◆片恋

夢を見る。
もういない女の夢を。
なり続ける壊れたオルゴールのように何度も何度も繰り返しされ、消し去ろうと闇に埋めてもなお蘇る。
逃げようとしても決して逃れられない、夢。


 気が付くと薄闇の中に一人立っていた。
辺りを見回しても何もない、ただ闇が続くだけの場所。


 また、この夢か。


 それを理解して、ナイヴズは眉を顰めた。
 何時の間にか見始めた、夢の世界。
毎夜毎夜という訳でもないが、思い出したように始まる夢。
良い夢ではない。どちらかと言うと悪夢の類だろう。
 とにかく『彼女』を探さなくては。でなければこの夢は終らない。
 繰り返される中に憶えた手順をなぞるために、彼は歩き始めた。



『彼女』・・・・・・・ナイヴズとヴァッシュを育てた人間の女、レム・セイブラムは何時もこの闇の向こうに立っている。なぜかは分からない。
 彼女が死んだあの時・・・・・・落ちる宇宙船の中に走って戻って行く姿を見た時に、彼は別に寂しいとか、哀しいとは思わなかった。
それどころか彼女のせいで、せっかくの彼の計画が狂った事に腹を立てていた。
・・・・・・人間など生きる価値などないというのに。また彼女は彼の弟に強く影響を与え、袂を分かつ事になる原因になった。
憎んでいると言ってもいい存在だ。だからなのだろうか。夢をみるのは。


「……いた。」
 いつも通り、彼女がいた。
漆黒の髪が闇の中に透けるのように広がり、柔らかに微笑む彼女の表情を彩っている。
その姿は以前と変わらないように見える。だが、憎悪とか嫌悪とか負の感情は感じられない。
彼のせいで彼女の命は失われたというのに。
幼い頃、陰日向なく自分と弟を見つめてきた瞳はただ優しく…そのくせ、どこか哀しげな光を宿している。
 彼を、哀れんでいるのか・・・それとも彼の暴走を止めれなかった自分を悔やんでいるのか。
 それはナイヴズには理解できないし、理解したくもなかった。
彼女が何を考えているかなど知りたくもない。
そんな事より何よりこの夢から抜け出したかった。
自分でも良く分からない。だが、余り長くこの夢の中にいると気が付いてはならない事に気が付きそうな気がするのだ。考える事も存在する事も認めてはならないのに。
「・・・・・・・・・始めるか」
 自分の中に込み上げてくる、衝動のような物を振り払うためにナイヴズは呟くと、微笑む彼女の体を引き倒した。そのまま乱暴に彼女の首に手を掛ける。
 これがこの夢から抜け出すただ一つの手段。
説明された訳でもないのに最初から知っていた。
夢から抜けるために彼女を殺す。
その手順を何回繰り返したのか、ナイヴズはもう覚えてはいなかった。
 いつもどおりぎりぎりと指に力を込めると、彼女は抵抗もせずに、ただいとおしそうに手を伸ばして、彼の頬をなで上げる。
彼女の細い指の感触に一瞬怯みそうになるが、すぐに再び力を込める。
躊躇した自分を消してしまうように強く。
 しばらくするとかくり、と彼女の体から力が抜けた。
絞め殺されたというのに、苦悶の表情はない。
穏やかな死に顔。
これが夢でしかない証明のように。
 しばらくして、彼女の遺体が闇に溶けていく。
まるで最初から何もなかったかのように。
そこで目が覚めた。


 寝床の中で薄く目を開くと、薄闇の中だった。
まだ夜は空けてないようだ。
覚醒しきれない頭をはっきりさせるために何度か頭を振る。
目覚めがあまり良くない。なぜなのかは分かっている。
夢を見たのだ。
内容はまったく覚えていない。
何回も同じ夢を見ているという事は憶えているのに、なぜか内容は思い出せないのだ。
それが気にならないでもなかったが、所詮は夢だ。気にしてもしょうがない。
 ふと外を見やると、朝日が微かに挿しこんでいるのが分かる。
薄暗い濃紺を染めていく鮮やかな朝日。目に染み込んでくる美しい光景。
 一日が、始まる。



 そしてまた、夢の中で彼女を殺す。
自分でも理解できない何かを埋めるために。



 昔出した本から再録。ナイヴズ×レムです。
実はトライガンのノーマルcpの中で一番好きです。
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