就業規則作成のすすめ2 

事務所通信  vol.52

                       平成16年8月20日

顧問先各位

 平素は、格別のご高配を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。顧問先の皆様におかれましては、益々ご清栄のこととお慶び申しあげます。

 近年の景気低迷に伴うリストラ、構造改革からくる賃金・退職制度の変更等労使間の労務関係は今までにない緊張関係にさらされています。こういった、労使トラブルを未然に防ぐため、最近就業規則を整備し見直そうとする企業が増えて来ています。今回は、危機回避型就業規則への変更について注意点を略述します。

 @定年、退職

現在、労使トラブルで最も多いのが解雇に関する事項です。任意退職なのか、実質的な解雇なのか、また契約期間の満了による当然退職なのか、さらに定年制が解雇に関連する場合もあります。

 1)契約期間の満了については「期間の定めのある雇用契約が、反復継続された場合で、形式的に契約を更新していて実質的には当然更改されるべき労働契約を締結する意思であったとみられる場合は期間のさだめのない契約と実質的に相違しないため、解雇にあたる」とした最高裁判決があります。

 2)次に定年の定めについては、就業規則に「定年に達したときは、解雇することができる」と規定している場合があります。このような規定では、定年は解雇として取り扱う必要があり、解雇制限や解雇予告の対象となります。そこで「定年に達したときは当然退職する」と就業規則に規定する必要がありますが、この場合でも会社の運用実態が定年後も継続雇用しているような場合は、会社の慣行が優先され当然退職とした前記就業規則の規定が実効性のないものとなってしまいます。

  就業規則の作成と同様、その適正な運用が確保されないとせっかくの規定が有効とならず、慣習や実体で判断されることになります。

 3)通常は退職願いが提出された場合、任意退職として受理されます。しかし、本意でない退職願を提出させた場合、その効力は有効でしょうか。

 このことに関しては、退職願の受理者が、提出した者が退職することを本心で提出したものでないことを知っている場合は、その意思表示(退職願の効力)が無効となる場合があります。(心裡留保)

 A解雇

通常、就業規則の規定に基づき、解雇を行うことになります。就業規則に規定した理由は、懲戒解雇に関しては限定列挙であるとの意見が多数であるので、きめ細かく規定する必要があります。また「解雇権の濫用」が争点となるケースが多く、解雇するには客観的に合理的な理由が必要で、社会通念上相当であると認められない場合は権利の濫用として「解雇」は無効とされます。

 1)服務規律は、就業規則のなかで非常に重要な規定となります。社員が日常守らなければならない心得や遵守すべき事項を定めたもので、この規定により実質的に会社独自の特色や社風と言ったものが確保されていると言ってもいいでしょう。

 即ち、この規定により会社の独自色を出すような規定にしなければなりません。

例えば、「社会通念上理由もなく特異な服装、化粧、髪型、毛染め等についての制限する」規定を定める等です。

 また現在、顧客情報等の流出事件が問題となっていますが、従業員や退職者の「守秘義務」・「機密管理」等について会社情報の持ち出し禁止や、持ち出した場合の罰則規定等を定める必要があります。

 また、「一定期間無断欠勤が連続すれば、働く意思がないとみなす」等の規定をもうけこれに該当する場合は解雇または懲戒処分すると言った規定です。

 これらの規定は、単に就業規則に規定があるからと言って必ずしも認められる場合ばかりではありませんが、就業規則の内容が合理的で、その処分が社会通念上相当なものであれば、その規定は認められる事となると思われます。

 2)上記服務規律の実効性は、懲戒処分によって担保されます。この為、服務規律と懲戒規定は連携して具体的に規定する必要があります。社員に対し、懲戒処分を行うためには、就業規則や懲戒規程に定めておく必要があります。社員が会社の秩序維持のため、してはならない行動等について出来るだけ具体的に、懲戒の該当事由と処分の内容となる懲戒の種類を規定します。

 就業規則に独自色を出したいからといって、企業が自由勝手に規定を定めることは出来ません。例えば健康上従業員を異動させる場合も、会社は定期健診を行う義務があります。このように就業規則を定めることは、使用者が従業員に守らせる規定ばかりではありません。就業規則は、労使トラブルの発生を未然に防ぐために作成するものです。労働法は、労働者の権利保護の為、使用者が守るべき規定がその主な内容となっています。労働時間、年次有給休暇、介護休業育児休業等定められた現行法の範囲内で、就業規則の規定を作成する必要があります。