粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃 第伍話 『世界の賽の目』 後編


第伍話 『世界の賽の目』 後編


 戦闘は始まったてからもう十数分が経過している。戦況は物量で遥かに連邦・州軍共同部隊側の優勢なのは決まっていた。最も、どれだけ無能な指揮官でもこの状況で負けることはないだろう。横槍さえ入らなければだ。風伯機動兵器部隊の戦闘指揮官であるジャス・カーペンターはよく吟味された作戦であくまでブラックレインボーの部隊を主体にどれだけ持ちこたえさせることができるかと言うことに主観をおいた配置で機動兵器部隊は展開していた。STT部隊は牽制とバックアップをメインで行動。SRT部隊はアーバレストを陽動に狙撃がメイン。ブラックレインボーの機動兵器部隊に風伯参戦の情報が送られる頃にはかなりの敵部隊が撃破、もしくは行動不能に陥っていた。
 エトランゼの通信機からブリッジの音声が入ってくる。その音声を聞きながらセツヤはハイドシティの端に着陸する。戦闘区域から少し離れてしまうがこの場所は陽動で攻撃を開始するにはもってこいの場所に思える。
セツヤ「こっちが速かったんですかね?」
ギリアム『・・・・・・・・・いや、既に戦闘が始まっている。向こうだ!』
 セツヤはエトランゼのレーダーを確認。素早く動く反応があった。
セツヤ「行きましょう。いや、先に行ってください。バルキリーの方が足が速い」
ギリアム『わかった』
 ファイターモードに移行したエクスカリバーが先に向かう。距離からすれば数秒差なのだろうがエース級数人を1人で相手をするのは数秒でも命取りだろう。それをセツヤもギリアムも理解しきっていた。
 セツヤもテスラドライブをフル稼働させて戦闘ポイントに到着する。到着した場所では砂煙がたっていた。恐らくギリアムかティモシーがミサイルを撃ち込んだのだろう。そう意識したセツヤに間髪入れずに通信が入る。
ティモシー『久しいなクヌギ』
セツヤ「どうも。大変そうですね。ちょっと俺も混ぜてもらいますよ」
ティモシー『大歓迎だ』
セツヤ「ケーニッヒモンスターの話は聞いていますね? レイブンズ2機と合わせて俺達3人が担当です」
ティモシー『ケーニッヒのパイロットもできるぞ。油断はするな』
セツヤ「とりあえず3対3ですからね。担当決めますか?」
ティモシー『お前の連れてきたVF-19Aは使えるんだろうな』
セツヤ「当然。元レイブンズの隊長さんですからね。経験、実力、申し分なしです」
ティモシー『・・・・・・・・・・・・・・・・・・それはギリアム・アングレートか?』
セツヤ「ギリアムさん、自己紹介」
ギリアム『双方共に戦闘中に不謹慎だな。余裕の表れか? ・・・・・・・・・過去の話に花を咲かせるつもりはない。ティモシー、過去を水に流せとは言わんが、今の俺はビンディランスのギリアムだ』
セツヤ「だそうです。さて、そろそろ無駄話もできなくなってきましたね?」
 セツヤも肉眼で把握できる。ギリアム機と同型のエクスカリバー2機がエトランゼとフェイオスバルキリーに向けてミサイルを発射する。だが、こういう無作為な攻撃にも対応策をセツヤ然りティモシー然りしっかりと備えている。エトランゼの左腕に内蔵してあるチェーンガンとフェイオスバルキリーのガンポッドで避けながら、後退しながらの発砲、ミサイルの撃破。見事に乗り切るのだが、それは相手方も理解していたようだ。エクスカリバーもガウォークモードで着地、こちらとの距離を縮めていた。
 セツヤは一瞬だが、コックピットの中で額にしわを寄せた。
セツヤ「算段の時間なし! 目的はひとつですから流動的に。速攻でのケーニッヒモンスターの無力化のみです。2人ともエースクラスですから無駄にダメージは受けないでください」
ギリアム『了解』
ティモシー『心得た』
 エトランゼ、エクスカリバー、フェイオスバルキリーの3機が散会する。流動的とセツヤは言ったがこの3人は間違いなくトップクラスのパイロットだ。熟練者だからこそ、違和感がない限り、最も成功率の高い行動を取る。ギリアムとティモシーがレイブンズのエクスカリバーを押さえている間にセツヤがケーニッヒモンスターを撃破する。これが恐らく一番に成功率の高い配役になるだろう。エトランゼはこの3機の中では最も攻撃力の高い機体だ。元々バルキリーの特性としては高機動を生かしての撹乱戦が最も有効だが、ケーニッヒモンスターにそれをすれば市民ごと攻撃しかねない。それに重装甲を誇るケーニッヒモンスターに速攻が通用するかは怪しいところだった。それならばパーソナルトルーパーのカスタム機であるエトランゼが最速で撃破する可能性としては最も高いと言えた。それに3人ともが気付いたからこそのフォーメーションとなる。
セツヤ(流石にエースクラスだ。ジャス君の言葉通り、理解力が違う。・・・・・・・・・ならば!)
 エトランゼが両椀に固定された大型ミサイルの発射体制に入っているケーニッヒモンスターを捕らえる。エトランゼの行動を阻止すべく、レイブンズのバルキリーのうちの1機が上方からガンポットをの照準をエトランゼに合わせるがセツヤの目にはケーニッヒモンスターしか映っていない。ある種の確信があったからだ。レイブンズのエクスカリバーが別のエクスカリバーにの攻撃を緊急で回避する。ギリアムの援護がしっかりとセツヤを守っていた。
セツヤ「・・・・・・・・・思う存分に!!!」
 エトランゼも出せる推力の全てを使ってケーニッヒモンスターに接近する。エクスカリバーには劣るとは言っても通常のバルキリーよりはエトランゼの方が速い。鈍重なケーニッヒでは捉えきれることができない。背中からエトランゼの主武装であるオクスタンブレードを慣れた手つきで構えるとフェイントを2つ入れてかは切りかかる。いかにケーニッヒモンスターでも近接戦闘を念頭にしていない機体には変わりない。それに加えて30mクラスの巨体だ。交わす事は難しいのだがそれでも、抵抗はする。無茶を承知でのゼロ距離でのミサイルを発射する。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 大型のミサイルだ。それもエトランゼは既に斬り下ろす構えに入っていた。普通ならば成す術なく撃破されてしまうのだが、セツヤは咄嗟に目的対象を変えた。発射されたミサイルをオクスタンブレードに仕込まれたロシュセイバーの刃を発生させてミサイルを斬りおとしてしまった。エトランゼの後方でミサイルが爆破する。
 ケーニッヒモンスターのパイロットであるシュン・トウマは目を見開いた。だが、攻撃はこれで終わらない。エトランゼの腰部Gストライク・キャノンを先ほどのトウマのお株を奪うかのようなゼロ距離発砲を行う。比較的装甲の薄いケーニッヒの脚部を狙っての攻撃だ。
トウマ『くそぉおお!』
 コックピットで叫ぶトウマにセツヤの猛攻は続く。オクスタンブレードを2つに分解してシシオウブレードの刃でレールガンを膾斬りにしてしまう。もう一方のロシュセイバーの刃でケーニッヒの量の腕を分断。ここまでしてしまうともう戦闘行動はおろか撤退も不可能だ。完全に行動不能な状況にしてしまった。
 動かなくなったケーニッヒモンスターの前に数秒佇んでからセツヤは連絡を送る。
セツヤ「こちらハンニバル。目的対象の行動不能を確認。シルフ、各機への伝達と指示を乞う。それと戦況」
マリア『・・・・・・・・・こちらシルフ、了解です。フェイズ4に移行します。戦況を報告します。敵機の撃破確認として戦闘不能がKLF7機、バルキリー6機、アームスレイブ10機の計23機。味方側の損害としてはバルキリー5機大破。行動不能2機。中破2機です。風伯側の損害は今のところありません。ローチス小隊は善戦しています。損傷はありませんが火器のエネルギー、弾丸の消費が激しいです。マオ小隊は順調。ですが、初期の予定とは異なり狙撃ではなく、アーバレスト中心の戦闘にシフトされています。ティモシー代表、ギリアム氏はレイブンズの機体と今だ交戦中です』
セツヤ(弾薬の消費が激しいのは苦戦の証拠か。マオさんもアーバレストを矢面に立たせないと持たせられなかったか。ティモシー代表もギリアムさんもレイブンズとの戦闘を抜け出すのは難しいか)
ジャス『シルフよりハンニバルへ』
セツヤ「こちらハンニバル」
ジャス『ケーニッヒモンスターの行動不能を共同軍側も確認したようです。予備兵力の参入は時間の問題かと』
セツヤ「撤退の様相はない?」
ジャス『ありません。・・・・・・・・・? ちょっと待ってください。・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 ジャスの様子がおかしくなる。通信機の先からユージーンの声が聞こえるがはっきりと聞き取れない。
ジャス『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハンニバル』
セツヤ「どうぞ」
ジャス『第3勢力の参入を確認しました。共同軍後方24キロの地点に出現』
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!? 第3勢力?」
ジャス『ガルズオルムです』
セツヤ「!! ここでか!? 狙いは・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイドシティか?」
ジャス『余念はしていましたがこのタイミングでとは。・・・・・・・・・・・・・・・・・・艦長』
 ジャスの声に焦りが滲む。セツヤも頭をフルに回転させる。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!! ジャス君!」
ジャス『はい』
セツヤ「マリアフォキナさんに出撃してもらう」
ジャス『!? 彼女はビンディランスの代表ですよ? 戦死させるようなことになればミスリルの立場が』
セツヤ「戦闘はさせない。宅配を届けてもらう。確か、VF-01Sは副座だったね?」
ジャス『はい。乗り込むことが・・・・・・・・・・・・・・・・・・デモンベインですか!?』
セツヤ「デモンベインの火力ならガルズオルムの大部隊でも相手にできる。それに、ガルズオルムは全人類の難敵だ。覇道の面子は潰さない。マリアフォキナさんには宅配後に隠れてもらえば言い訳は幾らでも立つ。それにこれはチャンスになりえる。幾ら共同軍でも自分等の危機をほったらかして侵攻作戦なんて取ってられない。ジャス君、LFOの部隊を担当しているSTTの戦闘区域を艦船のいる区域に変更。機動力を使っての空中戦に持ち込ませる。俺も行く。これで、共同軍は遅かれ早かれ撤退するしかないはずだ」
ジャス『確かに。デモンベインの出撃を急がせます!』
セツヤ「頼む。・・・・・・・・・問題は」
ジャス『・・・・・・・・・・・・・・・・・・!! ハイドシティ北部にもガルズオルム艦隊の出現を確認!! このままではブラックレインボーのゼントラーディ部隊が危険に晒されます』
セツヤ「・・・・・・・・・くっ! 共同軍に撤退の様子は?」
ジャス「ありません」
 最後の手段である風伯の戦闘参加。他に手段がない状況だと流石のセツヤも思えてきた。デモンベインはいい。あれは特機であるが覇道の機体としてあまりにも有名だ。しかし、ミスリルは強くはあるが厚い部隊ではない。国家を超える集団の露骨な敵意を受けるわけには行かないのだ。ガルズオルムの相手とはいえミスリルの母艦を連邦、州軍の双方に晒すことだけはどうしても避けたいと思っていたが・・・・・・・・・人命には変えられない。
セツヤ「仕方ない。風伯の」
ユメコ『セツヤさん、待って!!』
 恐らくマイクを奪い取ったのだろう。ユメコの声がエトランゼのコックピットに響く。ユメコの言われるがままにしばらくセツヤは待つ。そして、ユメコが嬉々とした声で話し始めた。
ユメコ『暗号電文です。・・・・・・・・・ハイドシティ北部のガルズオルムは任せてもらう。・・・・・・・・・オケアノスのシマ司令です!!』
 セツヤの声もまるでユメコに同調したかのように嬉々となる。
セツヤ「デモンベインの発進を急がせろ! 予定通りに俺はSTTと共同軍本体に攻勢をかける。SRTは担当をアームスレイブ部隊からLFO部隊にシフト。無理はさせるな」
ジャス・ユメコ『了解!!』
セツヤ「それと、シマに返信。感謝すると」
ユメコ『わかりました』
 通信を終えると最大速度でエトランゼは飛び立つ。


 空中でエトランゼはエルシュナイデ3機と合流する。その機体を見るや早速通信に入る。
セツヤ「弾薬は残っているだろうね?」
マルス『残り3割といったところでしょうか。LFOの機動性を甘く見たツケと思っています』
セツヤ「充分だ。残すは艦船だ。風伯ほど足も速くないだろうしね」
ホルテ『それでどうしますか? 撃沈すれば?』
セツヤ「いや、それだと後々面倒だ。ハイドシティの負担になる。できれば共同軍には自分達の足でお帰り願いたい。最低限、この海域からは出て行って欲しい。・・・・・・・・・側面の甲板の大穴を空けよう。沈むにしてもある程度猶予があるだろうから。艦船の数は輸送艦が6。護衛艦4。巡洋艦が2。巡洋艦を先に狙おう。機動兵器はもう残ってないだろうからそっちの心配はいらない」
STT隊員『了解』
アール『セツヤさん、後方から機影です。バルキリー』
セツヤ「VF-01Sじゃない?」
アール『ちょっと待ってください。・・・・・・・・・そうです。バンローズ代表の機体です』
 アールの言葉をもらってから数十秒後にバルキリーが通り過ぎていく。その後ろには間違いなく九朗とアルが乗っていた。これで残る杞憂は共同軍の動きだけになる。
セツヤ「向こうのガルズオルムは彼等に任せよう。それにしてもガルズオルムが挟撃してくるとはね。・・・・・・・・・シマが何かを知っていると見るべきかな?」
アール『?』
セツヤ「見えてきた。ホルテ君は俺と、マルス君とアール君は左舷から。こっちは囮役もはいっているからそっちで確実に穴空けて。それともう1つの巡洋艦の攻撃には要注意」
STT隊員『了解!』
 余談になるが、STT小隊は本来セツヤを中心に結成された部隊である。セツヤが艦長業も同時にこなさなくてはいけないためにどうしてもマルスを隊長として稼動させてはいるが正直それではバランスが悪いものになっている。それでもSTT小隊なりにフォーメーションを研究し、SRTにも劣らないほどの技術と経験は有している。しかし、エルシュナイデの機体特性と彼等の風伯のクルーになるまでの経緯。それらを加味すれば、本来の形態はセツヤをメインとした攻勢的な部隊が本来の形となる。偶然かつ不幸にも共同軍の艦船の乗組員達はそのセツヤ達のあるべき実力を垣間見ることになる。
 単純な機動力では量産期でこそあるが新型のエルシュナイデの方がエトランゼよりも上なのだ。蛇足ではあるがエトランゼの本質は機動力でも攻撃力でもなくその動きの細やかさにあるのだが。
 エルシュナイデが滑らかに舞いながら攻撃を開始した。ホルテのエルシュナイデの手にしたフォトンライフルとエトランゼのチェーンガンが艦船に向けて攻撃を開始した。
セツヤ「対空砲がこっち向いた!! 今だ!!」
 完全に逆の方向からマルスとアールが共同軍巡洋艦に向けて両肩のビームキャノンを斉射する。爆破の大きさがそれに比例する巨大な波を作って巡洋艦から巨大な煙が上がった。
マルス『こちらディーナ1、目標A中破!』
セツヤ「了解! 次!」
 風伯級の機動力と応用力を有する船ならばまだしも、海洋艦ではどうしたって機動兵器には勝てない。それは基本的な通念であるし、これからセツヤ達が証明することになる。そして、格好としてはたった1個小隊で艦船が数十隻も撃沈される。そのためセツヤ=エトランゼが連邦、州軍に覚えられることになる。セツヤの懸念どおりに風伯が表に出なかったことが正解となった格好だが。セツヤにつけられた不名誉な字であり、セツヤはこれからの長い間、この字だけはひたすらに嫌うことになる。その名は『白鬼(びゃっき)』。


マリアフォキナ「それにしても、私を足に使う男がいるとはな」
九朗「悪い。けど、俺あの人のことは信じてるから」
マリアフォキナ「別に貴様に謝られても溜飲は下がらん。貴様の責任でもないしな。まぁ、今回はクヌギはビンディランスに協力してくれた。その心意気に妥協するとしよう」
アルアジフ「・・・・・・・・・女の愚痴はあまり聞いてて楽しいものではないぞ?」
マリアフォキナ「・・・・・・・・・ああそうだ。そうだな。・・・・・・・・・予定ポイントに到着する。本当にいいのか!?」
九朗「ああ」
アルアジフ「予定通り、風伯に連絡を入れてくれ。覇道に繋いでデモンベインを召喚する」
マリアフォキナ「覇道? アメリカ、アーカムシティを牛耳る世界最大規模の財閥の覇道か?」
九朗「そうだよ。・・・・・・・・・急いでくれ。敵さん御出でなさった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・行くぞアル!」
マリアフォキナ「大十字! その格好は」
 既にバルキリーの席ですでにマギウススタイルに変身をしていた。その格好が前の九朗の格好とあまりに異なっていたことに驚いたのだろう。そして、副座の脇にある緊急脱出レバーを引いて副座の座席ごと空に飛び上がる。九朗はパラシュートもつけていない。だが、彼の表情に陰りはなかった。まるで九朗のタイミングをどこかで見ていたのかと思えるようなタイミングで魔方陣が現れる。九朗の肩にしがみ付いていた小型になったアルが声を挙げた。
アルアジフ「九朗!!」
九朗「おう! 憎悪の空より着たりて、正しき怒りを胸に、我等は魔を断つ剣を取る! 汝無垢なる刃、デモンベインーーー!!」
アルアジフ「アクセス!」
 魔方陣から巨大な機体が姿を現した。それはマリアフォキナも見たことがある機体、機械仕掛けの神、魔を断つ剣、デモンベインだった。
 現段階でデモンベインは空中に止まることはできない。しかしながら、その巨体のままで跳躍することはできた。ゆえに、大群であろうともデモンベインは時間をかけて行動することはできない。それを九朗自身も心得ていた。
九朗「・・・・・・・・・アル、一気に決めるぞ! 敵の部隊ごとぶち抜く!」
アル「わかっておる! 断鎖術式ティマイオス・クリティアス起動!!」
九朗「時空間歪曲機構展開! 行くぞ!!」
 デモンベインが空中に飛び上がる。その勢いは他のどの期待であっても追従できないだろう。飛翔ではない。あくまで跳躍だ。とてつもない勢いで空に飛び上がったデモンベインの足が光り輝く。
アル「・・・・・・・・・近接粉砕呪法」
九朗「・・・・・・・・・アトランティス・・・・・・・・・・・・・・・・・・ストラァァアアイクゥッ!!」
 流星のように光り輝くデモンベインが鋭角にガルズオルム部隊に突っ込んでいく。その威力はたとえ直撃でなかろうともガルズオルムのウルヴォーフル、アンヴァールはもとよりヴァージェムをも爆発していく。先入観もなく、主観もなくただ客観的にかつ童心でデモンベインが攻撃を繰り出していく様を見る人間は恐ろしく綺麗な光景に思えるだろう。大海原に光る流星。この光景を肉眼で確認した数少ない人間の1人、マリアフォキナはデモンベインの威力とその凛々しさにに言葉を漏らさずにいはいられない。
マリアフォキナ「これだけの・・・・・・・・・これだけの力を保持しながら・・・・・・・・・クヌギはこれを使わなかった? ・・・・・・・・・何故だ! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの男は戦いよりも絆を選ぶということなのか。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
 デモンベインは小回りが効かない。一撃一撃が必殺技に匹敵する威力を持ち合わせているために、雑兵に対応するという意味では非常に非力と言える。だが、セツヤはここまで見越していたのかもしれない。デモンベインの背部から迫るアンヴァールに対応したのはマリアフォキナだった。真紅のVF-01Sがバトロイドに変形してアンヴァール数機を何の苦労もなく撃破して回る。
マリアフォキナ『大十字九朗、アル・アジフ、後ろの面倒は見てやる。さっさと終わらせろ!』
九朗『マリアフォキナさん! ・・・・・・・・・ああ!!』
アルアジフ『別に貴様の協力なんてなくても』
九朗『アル!』
 九朗に窘められたアルは少しばかり意気消沈するが直ぐにいつものテンションを取り戻す。
アルアジフ『やると言うならばしっかりやって貰う。デモンベインに傷をつけると覇道の小娘がうるさいからな』
マリアフォキナ『任せてもらおうか。・・・・・・・・・この機体に賭けてな』
 魔を断つ剣、赤いバルキリーとこの2機が南東から攻めてくるガルズオルム部隊を完膚なきまでに叩きのめすのに大した時間は掛からなかった。


 セレブラント保有の作戦行動用巨大飛空母艦の1つオケアノス。その司令ブリッジに幾人の幻体クローンと2次元投影された指令管理用AIがいた。
ミナト「あれが覇道の保有する機体デモンベインですね。こんな状況になるまで手の内を隠しているとは流石、クヌギ艦長」
シマ「どうかな? あの男はそんな細やかな方策は使わない。義も仁も弁えているが、出し惜しみなどは無駄だと考える類の人間だろう。レムレス、どう思う?」
 シマに問いかけられて二次元パネルに映し出された中年の艦長風の風体の男はそれに威厳を持って答える。
レムレス『ええ。司令の言葉が正しいと思います。こういう乱戦の状況です。手の内と言うよりは出さざるを得ない状況に追い込まれてしまったと言う印象が強いですね』
シマ「その通りだ。・・・・・・・・・よし! ゼーガペイン・アルディール、ガルダ、フリスベルグの発進! オケアノスを絶対防衛ラインとしてガルズオルム第2部隊に対応する! ハイドシティに敵を入れるな!!」
オケアノスクルー「了解!!」
 オケアノスの格納庫ではシマの指令通りにゼーガペインが発進用意を整えていた。その機体の中の1つ、ゼーガペイン・アルディールのコックピット内で会話があった。
 赤髪の青年。高校生くらいに見える。副座のコックピット内で前部のシートに座っている青年が後ろにいる長い黒髪でクールそうな女性に話しかける。
キョウ「シズノ先輩、予定航路を変えてまで何で司令はここに来たんスか?」
シズノ「前に我々は彼に・・・・・・・・・風伯のセツヤ・クヌギ艦長に助けられたからよ。絶体絶命の状況下。四方は敵。援軍なんてこれる状況ではなかった。けど、援軍は来た。どこの組織ともわからない、セレブラントとは縁もゆかりもない部隊の人間が」
キョウ「へーー、じゃあ、命の恩人だ」
シズノ「・・・・・・・・・そう。あなた以外のね」
キョウ「?? なんスかそれ?」
 キョウの言葉に対応したのはシズノではなかった。
ルーシェン『お前が細かいことを考えるな。敵がいる。守る対象もある。そして、それは我々の恩人に報いる行為になる。それだけ知っていればいい』
クリス『その通り、小難しい説明なんてお前にはいらねーって』
 ガルダのガンナー、マオ・ルーシェンとフリスベルグのガンナー、クリス・アヴニールだ。
キョウ「なんだよ!」
ルーシェン『実際、俺達もたいしたことを知るわけではない。今回の予定航路の変更は彼等への借りを返すためだ。セツヤ・クヌギはそれだけの人物だと司令も認めているからだろう』
クリス『俺は会ったことないけどな。一時期セレブラント全体で結構有名になったぜ? 幻体でも損得なしに助けてくれる奇特な男だってな』
キョウ「へーー。いい人ってことか」
ルーシェン『お前とは気が合うかもしれないぞ?』
シズノ「・・・・・・・・・そうね。・・・・・・・・・気が合うでしょうね」
 とたんシズノの表情が暗くなる。恐らく言葉の途中にこう入るのだろう。『今のキョウとは』と。
 AIクルーの1人リチェルカの声が発進までのシークエンスを整える。
リチェルカ『ゼーガペイン・アルディール、ガルダ、フリスベルグ復元座標セット完了です。ゼーガペイン各機転送』
キョウ「・・・・・・・・・エンタングル!!」
 アルディールを初めとした計3機がオケアノスから少し離れた海洋に転送される。雨が降りしきってはいるが、目の前には敵。守る街。行動は単純だった。
シズノ「転送完了」
 早速、ゼーガペインを知覚したガルズオルム
キョウ「ターゲット! インサイト!!」
シズノ「フロントグリップ、武器チェンバーコイル、出力調整。光波紋フィールド形成。ホロニックランチャー・・・・・・・・・右手!」
 キョウの機体、ゼーガペイン・アルディールの右腕に光状のライフルが現れる。それをすぐさま用いるとアルディールが敵のウルヴォーフルに向けてその銃を乱射する。多少乱雑さは伺えるが周囲のゼーガとの連携でどうにか敵部隊を殲滅する。
シズノ「第2陣、アンヴァール多数接近。それとランチャーに回せるQLが少ないわ」
キョウ「ならカタナ!」
 アルディールの銃が消えてその代わりに剣状の光る武装が現れる。
 どうやら彼には近接戦闘の方が向いているのかもしれない。ウルヴォーフルの上位機種であるアンヴァールをものの見事に3機撃破する。光装甲を持つゼーガペインではこの程度の機種の相手はそう難しくないのだろう。
シズノ「フリスベルグがヴァージェムのを撃破。残存勢力なし」
キョウ「こんなモンかよ」
シズノ「仕方がないわ。彼等は四方八方からの攻撃に備えていたから」
キョウ「そんなもんかね」
シズノ「戻るわよ」
キョウ「了解。エンタングルタイムアウト!」
 そして、戦闘区域からゼーガペインの姿が消える。


 ハイドシティ内での戦闘もそろそろ終わりを迎えていた。現レイブンズの隊長であるエイジス・フォッカーと新隊員であるスージー・ニュートレットがそれぞれティモシーとギリアムをとの大戦を余儀なくされていた。確かに、戦場にこの2機が参入するのとしないのとでは雲泥の差があるだろう。しかしながら、彼等にとっても風伯とオケアノスの介入は寝耳に水のはずだった。虎の子のケーニッヒ・モンスターを撃破されて明らかに浮き足立っている。
エイジス『貴様等はどうして!!』
ティモシー『どうして? それはお前が何も見えていないからだ。何の理由もなく行動をしていると思うのか!』
エイジス『!! だが、こんなこと許されるわけがない!!』
ティモシー『それがこのハイドシティに住む人間たちの総意だとしてもか!? ラクテンスの与えられた幻想にどこまで浸るつもりだ!』
エイジス『余迷いごとを!!』
 エクスカリバーとフェイオスバルキリー。その2機が恐らく最も壮絶な戦闘を行っているだろう。誰よりも負担が多いはずだ。そんな中、エイジスに比べればクールに戦闘を進めていたのが『じゃじゃ馬』の異名をとるスージー・ニュートレットだ。
スージー『随分やるじゃない? それにしてもエクスカリバーとはね。・・・・・・・・・あなたもしかして?』
ギリアム『その問答に意味はない。下がると言うなら追ったりはしない。下がれ』
スージー『驚いた! 私にそんなことをいう人なんて始めて会ったわ。でも、それって随分な侮辱よ?』
ギリアム『・・・・・・・・・汚水など幾らでも飲んでやる。だが、これだけは言わせて貰う。お前達は不思議に思わなかったのか。テロリストだとしても、市民10万の都市にケーニッヒモンスターの投入・・・・・・・・・これは異常だぞ?』
スージー『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 ギリアムの言葉にスージーは押し黙ってしまう。ギリアムの言葉が的を射ている証拠だった。ギリアムが次の言葉を紡ごうとしたその矢先に共同軍の全機体に向けて通信が入る。
アナウンス『全機撤退命令。繰り返す。全機撤退。各機独自の行動にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 そのアナウンスにエイジスは目を見開く。
エイジス『撤退命令!? くそ! まだトウマが』
スージー『大丈夫よ隊長。アームスレイブ部隊がトウマを収容したのを確認したわ』
エイジス『そうか。・・・・・・・・・撤退だ!』
スージー『了解』
 尾を引いているのだろうが、命令は絶対なのが軍人だ。それが隊長クラスならば尚をこと。エクスカリバーが撤退する様子をギリアムとティモシーは安堵の表情で見ていた。
ギリアム『どうやらクヌギ艦長がやったみたいだな』
ティモシー『だろうな。それにしてもつくづく』
ギリアム『あぁ。変な男だ』


 その頃、敵部隊を必要以上にダメージを与えないと言う土台無理な作戦を見事に遂げたセツヤは孤島にエルシュナイデと共に着陸して風伯から寄せられる情報に耳を傾けていた。
ジャス『敵母艦の76%の中破と12%の撃破を確認。お見事です』
セツヤ「お世辞はいいから他は?」
ジャス『はい。北部、南東のガルズオルム部隊の殲滅を確認。バンローズ代表、オケアノスのシマ司令からのミッション完了報告を受けています』
セツヤ「敵さんの予備兵力の動きは?」
ジャス『ハイドシティ西200キロにて停泊。残存部隊の回収を始めています』
セツヤ「敵さんの再侵攻の可能性は?」
ジャス『何ともいえませんが自分と副長の見解としてはないものと考えています。これだけ見事に撃退されては』
セツヤ「・・・・・・・・・よし! 各機に帰艦命令。3次戦闘態勢を維持したまま機体の補給を開始。それと、これ以上の戦闘はしたくない。ジャス君、マスコミに今回の共同軍の行動と作戦内容を部分的にリークして」
ジャス『! 成程。例え連邦、州軍が情報操作を行おうとこれ以上のハイドシティへの作戦行動はできなくなりますね。・・・・・・・・・ですが、その皺寄せは我々に来てしまいますが?』
セツヤ「その代わり、ハイドシティの人たちがこれ以上無駄な危険が及ばなくなる。充分だよ」
ジャス『了解しました』
セツヤ「補給の順番は任せる。パイロットの休息も忘れないで。最低でも24時間は緊急体制だから」
ジャス『了解しました』
 これがセツヤ達の前哨戦になる。勿論、連邦や州軍によってある程度秘匿されてしまうことになるのだが。しかし、軍のこの戦闘行動を知る一部の高官はこの事件でとある機体の映像を目に焼き付けることになった。ヒュッケバインMk-U・エトランゼである。機体の所属もパイロットもわからないこの機体はブラックリストに挙げられ、映像とその情報は軍のホストコンピュータにインプットされ『白鬼』という陰気な字までつくことになってしまうのだが。




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