未払い残業手当について

 事務所通信vol.113

平成26年9月20日

顧問先各位  

 4月に消費増税が行われ、年内に来年の消費税改正を決定するとされていますが、アベノミクスによる円安誘導にもかかわらず、輸出の増加はあまり進んでいません。

日本の貿易収支は改善しておらず、平成27年からの相続税の増税、中小・零細企業への法人税の課税強化、社会保険料の負担増、公的年金の年金受け取り額の減少と、今後も日本経済は厳しい状況が続くものと予想されます。

一方大企業をはじめとする一部の企業では、施行された所得拡大税制、雇用促進税制等の施策を活用する事により、正社員を増加させる企業や従業員の給料を増加させる企業等も出てきております。

 今回は、近年の労働問題として争点となっている未払い残業代について、若干の考察を行いたいと思います。

@出退勤の記録

 未払い残業問題で、まず最初に実施しなければならないことは、各従業員の就業している労働時間の記録です。

タイムレコーダー等で各就労日の出社時間・退社時間を正確に記録する必要があります。労働時間の正確な記録とは、いつの時点でタイムカードが打刻されるか、また打刻された内容が各人の勤務実態と合致しているか、休憩時間は適正に取得されているか等を、確認する必要があります。

A残業手当

使用者が従業員に対し、1日の労働時間が8時間を超えて残業の命令を行うには、予め労働基準監督署に三六協定を提出しておく必要があります。

三六協定を提出していなければ残業命令を行う事はできません。またその協定した範囲内で残業命令が行えることとなります。

なお従業員が、使用者の命令によらず勝手に残業を行った場合でも、使用者がこれを放置した場合には、残業手当を請求される場合もありますので、使用者は残業する必要のない従業員、退社させるよう強く指揮・命令する必要があります。

残業命令により就労時間が、就業規則や労働契約に定めた就業時間を超えた場合、残業手当を支払う必要があります。

また残業が法定労働時間を超える時間に及ぶ場合や、深夜に渡る場合は割増した額の賃金を支払う必要があります。

B定額払い残業手当

残業命令を行った場合は、前記の残業手当の計算を行う事が必要ですが、 給料事務の負担を軽減するため、定額の残業手当を支給する事も可能とされています。

定額払いの残業手当を支給する場合は、賃金明細に、定額残業手当が何時間分に相当するかを明確に提示しておく必要があります。また実際の残業時間で残業手当を計算した場合に、定額残業手当額を超える場合は差額を支給する事も必要です。

C残業時間の管理

残業を命じた場合は残業手当を支給する必要があります。また一定の時間を超えるような長時間の残業を命じた場合、過労死等の事故が発生すれば、事業主の使用者責任を追及され労働者災害となる場合もあります。

これらの事を避けるためにも、使用者は普段から従業員の勤務状況を業務日報やタイムカード等で確認し、普段から従業員の健康状態や勤務内容等に注意する必要があります。また毎日の作業が継続的に長時間労働とならないよう、出来るだけ定刻に終業することも、各人の労務管理上及び未払い残業代の発生を防ぐ点からも重要だと思います。

今般年収が一定額以上の者を、残業手当の対象者から除く法改正の議論が行われています。しかし過度な長時間労働となる業務命令を行い、過労死やうつ病等にかかった場合は、安全配慮義務違反で使用者が責任を追及される可能性があります。これらの者に対しても適正な労務管理を行う事が必要です。