粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃 第漆話 『禁猟区の攻防』 前編


第漆話 『禁猟区の攻防』 前編


 暇そうだった。実際暇だったのだろう。セツヤとネージュの2人がそこに座っていた。天気は快晴、場所はどこぞの競技場。セツヤは日陰で胡坐をかいてどかっと座り、その隣にネージュが体育座りでちょこんと座っていた。平和を極めたような状況下。ここにくるまでは随分といろいろあったりする。


 ケルピム兵との戦闘後、風伯の損傷はセツヤの予想以上のものだった。主砲も部分的に損傷。副砲は半分以上使用不能になっている。何よりも一番大きなダメージは大気圏内迷彩システムが損傷したことだった。実際問題として風伯の生命線となっている装置だった。風伯は万能戦艦ではあるが潜水艦ではない。ダナンとは違うのだ。宇宙で行動するならばまだしも地球上で行動するのに大気圏内迷彩システムが存在しないのならば敵側にこちらの動きが丸見えになってしまう。これは如何考えても死活問題だった。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ティル・ナ・ノーグに戻っている時間なんてないし。三陸に行こうか」
ジャス「ええ。他にありませんね。ヴェルトフ整備長によると船の外から修復をしないで補修もできるそうですが倍以上の時間が必要なのだそうです。三陸のヘムルート本社に戻って補修作業をする必要がありますね。どの道、武装や隔壁、装甲板のダメージが随分あります。この部分はどうにか誤魔化せますが、大気圏内迷彩システムはごまかしも効きません」
ユメコ「ごめんなさい。私がもっと上手くやれてたら」
 セツヤが手に持っていた分厚い報告書を丸めてユメコの頭を叩く。
セツヤ「おバカ。誰もそんなこと言ってないだろうに。俺が見てもあれは最善。俺がやってたら風伯沈んでるっての」
ジャス「その通りです副長。私が見てもそつはありませんでした。判断も的確です」
ユメコ「・・・・・・・・・うん」
ジャス「ですが艦長、三陸のヘムルート本社に行くとしてもヘムルート本社直轄のメインドッグの位置は極秘事項です。今の風伯がそこへ向かうと細かな位置が連邦、州軍にばれてしまいます。応急でも迷彩システムを復旧させなくては」
セツヤ「面倒だ。ユメコ君、関東近辺で俺等を匿ってくれるような場所ある?」
ユメコ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・思いつきません。日本は人が多すぎます。偽造許可証という手はもう使えないでしょうし、港に停泊しても直ぐに通報されると思います。まともに補修作業なんてできません」
セツヤ「補修作業って最低どのくらいの時間が必要なの?」
ジャス「整備長の話では5時間は欲しいと。迷彩システムの最低限の修理にこれだけ掛かるとのことです。作業班総出でです」
セツヤ「5時間・・・・・・・・・。厳しいな。山奥でも洋上でも見つかって人が集まるまでに充分すぎる時間だ。あーー、困ったなぁ」
ジャス「ええ。・・・・・・・・・我々は軍隊としての厚みが非常に薄いですから。・・・・・・・・・こういうときにやはり限界を感じてしまいますね」
マリア「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
セツヤ「!? ・・・・・・・・・どうしたのマリアさん」
マリア「通信が入っています。・・・・・・・・・これは? 秘匿回線のコードを連続して告げています」
セツヤ「秘匿回線って。・・・・・・・・・いいよ繋げて」
マリア「了解」
 相手もわからない秘匿回線。ここからわかることは1つだ。相手がこちら側と話をしたい。攻撃をしたいのなら今の段階を狙って攻撃してくればいい。それをしないということはそれなりに建設的な会話を交わしたいということになる。
セツヤ「マリアさん、相手わかる?」
マリア「いいえ。東京圏内ということだけです。・・・・・・・・・・・・・・・・・・繋がりました。・・・・・・・・・! DEAVAです」
ジャス・ユメコ「!!」
セツヤ「!? DEAVA? 今更?」
マリア「繋げます」
 モニターに映し出された男。年齢的には中年程度だろうか。無精髭を生やしてはいるが、無精者というイメージは無い。ジャスは目の前の人物にセツヤと同様の安心感のようなものと底の見えない感覚に駆られてしまった。
セツヤ「・・・・・・・・・! ・・・・・・・・・あー、はじめまして。地球再生機構DEAVAの不動GEN司令とお見受けしますが?」
不動『その通りだ。不躾極まりないが名乗ってもらっても構わないか?』
セツヤ「セツヤ・クヌギです。・・・・・・・・・あなた・・・・・・・・・・・・・・・・・・成程。そういうことですか。確かに必要だ。アクエリオンの運用にはね」
不動『さすがだな。一目で見抜いたか。貴様のような男がテロリストの一角にいることが不思議でならんな。白鬼とその母艦。どういうつもりで行動していた。貴公等の行動はテロリストのそれとは一致しない』
セツヤ「そのあだ名は嫌いです。・・・・・・・・・テロリスト? 所属の言及はしませんが、俺等はテロリストとして行動したことはただの一度も無い。それがテロリストのそれだというならそちらの判断が間違っている」
不動『そうか。失礼した。・・・・・・・・・謝罪というわけではないが一つ提案がある。今我々は軍の監視衛星を通じてそちらを視認している。恐らく補修が必要な事態なのではないかと思うが、こちらの施設を提供しようとおもうのだが?』
セツヤ「大盤振る舞いですね。・・・・・・・・・ありがたい申し出ではありますが、何か隠しているでしょう?」
不動『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
セツヤ「その沈黙はイエスと取ります。何よりもあなた方はこちら側とケルピム兵との戦闘中に高みの見物を決め込んでいた。そんな連中を信用などできるはずも無い」
不動『もっともだ』
 そう言って不動は横をちらりと見る。恐らく誰かを見たのだろう。一拍を置いて別の男が前に出てくる。不動とは違い、やや軽薄そうな男だ。
ジャン『DEAVA副指令ジャン・ジェローム・ジョルジュだ。セツヤ・クヌギといったか? 君に1つ聞きたい』
セツヤ「答えてやる義理は無い」
ジャン『くっ・・・・・・・・・。君が腹を立てるのは最もだ。確かに我々は君等の戦闘を見ていた。練度の高い部隊であるとも思うし、白鬼のパイロットの技術は舌を巻く。それは認めよう。だが、どうだ? 実際にケルピム兵を倒したのは我々が保有するアクエリオンだ。我々は堕天翅族について今以上に知る必要がある。戦う必要もだ。我々は君達に非常に興味がある。どうだ? DEAVAに来ないか? 君達全員を高待遇で向かい入れよう。何よりも、我々は白鬼のパイロットに興味がある。彼は12000年前の大戦の誰かの生まれ変わりの可能性があるのだ』
セツヤ「黙れ! 恥知らずにも程がある。人が拉致されているのも黙っていた見ていた貴様等に従うなんて願い避けだ。アポロニアスの心情も察することができない貴様等と話すことは何も無い」
ジャン『!!? 何だと!? アポロニアスを知っているのか!』
セツヤ「だから、答えてやる義理は無い」
ジャン『くぅっ!』
不動『セツヤ・クヌギ、貴公はやはり』
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
不動『・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだな。いかな理由があったとて、こちらの不義理な行いをした。そちらの言い分は正しい。ならば、すべき行為は1つだ』
 画面の前、不動GEN司令の行為にさすがのセツヤも目を見開く。どこの誰ともわからない人間に対して、この不動GENは膝をついて頭をたれた。所謂土下座だ。
セツヤ「・・・・・・・・・あんた・・・・・・・・・。不動さん、あんたのやったことじゃないだろう? どうしてそこまでする?」
不動『誰のやったことであっても、DEAVAの人間の取った行動ならば私の責任だ。・・・・・・・・・これで水に流せとは言わんが』
 頭を下げ続けている不動の言葉だ恐らくはモニターの向こう側は騒然となっていることだろう。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あーーくそ。そこまでされたら許さないわけにはいかなくなるでしょうよ。・・・・・・・・・まず頭を上げてください」
 セツヤの言葉でゆっくりと不動が頭を上げ始める。それを見てからセツヤは言葉を漏らした。
セツヤ「いいでしょう。そこまで言うならそちらのご招待を受けましょう。でも、言っておきますが補修作業が済むまで滞在するだけです。尋問、検査の類の一切は受けません。それを了承して頂けるなら短い期間、ご厄介になりましょう」
不動『当然だ。こちらの基地の位置の詳細を転送する。セツヤ・クヌギ、貴公等の到着を心待ちにしている』
セツヤ「ええ」
 通信が切れる。それを見てからセツヤが疲れたように椅子に体を預けた。
セツヤ「俺の性格を逆手に取られたとも取れるね。ユメコ君とジャス君は如何思う?」
ユメコ「んーー、それはないと思うな。DEAVAの不動司令っていったら崇高な人物で有名だし。そんな姑息な手を使うような人とは思えないです」
ジャス「そうですね。仮に艦長の性格を逆手に取ってとしても風伯を招き入れるメリットはありません。テロリストの拿捕のために基地1つを捨てる覚悟なんて連邦や州軍には不可能です」
セツヤ「じゃあ、本気で土下座したの? ちょっとやりすぎじゃない?」
ジャス「物は考えようです。逆の立場なら・・・・・・・・・艦長が不動司令なら同じことをしたんじゃないですか?」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・したかも」
ジャス「そういうことです」
マリア「・・・・・・・・・転送完了。DEAVAの指定した基地の場所をモニターに映します」
ユメコ「ラッキー、意外に近い」
セツヤ「行こうか。他に方法もないし、手早く応急だけ済ませて三陸に行こう」
ジャス「賛成です」
 風伯は傷ついた体に鞭を打ってDEAVAの基地に向かうことになる。


 というやりとりがあったりする。本来ならば補修作業でバカみたいに忙しいはずなのだが、こと戦闘以外では無能なセツヤとなぜかセツヤと同様に戦闘以外にはその力を発揮しえないネージュは邪魔だからという理由で艦の外にいた。それですることもないのでDEAVAお抱えのエレメントスクールの授業見学にいそしんでいるという格好だ。いそしんではいないが。
 目の前に映る光景は恐らくはエレメントスクールの生徒なのだろう。体操着という微妙にマニアックな格好で競技場に入ってくる。その様子をただ眺めていると隣にそれこそ保健室の先生という風体の女性がセツヤに話しかけてきた。
妙齢の女性「はじめまして。セツヤ・クヌギ艦長。私はソフィア・ブランと申します。そちらとしては不本意な格好であるかもしれませんがようこそDEAVAへ」
セツヤ「あーー、お丁寧にどうも。お世話になる手前、随分生意気なことを言いまして申し訳ないなーとは思っていたんですがね。部下の身を考えれば仕方のないことでしたので目を瞑っていただけると」
ソフィア「あら? 随分と雰囲気が違いますね。もっと厳格な方かと思っていましたわ」
セツヤ「こっちが本性です。それと、俺は役職で呼ばれるのが嫌いです。できれば名前か、苗字で呼んでください。間違っても大佐、艦長は止めて欲しいです」
ソフィア「・・・・・・・・・それですと戦闘集団としての規律が保てなくなるのではないですか?」
 単純明快な質問だ。誰でも思いつくものだろう。
セツヤ「保ってますね。不思議なことに」
ソフィア「そうなんですか。・・・・・・・・・なら、セツヤさんと呼ばせてもらいます。」
セツヤ「なら、俺はソフィアさんと呼びましょう。どうぞよろしく」
 セツヤはうっすらと笑う。口にこそ出さないがソフィアは変わった人だと思ってしまう。だが、その想いを飲み込んで別な話題を口にする。
ソフィア「そちらはセツヤさんの・・・・・・・・・・・・・・・・・・お子さん・・・・・・・・・ですか?」
 セツヤが与えたチョコレートを物珍しげに齧っているネージュをセツヤは一見してから答える。
セツヤ「俺達の子供です。それ以上の事情はちょっと。・・・・・・・・・可愛い娘に違いないですがね。・・・・・・・・・・・・・・・・・・それよりも、俺ってこんな大きな子供がいそうな年齢に見えるんですか?」
ソフィア「いえ・・・・・・・・・あの、東洋人って実年齢よりも若く見えるといいますし。艦長という役職を担っていらしているならそれ相応の年齢なのかと。・・・・・・・・・あの、失礼ですがお幾つですか?」
セツヤ「・・・・・・・・・26です」
ソフィア「!! ・・・・・・・・・わ、私よりも年下なんですか!?」
 と、なぜかソフィアがうなだれてしまう。別にセツヤに責任は一切ないが、悪いことをしたような気になってしまう。
セツヤ「・・・・・・・・・あの、ソフィアさんが幾つかは知らないですが、そんなに落ち込まなくても。お綺麗ですよ? ソフィアさんは」
 まぁ、このようなくだらない会話を続けていると今度は別な人物がやってくる。ネージュと同じような銀髪。長い髪が優雅に見える女の子だ。だが、特徴的なのはi-REALだということだ。その少女がゆっくりとセツヤの前にやってくる。不思議な雰囲気を帯び手いるという印象がある。ネージュも何か感じるところがあるようで食べていたチョコレートを銀紙で包んで少しだけその少女を警戒する。
ソフィア「あら、リーナ」
 ソフィアがセツヤの横から立ち上がってリーナの横に立つ。ソフィアが話しかけているにもかかわらず、彼女は別なものを熱心に見ていた。その対象はセツヤだったりする。
リーナ「・・・・・・・・・綺麗。自身も強く光り輝いているのに、更に優しい光に守られてる」
ソフィア「リーナ?」
セツヤ「・・・・・・・・・そりゃどうも。それよりも」
 今度はセツヤが立ち上がってリーナの前に立つ。そして、ゆっくりと手をリーナの頭の前に手をかざした。
セツヤ「んーー、これは体質かな? 精を吸収できないのか。その代わりに随分変わった使い方ができるようだね」
リーナ「そう。やっぱりあなたはわかるのね。司令と同じような誘う者」
セツヤ「おやおや、随分と物の見える様だね。リーナちゃんだっけ? とりあえずははじめまして。セツヤ・クヌギといいます。できればセツヤと呼んで欲しいかな」
リーナ「わかったわ、セツヤ。私はリーナ・ルーン。私もリーナと呼んで」
セツヤ「OK、リーナ。君は・・・・・・・・・エレメントスクールの生徒さんかな?」
リーナ「ええ」
セツヤ「ということはアクエリオンに乗りもするのか。頑張りなよ。君のような子なら喜ぶだろうからね」
リーナ「私は力が強いだけ。もっと相応しい人がいるわ。・・・・・・・・・けど、セツヤは違う。あなたはもう選ばれてる。強くて優しくって見えている」
セツヤ「・・・・・・・・・全部成り行きで手に入れたものだよ。誇れるものじゃないさ。でも、人のために使えるならそれはとても幸せなことだと思うけどね」
リーナ「やっぱり素敵な人。セツヤはあの白い船の船長さんなんでしょう? あなたの部下の人たちは幸せだと思うわ」
セツヤ「褒め過ぎだね」
 穏やかな会話だった。場所が異なっていれば紅茶を飲みながらテラスで話すような雰囲気だ。そういう雰囲気をかもし出せる両人がいるというだけのことなのだが。だが、その雰囲気が壊れるのは簡単だ。
ジャン「おやおや、一隻の長ともあろう人がこんな所で油を売っていて宜しいのですか?」
 ジャン・ジェローム・ジョルジュ。この顔は知っていた。不動GENからの通信で見知っていた。DEAVAの副司令だ。恐らく先の戦闘でケルピム兵と風伯との戦いを見物させていた人物だ。セツヤの雰囲気が露骨に暗くなる。
セツヤ「・・・・・・・・・別にあなたには関係ないでしょう」
ジャン「随分な物言いですな。DEAVAのドッグに入れなければ艦の補修などは不可能であったでしょうに」
セツヤ「誰かさんに高みの見物されたせいですけどね。その上、上司が土下座で謝罪したにも拘らずそんな態度で出てくるとは。不動さんは気苦労が耐えないですね」
ジャン「我々の目的を達成するためです」
セツヤ「もういいです。・・・・・・・・・それで副司令、ご用件は? 何かご用件があるんでしょう?」
ジャン「ええ。教えていただきたい。白鬼のパイロットについて」
セツヤ「嫌です」
ジャン「堕天翅族と戦う上で必要な人材なのだ。あなたも上に立つ人物ならばそれくらい理解できるだろう? そちらの要求にもできるだけ応じよう。連邦、州軍の指名手配を解いてもいい。前向きに考えてもらえないか?」
セツヤ「必要ありません。あなた方が白鬼と呼ぶ機体のパイロットはそちらが思うような人物ではない。それに、そのパイロット自身が望んではない」
ジャン「堕天翅族のことを知りもしない君等に判断ができるわけがないだろう」
不動「・・・・・・・・・その辺にしておけ」
 横槍は突然だった。DEAVA司令長官の不動GENだ。有無も言わさぬ強い口調でセツヤの前に立つ。その声の太さに驚きの色がジャンに現れるがセツヤだけは何の感慨も示さなかった。
不動「彼は客人だ。客人は持て成すもの。早々無礼なことは言わぬものだ」
ジャン「ですが! 白鬼のパイロットはDEAVAには必要不可欠な人間であると考えます! 貴重な戦力になるであろう人物をむざむざ」
不動「白鬼(びゃっき)か。・・・・・・・・・確かにあれのパイロットは貴重な戦力にはなりえるだろう」
ジャン「ですから!」
不動「しかし!! 招き入れるというのは無理だ」
ジャン「なぜですか!」
不動「わからぬか!? この男、セツヤ・クヌギがそのパイロットだからだ!」
 茶番ではなさそうだ。実際にそう思ってしまった。この劇団調の喋り方はどうにもなれないだろう。しかし、今はそんなことは如何でもいい。教えたつもりも付箋を残したつもりもない。それでも気付かれた。いや、気がつかないほうが可笑しいのだが。そんなことを考えて少しばかり苦笑を残してからセツヤは立ち上がる。
ジャン「!? なんですって?」
セツヤ「やっぱり、あなたにはばれますか。ご名答。俺が機動戦艦風伯の艦長にしてPTヒュッケバインマークU・エトランゼのパイロットです。艦長が引き抜きに応じられるわけもない。他にも理由はありますけども、諦めて下さい」
ジャン「艦長がパイロットだって!? そんなデタラメな」
セツヤ「よく言われます。・・・・・・・・・あんまり上の人間が大声を上げるのは感心しません。生徒諸君がこっちを見ていますよ」
 セツヤは先ほどから幾つもの視線がこちらを凝視しているのを感じていた。ネージュと共に立ち上がるとズボンについた土を軽く落としてから不動GENの前に頭を下げる。
セツヤ「通信では不躾な言い草を放ちながらも、DEAVAの施設を貸していただいて感謝しています。それだけに関わらず、連邦、州軍からの探査も上手く隠していただいてくれているようで言葉もありません」
 殊勝ともいえた。正直に言えばセツヤに頭を下げる言われは微塵もない。明らかに風伯の被害はDEAVAの行動によってこうむったものだ。それを考えれば当然ともいえるのだが、
不動「貴公が頭を下げる理由などない。こちらが招いた結果なのだからな」
セツヤ「そう言っていただけるとありがたいです。不動司令」
不動「貴公とは酒でも飲み交わしたいと思っていたのだ。そう改まってくれるな。それに、ルーナやソフィアにはもっとフランクに対応していのだろう? なら、私も役職はいらん。クヌギと呼ばせてもらう」
セツヤ「わかりました。不動さん」
 この2人は随分と似た者同士のようだ。何の予備動作もなく握手をする。そんな動作をしていると別の人間がやってくる。これまた意外な人物だ。
真田「おやおやーー不動司令と、あなたもしかしてクヌギ艦長でしょ? そうでしょ? いやいや、思っていたよりも随分とお若いなぁー。羨ましい」
不動「真田長官か。久しいな」
真田「そうですよねぇ。前によくも分からぬパーティーで会って以来ですねぇ」
ジャン「真田長官!? 科学者でありながらもその先見性を買われて連邦軍の極東方面軍長官を勤めておられると言う」
セツヤ「真田長官? あなたが?」
真田「そうですよー。真田賢。如かない科学者です。それにしても、あんなクレバーに戦艦を動かせる人間がこんなに若い人なんて思わなかったよー。それにあの的確な地上部隊の配置。一見しただけなのにハルツィーネンのスペックをほとんど見抜かれちゃってるしねー。もっと老練な艦長さんを想像していたのに」
 セツヤ以上に軽い人物のようだ。セツヤも随分と軽い部類に入るが真田長官には及ばないかもしれない。だが、決して嫌いなタイプではない。
セツヤ「ふはは、失礼、操艦していたのは副長で地上部隊の指令を出していたのは参謀です。俺は戦闘中はあくまでパイロットですので」
真田「・・・・・・・・・! おやおや、それはちょっと予想外かなー。艦長がパイロットまでしてるってことはクヌギ艦長でしょ? 白鬼のパイロットは?」
セツヤ「やっぱり見る人が見れば分かってしまいますか?」
真田「あらー、山勘が当たっちゃったね」
セツヤ「よく言います。天才の名を欲しいままにしている人が。この場所だってご自分で予測してからいらしたでしょう?」
真田「ばれた?」
セツヤ「俺も人のことは言えませんが良い性格してますねぇ。おっと・・・・・・・・・忘れるところでした。前の戦闘でハルツィーネンを貸していただいたそうでありがとうございました」
真田「お礼なんていらないさ。当然だよ。あそこで出し惜しむのは人としてねぇ」
 セツヤはその言葉を聴いてから横目で睨む様にジャン副司令を見た。セツヤなりの皮肉なのだろう。
セツヤ「その言葉、どこぞの人に聞かせたいですよ」
 そんなことを話していると不動が2人の横に立つ。
不動「真田長官もいることだ。できることならば歓迎の席でも設けたいところなのだがな、残念だが我々も忙しい身だ。せめてゆっくりしていってくれ」
真田「あー、ありがとございます」
セツヤ「遠慮なく。実を言うと、これから不動司令の授業が始まるとかで。俺はそれを見に来るというのが主な目的でしてね」
真田「へー、そんなに面白いものなの? 僕も見学しちゃおうかな?」
セツヤ「俺はセツヤでいいですよ? 若人ですし」
真田「そう? じゃあセツヤ君でいいかな? 僕は賢・・・・・・・・・とは呼ばれないからなぁ。どうしようか?」
セツヤ「真田さんでいいですか?」
真田「それだね。そうしよう。いやー、不動さんともそう思ったけど、セツヤ君とも仲良くなれそうだ。連邦や州軍のお偉いさん方にも見習って欲しいよ」
セツヤ「ということで不動さん、俺はここで見学させてもらいます」
不動「構わんが、こちらとしてはクヌギにも授業に加わってもらいたいと思ってる」
セツヤ「!? なんですと?」
不動「クヌギ、貴公は特殊な人間だ。私と共に生徒を見てもらいたい」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・! 一つ条件があります」
不動「何だ?」
ネージュ「ほぇ?」
 セツヤはネージュの肩を持って不動の前に運ぶ。
セツヤ「この子はネージュといいます。この子もエレメントスクールの生徒と一緒に授業に参加させてください。もっとはっきり言います。不動さん、あなたにこの子を見てもらいたい。これならば対等の条件だ。如何です?」
不動「確かに対等だ。いいだろう」
セツヤ「なら、引き受けましょうか。教官役」
不動「こっちに来てくれ」
セツヤ「はーい。真田さん、今日はお急ぎですか?」
真田「僕? それほど。というか仕事ほっぽり出して来ちゃってるから。暇と言えばずっと暇だよ?」
セツヤ「ちょっと相談したいことがあるんです。後で話し聞いてもらえますか?」
真田「いいよ。僕はここで見学してるからねー」
 手を振る真田に手を振り替えしてからセツヤはネージュの手を引っ張ってエレメントの生徒が待っている競技場の中心へと向かう。


 セツヤと手を握って歩くネージュは当然の疑問をセツヤにぶつける。
ネージュ「ねぇセツヤ、何をするの?」
セツヤ「さぁ? よく分からないな。俺もきちんと聞いてないから。でも大丈夫だよ、この人は」
 セツヤと並んで歩く不動の表情をネージュは見る。凛々しいとも厳ついとも言える表情だ。セツヤとは違い表情が豊かというわけではないようだ。しかし、ネージュはこの不動という男がどことなくセツヤと似ているような雰囲気を持っていると思ってしまった。どうにも不思議な感じがするのだ。地に足が着きすぎているようなそんな感覚だ。
 競技場の中心で既に人が待っていた。年齢は全員が未成年に見える。こんな年場の行かない子供等がアクエリオンに乗って戦わなくてはいけないとは因果だなとセツヤはどうしても思ってしまう。
 不動がネージュに向かってエレメントの生徒が並んでいる場所の端を指差した。
不動「あそこに並んでいなさい」
 ネージュは心配そうにセツヤの顔を覗き込む。そしてセツヤは笑顔で頷いた。それを見てからネージュは不動の言うとおりにエレメントの生徒の列のは死に並ぶ。それを確認してから不動の話が始まる。
不動「こちらはクヌギ艦長だ。本日の授業の臨時教官としてお招きいただいた。でははじめる。よし! みんな靴を脱いで裸足になれ!」
セツヤ「・・・・・・・・・へぇー、いいですねぇ」
アポロ「俺は嫌だぜ。例え裸足だろうと俺は誰の命令もきかねぇ! でぇぇーー」
セツヤ「おやおや」
 不動に突っかかって走り寄るアポロに対して行動を起こしたのはセツヤだった。2人の間に割ってはいるとアポロの手を掴んでから自重を用いてアポロのバランスを崩してからそのまま小さく屈んでアポロの腹の下に自分の肩を密着させてからそれを皮切りにしたように足で大地を踏みつけた。
アポロ「ぅあああっっ!!」
 どんな力が掛かったのか理解できたのは不動司令だけかもしれない。アポロが5m以上は高く舞い上がった。落下してくるアポロをセツヤはそのまま受け止めた。
セツヤ「おかえり」
 笑顔を交えながらセツヤはアポロを大地に下ろす。そこでアポロは気付いていた。いつの間にか自分の靴が脱がされていることに。その靴はどういうわけか不動が持っていたのだが。セツヤが脱がしたのか不動が脱がしたのかもしくは双方で協力したのか。それを遠方で見ている者達でもそれを理解はできていないのだが。
アポロ「えぇぇぇーー!?」
 そして早速不動とセツヤの授業が始まる。授業と言っても大したことをするわけではない。裸足になった生徒を見て回るだけだ。初めは一番端にいたネージュだった。ネージュの足をしゃがんだ不動が見つめる。
不動「・・・・・・・・・完璧だな。体の作りは現時点で完璧だ。言及すべきがないほどにな」
 という不動の言葉にほんの少しだけセツヤの表情が暗くなる。だが、続きがあった。
不動「しかし、色が見て取れる。まだ少しだけだが己のすべきことを見定めたようだな。」
ネージュ「??」
不動「分からないでいい。自分の思いのままに生きることだ。少女よ、君にはこれから多くを経験するだろう。苦難にもあうだろう。そのたびに考えることだ。必死でな。だが、これだけは言える。君は大丈夫だ」
 その言葉をセツヤも待っていたようだった。口の端から笑みをこぼす。これでネージュの診断を終えてから、見始めたのは髪を後で縛った青年だった。
不動「ふむ・・・・・・・・・、良い足をしている。サッカーのポジションはトップ下。得意な攻めはミドルシュートとエラシコ。しかし、足に比べて上体のバランスが悪い」
 不動はその青年の手を取って軽く捻る。それだけでその体格の良い青年は地面に倒れてしまった。その青年の顔をしゃがんでセツヤが覗き込む。
セツヤ「ちょっと補足。自分の弱さを認識したところから強さは発生する。だから、生にしがみ付きなよ。初恋に負けるな!」
ピエール「!? え、ちょっと!」
 呼び止めようとするピエールだがセツヤはただ笑顔で返すだけだった。次は金髪のまだあどけなさが残る女の子だ。少々特徴的な髪の留め方をしている。その少女の顔を見てからセツヤが口を開く。
セツヤ「んんーー? 随分と偏見があるんじゃない? 正しいものをしっかりと見ないと。何なんだろ?」
不動「シルヴィアはブラコンだ」
セツヤ「成程ね。それは止めたほうが良いなぁ。結構メルヘン趣味でしょ?」
不動「好きな食べ物はストロベリーパイ。愛読書は不思議の国のアリス。ブラコンの為、恋人不在」
セツヤ「ん? 俺等のこと気味悪いって思った?」
不動「スケベ親父と無能艦長」
セツヤ「ひでぇー、初対面なのに。・・・・・・・・・まぁいいけどさ。それにしても読み易い子だな。顔にまで出るし」
不動「そうだな」
 2人の言うことが完全に当たっていたのだろう。反論がないのがその証拠だ。強張らせた顔をしたシルヴィアがゆっくりと汗をかいていた。まぁ、意を害したつもりもなく2人は次の子を見に行く。3人目は東洋人だ。美人ではある。ショートヘアーでおずおずとセツヤ、不動を見あげる。
セツヤ「んーー、バランスは一番いいかもね。筋肉のつき方が理想的だ。呼吸もしっかりしてる。ただ、・・・・・・・・・なんだろ? 何かに不安があるのかな? 自分自身?」
麗花「・・・・・・・・・私は不幸を呼んでしまうから。私に近づかないほうがいいです」
セツヤ「は? どの辺が不幸? 何で不幸だと思う?」
麗花「運が悪いんです。いつでも不幸を身にまとってしまう」
セツヤ「死んでないのに?」
麗花「・・・・・・・・・!」
セツヤ「生きてるじゃない名前も知らないブルネットさん。それ以上の幸運があるかい? ないよ。喜びなよ。生きてることに。死なないことに。大丈夫、君は幸運の女神だ」
 セツヤの言うことは確かだった。運が悪いなら死んでいる。そういう世界に彼女は身をおいてきた。ならば死んでいないことこそが幸運の証明だ。まるで世界の真理にたどり着けたかのような驚愕な表情で麗花はセツヤを見る。
不動「さすがだな」
セツヤ「楽天的なだけです」
麗花「ちょっと待ってください!」
 突然後ろで叫ばれてビクッと肩を震わせてからセツヤは後ろを向く。
セツヤ「おわ? 何? 俺?」
麗花「クヌギ艦長、あなたの・・・・・・・・・名前を教えてください」
セツヤ「・・・・・・・・・? セツヤ。セツヤ・クヌギ」
麗花「セツヤ・クヌギ艦長」
セツヤ「あ、艦長止めて。できれば名前か苗字で呼んでほしいな」
麗花「え・・・・・・・・・じゃあ、セツヤ・・・・・・・・・さん?」
セツヤ「じゃそれで。あ、あなたの名前は?」
麗花「れ、麗花です! 紅麗花」
セツヤ「麗花君ね。覚えた覚えた」
 そしてセツヤはにっこりと笑う。
不動「済んだか?」
セツヤ「はい」
 そして、不動とセツヤは次の生徒の前に立つ。金髪のロングの男なのだが中性的な面持ちの男だ。
セツヤ「ん? 君は随分とアンバランス。左右のバランスもあるけど・・・・・・・・・んっと、何だこの違和感。! 認識にタイムラグがあるのか。おう致命的!」
シリウス(いや、私の動きは完璧のはず)
 シリウスの思考を綺麗に呼んでいる二人が目の前にいる。その2人の意思疎通は完璧だった。セツヤはポケットから硬貨を取り出すと指でそれを弾いて綺麗な甲高い音が周囲に響く。そして、そのコインがシリウスの目の前で止まった。咄嗟の行動にシリウスが一歩下がるのだがそれだけで充分だった。シリウスが気付く。目の前にチョークをいつの間にか持った不動がいた。そして、そのチョークと同色のベケ印がシリウスの服に刻まれていた。
セツヤ「ほらね」
シリウス「・・・・・・・・・バカな」
不動「認識の甘さは命取りになる。それに右手ばかりで剣を使っていると・・・・・・・・・」
 片足で立った不動がシリウスの胸部を軽く指で弾く。その衝撃だけでシリウスは後に倒れてしまう。麗花に支えられているシリウスの顔をセツヤは覗き込む。
セツヤ「君だろ? アクエリオンに乗っていて美しく戦うなんて戯言を言っていたのは」
シリウス「戯言・・・・・・・・・だと?」
セツヤ「戯言だね。美しく戦おうとすること自体が戯言だ。そんなものはありはしない」
シリウス「貴様だな。白鬼のパイロットは?」
セツヤ「ご名答。大嫌いだけどね。俺が白鬼のパイロット」
シリウス「美しくあるものを愛して何が悪い!」
セツヤ「美しいものを愛するのはいいさ。だが、追い求めてはいけないものだ。・・・・・・・・・君の名前は?」
シリウス「シリウス・ド・アリシア」
セツヤ「じゃあシリウス君、君は花は好きかい?」
シリウス「ええ」
セツヤ「なぜ?」
シリウス「美しいからです」
セツヤ「じゃあ、花は美しくあろうとしていると思うかい?」
シリウス「? 美しくあろうとしている?」
セツヤ「そう。別に花は美しく咲きたいと思っているから咲いているわけじゃない。世界の全てがそうだ。美しく描こうと思って絵を描く画家がいるかい? 美しくあろうと思って作られる町並みがあるかい? 違うだろう? 美しさなんてものは確固たる意思についてくるおまけさ。ただ、それが見えない者には一生涯縁のないものだということは確かだけどね」
シリウス「・・・・・・・・・私の理念が愚かだというのですか」
セツヤ「人の考えることに口は出さないつもりだけどね、そう思うよ? だってシリウス君、君は俺の意見を論破できないだろ?」
シリウス「! ならばそれは私に確固たる意思がないということになる」
セツヤ「そうなってしまうかな? 美しいものは俺も好きだよ? けど、それ以上に大切なものがある。美しいものに固執はできないって話さ」
シリウス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
セツヤ「まだいいよ。理解できなくっても。これから君が戦っていけば嫌でも理解する。君等には先駆者もいる。不動さんがね。彼が傍にいて君等に適切なアドバイスをくれる。俺以上に的確なやつをね」
 言葉の全てが深い。全員がそう思っていた。そんな雰囲気をぶち壊しに下かもしれない。不動の死角によつんばになって虎視眈々と不動を狙っているものがいた。アポロだ。
セツヤ「懲りないな」
 セツヤが一歩を踏み出そう当すると不動がセツヤの前に手を出して静止させた。言われるがままにセツヤは止まり、アポロが不動の足に噛り付く。セツヤはあーあ、という表情をするや否や不動が足を少しだけ回転させてアポロを投げてしまう。一瞬でアポロは天を仰いでしまう形だ。
セツヤ(お見事)
 超人2人の授業はまだしばらく続く。


 一時間程度の授業だったのだが、エレメントスクールの面々思うところはあったようだった。それを意に介した様子はなくセツヤは不動と真田と茶の席を囲んでいた。ソフィアも共にいる。
真田「いやー、面白かったよ。不動さんが強いって言うのは知っていたけどね、セツヤ君も随分強いじゃない。やっぱりえらい人って強くないといけないのかなーって思っちゃうよね」
セツヤ「いやー、いいんじゃないですかね。人を束ねるのに必要なものが強さである必要はないと思うし、俺は書類仕事が苦手で随分と嫌味も言われてますから」
真田「僕だって苦手だよ。本当は自分の研究をしていたんだよね。あ、そういえばさっき気になること言っていたね。僕に頼みたいことがあるとかないとか」
セツヤ「・・・・・・・・・初対面の人に頼むことでは概ねないんですけどね、これをちょっと見て欲しいんですよ」
 といって、セツヤは手持ちの情報端末から書類のページを出すとそれを真田に見せた。
真田「んー? これは体力検査書かな? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほう? 見てくださいよ不動さん」
不動「・・・・・・・・・人並みはずれている数値だ。・・・・・・・・・ネージュの身体データだな?」
セツヤ「ご名答。真田さんにお願いしたいのは身体データに合うような機動兵器カスタマイズ化の提案書の作成です」
真田「そうだね。それは確かに初対面の人に頼むことじゃないね」
セツヤ「・・・・・・・・・すいません」
真田「謝らないで欲しいかなぁ。けど、僕はね結構君の事気に入ってるんだ。だから協力しちゃおうかなぁ」
セツヤ「! 良いんですか?」
真田「良いよ。だって、カスタマイズの提案書だけでしょ? それだけならそんな時間掛からないよ。素体は何なのかな? エルシュナイデ?」
セツヤ「いえ、鹵獲したローブ・ロンでお願いします」
真田「シュライバー社の新型だね。評判はいいらしいけどデータは確かなかったな。素体のデータも一緒に送ってくれるかな?」
セツヤ「はい。もちろん。やったラッキー!」
真田「いやー、久々にやる気の出る仕事だよ。他の仕事ほっぽり出して頑張っちゃうからね」
セツヤ「ありがとうございます」
真田「いいのいいの」
不動「そうか。確かそのローブ・ロンにネージュが乗っていたのか」
セツヤ「・・・・・・・・・ええ。補修もしなくてはいけないですしね。あの子の身体能力では既存の機体じゃスペックが付いていきませんから」
真田「だと思うよ」
 3人の話は正直ソフィアにとって異次元の話だった。風伯にとって連邦軍はあくまで敵なのだ。その敵の幹部の1人に機体のカスタマイズ提案書を委託するなんて正気の沙汰ではない。その話をこんな場所ですること自体、ここにいる3人が特別なのだなと理解した。DEAVA司令長官にして『神速の魔術師』不動GEN。連邦極東方面軍司令長官にして天才科学者、真田賢。そして日本を守る2大長官に決して引けを取らない所属不明の高性能艦風伯艦長兼凄腕パイロット『白鬼』セツヤ・クヌギ。この3人の会話が記録されないことがソフィアには残念でならなかった。
 そんなことを考えていたソフィアだった。だが、そんなことを考えていられる時間は直ぐに終わりを告げる。1人のパイロットスーツに身を包んだ青年がこちらに向かってくる。その青年が真田の前に止まる。
一樹「長官ーー。もう無理ですよ。山野査察官がもうカンカンです。あ、失礼します」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・真田さん、ここにどうやって来たんですか?」
真田「え? ハルツィーネンに乗ってだよ。特殊訓練っていうこじ付けで。こじ付けだろうがなんだろうがちゃんとした書類は提出したから早々ばれないと思ってたんだけど?」
セツヤ「いや、そんな心配はしてないですけど大胆ですね」
真田「めんどくさがりなだけだよ。あ、一樹君、この人が風伯の艦長のセツヤ君」
セツヤ「こんにちわ。先日は協力してくれてありがとね。助かったよ」
 その言葉に一樹が露骨にのけぞって驚く。
一樹「えぇぇえーー!! あなたが・・・・・・・・・あの・・・・・・・・・白鬼の人?」
セツヤ「そうそう。でも、白鬼は止めて欲しいかな? 真田さんと同じでセツヤでいいよ」
一樹「あ、はい。わかりました。・・・・・・・・・すいませんでした」
セツヤ「謝らなくていいって。別に噛み付いたりしないよ」
一樹「長官!(小声)」
真田「何かな? 一樹君」
一樹「全然優しそうな人じゃないですか! 誰ですか指名手配の凶悪テロリストなんて言ったの!(小声)」
真田「だって本当なんだもん。本当に御触れが来てるんだよ?」
一樹「こんなに優しそうで、街の人たちを守るのに協力してくれた人がテロリストな訳ないでしょ!(小声)」
セツヤ「いやー、本当なんだよねそれ。心当たりもあるし」
一樹「えぇぇーー!? 何やったんですか!」
セツヤ「政治的な理由で連邦、州軍に潰されそうになっていた街を守ったの。それだけ」
一樹「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな」
 シルヴィアと別な意味で表情が読み易い。そしていい子だ。率直にセツヤは思った。純朴といってしまえばそれまでだがセツヤにとっては最も戦わせたくない人間の1人だ。
セツヤ「大丈夫だよ。俺は納得してるの。だから君は気にしない」
一樹「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・! 長官急いでくださいよ!」
真田「そうだね。そろそろ茜さんの堪忍袋の緒が切れそうだ。それじゃあね。不動さん、セツヤ君。データはどうしようか?」
セツヤ「どうにか工面しますよ。その辺は適当に」
真田「そうだね」
セツヤ「それと、真田さん、一樹君良く聞いて。・・・・・・・・・俺はね君等に借りができてるんだ。部下が助けてもらった。機体のチューンに協力してもらった。この恩は絶対に返す。絶対にね。俺は君等を見捨てることは絶対にない。どんな悪行の噂が立っても君等の頼みは無条件で聞く。だから、忘れないでいて。俺は君等の味方になる。組織ではなくて君達個人にだ」
真田「・・・・・・・・・これは随分いい買い物しちゃったかもね」
一樹「ありがとうございます。・・・・・・・・・俺、セツヤさんの言葉忘れません」
 一樹は丁寧にお辞儀をする。
セツヤ「ああ! 忘れないでくれ」
 2人はセツヤの表情を確認してから走っていく。よほど怖い人が待っているのだろう。まぁ、セツヤが考えることではないのだが。2人を見届けてからセツヤはティーカップを傾けてお茶を口に含む。
セツヤ「ソフィアさん、言い忘れていたけれども美味しいです」
ソフィア「ありがとうございます。セツヤさんは名前の響きから日本人なのでしょう? お茶を点てたほうが良かったかしら?」
セツヤ「茶道の心得があるんですか?」
ソフィア「はい。私も不動司令も」
セツヤ「ならまたの機会があれば茶の席でも開いてもらいましょうか。酒でもいいですがね」
不動「行ける口のようだな」
セツヤ「いけますよ」
 かなり話に花を咲かせていたのだが、突然割り込む輩がいた。
ジャン「お話中に失礼します。クヌギ艦長」
セツヤ「・・・・・・・・・なんでしょうか?」
ジャン「あなたに魅力的な提案があるのですが?」
セツヤ「興味はありませんから結構です」
 貯めないなどは一切ない。速攻で断ったのだが、ジャンもめげない。
ジャン「く・・・・・・・・・、そんな事言わないでせめて話だけでも聞いてください」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ、じゃあ話だけ」
ジャン「はい。クヌギ艦長、もしもあなたとその部下全員が罪の意識の片鱗でも持っているのでしたら我等DEAVAに下っていただきたい。そうして頂ければ罪の全てをなかったことにして差し上げることができますが?」
セツヤ「!? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰ですその条件を出したのは?」
ジャン「勿論軍上層部です。私が誠心誠意頼み込んだのです。感謝して・・・・・・・・・」
セツヤ「!! 軍に・・・・・・・・・軍の上層部が俺達がここにいることをばらしたんですか!?」
ジャン「いや、ばらしたってことでは。ただ私は過程の話をしただけで」
不動「馬鹿者!!」
 目を見開いたセツヤは手元の情報端末を取って叫び声を挙げる。
セツヤ「ブリッジ! 応答してくれ! エマージェンシーだ!!」
エーデ『こちらブリッジ。セツヤさんどうしました?』
セツヤ「副長か参謀に代わってくれ」
エーデ『了解。副長に代わります』
ユメコ『どうしたんです?』
セツヤ「俺達の居場所が軍にばれた。恐らく大攻勢が来る。艦の補修の状況は?」
ユメコ『完了予定の78%です。時間換算で69分。幸か不幸か外装部からの大気圏内迷彩システムの補修だけは終了しています』
セツヤ「本当に幸か不幸かだね。良い知らせだけども間に合わないしDEAVAにはもう残れない。ユメコ君、全員に戦闘準備だ。白兵戦も視野に入れよう。SRTと九朗君以外のパイロットは各々の機体で待機だ」
ユメコ『了解。・・・・・・・・・セツヤさん、艦も発進させましょう。もう外部からの修理は終わっているんです。整備できる人間を総動員して持ちこたえるのがベストだと思います』
セツヤ「・・・・・・・・・それでいこう。・・・・・・・・・それと艦内全員に武器の所持を許可。だが、敵に与えた情報から軍は白兵戦でこちらに仕掛けてくる算段だろうからSRTと九朗君には船から下りてDEAVA基地で白兵戦に備えてもらおう。時間稼ぎくらいはできるだろうから重装備でこっちに寄越して」
ユメコ『そうですね。基地から詰められたら袋のねずみですから』
セツヤ「恐らく軍はDEAVAの人間に手は出さないと思うんだけど・・・・・・・・・どう思う?」
ユメコ『ハイドシティの抗議運動を軍事行動で解決しようという輩ですからね。あまり期待しないほうがいいと思いますよ』
ジャン「バカな! 我々DEAVAは堕天翅族に対抗するために結成された特務組織だぞ! 幾ら軍でもそんな横暴を」
セツヤ「しなければいいですね。俺もそう願っています。・・・・・・・・・勝負はあと一時間と少し。不動さん、エレメントの生徒を退避させてください。もしくはアクエリオンの中に。ユメコ君あと頼むよ」
ユメコ『了解』
不動「迷惑をかけるな」
セツヤ「いえ。拾ってもらえなければ勝ち目すらもなかったんです。感謝していますよ。・・・・・・・・・ソフィアさん、基地内のマップ見せてもらえますか?」
ソフィア「はい。こちらです」
 ソフィアが情報端末から基地内のマップを見せる。そのマップをセツヤは食い入るように眺めてから通路部分を指差す。
セツヤ「俺なら・・・・・・・・・ここと、ここかな? あと、ここの通気口か」
ジャン「DEAVAの警備は万全です。例え軍の精鋭部隊がきてもそう簡単に陥落はできないでしょう」
セツヤ「・・・・・・・・・覇道財閥の重武装した私軍を数時間で半壊させるような連中でも同じことが言えますか?」
ジャン「は、覇道!? 私軍最強を誇っている覇道財閥を!?」
セツヤ「今度はこちら側にアドバンテージがあるといっても物量は圧倒的だろうな」
ジャン「そ、それでもクヌギ艦長と風伯があれば」
セツヤ「俺等はもとより白兵戦を念頭に結成された部隊じゃありません。汎用艦に汎用機動兵器を扱っちゃいますが専門は宇宙。白兵戦の専門家は俺と数人だけです。どう考えたって不利だ」
ジャン「ど、どうするんですか! そんな私はただ己の義務を」
セツヤ「責めたいのは山々だけどね。意味がない。副司令殿にはこれを教訓にしていただきたいものですね」
ソフィア「・・・・・・・・・もしかしてセツヤさんはどうにかなると思っているんですか?」
セツヤ「・・・・・・・・・ま、どうにかなるでしょうね。たぶん。修羅場なんて五万と経験してきましたがいつだって死ぬイメージだけは持たないようにしてます。と言うか、それが生き残るコツです。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん!」
 セツヤが後ろを振り返った。さっき通信をいれたばかりなのにもうマオ達SRTと九朗がこちらに来ている。それとネージュもいつの間にかセツヤの後ろに立っていた。
マオ「お待たせしました。これは参謀に頼まれたセツヤさんの白兵戦装備です」
セツヤ「お、ありがと。あと、予備の短銃とナイフはあるかな?」
マオ「はい。予備一式持ってきていますが?」
セツヤ「ネージュに持たせてやってくれ」
マオ「よろしいんですか?」
セツヤ「ああ」
 セツヤはマオから銃とナイフ、防弾ベストの入ったケースを貰うとネージュに手渡しする。
ネージュ「いいの?」
セツヤ「お前がそうしたいならな。強制はしない」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・やるよ。ダメって言っても」
 セツヤはネージュの頭を撫でる。その後で全員のほうを向く。
セツヤ「みんな、ちょっと見てくれるかな?」
 セツヤはマップをモニターに出して全員に見せる。
セツヤ「DEAVAの基地は随分と厳戒だ。ソースケ君、どこから来ると思う?」
ソースケ「・・・・・・・・・正攻法を除外するなら少人数での警備室を占拠してからのE6ハッチからの侵入が考えられます」
九朗「いや、ブラックロッジの連中を考えるなら正攻法もあるんじゃないか?」
セツヤ「俺はどっちもありえると思ってる。更に言えば俺が考えるのは・・・・・・・・・」
ネージュ「Y12ルート」
セツヤ「! そう。この通風口を通ってY12ルート。これがありえると思ってる。と言うか俺ならここから攻める」
クルツ「この通風口の入り口って・・・・・・・・・崖!?」
セツヤ「ありえるだろう?」
クルツ「そりゃできるだろうけど時間制限があるのに早々簡単には」
セツヤ「だからこその侵入だ。・・・・・・・・・確認しようか。目的はあくまで時間稼ぎ。無駄な戦闘の一切は避けること。DEAVAの人間は退避しているだろうから・・・・・・・・・このE6ハッチ前の通路にSRT。正面のバルコニーで九朗君とアルちゃん。俺はY12ルートを塞ぐ。制圧作戦はタイミングが命だ。もしも自分等の担当区域に敵が来なかった場合はドッグハッチ前の死守に移って。ネージュはドッグハッチ前だ。どこが決壊しても風伯はお陀仏だ。援軍の予定は今のところなし。結構絶望的」
ソースケ「けど、死ぬつもりはないんでしょう」
アルアジフ「当然じゃ。セツヤは童たちのボスじゃからな。諦められたは困る」
セツヤ「当ったり前だ。勝算はあるんだ。やる前からは諦めたりしないさ。・・・・・・・・・さて、戦争だ」
 この場にいるジャンルこそ違えど白兵戦のプロフェッショナル達が一同に頷いた。




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