってるよ。いいじゃないかい。俺は一樹君の協力者ってことだし。多少大目に見てよ」
弥生「確かに、一樹君を助けてもらったことは感謝しますがこの基地での行動には著しく制限を掛けさせて頂かないと」
真田「あぁ、彼に制限はないよ。僕の権限でどこでも勝手に見てよ」
三月・弥生「えぇぇええーー!!」
 まぁ、当然の反応だ。どこの馬の骨とも知れない人間に自分等の設備を懇切丁寧に見せてやる謂れ等どこにもない。その貴重な情報源を前にしてもセツヤは何処吹く風という感じだ。
セツヤ「いいですよ。俺見てもわかりませんし」
真田「またまたぁー、謙遜しちゃって。細かな話は休憩を挟んでからね」
セツヤ「わかりました」
 そして、セツヤは暫くぶりに落ち着いての休憩を取ることができた。


 セツヤと真田の会談。会談といってもそれほど厳かな雰囲気はない。あくまでもフレンドリーな会話だった。その中でセツヤは事の顛末を真田に語る。
真田「災難が続いてるな。それを乗り切る君等も相当すごいけどね」
セツヤ「どうも。・・・・・・・・・俺はこれから合流地点に向かいます。すいませんがその場所については」
真田「勿論聞かないよ。その方がいい。この部屋だって注意するに越したことはないからね」
セツヤ「・・・・・・・・・成程。・・・・・・・・・けど、指し当たっての問題がありますよね?」
真田「・・・・・・・・・みつき君のことだね?」
セツヤ「はい。忌憚なく答えてください。真田さんに彼女を守れますか?」
真田「正直厳しいと答えざるをえんね。この基地は確かに僕が全権を委任はされているけども、掌握しているわけじゃないからね。連邦軍や州軍の上層部が彼女をどう捕らえるか。まぁ、目に見えたことだけれどもそれを阻止は出来ないと思うよ。上は自分等の権力と軍力の増強しか見えてないからね。失望したかい?」
セツヤ「まさか。正直に答えてもらえるだけマシです。・・・・・・・・・ですが、まぁ、掌握していないって言うのは確かかもしれませんね」
 そういうとセツヤは長官の私室の扉を淀みのない動きで開ける。まるでギャク漫画のように数名の女性が聞き耳を立てていた。
三月・弥生・茜「「「あ゛!」」」
 真田三月、弥生・シュバイル、山野茜の3人とその後ろにいたのは一樹とDだ。まん前にいた3人がかなり間抜けな表情になる。
セツヤ「ほら」
真田「あーあ。本当に何やってるんだろうねぇ」
セツヤ「まぁ、別に聞かれて困る話をしているわけじゃないですから良いですけどね」
真田「そういう問題かねぇ」
セツヤ「いいじゃないですか。それに、よく考えたら俺、まだ紹介してもらってませんしね」
真田「そうだったかな?」
セツヤ「そうですよ」
真田「なら、そっちの前にいるのは左からパイロットの真田三月、教官の弥生シュバイル君、そして、監察官の山野茜さんだよ。後ろにいるのがD」
セツヤ「D?」
真田「彼女は色々あってね。まぁ、詳細は長くなるんでまたの機会にしようか」
茜「長官。私達にもその方を紹介していただきたいものですね。どこぞの異邦人への待遇とは思えないので」
真田「えーー。別にいいじゃない。彼いい人だよ?」
茜「ダ・メ・で・すッ!」
セツヤ「怖っ!!」
茜「(キッ!!)」
 睨まれたセツヤは反射的に視線を逸らす。ユメコやジャスにいつものように説教されているのだ。こういう状況を乗り切るのはお手の物だ。
真田「やっぱり怖いよねぇー。もうちょっと優しくして欲しいんだけど」
茜「長官!!!」
真田「わかったってば。・・・・・・・・・彼はセツヤ・クヌギ君。皆には白鬼のパイロットって言えば分かってもらえるかな? でも、セツヤ君はその渾名嫌いらしいから本名で呼んであげてね」
セツヤ「よろしく。あ、パイロットの人とは会ってるんだよね。えっと、三月さん? 君が赤いハルツィーネンでDちゃんが青いハルツィーネンだよね?」
三月・弥生・茜「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・えぇぇぇぇぇええええーーーーーー!!!!」」」
 セツヤがその音量にたまらずに耳を塞ぐ。
三月「あ、あなたがあの部隊の一番偉い人?」
茜「・・・・・・・・・びゃ、白鬼!? あなたが?」
セツヤ「はい。どうぞよろしく」
茜「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、真田さん話の肝ですが」
真田「みつきくんについてだね?」
セツヤ「ええ。真田さんに守れますか? みつきさんを」
真田「難しいね。彼女の存在を尊厳を付加させた上で上層部が考えてくれるとは思えない。最悪、羅螺との取引の材料にだってされかねない。更に残念なことに、僕にはそれを阻止するだけの力はない」
セツヤ「まぁ、失礼だけども想定内の答えですよ。・・・・・・・・・なら、俺が連れて行きます」
真田「! ・・・・・・・・・成程ね。確かにそれなら」
セツヤ「俺の組織は裏での工作に優れています。早々簡単には見つかりませんよ。それに、羅螺からみつきさんの数人の部下がやってくるということでした。それを待ってから、俺が彼女等を保護します」
真田「いいのかい? 確かに君なら安心して預けれるけども」
セツヤ「俺は良いんです。問題は・・・・・・・・・一樹君」
一樹「はい!」
セツヤ「彼女を晒し者にはしたくないだろう? 俺がみつきさんを一緒に連れて行くのがベストな策に思える。プロパガンダや取引の材料にされるよりはね。君はそれでも良いかい?」
一樹「僕もそれがいいと思います」
セツヤ「後悔しないでくれよ。守るには守るが、俺だって万能じゃない。いつ死んでもおかしくない。それでもかい?」
一樹「セツヤさんは裏切ったりしませんから。約束は守ってくれます」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり君は戦争なんかするべきじゃないよ。悲しいかな君は平和に過ごすべき人間だね」
一樹「・・・・・・・・・・・・・・・・・・セツヤさんもそうだと思いますよ?」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はは、ありがと」
真田「話はまとまったってことでいいかな? 本当にセツヤ君とは気が合うみたいでポンポンと話が進むよ。上層部との話もこう簡単に済んでくれたらどんなにいいかと思うけどね」
セツヤ「ご愁傷様です」
真田「全くだ。・・・・・・・・・もう少しこの基地には留まるんだよね? なら、準備はしておくよ」
セツヤ「お願いします」


 セツヤが極東基地に厄介になってから2日が過ぎた。みつきの部下は既に到着済み。明日の朝にはこの基地を出発する予定だった。
 その前日の深夜、セツヤは徐にベッドから起き上がると自室から出て行く。その目にはなにやら意思が込められていた。行く宛てのない闊歩に見える。だが、それは違っていた。そのとある場所にやってくるとセツヤは目の前の扉が開くのを待つ。只管に待つ。そして、その扉が開いた。その扉から出てきたのは山野茜査察官と幾人かの黒尽くめの男数人だ。
セツヤ「こんばんわ」
 不敵な笑み。この一言に限るセツヤの表情だ。
茜「!? セツヤ・クヌギ」
みつき「セツヤさん!!」
セツヤ「こんな夜更けに人知らず拉致とはね。堕ちるに堕ちたか」
 茜の行く道を塞ぐように前に出てきた男たちがセツヤに襲い掛かる。こんな夜だ火器は使えない。もっぱら体術でセツヤを押さえ込もうとする。だが、こういう手合いはセツヤにとってお手の物だ。相手手首に自分の掌を押し付けて簡単に骨折させると超近距離から肘を打ち上げて相手の喉を潰す。意識を途切れさせてから後の男達にも当身と脳震盪を起こさせて一瞬にして昏倒させてしまう。10秒と経過していないだろう。あっという間の出来事だった。
セツヤ「よく訓練してはいますけどね、こんな狭い場所での格闘戦は織り込んでいなかったみたいですね。・・・・・・・・・そんなことよりも、みつきさんを返してください」
 飄々としている。セツヤにとってこの男達は何の傷害にもならなかった。
茜「あ、あなただって組織の人間なんでしょう!? なら分かるでしょう? 組織において命令は絶対」
セツヤ「だからこそ、上の人間は下を納得させる義務があるんです。あなたは未だに迷っているでしょう? 俺ならばそんなことはしない。させない」
真田「その通り」
 暗闇の奥からこちらにやってきたのは真田だった。白衣のポケットに手を突っ込み、セツヤと同様に飄々としている。
真田「この件はなかったことにしてあげるよ。セツヤ君の取り押さえたこの人たちもまぁ、上層部を黙らせる材料くらいにはなるか」
茜「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
真田「大丈夫だよ。茜さんには迷惑をかけないようにするさ」
茜「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 茜はみつきの腕を離すとそのまま彼女の部屋を後にした。その後姿を見てから
セツヤ「思ったよりも早かったですね」
真田「そうだね。茜さんが連邦に報告していたのは知ってたけど、こんなに早いとは思わなかったよ。・・・・・・・・・けど、彼女を悪く思わないであげてね。彼女もあれで板挟みだから」
セツヤ「分かってますよ。・・・・・・・・・けど、予定を早めたほうがいいでしょうね。DEAVAでは痛い目を見ましたから」
真田「準備はもう整ってるよ。セツヤ君に言われたものは用意できてるよ」
セツヤ「・・・・・・・・・みつきさん、突然で申し訳ないけども出発。皆を起こしてきて」
みつき「は、はい」
 みつきが自室に戻っていく。セツヤはそのまま、みつきの部屋の前で真田と話をする。
セツヤ「じゃあ、行きます。本当は一樹君と別れの挨拶をしたかったんですけどね。真田さんから言っておいて下さい」
真田「わかったよ。僕のほうこそ済まなかったね。君は律儀にも礼を尽くしてくれたというのに」
セツヤ「いえ、真田さんの立場は理解しているつもりです。あなたがいれば此処の皆は間違うことはないでしょうよ」
真田「買い被りってもんだよ。・・・・・・・・・おっと、忘れるところだった。これ、渡しておくよ」
 そういうとポケットから取り出した小さなメモリーカードを真田はセツヤに手渡す。
真田「頼まれていたものだよ。ローブ・ロンのカスタマイズの提案書。僕の構想と武装のチョイス。更にその可能性について列挙出来るだけしてみた。あとはそっちの整備の人間でもどうにかなるよ」
セツヤ「あ、ありがとうございます」
 セツヤは深々と頭を下げる。その様子を見て真田は仕方がないなという表情をしてから
真田「ねぇ、もう止めないかい?」
セツヤ「はい?」
真田「貸し借りなんて水臭いったらないよ。友人ってことならそんな勘定はいらないだろ?」
セツヤ「・・・・・・・・・良いんですか? 割に合わないほどの迷惑かけるかもしれないですよ?」
真田「セツヤ君ならいいよ。不動さんもそうだけどさ、君とはそういう垣根を越えて親しくなりたいしね」
セツヤ「わかりました。・・・・・・・・・今度は飲みに行きましょう。不動さんにも声掛けて」
真田「良いねぇ」
 そんな与太話をしていると部屋からみつきを入れて5人の女性達が出てきた。
みつき「セツヤさん、準備が出来ました」
セツヤ「なら、行こうか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ真田さん」
真田「うん。気をつけてね」
セツヤ「ええ。それじゃまた」
 セツヤは手をひょっこり上げてからそのまま歩き出す。みつきは深々と礼をしてからそのまま急ぎ足でセツヤと共に深夜の廊下を歩き出した。


 セツヤが真田に頼んでおいたものとして、車2台と簡単な武器関係。それと食料、衣服、幾ばくかの金だった。車が2台要なのは追っ手が来ないように途中で乗り換えるため。公共機関の乗り物は色々と面倒な手続きが要る。それをかいくぐるためには車というのが最も面倒がない。
 黒のSUVに乗り込んだセツヤ達はそのままに国道を北上する。みつきの部下の中には寝ているものもいるがみつきと技術畑出身の早瀬は眠れずにいるようだった。
セツヤ「寝れない?」
みつき「・・・・・・・・・あ、はい」
セツヤ「早瀬さんも?」
早瀬「すみません。私達のせいでこんな面倒なことを」
セツヤ「別に面倒でもなんでもないさ。感謝は真田さんや一樹君にすることだよ」
早瀬「あの、・・・・・・・・・あなたは、セツヤさんは何者なんですか?」
みつき「早瀬!」
セツヤ「いいですよ、みつきさん。当然の疑問だし。何者か。・・・・・・・・・とある部隊に所属している凄腕パイロット・・・・・・・・・かな?」
早瀬「その部隊が我々を守るという保障はあるんですか?」
セツヤ「更に当然な質問。・・・・・・・・・んー、どうすれば納得する?」
 これはセツヤにとって説明が困難であることを裏付けていた。しかし、セツヤの聞き返しに大しての答えも早瀬は明確には出せない。
早瀬「いえ、その・・・・・・・・・」
セツヤ「俺の部隊はかなり特徴的でね、軍隊形式を取っているけどもその本質は軍隊というよりも海賊に近い。上層部の命令を突っぱねることもあったね。概ね聞くけどさ」
早瀬「それは組織として機能しなくなってしまうんじゃ」
セツヤ「確かにね。でも、不思議と成り立ってるよ」
早瀬「私達は・・・・・・・・・その、あなた方の部隊の手伝いをするかどうかは」
セツヤ「勿論強制はしない。手伝ってもらえればありがたいに越したことはないけども、断ったってアフターケアはしっかりするよ」
みつき「あのセツヤさん」
セツヤ「ん?」
みつき「何故私達にそこまでしてくれるんですか?」
セツヤ「難問だな。・・・・・・・・・んーー、みつきさんは戦い嫌いでしょ?」
みつき「勿論です。好き好んで戦いなんてしません」
セツヤ「だからかな? 俺、羅螺の基地で言ったよね。あなたは優しいって。境遇だろうが運命だろうが、どんな理由があっても、望まない人間は戦わせない。優しい人間は優しい世界で生きるべきなんだよ。そういう意味では一樹君もそうだね。戦っていいのは自分の心に楔を打てる人間だけ。俺はみつきさんにその楔を見出すことが出来なかったんだよ。羅螺の管理する遺跡の話は理解できるけども、もうそれだけに固執していいわけじゃない。これは事実だ。その現実と理想の中で俺はみつきさんが溺れているように見えたんだ」
 運転しながらセツヤはすらすらと述べてくる。そして、みつきはその言葉の全てが自分にしっかりと当てはまっているのを感じた。
みつき「・・・・・・・・・確かにそうかもしれません。お父様は本当に世界のことを考えていたと思いますけど、・・・・・・・・・お母様はそうには思えませんでした。今思えばそれが私の意志を鈍らせていたのかもしれません」
セツヤ「それはあるように思えるかな」
みつき「・・・・・・・・・あの、セツヤさんは・・・・・・・・・私と違って意思があるように思えるんです。差し支えなければ教えて貰ってもいいですか?」
セツヤ「・・・・・・・・・別に隠してるわけじゃないからいいよ。けども、何のために戦っているかか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・今は昔の約束のため。『心を殺さない』っていうね。あとは・・・・・・・・・まぁ恩人? ・・・・・・・・・の為かな」
みつき「心を殺さない?」
セツヤ「そう。・・・・・・・・・結構宗教的な話になるけどもいいかな?」
みつき「はい」
セツヤ「この話をすると、皆みつきさんみたいな顔をするんだよ。・・・・・・・・・けど、俺は思うんだ。人は死ぬんだよ、どうしたってね。無常感って知ってるかな?」
みつき「仏教の教えの1つで、世界は常に移り変わるっていう教えですよね?」
セツヤ「うんそうだね。だから、人の死ぬっていうのは仕方ないんだよ。別に人の死を肯定しているわけじゃない。悲しむことは否定しない。人を守ることも否定はしないよ。でもね、人は心が死んだときに本当に死ぬんだ。・・・・・・・・・つまり、俺は絶望を抱かせないために戦ってる」
みつき「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・とても難しいことじゃないんですか?」
セツヤ「みつきさんは頭がいいんだね。その通り。少しでも俺の言うことを理解できた人って皆そう言うよ。『人に絶望を抱かせない』それはとても難しいことだ。大事な人を守ることよりも、もしかしたら世界を救うっていう事よりもね。俺だって生きとし生きるもの全てを救えるなんて思っちゃいない。けど・・・・・・・・・けどせめて、俺の目の届く範囲の人間だけはって思っている。・・・・・・・・・バカな妄想と思うかい?」
みつき「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいえ。・・・・・・・・・では、セツヤさん達はそのために?」
セツヤ「そう。俺達の組織は心を救う組織なんだよ」
みつき「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 セツヤはバックミラーで後を一見する。すると、早瀬以外にもライラ、ミーナ、アリスの3人が目を覚まして黙りながらセツヤの話を聞き入っていたようだった。
セツヤ「起こしちゃったみたいだね。ごめん。寝ていていいよ。もううるさくしないから」
アリス「いいんです。続けてください」
セツヤ「分かった正直に言う。恥ずかしいです」
ライラ「いやいや、かっこ良かったですよ」
セツヤ「・・・・・・・・・どこから聞いてたの?」
ミーナ「『心を殺さない』ってところからです♪」
セツヤ「ぎゃーー!!! 止めて止めて。もう止めて。今の無し!」
アリス「しっかり覚えてますよ。・・・・・・・・・けどせめて・・・・・・・・・俺の目の届く範囲の人だけは」
セツヤ「やめろぉぉおおおーーーー!!!」
 SUVが異様なほどに揺れていた。


 国道を北上する中、一行はコンビニの駐車場で小休止を取っていた。運転はセツヤを中心に運転できるメンバーがローテーションで交代して行っている。もう明け方だ。人は非常に少ない。人口が多い場所ではないということもあるのだろう。
 セツヤは凝った体を伸ばしながら外気を吸収する。
セツヤ「ぁあ・・・・・・・・・疲れるな」
みつき「ご苦労様です」
セツヤ「ああ、いやいや、問題ないない。結構丈夫ですから」
早瀬「吝かですが、どこまで行くつもりなんですか?」
セツヤ「・・・・・・・・・三陸海岸です」
早瀬「三陸? そこにセツヤさんの所属組織の基地が?」
セツヤ「いえ。基地ではないんです。まぁ、詰め所みたいなところでしょうかね」
 以外にしっかりと答えてくれて早瀬は少し驚いた表情になる。そんな早瀬の表情をみつきは笑いながら見ていた。その笑みにセツヤも同調して笑う。そんな中、3人組がセツヤに向かってくる。
ライラ「セツヤ! これ買ってもいい?」
セツヤ「・・・・・・・・・これって菓子? まぁいいけども、あまり買い込むなよ」
みつき「ライラ、そんなセツヤさんを呼び捨てなんて。それに、遠足じゃないのにお菓子なんて」
セツヤ「ああ、呼び捨ては歓迎です。それにこのくらいは良いんですよ。・・・・・・・・・どうせ俺の金じゃないしね」
 というとセツヤもコンビニの中に入っていく。このセツヤの接しやすさは彼の長所だろう。
 食料を幾ばくか買い込んで出発する。後の3人娘は目も完全に覚めたのだろう。テンションが徐々に上がってくる。うるさい状況はセツヤもあまり嫌いではないので気にはならないのだが。
セツヤ「距離的にはこの辺で半分ってとこか。午後には着くだろうね」
みつき「それにしても、意外なほどに順調ですね。連邦に足止めされるかと思っていましたが」
セツヤ「それは真田さんが頑張ってくれたんでしょうね。恐らく連邦の息が掛かっているのは山野査察官だけだろうから、どうにでもってことでしょうよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・!! 皆、道路封鎖だ!」
 この一言で全員の遠足気分が一蹴される。SUVの進む先にいたのはパトカーが数台先にいて通行を止めていた。朝方だからあまり交通量は多くない。そのためか警官が全部の車に回ってくる。だが、セツヤはその様子を見て眉をひそめる。どういう訳か免許の提示を求めるわけでも、顔を見ているわけでもない。何よりも鬼気迫るものがない。こちらにやってくる警官にセツヤは普通に接する。
警官「申し訳ないですが、此処から先通行止めです。Uターンされたほうがいいですよ?」
セツヤ「何かあったんですか?」
警官「いえ。自衛隊の軍事演習ってことだそうです」
セツヤ「軍事演習? この近辺でですか?」
警官「と聞いてます」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました。どうもご丁寧に」
 とセツヤは答えてから車をUターンさせる。先ほどとは異なって全員が押し黙っていた。その中でセツヤ達は休憩を取ったコンビニに車を止める。
 車の中でセツヤは後ろを向いて全員に意見を求める。
セツヤ「どう思います?」
みつき「おかしいです」
セツヤ「ですよねぇ。軍事演習を公道に影響の出るような場所ではねぇ。それにラジオをさっきから聞いていますけども、そんなこと一言も言っていない。・・・・・・・・・ってことは」
みつき「封鎖でしょうね」
セツヤ「ちょっと調べてみましょうか。早瀬さん、頼めます?」
早瀬「はい。ちょっと待っていてください」
 早瀬は車の後ろから小型のパソコンを取り出してからカタカタとキーボードを叩く。仮にも羅螺の科学顧問にいた人間だ。ハッキングとは言わなくても裏に蔓延っている情報を除くことくらいは出来るはずだ。待つこと十数分。早瀬の機ボードを叩く音が止まる。
早瀬「分かりました。情報を総合するとゲッコーステイトですね」
セツヤ「ゲッコーステイト? このトラパーのこの地区でですか?」
早瀬「はい。各種のスレッドに月光号の目撃情報があります。あの公道の先の山頂部に陣取っているらしいです」
セツヤ「ということは州軍が介入しているってこと?」
早瀬「そこまでの情報まで見つけられませんでしたが、そう考えるのが妥当ですね。・・・・・・・・・セツヤさんはゲッコーステイトをご存知なんですか?」
セツヤ「因縁めいた物はあるね。・・・・・・・・・さて、どうしようかな」
みつき「それはどういう意味ですか?」
セツヤ「あそこは結構特殊な組織でね。ちょっと心配なんだよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・困ったな」
みつき「行くべきですよ。セツヤさん」
セツヤ「・・・・・・・・・でもねぇ。それってちょっと無責任じゃないかな?」
みつき「あなたは心を救うんでしょう? なら、それは守らないと。大丈夫です。私たちは少し離れたところで待っていればいいんですから」
セツヤ「・・・・・・・・・皆は? それで良いかい?」
早瀬「あなたがいなければ組織までたどり着けないんです。是非もありません」
ライラ「食事代は置いてってよね」
アリス「やったー! 食べたいもの結構あるんだよね」
ミーナ「これは冗談だけどもさ、私も行ったほうがいいと思うよ?」
ライラ「ずるいよ。ミーナ! 私とアリスが食いしん坊みたいじゃない」
アリス「そうだよ」
 セツヤは3人娘のやり取りを笑顔で見つめてからポケットから財布を取り出すと自分用に紙幣を一枚取り出してポケットに詰め込んでから財布をそのままみつきに預けた。
セツヤ「みつきさん、この食い意地の張った3人娘に食べたいもの食べさせてあげて。戻ってきたら連絡を入れるよ。・・・・・・・・・やっぱり念のため一筆書いていく」
みつき「必要ありません」
セツヤ「でも、それがあれば君等を」
みつき「必要ありません。あなたは戻ってくるのでしょう?」
セツヤ「みつきさんも相当頑固だよね。・・・・・・・・・・・・・・・・・・けど、俺も存外頑固だよ。・・・・・・・・・早瀬さん!」
 セツヤは自分の持っている社員証を早瀬に投げ渡した。それを受け取った早瀬は眉をひそめる。
早瀬「社員証? ・・・・・・・・・ヘムルート!?」
セツヤ「うん。24時間以内に戻ってくる。明日のこの時間を過ぎても俺が戻らなかったらそれを持って三陸のヘムルート西太平洋支部に行って。それを見せれば偉い人が出てくるから事の顛末を教えればいい」
みつき「ダメです! 私たちは」
セツヤ「帰ってくるって。死ぬつもりなんかさらさらない。これは保険なんだから」
 セツヤはそういうと車のトランクを開けてからナイフと拳銃をホルスターにしまってからニットの上にジャケットを羽織る。
セツヤ「じゃあ、行ってきます」
みつき「セツヤさん・・・・・・・・・御武運を」
セツヤ「また大層な事を。・・・・・・・・・ま、行ってきます」
 何の躊躇いもない様子だった。セツヤは公道からわき道に入ると真っ直ぐに山に向かって前進をはじめる。セツヤの後姿が見えなくなってからなのだが、みつきは横にいる早瀬に話を向ける。
みつき「きっとあの人は同じような心情で私を助けてくれたのでしょうね」
早瀬「はい。・・・・・・・・・それにしてもみつき様、まさか目的地がヘムルートとは思いつきませんでした」
みつき「ヘムルートといえば世界的に有名な企業。彼はヘムルートの人間だったんですね」
早瀬「はい。あそこならばセツヤさんのような人間が所属していてもおかしくはありません。それに、私達を守ってもくれるでしょう」
みつき「そうですね」
 みつきと早瀬はもう一度セツヤの向かった方角の先にある山を一瞥した。


 炭鉱へと入っていった。勿論レントンがだ。ゲッコーステイトの損害。トラパーなしには飛べない状況下でエウレカが行方不明。ホランド達がそのことに気付いているのかいないのか。そんな中、運搬車の乗ったレントンは炭鉱の奥底で1人の人物に出会う。人がいる確率が非常に乏しい場所で人に会うこともそうだが、それが知人である可能性は更に低かった。だが、人がいた。しかも見知った顔の人物だ。
レントン「あなたは・・・・・・・・・・・・・・・・・・確かセツヤさん?」
セツヤ「おおぅ! ラッキーだ。迷ったかと思ったよ♪」
レントン「え? えぇ!? 何でセツヤさんが。・・・・・・・・・! もしかしてセツヤさんって州軍の?」
 身構えるレントンにセツヤは笑い飛ばす。
セツヤ「あはは。違うよ。俺は寧ろ州軍の敵。形質的には君等に近いよ。・・・・・・・・・ゲッコーステイト」
レントン「え・・・・・・・・・俺達のこと知ってるんですか?」
セツヤ「有名だしね。知らないわけがない」
レントン「けど、そんな簡単には」
セツヤ「信用できないかい? いやはや頼もしいけど悲しいな。君の年齢でそんなことまで考えて生きなきゃならないとはね。けど、俺がもしも君の敵なら1人では来ない。ゲッコーステイトに捕らえられる可能性があるからだ。わかるね?」
レントン「・・・・・・・・・あの、はい。・・・・・・・・・じゃあセツヤさんはどうしてこんな所にいるんです?」
セツヤ「・・・・・・・・・色々あるけどね。・・・・・・・・・一番は君等が心配だったからかな。で、なんでレントン君はこんな所にいるの? 月光号の場所は山頂だと聞いてたんだけども?」
レントン「え・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・その」
セツヤ「言いにくいなら答えなくてもいいよ?」
レントン「そんなことはないです。エウレカを探しに。いなくなっちゃったんです。セツヤさん見ませんでしたか?」
セツヤ「エウレカちゃんを? 俺が来たルートでは見なかったな。気配もなかったね」
 セツヤはそういうとジャケットのポケットからこの山の周辺のマップを取り出してレントンに見せる。
セツヤ「南東、北北西ののルートはダメだ。州軍が張ってる。今はこの場所だね。エウレカちゃんって無茶する?」
レントン「しません」
セツヤ「とするなら、行き先はかなり絞られるな。エウレカちゃんの目的は?」
レントン「わかりませんよ」
セツヤ「だろうね。でも、州軍だって軍力を拡充させている。あんまりのんびりもしてられないよ」
レントン「え? 探すの手伝ってくれるんですか?」
セツヤ「ああ。俺はそのつもりだけど? 迷惑かい?」
レントン「でも、・・・・・・・・・でも俺何の御礼も出来ないし。ホランドたちはきっと許さないですよ?」
セツヤ「俺はゲッコーステイトじゃない。許される謂れがないね。俺は心のままに動くさ。止めて欲しけりゃ俺を止めなよレントン君♪」
 といってセツヤは歩き始める。レントンは笑顔を隠すことなく、セツヤを運搬車に乗せる。




第玖話 『心、昂ぶらせる男の帰路』 後編

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