未払い残業賃金について

 事務所通信vol.92

平成23年5月20日

顧問先各位  

いつもお世話になっております。3月11日に発生した東北・東日本大地震は、景気低迷している日本経済にさらなる大打撃を加えました。大阪を中心として事業をしている当事務所の関与先においても、全く影響がないとは言えない状況が起こっています。

 例えば、本来であれば例年3月中に法案が成立していた改正税制法案が未だ法案すら見直されると言う状況であり、現在通過している法案はその殆どが災害関連法案となっています。この様な厳しい状況ではありますが顧問先の皆様におかれましては、この難局を無事乗り切って頂きたいと願っております。

 今回は、この災害関連の情報ではなく、近年トラブルが急増して来ている労務問題について略述したいと思います。

1.最近の労働問題

  近年、正規社員が減少し、また景気低迷に伴いリストラ、給与の引き下げ等労働条件の引き下げを企業が行なう機会が増加し、労働者との間でトラブルとなる事が増加してきています。

 私が最初に労働法の勉強をした時、一番驚いた事は、多くの中小・零細企業では労働法に規定された事が守られていないにも関わらず、商慣習による労働関係が構築されていた事です。

 これらの事が、近年リストラによる解雇や給与引き下げといった労働条件の引き下げと言った労働者の死活問題に至った時、裁判にまで至るケースが出てきて、裁判においては、法に基づき、事業主側に賃金支払命令、解雇の取り消し判決が出るケースが多々出てきていると言う事があります。

 2.労働基準法

  例えば、残業についてですが、労働基準法の規定では、現在一般な業種では、一週40時間を超える労働について、それに見合う残業手当を支払えば良いと言うものではありません。また、採用時に「当社は残業を命令する事がある」という説明をしたから残業命令を出して良いと言うものではありません。

 労働基準法では、労働組合との協定か労使による協定により、残業に関し取り決め、所轄の労働基準監督署へ届け出る事が必要となっています。(通称36協定)

 この適用を受けるのには、企業の規模は全く関係ありません。労働者が一人もいない家族だけで事業を行っている場合を除き、零細企業であっても、残業命令を労働基準法の規定どおりに実行するならば、36協定を締結し所轄労働基準監督署へ提出していなければなりません。

 もし36協定をしていなければ、裁判では残業命令を出した事自体が違法となるという事になります。

 極端な例を言えば、「何度も残業命令に従わず定刻に帰宅した」と言ったような理由で解雇した場合、36協定が定められていない場合であれば、残業命令を出す事自体が出来ず、不当な理由による解雇となり、解雇無効と言う事になります。

 3.最近の状況

  先に述べた様に、今までは労働者は、事業主に嫌がられる事を避けて多少不満があっても裁判等に訴える事は殆どありませんでした。しかし、近年においては雇用環境の悪化に伴い裁判になる事や、試験制度が改革され法曹人口が急激に増加し、また司法関連士業の簡易裁判への介入が可能となった事等の理由から、また該当労働者が地域ユニオンへ参加する等の理由から労働問題のトラブルが、事業運営に大きな障害となって来ています。

  この様に既に、中小・零細企業においても労働法を遵守しなければならない時代がやってきています。

 そこでまず、一番先に事業主にやって頂きたい事は、雇用に際し労働条件通知書を交付する事、賞与・退職金の有無や休日、就業時間・就業予定場所等を説明し就職後のトラブルを避けるため、採用時に文書化して双方保管する。

 次に、タイムカード等により、各労働者の正確な就労時間を記録する事が必要です。

 現在、一番トラブルとなっているのが残業の未払賃金です。先に述べたタイムカードでサービス残業として正確な就労時間を記録していない場合、悪質なケースでは3年間の不法行為とされ、付加金等を合わせた未払い・支払い額は相当高額なものとなり、地域ユニオンや司法関連士業の大きなビジネスモデルとなっています。

 これに備えるには今までの商習慣を改め、サービス残業等をなくし、日頃から法令遵守を心がける事が一番の企業防衛となります。