粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃 第捌話 『悩める若人』 後編


第捌話 『悩める若人』 前編


 風伯と空戦部隊の発進用意、陸戦部隊の配置の完了をユメコはブリッジで確認をする。
マリア「全機体、所定位置で確認」
ジャス「左舷前方の副砲 第一主砲の2番砲塔、更にいくつかの対空迎撃砲以外の武装は正常稼動」
ユージーン「大気圏内迷彩システムフル稼働時の77%の出力で正常稼動。用途は果たせます」
ユメコ「了解。エーデちゃん、DEAVA管制に通達」
エーデ「了解。・・・・・・・・・DEAVA管制官応答願います。こちら風伯。発進準備が整いました。これより風伯発進します。格納庫の開閉を求めます」
DEAVA管制官『こちら管制、了解しました』
 管制官の言葉から数秒後だった。なぜか同様の管制官から電文が送られてくる。それを見たエーデは首をかしげながら
エーデ「副長、・・・・・・・・・あれ? なんででしょう? 管制官から電文が送られてきました」
ユメコ「・・・・・・・・・読んで」
エーデ「はい。・・・・・・・・・えー、御艦は不当に当DEAVA基地をにおける侵入且つ不法使用における行為はとても看過できる物ではない。こちらとしては貴艦を包囲し一網打尽にする用意がある。直ちにこちらの忠告に従え。間違ってもドッグから勝手に出撃などすることがないように忠告する。DEAVA司令、不動GEN。・・・・・・・・・・・・・・・・・・何ですかコレ!! 投降勧告じゃないですか!」
 まぁ、有体に言って勧告なのだがユメコとジャスはそうは取らない。こんな面倒なことをするということは向こう側の保身の為には必要な措置ということだ。それが頭の切れる2人には痛いほど良くわかる。
ユメコ「・・・・・・・・・参謀」
ジャス「当然ですね。第二主砲発射用意! 標的! ドッグハッチ!」
エーデ「ええぇぇぇ!!」
ユメコ「主砲発射と同時に号令を待たずに出力最大。DEAVA基地を脱出するよジュリアさん。マリアさん総員に伝令!」
ジュリア・マリア「「了解!」」
ユメコ「主砲発射!」
ジャス「発射します!!」
 風伯の主砲が轟音を鳴らす。轟音と衝撃がドッグを突き破る。それと同時に風伯のエンジンも最大出力に持っていく。白い戦艦が青空に飛び立つ。だが、青空を堪能している暇はブリッジにはなかった。
ユメコ「左舷に急速転舵40度! 太平洋左右のカタパルト用意! 空戦部隊緊急発進! ・・・・・・・・・さぁーて! 鬼ごっこをはじめるよ! ユージーン君、索敵!」
ユージーン「左舷前方にクローヴァル級巡洋艦2隻、後方からエイゼタス級4隻です」
ユメコ「エイゼタスは兎も角、クローヴァル級っていったらオムロックの最新式か」
マリア「思いやられますか?」
ユメコ「冗談! 全部纏めてぶっ潰したいってば! ・・・・・・・・・参謀!」
ジャス「既にミサイル発射管に誘導弾、垂直ミサイル発射管に拡散ミサイルを装填済み。甲板に待機しているSRT部隊も用意できています。いつでもいけます」
ユメコ「マリアさん、空戦部隊の全機発射確認後各機に通達! ミサイルの弾道予想も逐一送って。ユージーン君! 電磁フィールドの状態は」
ユージーン「システムグリーン。良好です」
マリア「空戦部隊の全機発進確認しました」
ユメコ「オーケー。目的地は三陸だからね。一点突破だよ。第一波にミサイルを発射して空戦部隊の援護。第二波に主砲副砲で向こう側の動向を見る」
ユージーン「敵部隊、まもなく風伯の最大射程に入ります」
ユメコ「一斉に行くからね。・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし! 全ミサイル一斉発射!!」
ジャス「発射!」
 ミサイルが空中に舞う。そのミサイルの軌道と爆発の閃光。それが追撃戦の狼煙になる。


 エトランゼを先頭にした空戦部隊は風伯とは真逆の方向で敵を待ち構える。目的は敵機動兵器を足止めすることだ。セツヤはコックピット内で風伯からもたらされた敵情報を検分しながら通信機越しに言葉を漏らす。
セツヤ「・・・・・・・・・KLF主体か。それに遊撃にバルキリー。数は一個中隊+αってところか。ここはまだいいけれども、問題はやっぱりクローヴァル級ってことになるのかな」
 聞かれていることを意識した上での独り言という感じなのだろうか。その独り言にしっかりと答える面々がいる。
ギリアム『確かに難敵であることは違いないし油断もできないが、深入りする必要がないのならば危険もそれだけ減ってくる』
マルス『そういう意見はセツヤさんや大尉だからです。これだけの数の対処は通常に考えれば難しい。ハイドシティの防衛線は守っているほうが有利ですが今回は追撃戦。こちらが追撃されるほうです。数的不利以外にも不利な要素が多いです』
セツヤ「通常はね」
マルス『? それはどういう意味ですか?』
セツヤ「風伯のスペックは普通と違うって意味だよ」
マルス『風伯のスペック?』
アール『風伯の機動力が並外れているって意味ですね?』
セツヤ「そう。風伯の機動力は群を抜いているから、風伯を敵が見失ってしまえがこちらは向こうの焦りに乗じて散開すればいいんだ。そのための緊急時の集合場所決めてるんだから」
ホルテ『成程』
ギリアム『そういうことだ。期待しているぞ中尉』
セツヤ(こういう所はさすが生粋だな。俺には真似できない)
 とセツヤは思っていた。こういう軍人ならではの気遣いというものはセツヤはできない。そういう意味で風伯にとってギリアムの存在はかなり重要な役割を持っている。
マルス『了解しました。大尉殿』
ギリアム『大尉は止せ。俺はもう軍人じゃないんだからな』
マルス『いえ。それでも、自分はセツヤさんと同様に大尉殿を尊敬してしますので』
ギリアム『見る目が無いな中尉。まぁ、あのデネブのバカよりは見所があるがな』
マルス『光栄です。大尉殿』
セツヤ「アール君、マルスさんとギリアムさんって仲いいの?」
アール『はい。マルスは昔から上官には恵まれませんでしたから。恐らく奴にとっては初めての上官らしい上官なんじゃないですかね?』
セツヤ「俺じゃあれは無理だしね」
アール『いやぁ。セツヤさんは軍人という枠に嵌らないってだけですよ。尊敬はしてますよ。俺もマルスも』
セツヤ「そりゃどうも。・・・・・・・・・さて、そろそろ始まるみたいだね。風伯からミサイルの軌道データが来た。首尾よくいこう。何より死ぬなよ!」
空戦部隊員『『『『了解!』』』』
 各機が散開する。


 戦闘に入って一番深く入り込んでいたのはやはりセツヤだった。セツヤが先行することで敵の陣形が面白いくらいに崩れる。それをエルシュナイデが狙い打ち、外からエクスカリバーが攻撃を重ねて更に陣形を崩す。それを見事な練度でやってのける。懸念材料だったクローヴァル級は風伯からの後方射撃で視点が定まっていないように思える。だが、それは未だに操艦に慣れていないということなのだろう。風伯は進水式までにじっくり時間をかけてユメコを初めとしたクルーの練度向上に勤めてきた。しかし、恐らく相対しているクローヴァル級は違う。新たなる機能に有用性。それを見通していない。そうとしか思えない。物を通して心情を掴むことに関して右に出るものがいないセツヤにはその動きを見るだけでそれが理解できた。同時にクローヴァル級のスペックの大まかなところも同時に見抜けていた。
セツヤ(あれは危ないな。あれが連邦や州軍のスタンダードになったら風伯でも簡単には通用しなくなる。できれば・・・・・・・・・此処で落としたいが)
 エトランゼが側部からこちらを狙ってくるモンスーノを振り返ることなくフォトンライフルを発砲。肩部分に命中させてミサイルポッドごと使用不能にする。しかも、それを高速移動中にやってのける。
セツヤ「さぁ、帰れよ! どんどん帰れ!」
 こんな戦況下でもセツヤは敵をできる限り殺さないように心がける。白兵戦のようには行かないがそれでもできる限りはこうしている。そんな中でも含みは忘れない。手の空いた一瞬にエトランゼが腰部分のGストライク・キャノンを展開。すべるような動きで奥のクローヴァル級に向けてエネルギー弾を発射した。そのエネルギー弾をエトランゼ内のモニタでしっかりと記録する。艦首部分を狙ってのエトランゼの攻撃。エイゼタス級の巡洋艦ならば回避しか選択肢がないはずだった。だが、その攻撃はクローヴァル級のまん前で消失した。エネルギー弾が消えた周囲が何か薄く光っている。その電気のような光にセツヤは身に覚えがあった。
セツヤ「チィッ、電磁フィールド。オムロックめ。独自で開発に成功したか」
 風伯に採用された最新技術の一つ、電磁フィールド展開装置。それがオムロック社の艦艇にも実装されているということはこれから先の戦術を組み立てるためには必要な情報だった。
セツヤ「これから先はコレがスタンダードか。・・・・・・・・・嫌になるな」
 敵のフィールドの映像を見てから今一度自分の周囲にいる敵機の機影を確認する。そして、再び周囲の敵をかく乱するべき動き始める。フォトンライフルを数発発砲してところだったか。マルスがエトランゼのメインモニターの端に映し出される。
マルス『こちらディーナ1! ハンニバル応答してください』
セツヤ「こちらハンニバル。良い情報? 悪い情報?」
マルス『悪い情報です。自分のエルシュナイデのパッシブレーダーに反応がありました。増援が来ます』
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。シルフ、アーサー、応答してくれ」
マリア『こちらシルフ』
ギリアム『キャットコール、アーサー』
セツヤ「ディーナ1のレーダーに増援が映った。・・・・・・・・・一応、皆の意見を聞かせて。率直且つ簡潔に」
ギリアム『・・・・・・・・・通常ならば機動兵器部隊で追撃部隊と風伯との間に入るべきだな』
マルス『自分も大尉と同意見です』
マリア『・・・・・・・・・副長と参謀もギリアム大尉と同じことを言っています』
セツヤ「どうかな? 危険な香りがするな。どうにもキナ臭い。俺達と風伯の距離を開けるための算段とは考えられないかい?」
ギリアム『・・・・・・・・・ありえる話だな。引き付けているように敵機が動いてる節がある』
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺が残ろう。エトランゼなら恰好の疑似餌だ。マルスさんは残りの空戦部隊を指揮。風伯と適度な距離を保ちながら防衛に当たってくれ。悪いですが、いざとなったらギリアムさんお願いします」
マルス『セツヤさんッ!! あなたがそんなことを! 囮ならば私が!!』
マリア『・・・・・・・・・こちらシルフ。セツヤさん、副長と参謀が 条件付で了承とのことです』
セツヤ「で? 条件は」
マリア『五体満足で帰ってくることだそうです』
セツヤ「了解だ。もしものことがあっても俺、個人なら本社に行きつける。そちらの判断は副長、参謀に一任。ネージュとエフレム先生に俺が帰るまで捕虜をよろしくと伝えてくれ」
マリア『了解です』
マルス『セツヤさん!! あなたは我々の長なんですよ!? その人自らが囮をやるなんて!!』
セツヤ「はっ、マルスさん、俺の性格忘れたかい? 言ったら聞かないはモットーさ。それに、コレは俺が適任だ。生存の可能性、敵を引き付ける可能性が共に高く、単独でも行動可能。日本は俺の祖国だよ? エトランゼを失ったとしても歩いて社にたどり着ける。俺は命令嫌いだけども、これ以上言うなら命令するよ? 頼むからそんなことさせないでくれ」
マルス『・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました』
セツヤ「ありがと。戻ったら何かおごるよ」
マルス『・・・・・・・・・わかりました。約束です。セツヤさん』
セツヤ「当然だ。俺は命を粗末にしないよ。・・・・・・・・・ギリアムさん、あと頼みます」
ギリアム『了解だ。・・・・・・・・・それにしても大した忠臣だな』
セツヤ「はは、どうも」
 セツヤとギリアムの会話は概ね決定的な別れを連想させるような話ではなかった。双方共にどこか理解していたのだろう。死なないということに。そういう嗅覚を持っているのかもしれない。
セツヤ「もう行きな、同胞! ヘムルートで会おう」
マルス『了解』
ギリアム『了解だ』
 エルシュナイデ部隊とそれを先導するかのようにギリアムのエクスカリバーが風伯方面に飛翔していく。その中でエトランゼは一端おとなしくなった戦空域で佇む。短い時間だったがセツヤにとっては随分と長く感じれた。


 完全に追撃部隊をやりすごしたセツヤからも肉眼で把握できるほどの増援部隊が見えていた。数は追撃部隊とほぼ同数というところか。編成はやはりKLFがメイン。
セツヤ「ん?」
 何かセツヤには違和感があった。敵部隊の陣形が明らかにおかしい。追撃に適したものではないのだ。波状攻撃に適した陣形でも一転突破を狙ったものでもない。この陣形から導き出されるものは
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。援護陣形?」
 そうだった。敵部隊はエトランゼを明らかに意識している。その上で中央をがら空きにして周囲から覆うような陣形を取っていた。
セツヤ「ヤバイ」
 ここにきてのセツヤの感想はほぼ確信に近い。恐らく出張ってくるのはエースクラス。もしくは新型兵器か、その両方か。どれにしても自分が残ってよかったと内心思っている。風伯に待機している機動兵器をどれだけ掻き集めても死人を増やすことになるだろうからだ。セツヤは中央からやってくる機体を見据えていた。その機体が発進される。2個中隊のに守られる形にで突出してきたのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
セツヤ「・・・・・・・・・黒い・・・・・・・・・KLF・・・・・・・・・いや、LFOか?」
 まだポツンとしかモニターに映らない。その映像をセツヤは凝視する。段々とその機体の輪郭までが見えていく。その機体を見てセツヤは1つだけ思いつく期待があった。オーストラリアで見た機体。ゲッコーステイトの保有していたニルヴァーシュという名の機体に良く似ている。
セツヤ「ニルヴァーシュ? いや、あれの派生機か?」
 更に近づいてくる黒いLFOに大してセツヤは臨戦態勢を取る。意識すればいいのは黒い奴だけではない。周囲にも気を使う。先制攻撃をするかしないかで少しだけセツヤが迷っているとどういう訳か通信が入る。相手側に顔を見せるわけにはいかない。ばれていたとしてもだ。サウンドオンリーでセツヤはその通信を繋げる。
セツヤ「・・・・・・・・・黒いLFOのパイロットか?」
アネモネ『そうよ! 私はアネモネ! 白鬼! あんたを殺すから最後に私の名前を覚えておきなさい!!』
セツヤ「アネモネ・・・・・・・・・。アネモネか。良い名前だな。まぁ、殺す殺さないは置いておいて覚えておこうか」
アネモネ『・・・・・・・・・バカにしてるでしょ!!』
セツヤ「別にバカにはしてないよ。そう思うなら殺してみなよ。あ、できるだろうね。周りを取り囲まなければ俺と対峙もできなかった君だ。こんな絶対的な好条件のときでしか戦わないのだろうからね」
 アネモネ。声からして年齢の程はネージュと同じ程度だ。精神的に多分に不安定。そして、ある種の確信を得ていた。この少女の精神的な不安定さを逆手に取らない手はない。上手くいけば相手側の動きをある程度制限できる。この少女のことも気にはなるが今は生き残ることが先決だ。
アネモネ『何言ってんの!? バッカじゃないの!? 私があんたみたいなちょっと名前が売れただけの奴を恐れているって言うの!?』
セツヤ「周りを見てみろよ。こっちは1機。そっちは10機以上。まだ増えてる。俺だけじゃないさ。君が仲間だと思っている人間の全て、君が勝つと思っていない。この状況が全てを物語っている」
アネモネ『・・・・・・・・・・・・・・・・・・ドミニク! ドミニクゥゥーー!! 他の部隊を下げなさいよ!! 私が、私とジエンドが弱いと思われるでしょう!! 白鬼になめられてるのよ!? あんた達のせいで!!』
 内心、セツヤはガッツポーズをとる。乱した。これで時間が稼げる上に上手くすれば向こう側の切り札を撤退させれる。だが、アネモネはセツヤとの通信回線を開いたままでそのドミニクという男の声が聞こえる。
ドミニク『アネモネ、アネモネ。他の部隊は戦闘用に配置されているわけじゃない。コレは君と白鬼との戦いを観測するためにいるんだ』
セツヤ(嘘だな)
ドミニク『だから、君と白鬼との戦闘に手は出さないから』
アネモネ『本当?』
 嘘に決まっている。方便だ。このドミニクという男はアネモネの気質を恐らくある程度理解してる。そのための方便は随分と気が利いていると思えなくもない。だが、爪が甘い。
 エトランゼはGストライク・キャノンを展開すると最大射程に入ったモンスーノに向けて発砲する。完全にアネモネはドミニクとの会話でその行動が見えていなかった。そして、その攻撃はモンスーノの脚部を捕らえて抉り取る。白鬼からの攻撃。これを受けて反撃しないほど、州軍の練度は高くはなかった。同部隊がエトランゼに向かって一斉に反撃をする。
セツヤ「・・・・・・・・・いいね」
 漏らしたとおりにセツヤは口の端をあげながら肩から発射されたミサイルを撃墜しながら細やかに動き回ってやり過ごす。そのあとに直ぐにアネモネと会話を始める。
セツヤ「・・・・・・・・・観測ねぇ。観測がメインの部隊はミサイルなんかで武装はしないよなぁ」
アネモネ『!! ドミニク!! 私を騙したの!!!』
 ダメ押しになる。そして、セツヤの声がアネモネのコックピットを通してドミニクに通じる。ドミニクはアネモネからの返答をすることもなく。驚愕の声を挙げる。
ドミニク『!? アネモネ! まさか白鬼との通信回線を開いていたのかい?』
セツヤ「ご名答。はじめましてドミニク。俺があんた等で言うところの白鬼のパイロットです」
アネモネ『ドミニク! 答えなさいよ!!』
ドミニク『ちょっと待っていてアネモネ。・・・・・・・・・白鬼、この包囲網突破できると思っているのか?』
セツヤ「どうだろうね。こっちは逃げるつもりでいるよ。目処も立ったし」
ドミニク『目処?』
アネモネ『ドミニク!! 早くあいつらを撤退させてよ!! デューイに言いつけるわよ!! じゃなければ!!』
 セツヤの言うところの目処が動き出す。アネモネがホーミング・レーザーを一斉に発射する。しかも、狙いは彼女にとっては味方のはずのモンスーノ部隊。突然のホーミング・レーザーに味方の反応が追従できるわけがなかった。そのほとんどが的確にモンスーノを貫いて爆散する。
 セツヤは自分のところにも攻撃が及ぶものと思っていた。だが、自分のところには攻撃は来ない。予想以上のラッキーだ。セツヤはそのまま通信を続ける。一分一秒でも話は長い方が良い。風伯の撤退の確率が跳ね上がる。
セツヤ「目処が立ったろ?」
ドミニク『こんなことが・・・・・・・・・こんなことが許されると思っているのか!! 白鬼!!』
セツヤ「薬漬けの女の子に戦わせてなにが許されるだ。少なくとも、俺よりもお前の方が罪が重い」
ドミニク『!! どうして知っている!?』
セツヤ「甘いな。・・・・・・・・・確信はなかった」
ドミニク『くっ! どこまで』
 周囲の煙が晴れる。距離をとっている敵母艦を除けば、空に残るはエトランゼとジエンドの2機だけだ。
セツヤ「恐れ入ってよ。殺気の言葉撤回させてもらおうか、アネモネ。君は自分ひとりで俺を殺そうとしている。その自信も多分実力もあるんだろうね」
アネモネ『そうよ! あんたなんか敵じゃない』
セツヤ「それはやってみてから決めてよ。・・・・・・・・・その前に1つ、その機体はニルヴァーシュかい?」
 アネモネではなくドミニクが驚きを見せながらも答える。
ドミニク『なぜ貴様がそれを!』
セツヤ「やっぱりこれはニルヴァーシュかい。ゲッコーステイトの保有している機体に似てるんでね」
アネモネ『あんなのと一緒にしないでよ。私が・・・・・・・・・ジエンドが最強なんだから!』
セツヤ「・・・・・・・・・ふーん。まぁいいさ。そろそろ始めようか。おしゃべりありがと。若いお2人さん。おかげで俺の任務は果たせたよ」
ドミニク『やはり、囮だったか』
セツヤ「そっちは実地訓練が目的だろ? ジエンドの。そういう意味じゃ俺は絶好の相手だろうね」
ドミニク『!!』
アネモネ『そうよ! あんたごときじゃ私とジエンドには敵わないわ』
セツヤ「いいよ。相手するよ。薬があるからだろうが、それにしてもあれだけ簡単に味方を殺せるなんて考えられない。アネモネ、お前に引導を渡してやる」
 両機がほぼ同時に距離を詰める。
 エトランゼが火器を捨てると背中からオクスタンブレードを抜くと分解。両腕にシシオウブレードとロシュセイバーを持つ。ジエンドも両腕に収納されたナイフを取りだしてから近距離戦を開始する。双方が一合目を打ち合う。その打ち合いでセツヤはジエンドの大体のスペックを把握する。
セツヤ(膂力はほぼ同等だけども、機動力は向こうが上か)
 と考えていたとたんだった。ジエンドから明らかに砲口と思われる場所が開く。
セツヤ「!!」
アネモネ『食らいなさい!! バスクード・クライシス!!』
 両肩から発射された大口径のエネルギー砲。それをセツヤはエトランゼの足をジエンドのわきの下から肩に引っ掛けるとそれを軸にしてジエンドの真下に移動して避けた。
ドミニク『!!』
セツヤ「機体の動きだけじゃなく反応も早いな。だが、読みやすいよアネモネ」
アネモネ『煩いわね!! とっとと死んで!!』
 一端距離を置いたエトランゼとジエンドだが、遠距離ではジエンドが優勢だ。先ほどモンスーノを撃破したホーミングレーザーがエトランゼに多数飛来する。
セツヤ「・・・・・・・・・!」
 エトランゼのテスラドライブがフルパワーで稼動する。エトランゼは迫ってくるレーザーをシシオウブレードとロシュセイバーで撃墜しながら動き回ってどうにか全弾を撃墜もしくはやり過ごす。
アネモネ「・・・・・・・・・嘘!」
セツヤ「言うだけはあるな」
 この攻防に見入っていたのはやはりドミニクだった。セツヤこと白鬼のパイロットの操縦テクニックだけではない。足を主軸にしてバスクードクライシスを避けるという柔軟さ。更には近接兵器でレーザーを切り落とすというとんでもない発想にだ。
セツヤ(遠距離戦闘は不利だな。向こうに分がありすぎる。・・・・・・・・・やはり近接戦闘で追い込むしかないか)
 エトランゼのGストライクキャノンを発砲する。照準はかなり適当にだ。荒い射撃は対処しにくくなる場合があるからだ。セツヤのイメージどおりにジエンドはその場で対処するのではなく、トラパーに乗り急降下してその攻撃を回避する。
 回避方向を読んでいたセツヤはその方向にチェーンガンを連射する。多少当たりはするものの、ジエンド自体のスペックは装甲も含めてかなり高い。大したダメージにはなりえなかった。
アネモネ『私のジエンドに!! 白鬼!!』
セツヤ「経験が足りてないんだよ! 感情が揺れすぎる!! 薬なんて使うからだ!!」
 セツヤ雲を使って自機を隠す。風伯とは異なり大気圏迷彩システムを備えているわけではないからレーダーを使えば大して関係はないが、レーダーを見る一瞬に周囲への警戒が薄くなる。その一瞬をセツヤは正確に生かせるならば十分有効な行為だ。
 本当に刹那の瞬間、ジエンドの行動が堅くなる。周囲を警戒していないわけではない。それでもセツヤから見れば穴になりえる瞬間だった。一気にエトランゼが距離を詰める。
アネモネ『!? バッ、バスクード・クライシス!!』
セツヤ「!! 甘い!!」
 咄嗟にバスクード・クライシスが発射されるがその砲撃はエトランゼの左腕をロシュセイバーとチェーンガンごと持っていく。だが、その突進は止まらない。残ったシシオウブレードを振り上げながら、エトランゼはなんと左足でジエンドの右腕の間接部、肘の裏側を押さえてから獲物を振り下ろす。
アネモネ『ぁあっ!』
 ジエンドの右腕を切断する。
セツヤ「・・・・・・・・・!?」
 ジエンドの腕の断面。その断面はセツヤを驚かせるに十分だった。完全に機械のそれではない。装甲こそ機械的なそれだったが中身は違う。畳み掛けようとしたセツヤでさえも一端手を止めて、表情にも驚きが見せる。
セツヤ「・・・・・・・・・生物?」
アネモネ『よくも・・・・・・・・・よくも私のジエンドに!! あ・・・・・・・・・あぁぁぁぁああああぁぁぁあ!!!』
 双方共にほぼ損害は同じ。基本スペックが高い分まだアネモネ側が有利だ。しかし、何かが限界に見えた。
セツヤ(・・・・・・・・・? 薬の効き目が切れたのか? それとも自制剤なのか? これ以上の戦闘はこの子にいらぬ負担を・・・・・・・・・)
 専門家でも担当官でもないセツヤにこの考えが思いついたのならばアネモネの担当官であるドミニクにも同じことが思いついたのは言うまでもない。
ドミニク『アネモネ! アネモネ!! これ以上は無理だ!! 今、残りの2個小隊が出撃した。だから君は一端下がって!!』
アネモネ『バカ言わないで! まだ目の前にあれがあるの!! 白い鬼が!! 白鬼が!!! 私があれを倒さないと!!! デューイに何て言うのよ!!?』
セツヤ「・・・・・・・・・帰りなよ」
アネモネ『まだ勝負は終わっていないでしょう!!』
 セツヤはレーダーに投影された増援部隊を一瞥してから口を開く。
セツヤ「増援が来たんでしょ? なら、引き分けってことで」
 アネモネが引いてくれればまだ勝算がある。このまま増援部隊を相手にしながらのアネモネの相手なんて願い避けだというのがセツヤの本心だ。
アネモネ『私に引き分けなんて許されない!! まだ終わってない!! ドミニク!! 私に増援なんて必要ないっ!!』
セツヤ「・・・・・・・・・なら・・・・・・・・・」
 畳み掛けるしかない。この場で全てを相手にできない。増援部隊が到着するまでの1分弱。その間にジエンドを無力化する他にない。エトランゼは四肢を使って反撃に出る。幸か不幸か随分と近い位置にいた。突然の攻撃はジエンドにとっても意表を突かれた形だ。
 ジエンドの真正面にでたエトランゼはその距離でGストライクキャノンを発射。エトランゼにもダメージが及ぶくらいの近距離だったが、贅沢は言えない。
アネモネ『きゃあぁあっっ!!』
ドミニク『アネモネぇぇーー!!!』
 吹き飛ぶジエンドにエトランゼが更に続く。残ったほうの腕に持ったシシオウブレードで右脚部、背部スラスターを切断してもう一度Gストライクキャノンを真下に向けて斉射。見事な攻撃といえた。しかし、アネモネとジエンドのスペックは恐ろしいといえた。これまでどれだけ過酷な戦場下でもエトランゼをここまでぼろぼろにした記憶はセツヤにはない。左腕に真正面の装甲。テスラドライブは無事だが不具合を訴えてきている箇所は幾つもある。
セツヤ(左Gストライクキャノンに使用不能警告。22、44マッスルパッケージ断絶。重態箇所多数。頭部バルカンは無事。シシオウブレードの耐久値にイエローか。テスラドライブは生きているが、スラスターにも不具合か。出力23%減。逃げ帰れないか。やはりやり合うしかないと)
 もういつ攻撃してきてもおかしくないであろうKLF部隊を前にしてセツヤは口にする。
セツヤ「ドミニク、聞えてるだろう?」
ドミニク『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
セツヤ「答えなくて良い。彼女の機体を人質にするつもりもないから安心しろ」
ドミニク『! なら何の用件だ?』
セツヤ「アネモネを守ってやれ」
ドミニク『!?』
セツヤ「助ける時間があれば俺がやってもいいが、そうはいかないだろう? 別な意味でもな。だから、お前が助けろ。彼女を。・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうなんだ?」
ドミニク『・・・・・・・・・・・・・・・・・・了解した。白鬼』
セツヤ「おう! 俺の声覚えて置けよ。ドミニク」
 まるでおきてが皆様なセリフを残すとエトランゼは砲口を向けているモンスーノ部隊に戦いを挑むためにぼろぼろの機体を更に酷使する。


 厳しい戦いになった。唯でさえ数的不利。その上、オーバーホールが即時に必要なほどのダメージに武器弾薬の消耗。この状況下でもエトランゼは更に羽ばたき続ける。残った右のGストライクキャノンを精密斉射。モンスーノの頭部を吹き飛ばした。体勢の崩れたモンスーノの後方に回って頭部バルカン砲でボードを破壊して叩き落す。即座に振り返り、刀身の折れたシシオウブレードを振り向き様に投げつけてもう1機を行動不能にする。
セツヤ『シシオウブレードもなくなった。その上、残り3機か』
 この状況下でもまだセツヤは諦めていなかった。敵母艦も随分と近くまで接近してきている。恐らくはジエンドの回収。とすれば、この場所を離れても追ってくる可能性は低い。その可能性に気付いたセツヤは一端離れるべく、敵に背を向けた。
セツヤ(もう風伯の機影も映っていない。もう、大気圏迷彩システムを起動したと見る。なら、今はこっちの心配だな)
 モンスーノ部隊が追撃するか同意かは随分と微妙な問題だった。微妙な問題というのは艦長の気質しだいだということだ。どのような任務を帯びていて、達成観念とでも言おうか、どういう価値観を持っているかに掛かっている。さすがにセツヤもろくに操艦を見ていない人間の気性など分かるわけもない。
 撤退するエトランゼだが、レーダーにはしっかり映っていた。残るモンスーノ3機が編成を組んで追ってくる。エトランゼの機動も相当だが、今はダメージが大きい。運がいいとするならば目論見どおりに敵の空船は追ってきていないということだ。
 エトランゼは山林での追撃戦の最中、巧みに山陰を遮蔽物にして進行方向に背中を向け、残ったGストライクキャノンを発射する。その攻撃がモンスーノのボードの直撃。そのまま山間にぶつかり大きく爆発した。
セツヤ「くそ、殺しちまった」
 まだまだゆとりがあるようだが、まともな神経の持ち主ならばセツヤは心配すべきは己の状況だと言うだろう。
 不安材料がまた増えることになる。酷使し続けた残ったGストライクキャノンまでも使用不能になる。もう残っている武装は頭部のバルカンのみ。機動兵器には背後にでも回らない限り致命傷にはならない。それにこのまま逃げ切ることも恐らくはできない。
セツヤ「武器もほぼ無し、追撃に2機。機動力も減退。そして、それが更に進行中。時間は掛けられないと。・・・・・・・・・反芻してもやっぱり最悪だな」
 推進力までも下がり始めているエトランゼにとってもう時間は掛けられない。どうにかして追撃部隊を撃墜もしくはやり過ごす必要があった。
セツヤ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・やってみるか)
 何か思いついたのか、エトランゼが山岳部の陰に隠れる。そして、モンスーノがやってくるのを待つ。エトランゼが止まってから3秒経たずにモンスーノが曲がって入ってくる。その瞬間エトランゼは残りの推進力を振り絞って全開にする。前方のモンスーノが振り返り、エトランゼに照準を合わせるという瞬間はセツヤにとって随分長く感じられた。人質作戦など意味はない。絶対に州軍の軍人ならば撃ってくるからだ。だから、後方のモンスーノの後から取り付いてバルカンを斉射。バックユニットとボードの破壊にどうにか成功した。
 前方モンスーノが何の躊躇いもなく同胞ごとセツヤを撃って来る。しかし、セツヤは後を取ったモンスーノを山岳部に投げ捨てるとモンスーノの攻撃に構うことなく、残りの慣性で突進する。その間に、エトランゼの脚部と頭部の一部が融解する。しかし、前面からモンスーノの頭部を捕まえるとレーザーの砲塔内にバルカンの残弾の全てを斉射して爆発を起こした。このモンスーノのパイロットが生きるか死ぬかはもうセツヤにも分からない。神のみぞ知ると言うところだ。エトランゼは山の傾斜部に激突してから随分と転がり、ようやく止まる。
 コックピットの中でセツヤは腕を押さえながらうめき声を上げる。
セツヤ「ぁう・・・・・・・・・・・・・・・・・・。どうにか生きてるか」
 額から血が流れているが致命傷ではないだろう。
セツヤ「通信機も・・・・・・・・・くそ、頭部もないのか。脚部も無し。というかテスラドライブも死んだ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 メカに関しては素人と大差ないセツヤでもこれは理解できた。この場にエトランゼを捨てるしかない。
 そう判断してからのセツヤの行動は早かった。ハッチを強制的にパージ。斜面に転がっているエトランゼのコックピットからどうにか抜け出す。機体内に装備されているサバイバルキットの入ったベストは持ち出せた。パイロットスーツを脱いでからセツヤはそのベストを着る。そして、目の前にある既に残骸となってしまったエトランゼを見る。
セツヤ「・・・・・・・・・本当は最後までお前に乗っていたかったんだけどな。悪いな。俺が下手くそだったからお前に無理させた。けど、俺はお前に感謝してる。お前がいたから助けられた命はたくさんある。こんな所に置いてきぼりにするのは悪いと思う。できるなら回収しに来る。多分できないだろうけど。・・・・・・・・・ありがとな、エトランゼ」
 セツヤは手向けの言葉を口にしてから山を歩き始めた。




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