あんなに観たいと思っていたのに、
前売り券を買う暇もなく、果たして観る事が
出来るかしら?
と不安だったが、ともかく出かけることにした。
柏の映画館だったら空いてるかも、との予測は
大正解であった。
地方性もあるのか、観客は70%くらいの入りであった。
年齢層はやしのみと同じ年頃かそれ以上の年配の方が多く、若い人は数えるほど。
時代的な戦争がらみのテーマが年齢層にも
出ているということなのだろうか。
始まるまで、席について今読んでる本の続きを
読もうとするのだがなんとも落ち着かない。
心を落ち着かせるために飲み物を入手。
始まった!
タイトルの前に強烈な「ロシア人スパイ、エレナ」の暗殺場面が!
血しぶきをあおる氷室。
どきどきと心臓が高鳴る。
次はどんなシーンが?と原作を読んだやしのみはつい想像してしまうのである。
時代が遡り、満州に渡ってきた当初の頃からの話が始まる。
主役の波子を演ずるのは常盤貴子、波子の夫役は香川照之
(大河ドラマの利家とまつでは秀吉役を演じた)、そして、氷室啓介役に
伊勢谷友介。中佐大杉役は布袋寅泰。
揃いに揃って素晴らしいキャスティングである。
原作を損なわないまるでイメージぴったりであった。
波子と氷室がダンスに興じる様はなんとも美しい光景であった。
酒造会社を成功させ、幸せな毎日ともさようならをする日が近づいた。
突然の爆撃。
天国から地獄への扉が開かれようとしていた。
夫の留守中のできごとであった。
避難列車にはいつになったら乗れるやも知れず、土下座をして頼み込む波子に
反体制の氷室は軍用列車に乗れる手はずを整えてくれた。
うすうす「エレナを密告したのはもしや波子なのでは?」と思いつつも、その必死な
母として女として生きようとする姿に心打たれたのであった。
心の奥で自分と似ている何かを感じたのかもしれない。
ハルビンに向かう列車がソ連軍の銃撃に会い、
一緒に逃げたはずの末っ子が見当たらず、
眼の色を変えて列車に後戻る。
息子は座席の下に隠れ無事であった。
「いい、いつでも、お母さんがそばにいるとは限らないのよ、
今後はお母さんに頼ってはだめよ、生きるのよ、なんとしてでも、
自分の力で生き抜くと思わなきゃダメよ」とまだ幼い
小学校の低学年である子供にさとす波子であった。
街角で家族力を併せたばこ売りをして生活を支えていたある日、
見知らぬ中国人が夫の帽子を手に
「これはあなたの夫の帽子ですね。あなたの荷物を預かっています。
私の主人がお話があるそうです」
と連れて行かれた先は、手広く、危なげな、しかし、繁盛している
怪しげな店であった。
「あなたに会って、荷物を渡してくれと言ったのは彼です。」
そこには阿片で蝕まれていた氷室が横たわっていた。
廃人寸前の彼を眼にした波子は
「彼を治すにはどうしたらいいのですか」
と昔の知り合いで親友だと名乗るその館の主に治療法を乞う。
夫が死んで間もないというのに、部屋に連れ込んだ母に怒りを
ぶつける長女。
「阿片をくれ〜、殺せ〜」と叫ぶすさまじさに毛布をかぶり耳を塞ぐ
末息子。
氷室と波子の阿片との格闘の日々が始まった。
その間、子供達は生活のため長女は中華料理店へ住み込みで働き、
幼い小学生の息子はタバコ売りの日々。
そんなある日、「帰れるぞ〜、やっと日本に帰れるぞ〜」との情報を耳にした
子供達は、この嬉しさを早く母親に伝えようと急いで家に向かう。
そして、目にしたものは、、、
殺せ〜と叫ぶ氷室に「生きるのよ、生きるのよ」叫びながら
波子は氷室に身を任せていた。というより、朦朧とする氷室の身体に活を入れるかのように、自ら身を寄せる激しい波子、いや母親がいた。
ショックで息子はその場を離れいなくなる。
それを知った長女は構わず「おかあさ〜ん、○○がいなくなったよ〜」と大声で
部屋の外から構わず叫ぶ。
見られていたとは知らぬほど夢中になっていた波子達であったが、その言葉を
聞くや、あわてて息子を探す。
汽車が向かってきている線路に踏み込む寸前であった。
「こうなったのは、お母さんのせいよ、氷室さんを好きになんかなるから!」と攻める
長女に、二人の子供を抱きしめながら、あなた達はお母さん、そのものなの、お母さんの命なの、生き抜くためには愛する人が必要なのよ!
いつかきっと分かってくれる日がくるわ」」と涙を流しながらのまさしく必死の姿であった。
思春期の娘には理解できない事であったが、死に物狂いで訴える母の姿に
子供達は少なくとも命の尊さを学んだことだろう。
(このあたりからやしのみは涙がとめどもなく出てきたが拭くこともなく、
頬を伝うに任せた。拭く暇などあるものか。)
更に生きる大切さを身にしみて感じたのは、阿片地獄から脱した氷室であった。
しかし、喜ぶべき帰国を前に波子は「僕は日本には帰らない。
自首をするつもりだ。」と思いがけぬ言葉を耳にする。
「何故?せっかく生きるすべが見つかったと言うのに、
何故?殺されるだけだわ!」
「僕はあなたを愛している。あなたに命をもらい今生きている。
それだからこそ僕はやらねばならない」
「どうして男の人は死を急ぐの」と食い下がった波子はその言葉を聞き、
「お待ちしています。いつまでも、ずっと愛し続けることで、
私は生きていけます」と答えるのであった。
お別れの列車を密かに見守る氷室を息子が見つけ、
なんと母の袖を引っ張った。
複雑な笑顔で見詰め合う二人。
帰国の列車の中で突然気が狂ったように笑い出す波子。
奇異な眼で見られるのも構わず、大声で
「だって、戦争が終わったのよ、こんなに嬉しいことはないじゃない!」
子供達をひしと抱きしめるのであった。
「満州なんか嫌いだ!」叫びながら満州貨幣を投げ捨てる人々。
しかし、波子は「満州はよかった!幸せだった!」と。。。
天国と地獄を味わった波子の最後の言葉で幕は降りた。
配役の字幕が延々と続く中、席を立つ方もいたが、
曲が終わり、スクリーンが消えてもやしのみは
しばしぼーっとして、腰を上げることができなかった。
あっという間に終わってしまった。
強烈な余韻を残して。。。
命の大切さ、愛への探求、それらに通ずる
利己的なまでもの執着心。
しかし、それらが主人公波子を強く美しく、そして、
たくましくしたのであろう。
軍用列車に乗せてもらえなかったら、
生き延びていられたのかは疑問である。
たとえ、利己的だとののしられようとも
「生きたいと思うことがどうしていけないのですか、
子供をどうか助けて下さい」と頭を地面にすりつけて
一途に頼み込む波子があっての事である。
強くたくましいのは母だと昔から言われているが、
まさしくそのようである。
原作者なかにし礼が「この映画こそ、
私が今日まで生きてきた証だ」と
言わしめた、原作に引けを取らぬ大作であった。
やっとたどり着いたハルビンでの避難所で夫がようやく
波子達を見つけてくれた。
しかし、それもつかのま「一体、何のために今まで築いてきたのか」
と誰ともなく気が抜けたような放心状態の夫に「いいじゃないの、
今生きてるだけでも、またやりなおせばいいのよ、今までは楽しい夢、
そして、今は悪夢だけれど、また楽しい夢を見ることがきっとできるわよ」
と妻の波子は励ますのだった。
しかし、「お国の為に最後のご奉公を」と自ら名乗り出て
身を投げ出した夫であった。
「せっかく、会えたのに、なんで!どうして!」と叫ぶ妻や子供達。
46歳の夫は「45歳までの男が連れて行かれ、
なんで一つ年上の自分が行かなくてのうのうとしていられるものか」
との言葉を残して2度と戻らぬ人となった。
(原作ではやっとの思いで戻っては来る。
しかし、結局肺炎にかかり、あの世へと旅立ってしまう。
原作通りでは時間的なものもあり、割愛してる部分があるが、
総体的にはいい流れでまとまっていたように思う。)