粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃 第捌話 『悩める若人』 後編


第捌話 『悩める若人』 後編


 山を歩いてどのくらい経っただろうか。恐らく数十分と言うところだ。これからセツヤが進もうとしている山。その山にありえないことが起こる。振ってきたのだ。それは機体。その機体にセツヤは身に覚えがあった。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・? あれはハルツィーネン?」
 白いハルツィーネンがセツヤも見たことのない機体に捕まっているように見える。その機体が己を省みない状況でセツヤのまん前を通過し、山腹に激突した。激突した双方の機体は砂煙が収まってもピクリとも動かなかった。この様子を見てからか、セツヤはハルツィーネンに向かって走り始めた。このときセツヤが何を考えていたのかは誰もわからないだろうが、中に乗っているであろう一樹には恩がある。これは少々前に一樹に告げた言葉だ。セツヤはサバイバルに関しても一流だ。応急処置も医師ほどではないが下手な衛生兵よりはよほど上手くこなせる。薬も少量だがある。恐らくはそういうことなのだろう。
 山間を見事に走り回り、あっという間にセツヤはハルツィーネンの脚部あたりにまで到着する。
セツヤ「一樹君!! 一樹君いるか!!」
 セツヤの声。声を張り上げて恩人の名前を叫ぶ。コックピットがゆっくりと開くとそこから出てくる人間がいた。額から血。右腕を押さえて出てきたのは平均的な高校生の体格のそれだ。その出てきた青年はおびえた表情で周りを見渡してセツヤを見つける。
セツヤ「一樹君!!」
 セツヤは人間離れした膂力でハルツィーネンを駆け上がる。そして、何の言葉もなしに一樹を担ぎ上げた。そのままハルツィーネンから飛び降りてものすごいスピードで機体から離れた。
一樹「ぅああ・・・・・・・・・」
 傷口が傷むのだろう。高校生には厳しいのはセツヤも重々承知しているが
セツヤ「ごめん。少しだけ我慢してくれ」
 セツヤがハルツィーネンから退避した直後だった。機体が崖から山間部へと落下して言った。セツヤは大木に背を密着させて体で一樹をかばう。砂煙が2人を襲う。だが、セツヤの判断が功をそうしたのか、2人とも機体落下の衝撃で怪我を負う事はなかった。
 一段楽したからだろう。セツヤは大きく安堵のため息をついた。
セツヤ「はぁぁああーーー、あっぶねー。・・・・・・・・・ラッキーだよ一樹君」
一樹「あ・・・・・・・・・はい。セツヤさん・・・・・・・・・・・・・・・・・・ですよね?」
 この場にセツヤがいることがにわかに信じられないのだろう。
セツヤ「他に誰かに見えるかい?」
 とかなり間抜けなことを口にする。
一樹「あ、いいえ。・・・・・・・・・あの、セツヤさんはどうして・・・・・・・・・いえ、違いますね。ありがとうございます。助けてくれて」
セツヤ「まだ助かってないよ。それよりも手当てが先かな。簡単な治療しかできないから真田さんのところに帰ったらちゃんと治療してもらうんだよ?」
一樹「はい」
セツヤ「よし。ちょっと額見せて。・・・・・・・・・ん。大丈夫だ。傷口は浅い」
 セツヤは消毒液をガーゼに塗りこんで額を拭く。
一樹「い、痛いです!!」
セツヤ「我慢して。どう見たって腕の方が痛そうだよ? 腕は・・・・・・・・・折れている可能性もあるね。かばってるからかなり痛いんでしょ?」
一樹「痛いです」
 セツヤは周囲を見回してから固定できそうな大きさの枝を掴む。
セツヤ「この錠剤飲んで。痛み止めだから。一応固定もするよ」
 木の枝を添え木にして手馴れた手つきでセツヤは一樹の腕を縛る。
一樹「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの、セツヤさんはどうしてここにいるんですか?」
 まぁ当然の疑問だろう。数時間前までDEAVAにいた男がこんな山腹にいるということはまぁ普通はありえない。
セツヤ「教えてもいいけど、黙っていてもらえるかな? あぁ、真田さんには事が済んでから言ってもいいけど」
一樹「機密って奴ですか?」
セツヤ「機密って言うか。敵方に知られたら面倒ってことだよ。・・・・・・・・・よし、手当て終了」
一樹「ありがとうございます」
セツヤ「いいって。・・・・・・・・・で? どうする? 聞く?」
一樹「・・・・・・・・・あの、僕は教えて欲しいです。セツヤさんは僕を助けてくれた人で、あの、上手くは言えないんですけど、そういう人の事って知っておきたいですから。・・・・・・・・・あの、約束します。誰にも言いません」
セツヤ「わかった。えー、君はどこまで知ってるんだっけ? 俺が白鬼って呼ばれているってことは知ってるんだよね? ということは俺の所属している部隊については知っているかな?」
一樹「いえ。・・・・・・・・・あの、真田長官はミスリルがどうとか」
セツヤ「・・・・・・・・・やっぱり昼行灯だなあの人。どこまで知ってるんだか。・・・・・・・・・俺の所属している部隊の名前だよそれ。ミスリル。テロや軍事行動に介入する対テロの極秘組織なんだよね。戦闘行動で母艦が航行に難があるくらいダメージを受けてねDEAVAの設備を借りて修理していたんだ。けど、俺等の居場所が敵方にばれちゃって逃げないといけなくなってね、万全でない母艦じゃ戦闘行動するにも疑問があったんで俺が囮になってその間に母艦を逃がしたの。当の俺は機体をぼろぼろにされてこの近くに不時着。山を歩いていたらハルツィーネンを見かけたって寸法だよ」
 簡潔だろう。難しいことを語らずに分かりやすいものだった。一樹に与えた痛み止めが効いてきたのか、知人がいることで不安が多少は解消されたのかは分からないが多少なりとも余裕が戻っているように思える。
一樹「・・・・・・・・・あ、そうだったんですか。あの、セツヤさんは怪我がなくてよかったです」
セツヤ「どうも。それで? 今度は一樹君が話してよ」
一樹「僕は戦闘中に敵機に押さえ込まれてしまって、敵の領土に連れて行かれてしまったんです」
セツヤ「・・・・・・・・・へぇ」
一樹「でも、機動兵器で領土を侵犯することができないから援軍もなくて。・・・・・・・・・そのままここまで」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 セツヤが随分と重苦しい表情になる。
一樹「あの、セツヤさん?」
セツヤ「一樹君、敵は・・・・・・・・・羅螺軍は知っているのかい? 君がハルツィーネンに乗っていることを」
一樹「いいえ。あの、知られてはいけないって真田長官が」
セツヤ「! まずいな。直ぐに追っ手が来る」
一樹「えぇ!? どうしてですか?」
セツヤ「羅螺の目的が君だからだよ。自分の陣地にハルツィーネンを運び込んで君を捕まえること。それが敵の目的と見るべきだ。だとすると、この場所も直ぐに包囲される。逃げるよ」
一樹「・・・・・・・・・なら、セツヤさん1人で逃げてください。僕なら・・・・・・・・・大丈夫ですから」
 大丈夫そうにはとても見えなかった。表情暗く、体は多少なりとも震えている。昨日今日とパイロットになった高校生がとても耐えられるものではないことは当然だろう。
セツヤ「何言ってるんだい。一緒に行くよ。絶対に真田さんのところに返してあげるから。ほら、背負うから立ってくれ」
一樹「・・・・・・・・・でも、それだと」
セツヤ「怪我人は黙って言われる通りにする。第一、君を見捨てたなんてどの顔して真田さんに言えばいいんだよ。・・・・・・・・・何よりもさ、言っただろう? 俺は無条件で君の味方だってね」
 セツヤは一樹の手を取ると彼を立たせるべく力を入れる。
一樹「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの」
セツヤ「ん?」
一樹「・・・・・・・・・ありがとうございます」
セツヤ「どういたしまして」
 セツヤはニッカと笑い、何も変わらずに一樹を背中に背負った。


 セツヤは頭で計算をする。一樹を背負っている以上、ロッククライミングは無理だ。強行突破も無理。彼の体力が持たない。ハイキングなんて洒落込んだら発見されるのも時間の問題だ。正直に言えばこちらのアドバンテージはほとんどない。あるとするならば幸か不幸かセツヤが日本人でしっかりとした国籍を持っているということだろうか。この場所にいても不自然には思われない。
セツヤ(さて、どう包囲網を突破するかな? ・・・・・・・・・ん?)
 セツヤは身を低くして話の中に隠れる。
一樹「ぅあっ」
 声を出す一樹にセツヤは人差し指を唇の前に持ってきて沈黙を促す。そして、その指をある方向に向ける。その方向を一樹が見ると銃を持ったかなり特異的な格好をした兵士がいた。それを見て一樹も状況を理解できたようでコクコクとうなずく。セツヤもそれを見て頷いてから、ジェスチャーで一樹に少しだけこの場所にいてくれるように伝える。恐らく伝わったのだろう。一樹は再び頷き返した。
 セツヤは足元の小石を拾うと相手の死角を巧みに計算した上で反対方向に投げて物音を立たせる。兵士達にもそれなりの緊張感はあるだろう。その物音が立った方向に銃口を向けた瞬間だ。セツヤは兵士2人一辺に首筋を目掛けて手刀を叩き込んで昏倒させる。そして、その兵士達を道から少し外れた場所に運び込んでから通信機を手に入れる。でも、銃は奪わない。奪えば奪ったで相手側を刺激することになる。捕まっても即座に殺されることはないだろう。特に一樹はそのはずだ。ならば、そんな危険を冒す必要はない。通信機だけ奪うと直ぐに一樹のところに戻る。
セツヤ「お待たせ」
一樹「すいません」
セツヤ「? 何が?」
一樹「僕がいなければ、セツヤさん1人なら簡単に逃げられたのに」
セツヤ「ははっ! 高校生がそんな心配するなよ。俺はこういう生き方しかできないの。そして後悔もしない。だから気に病むな。・・・・・・・・・堕天翅族が東京を襲ったときに君達が着てくれなければ助けられなかった命がたくさんあるんだ。一樹君、君が多くの命の恩人なんだよ。『僕がいなければ』なんて言うな。それと、俺に恩くらい返させてくれ」
 一樹はとてつもなく驚いた。こういう大人もいるのだと思ってしまう。思えてしまう。強く優しい大人。一樹の周囲にいる人間がそうではないとは言わないがこれだけ顕著に体現している人間も珍しい。
セツヤ「わかった?」
 しかも彼は屈託がない。
一樹「はい!」
 一樹の返事にセツヤは満足した様子だった。その言葉を受けてからその場に座り込むと奪ってきた通信機をいじる。正直セツヤはこういった機器には詳しくはない。機械オンチというほどではないが、平均値のそれよりは劣っているだろう。
セツヤ「・・・・・・・・・とりあえず奪ってきたけど、どうやって使うんだろうこれ?」
一樹「貸してもらっていいですか?」
セツヤ「勿論。一樹君、こういう機械関係強いの?」
一樹「はい。機械イジリは得意です」
セツヤ「助かるよ。俺こういう機械関係はダメダメで」
一樹「でも、セツヤさんだって白鬼・・・・・・・・・あ、白鬼って言っちゃダメなんですよね」
セツヤ「ヒュッケバインマークU・エトランゼ。エトランゼがいいかな?」
一樹「そのエトランゼに乗っているじゃないですか? ああいう機体のOSの操作だけで十分じゃないですか?」
セツヤ「エトランゼにOS積んでないんだよね」
一樹「?? はい?」
セツヤ「エトランゼはOSないの。俺が使えないからオミットしたんだよ」
一樹「いいぃ!? オミットって、そんなことしたら機体動かないじゃないですか。全部マニュアルにしないと通常動作だけでも気の滅入る様な細かな操作が要求されますよ?」
セツヤ「細かいだけで複雑じゃないならそっちの方がまだいい」
一樹「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 一樹が押し黙ってしまう。ようやくこの目の前のセツヤ・クヌギという男の変態的な部分を認識できたからだ。
セツヤ「そんなことよりもさ、どう? 向こう側の話聞ける?」
一樹「はい。ちょっと静かにしてくださいね」
 セツヤが頷いたのを確認してから一樹は通信機で電波を受信する。
通信機『・・・・・・・・・・・・・・・・・・定時報告。こちら探索Tチーム。山岳コースの南から600mほど進んだ。不審者無し。予定通り探索を続ける。・・・・・・・・・本部了解。繰り返すが敵女性パイロットは生きたまま、できれば無傷で捕獲が好ましい。・・・・・・・・・了解』
 この通信を聞いてセツヤは少しばかり押し黙る。
一樹「セツヤさん?」
セツヤ「一樹君、投降してみようか」
一樹「えぇ!! でも、それだと羅螺に捕まるってことですよね?」
セツヤ「どうかな? 案外優しく対応してくれるかもしれないよ?」
一樹「え? どうしてわかるんですか?」
 一樹の当然の問いにセツヤは笑いながら答える。
セツヤ「羅螺はハルツィーネンの女パイロットを探してるからだよ」
一樹「あっ! そうか」
セツヤ「だろう? ・・・・・・・・・俺だけなら無視してもいいけど、一樹君の手当ても急がないといけない。戦闘に巻き込まれたと口裏を合わせれば手当てもしてくれるさ」
一樹「上手くいくと思いますか?」
セツヤ「さあ? 微妙なラインだとは思うよ。けど、このままそそくさと山を降りるよりは現実的なプランだとは思うね。幸か不幸かさっきの兵士には顔を見られていない。この通信機を元の場所に戻してくればばれる可能性も減るだろうよ」
一樹「わかりました。セツヤさんを信用します」
セツヤ「そうと決まれば・・・・・・・・・。一樹君、ちょっとごめんね」
一樹「え゛!?」
 どうにも容赦がないのか。セツヤは先ほどの兵士と同じように一樹の首に手刀で軽く叩いて簡単に一樹を昏倒させてしまう。この辺の躊躇いのなさはさすがといえる。そして、セツヤは一樹を担ぐとそのままにハイキングコースを下りていった。


 セツヤの一撃を貰って一樹が目を覚ましたときに見たものは見知らぬ天井だった。見慣れない部屋だがすっきりした一室だった。
一樹「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここは?」
 目を覚ました一樹はゆっくりと起き上がろうとする。だが、その行動を優しく押さえ込む人間がいた。一樹は内心で驚きの声を挙げる。
悪趣味な女性「まだ動かないほうがいいわ。あなた怪我をしているのよ。ほら、安静にして」
 そう。羅螺の宣伝放送でよく矢面に立っている女性だった。髪型、アイメイク、服装とその他諸々、悪趣味としか言いようのない女性だ。
セツヤ「そうだよ一樹君」
一樹「セツヤさん」
 聞き知っている声。セツヤが部屋の脇の椅子に座って雑誌を読んでいた。その雑誌を脇に置いてからセツヤもその女性と共に一樹の横に立つ。その際にだ、セツヤは悪趣味な女性の死角に入ってから何やら目配せを送る。
一樹「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 意味深なセツヤの行動はすぐに一樹も理解するところになる。
セツヤ「ほらね。俺は彼を助けただけなんだって。俺は一介の登山家で、彼はただ山を登っていた青年。山で怪我した一樹君を見つけて手当てをしたの。それで彼を担いで下山しようとしていたんですって」
 一樹もあまり鋭いほうではないがセツヤの目配せとこの会話で意図を把握できた。つまり、話をあわせろといっているのだ。心の中で一樹は頷いた。
悪趣味な女性「本当か青年?」
一樹「あ、はい。この人に助けてもらいました」
悪趣味な女性「・・・・・・・・・そうか。少し待っていろ。2人を羅螺の軍人として一応登録してくる」
 と言うと、その女性は部屋を出て行った。言葉通りに2人を登録してくるのだろう。その女性が出て行くのをセツヤが横目で確認してから小声で囁く。
セツヤ「と言うことだから、話し合わせてね」
一樹「はい。上手くいったんですね」
セツヤ「概ねはね。まだ疑っている節があるからあまり油断はしないで。一樹君が逃げ出せるくらいに全快したら逃げよう。君が走れるなら幾らでも手はあるからさ。それと、突然殴って眠らせてごめんね」
一樹「いえ、それはいいんです。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ところで、あれから何日経ってるんですか? それと此処って?」
 もう話してもいい内容と一樹が判断したのだろう。普通の声の大きさに戻る。
セツヤ「3日だね。ここは羅螺のエンシェントシップ内。・・・・・・・・・あー、随分心配したよ」
一樹「すみません。心配かけて」
セツヤ「それはいいよ。俺も随分休めたし、ここの食事随分美味いしね。期待するといいよ」
一樹「・・・・・・・・・さっきの人、羅螺の『ミス・ラー』ですよね?」
セツヤ「俺は驚いたよ。一樹君も驚くと思うよ。でも、優しい人だったね。君を担いで山を降りてからぶっ倒れる仕草をした俺を介抱してくれたし」
 なんて話をしていると扉がノックされる。そんな云われはないのだが、セツヤがどうぞと答える。
みつき「失礼します」
 入ってきたのは見目美しい女性だった。
セツヤ「別にノックはしなくてもいいんじゃないですかねぇ」
みつき「いえ、殿方のお部屋ですから」
一樹「え、あの、セツヤさんこの人は?」
セツヤ「『ミス・ラー』こと羅螺みつきさん。俺達の命の恩人さん」
一樹「ぁ・・・・・・・・・? あれ?」
一樹(み、三月さん)
 みつきの顔を見て一樹は反射的にそう思ってしまう。
みつき「クヌギさんにはもう言いましたが、戦いに巻き込んでしまって本当に申し訳ありませんでした」
一樹「あ、あの」
 一樹に見つめられたみつきは顔を赤らめる。
みつき「そ・・・・・・・・・そんなに見つめないでください。」
一樹「だって随分印象が」
みつき「化粧をして自分に暗示をかけミス・ラーになりきるんです。だってそうでもしないと、とても恥ずかしくて。・・・・・・・・・・・・・・・・・・食事の用意をしてきます」
セツヤ「俺も分もあるのかな?」
みつき「勿論です。クヌギさんもお食べになってください」
セツヤ「馳走になります」
 それだけ言うとみつきが部屋を退室しようとする。その振る舞いも随分とできた人のように思える。みつきが部屋の扉の前で一端止まった。
みつき「あ、先ほどクヌギさんが仰いましたが改めて。私はみつき。羅螺みつきと申します」
一樹「みつき・・・・・・・・・・・・・・・・・・、あ、四加です。四加一樹」
 2人が初々しい挨拶を交わしている最中にもセツヤはみつきの表情と一樹の怪我を見比べていた。この2つがこの急場を乗り切るファクターということは明白だったからだ。
セツヤ(一樹君の治りが早いか、気付かれるのが早いか。さてさてどうなることやら)
 などと、かなり他人事のようなそぶりで考えていたのだが。


 セツヤは常に焦らない。焦らないといけない状況下でも焦らない。そういう行動理念で動いている。羅螺の本拠地につれて来られてから一週間近く経過しても。一樹を連れ出すと言う約束をしても。例え、羅螺軍の将軍と食事をかねて会談することになったとしてもだ。
羅螺博士「では、いただくとしよう」
セツヤ「あー、分不相応なお申し出感謝致します」
羅螺博士「災難だったなぁ、四加君とクヌギ君。しかし君達はどうしてあの時戦闘地域にいたのかね?」
 この質問にセツヤこそ表情は変わらないが少し一樹の表情が曇る。まぁ、みつきがそんなことを聞いてこなかったので意表を突かれたのは当然だ。一樹に考える時間を作らせるべく、セツヤがまず答える。
セツヤ「俺は隣県から山登りをしていたんです。ロッククライミングも含めて登るのが趣味でして。まぁ、そんな場所にいれば警報なんて聞こえません。自分の勝手な都合からご迷惑かけて申し訳ないと思ってます」
 そう言うとセツヤは再び頭を垂れる。
羅螺博士「いやいや、大事無くてよかったよ。それで一樹君は?」
 一番ひやひやしているのは恐らくセツヤだろう。内心ドキドキしながら一樹の説明を聞く。
一樹「え、っと。あそこには修学旅行で来ていたんですけど、僕、そそっかしいから皆と逸れてしまって」
羅螺博士「成程そうだったのかぁー」
羅螺鮎子「ロッククライミングと・・・・・・・・・修学旅行? ごめんなさいねぇ。私達のせいで」
一樹「・・・・・・・・・いえ」
セツヤ「恐縮です」
羅螺鮎子「・・・・・・・・・・・・・・・・・・可愛いわ。あなたたち」
一樹「え?」
セツヤ「??」
羅螺鮎子「興味あるわね?」
 どうにも意味深な言葉だった。現段階でほぼ一般人に近い一樹は大して気にはしなかっただろうが、セツヤは違う。食事をがっつく様な素振りを見せながらも、この羅螺鮎子と言う人物を訝しげな人物だと思ってしまう。
 変な雰囲気を作らないようにできるだけ笑顔で振舞っているセツヤだった。そんな中、羅螺博士が突然切り出す。
羅螺博士「そうだ、みつき、会食が終わったら例のやつを頼む」
みつき「え?」
羅螺博士「カミングスーンだよ、みつき」
 カミングスーン。恐らく予告戦闘のことだろう。みつきの顔が少々重くなる。
 羅螺の本拠地に来て分かったことではあるが、みつきの性格を加味すればあれは随分答えるだろう。自分に擬似催眠を施すようなことはしたくないはずだ。そういう意味では少し可哀相に思える。
みつき「あ、お父様、いつまでこのようなことを続けなくてはならないのですか?」
羅螺鮎子「異文明の遺跡は人類にとって危険な存在。国同士が争わないようにできるだけ平和的な方法で世界を統一することが最善だとあなたも承知しているはずよ?」
セツヤ(・・・・・・・・・あー、これが羅螺の行動理念か)
 内心ため息をつきながら、セツヤは話を最後まで聞く。
みつき「それはそうですけど」
羅螺鮎子「一樹君、セツヤ君、私達は人的被害を出さないためにああいう手段をとるしかなかったの。その中で一樹君の怪我は不幸な事故だったわ。ごめんなさいね」
一樹「いえ」
羅螺鮎子「・・・・・・・・・これからはもう少しスムーズな戦いをしなければならないわね。・・・・・・・・・あなた」
羅螺博士「ああ」
羅螺鮎子「いいわね、みつき」
みつき「はい」
 セツヤは少しばかり不満そうに食事を口に運ぶ。その表情の変化に鮎子が気付いたようだった。
羅螺鮎子「何か言いたいことがある様子ね。セツヤ君」
セツヤ「いえ、一介の小市民が羅螺軍を統べる方々に言うようなことじゃないです。何より失礼に当たりますのでご勘弁ください」
 こういう言い方は相手側の性格と懐を試す。こういう言い方をされれば大体は無礼こうな方向へと進むものだ。
羅螺鮎子「あら? 構わないわよ。もっと無礼な人たちを私達は知っているもの。そういう人たちに比べればあなたはとっても礼儀正しいわ。それに、市民の意見をないがしろにはできないわ。ねぇ、あなた」
羅螺博士「ああ。その通りだ。何かいいたいことがあるならいってくれたまえ。セツヤ君」
セツヤ「・・・・・・・・・そこまで仰るならいいますが、今この時代において、遺跡に固執する理由がないように思えてならないんです。遺跡があってもなくても驚異は幾らでもあります。堕天翅族、コーラリアン、ガルズオルム。少し言及するだけでもこれだかあるんです。遺跡の重要です。これ1つで戦争に火種には十分なりえるのでしょう。だから、連邦軍は羅螺軍との対決に応じています。軽視はできない。それはわかります。ですが、遺跡が有無に関わらずに世界各地で人は死にます。つい先日も東京に堕天翅族が来襲してきました。現在の世界は安全では決してありません。戦力の一点保持も賛成できませんしね。・・・・・・・・・・・・・・・・・・礼を省みない市民が身を弁えないことを申しました。忘れてください」
羅螺博士「・・・・・・・・・若いのに随分と見えたことを言う青年だね。驚いたよ」
羅螺鮎子「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
羅螺博士「セツヤ君、君のものの考え方は非常に稀有だが理に適っているな。どうだい? 確かに羅螺軍とは理念の違いはあるが私は君がとても有能のように思える。もしも君が望むならそれなりの地位で迎え入れたいんだが考えてもらえないかな?」
みつき「お父様!」
羅螺博士「ああー、そうだな。すまんすまん。随分と急いているな。これこそ会食でする話ではないな。だが、これは本心だ。考えてみてくれセツヤ君」
セツヤ「あ、はい」
羅螺鮎子「ところであなた、州軍からの要請、どうするつもりかしら?」
 いきなり話が変わる。この変化にセツヤは嫌な予感を嗅ぎ取ってしまう。
羅螺博士「州軍の要請? ああ、山岳部で回収したテロリストの機体の事か。別に応じる必要はなかろう。それにわし個人で随分興味のある機体なんでな、少々調べてみようと思っているが?」
 セツヤは兎も角として一樹は露骨に反応をする。
羅螺鮎子「その機体って有名なパイロットの機体なんでしょう?」
みつき「そうなんですか? お父様」
羅螺博士「ああ。詳しくは知らんが、ハイドシティの市民を人質に連邦、州軍の連合軍と戦闘。連邦が市民を解放をするにはしたが双軍の包囲網を突破していったということらしいな。なんでも白鬼とかいう名前らしい。まぁ、機体が白ってだけのことだと思うんだがな」
羅螺鮎子「そんなテロリストの機体に興味があるんですか?」
羅螺博士「ああ。早瀬の報告書を読んだだけなんじゃが、スペック的にはリミッターをはずして多少入れ替えてある程度じゃが、システム面と操作面で随分と破天荒な仕様をしておるんじゃよ。後学のためにデータを取らせてみようと思っておる」
 嫌な予感しかしない。これが今のセツヤにできるコメントだ。突然の切り出しにこの話題。質問こそされないが、何か掴んでいるんじゃないかと考えずにはいられない。そろそろ一樹の怪我が全快する。できるだけ早く逃げ出す必要性に至った事象だった。


 セツヤと一樹に用意された部屋に戻ってからセツヤはその必要性を一樹に説く。もう一刻の猶予もなかった。
セツヤ「もうこれ以上は待てない。お暇するよ一樹君」
 一樹もセツヤのこの考えには薄々感づいていた様子だった。何の批判も疑問もなくそれを了承する。
一樹「はい」
 晴れた表情には程遠いがそれが必要なことは理解できるのだろう。
一樹「でも、大丈夫なんですか? 2人だけじゃ。それに兵士だってたくさん」
セツヤ「荒事は俺の担当だよ。俺は戦闘よりもこっちの方が得意なんだよ。聞いてないかい?」
一樹「少し聞いてます。セツヤさんは・・・・・・・・・・・・・・・・・・その、すごい人だって。マオさんたちが」
セツヤ「だろ? 信じなよ。・・・・・・・・・確かにみつきさんを巻き込むことはできるけども、嫌だろ? あんな優しい子に逃亡の片棒を担がせるのは」
 それは一樹も同意見だったようだ。その表情に確固たる意思が見える。
一樹「はい。嫌です」
セツヤ「決まりだ。・・・・・・・・・逃げよう」
 一樹も腹を決めたようだった。一樹の意思を伴ってセツヤは逃亡を開始する。一樹がセツヤの類稀なるスキルを目の当たりにするのは走り出すよりも前。部屋の前でのことだった。既にセツヤと一樹を見張る2人の兵士が立っていた。扉を開けたセツヤがその兵士を見て見られる。
セツヤ「ん? 何してるんです?」
 とぼけた言葉端。相手を油断させる常套手段だろう。相手側もこちらの意思をまだ見抜いていない。慌てず、焦らないセツヤの行動の長所は此処にある。全くセツヤの表情が読めない兵士達はセツヤのテンションに合わせる。
羅螺軍兵士「いえ、この基地に侵入者が現れたという情報がありまして、司令と奥様の命によりお2人の護衛任務についております。もう暫くお部屋でお待ちください」
 見え見えの嘘だ。幾つも嘘が含まれている。侵入者はいない。そんな気配はなかった。司令ではなく奥様の命令だ。護衛任務ではなく監視任務。もう疑う余地はどこにもない。・・・・・・・・・と、内心考えながらもセツヤはその兵士に恐縮した態度を取る。
セツヤ「え、そんな。分不相応です。お2人もお忙しいでしょうに」
羅螺軍兵士「いえ! そんなことはありません。どうぞ安心してお休みください」
セツヤ「あー、悪いなぁ。・・・・・・・・・一樹君、そういうことだって」
 と、セツヤが一樹のいる方向を振り返ろうとした矢先だった。振り返る反動をそのまま用いて兵士の1人に回し蹴りを食らわせる。周囲には誰もない。監視カメラはあるがこれはどうしたって回避できないなら即効性が第一だ。その一撃は油断した兵士の首を直撃し意識を途切れさせる。
羅螺軍兵士「貴様!!」
 もう1人が長銃をセツヤに向けた構え要するが一歩費くどころが前に出てセツヤは銃に触れてその銃口を他の方向に向けさせる。
セツヤ「こんな短距離じゃ素手の方が明らかに速い」
 そういうと今度は懐に当身を食らわせてまたも瞬時に昏倒させた。そして、セツヤは倒れた兵士の長銃と懐から短銃、いくつかのマガジンを奪うと一樹に振り向く。
セツヤ「よし走るよ。庭を通って外に出よう」
一樹「はい!」
 2人の逃亡劇が始まる。
 セツヤの力を垣間見た一樹だが、不思議とあまり驚かなかった。とんでもない強さだったSRT部隊の人間が崇拝にも近い意思を仰いでいる人物だからかとふと思ったが、違う気がしていた。セツヤならばあのくらいはできると思っていた? 逃げるのに必死だったから? 色々と理由はあるかもしれない。だが、一樹の考えてるというある種の余裕を基地内の警報が奪い去っていく。丁度、中庭に出れたくらいのタイミングだ。セツヤが有無も言わさずに無力化した人間の数はすでに6人。銃を突きつけたりはしたが誰一人として殺していない。こういうところがセツヤのセツヤたる所以なのだろう。
 中庭の林の陰に隠れながらセツヤは声を出す。
セツヤ「ぞろぞろと出てくるな。まぁ、本拠地だから仕方がないけどもね」
一樹「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
セツヤ「弱音じゃないよ? 事実確認」
一樹「あっ、すいません。セツヤさんの力を疑っているわけじゃ」
セツヤ「知ってるよ。言ってみただけ。けど、俺は君を少し見誤っていたね」
一樹「?」
セツヤ「こんな状況で、敵に囲まれても君は随分とまともだよ。俺の指示を疑わないし、何よりも俺との会話をまともにできる。これは指揮官になるのに必要なスキルだ」
一樹「怖くないわけじゃないですよ? でも、セツヤさんは本当の正義の味方みたいだから」
セツヤ「・・・・・・・・・正義か。・・・・・・・・・そう思ってもらえるなら光栄だね。色んな意味で。俺はね、正義なんてものは信じていないんだよ。不思議だろ? 人の数ほどに正義があると思ってるんだ。絶対的な正義はない。俺の行動が一樹君の正義に近いならそれは、同じ理想を追っているということだ。・・・・・・・・・とてつもなく嬉しいよ。・・・・・・・・・っ!! 伏せろ!!」
 セツヤが声と同時に一樹に頭を下げさせる。その頭の上を無数の銃弾が飛来していった。その銃弾の合間を縫ってセツヤも銃を使って応戦する。
セツヤ「これが平和的な方法ねぇ。聞いて呆れる」
 皮肉ってからセツヤは一樹を視野に入れる。
セツヤ「怪我は・・・・・・・・・してないよね?」
一樹「はい。・・・・・・・・・はい。大丈夫です」
セツヤ「援護するから横に全速力で走るんだ。向こうの奥。あれは・・・・・・・・・洞窟かな? 中庭に変なものがあるな。まぁいいや。あそこに移動しよう」
一樹「わかりました」
セツヤ「俺が走れって言ったら走るんだよ」
一樹「はい」
セツヤ「よし」
 セツヤは立ち上がると銃を乱射する。だが、乱射に見えてしっかりと相手が動けないようにその用途を理解しての発砲だった。その中で相手が屈んだとたんにセツヤが叫ぶ。
セツヤ「走れ!!」
 銃声も消されるかのようなセツヤの声音をスタートサインに一樹は短距離走を始める。その間もセツヤは攻撃を弱めない。一樹がたどり着いたことを確認してからセツヤも横に走りながら銃撃を緩めない。セツヤも一樹のいる洞窟内に入ることができた。だが、たどり着いたセツヤはこんな状況下でも息一つ乱さない。それどころかマガジンを交換しながら一瞬にして周囲を目視で走査する。
セツヤ(人工物だな。多分かなり古い。・・・・・・・・・?)
 セツヤは一樹を一瞥すると一樹は立ってその洞窟内の異様なオブジェの前に立っていた。そのまん前には何やら複雑な家紋のようなものがある。
セツヤ「一樹君?」
一樹「これ・・・・・・・・・どこかで・・・・・・・・・あ!」
 一樹がそのオブジェに触れる。その途端、そのオブジェが光りだした。そして、一樹の足もとからも光が発生する。その光に包まれた一樹はその場所から突然消えた。
セツヤ「!? 一樹君っ!! ・・・・・・・・・何だこれは!!」
 完全に予測不能のトラブルだった。セツヤは苦虫を噛み締めたような表情になる。だが、セツヤにはこんな状況でも周囲に気を配らなくたはいけない。できることは時間を稼ぐことだけだった。洞窟内に拡声器で増大した声が響き渡る。
羅螺軍兵士『ここは完全に包囲した! 逃亡は不可能だ! 武器を捨て直ぐに投降しなさい!!』
 思考が薄くなっていく。嫌な感覚だった。こんな状況下での対処法。軍でも教えることのできない対処法。ネージュが良く知る対処法。そのパターンが幾つも頭を遮る。だが、その方法を実行することはできなかった。セツヤは小さくため息をついてから武器を持って洞窟の外に出て行く。
 再びそのオブジェが光り輝いて一樹が元の場所に戻ってくるのは数分後のことだった。
セツヤ「お帰り」
一樹「・・・・・・・・・え、あの」
セツヤ「待ってるしかできなかったんでね。そのオブジェ、俺には反応しないし。・・・・・・・・・で、何だったんだいそれ?」
一樹「いえ、あの、・・・・・・・・・説明すると長くなるんですけど」
セツヤ「なら今は無理だね。さてと、逃げるとしようか。脱出ポットの位置が分かったんだよ。上部層のこの場所」
 何気にセツヤはマップを取り出すとその位置を指で指し示す。
一樹「え・・・・・・・・・どうしてそんなこと知っているんですか?」
セツヤ「君がそのオブジェとランデブーしている間に俺は外の兵士さんたちを締め上げてた。そしたら結構簡単に教えてくれたよ」
一樹「!!?」
 一樹が洞窟からゆっくり顔を出してみる。するとそこには幾十人もの兵士達が無残にも倒れていた。
一樹「こ、これ・・・・・・・・・セツヤさんが?」
セツヤ「昔取った杵柄ってやつかな? こういう訓練受けてたんだよ。・・・・・・・・・正直、見せたい内容じゃないからね。不謹慎だけども君が見てなくて良かったと思ってるんだよね」
 何事もなさそうに言ってくる。一樹にはいつもと変わらぬセツヤに見えただろう。だがしかし、これがもしユメコやジャスがこの場にいたのならセツヤの若干の表情の変化に気付いただろう。
セツヤ「また、兵士がやってきたら始末が悪い。行こう」
一樹「あ、はい!」
 セツヤと一樹は再び基地内に戻っていく。


 けたたましい警報の中セツヤを先頭にして2人は目的の場所に走っていく。あまり遠くはないことが幸いした。直ぐに脱出ポットの格納庫に到着する。
セツヤ「ここを曲がって突き当たりでいいんだよね?」
 マッピングを担当していた一樹にセツヤが聞く。
一樹「はい。間違いありません」
 セツヤがその曲がり角を曲がった瞬間立ち止まる。一番会いたくない人物がその格納庫の前にいたからだ。一樹は驚き、セツヤは憂いた表情になる。
みつき「セツヤさん・・・・・・・・・一樹さん」
一樹「・・・・・・・・・羅螺さん。・・・・・・・・・ごめんなさい。僕は・・・・・・・・・」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
みつき「化粧をしていない私は羅螺軍のミス・ラーじゃないわ。・・・・・・・・・そうでしょう? 一樹さん」
一樹「・・・・・・・・・みつきさん」
セツヤ「俺は謝れませんね。・・・・・・・・・道理がない。正しいと思っていることを実行しているだけですから」
みつき「必要ありません。・・・・・・・・・脱出ポットの準備は出来ています。お2人ともお早く」
セツヤ「用意しているのって1機だけ?」
みつき「はい。ですが3人は乗れます」
セツヤ「いや、逃げるのは一樹君だけ」
 と、何気にすごいことを言ってくる。
一樹「えぇ!! セツヤさんも一緒じゃ!」
みつき「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、ここにいてはあなたも捕まってしまいます」
セツヤ「まぁ、そういう方向に向かうんだろうけどもさ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなたはどうなる?」
みつき「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一樹「!!」
セツヤ「俺達を逃がしたらいしたら幾ら羅螺の司令官でもひどい目にあうのは目に見えてるんだよ。羅螺の総帥は守ってくれるかもしれないが奥さんは強烈だ。どんな企みに組み込むかわかったもんじゃない。ここまでしてくれたんだ。みつきさんにしわ寄せが行くのは目覚めが悪い。選択肢は2つ! その1、俺達と一緒に来る。その2、俺が此処に残ってあなたを逃がす。・・・・・・・・・選んでください。どっちお好みですか?」
 破天荒、行き当たりばったり。だが、それを実現するだけの実力者。今、この瞬間、一樹はマオ達SRT部隊の人間の言葉の意味をはっきりと理解した。こういうことなのだろう。セツヤの凄さは。
早瀬『みつき様、時間がありません』
一樹「一緒に行きましょうみつきさん!」
セツヤ「それが一番いいと思うんだけどな。あなたの部下たちもさ。向こうに行っても別に連邦に組しろとは言わないよ。そう言ってきたら俺がまた連れ出す。そして、俺の部隊に入ればいい。戦いが嫌なら逃がしてあげるしね。・・・・・・・・・あなたは元来とても優しい。一樹君と同じだよ。俺は出来れば戦って欲しいとは思っていない」
みつき「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ですが・・・・・・・・・」
ライラ『みつき様! 私たちも直ぐに行きます! だから先に行ってください』
ミーナ『そうです。ここにいたらみつき様が』
セツヤ「だそうですが?」
アリス『白鬼! あんたみつき様を死んでも守るのよ! 良いわね!!』
セツヤ「ああ。任せておけ。お前等もすぐに来い。・・・・・・・・・これ以上は時間が持たない。決められないなら俺が決めますよ?」
みつき「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました。・・・・・・・・・一緒に行きます」
セツヤ「よし来た! 一樹君乗り込め!!」
 一樹と意気投合した最中にあるセツヤだ。みつきの言葉を皮切りに彼女をかなり強引に肩に担ぐとそのままありえない膂力でポットに乗り込んで上から一樹の手を引く。そして、全員が乗り込んだのを確認してから通信機に叫ぶ。
セツヤ「用意できたぞ! あんた等が来るまで待ってるからな! 絶対に来るんだぞ!」
早瀬『・・・・・・・・・発進させます』
 脱出ポットがカタパルトを上っていく。その光景を半ば満面の笑みで見つめている4人のみつきの腹心達がいた。




第玖話 『心、昂ぶらせる男の帰路』 前編

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